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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で
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第226話:問い

 

「え……だ、誰ッ!?」


 声はするのに何も……いや、ちょっと待て。

 なんか今……頭の中に直接聞こえたような……。

 というか担い手ってなんだ!? 

 久しぶりって……分からない……何も思い出せない。

 今まで何をしていたのかも、なんでこんなところにいるのかも……自分の名前も顔も……!

 なんなんだ……なんなんだよこれ!


『……失礼した。そなたとこうして話すのはこれで3度目だが、"今の"そなたとは初めてであったな』


 な、何を言ってるんだ?

 3度目? 今の? い、意味が分からない。

 ひょっとして……何かの魔法か?

 まさか……俺はこいつに記憶を……!


『正解ではあるが、それを行ったのは私ではない』


「えっ!? な、なんで……!」


 心を読めるのか!?


『いや、私はそなたの心の中にいる。故に、口にせずとも全て分かるのだ。そもそもこの空間は、そなたの心の中にある……精神世界とでもいうべき場所なのだから』


「お、俺の心の中……ここが?」


『そうだ』


「あ、あなたはいったい……」


『今はそれを語っても……そなたには届かない。私はそなたの中にいる者。それだけでいい。今はまだ』


「俺の中に……?」


 信じた訳じゃない。

 信じた訳じゃないんだが、不思議と否定も出来なかった。

 言っていることはよく分からないし、今はこの状況どころか自分のことすら分からない。

 でも、何故か嘘じゃないっていうのだけは分かる……気がする。


「くッ……!」


 それにしても……さっきから妙に気分が悪い。

 なんて表現すればいいのか分からないが、嫌な感情が無理矢理引きずり出されているような……。

 ここにいたくない……本当にここが俺の心の中なら、俺は……俺はいったい……なんなんだ?


『本来ここは光に溢れた美しく白い空間だ。それがそなたの心の色。人の子でありながら、そなたはもはやそれを……だが、今は闇に飲まれ、このような漆黒の世界へと変わってしまった』


「や、闇に……?」


『そうだ。このままだとそなたは完全に飲み込まれ、自我を失うことになるやもしれん』


「自我を失うって……ど、どういうことですか!?」


『今、そなたの心は怒りで溢れている。それは自分に対する激しい怒り……自身の心を壊す程の。更に、そなたが捨てきれずに残っていた負の感情が、それによって溢れ出してしまったのだ。だから私は消えかかったそなたの自我を集め、こうして守ることにした。私には……それぐらいしか出来ることがなかったのでな。まぁ、こういう状況だからこそ、私はそなたと意思を交わすことが出来るのだがな』


 自分の心を壊す程の怒り……駄目だ……分からない……思い出せない。

 今まで何をしてきたのか、どんな人間だったのか、名前も国も親も仕事も友達も……いや、それがあったのかすら分からないが……。


『それを思い出すしかない』


「えっ……?」


『そなたの激しい怒りの源は、記憶を失ってしまったということにある』


「や、やっぱり……だから何も思い出せないのか……」


『それを得れば、そなたは力を取り戻す。それと同時、そなたの心も戻るだろう』


「力……? よく分からないけど……じゃあ……!」


 この人はきっと俺が何なのかを知っている。

 なら、それを教えてくれれば――――


『それは出来ない』


 えっ?


「な、なんで……」


『確かに私はそなたの全てを見てきた。故に全てを知っている。だが、それを教えることは出来ない。そなたが自分で思い出さなければならないのだ。そうでなければ……意味がない』


「そ、そんな……」


 何も分からないのにどうやって……。

 一切何も浮かばないし、本当に何も覚えていない。

 今自分が服を着てることとか、これがベルトでこれが靴だとかそういうことは分かる。

 世界の国の名前とか歴史も大体は覚えている。

 でも、自分のことは全く……。


『だが、導くことは出来る。記憶はそなたの中にあるのだ。ただ、今はそこに辿り着けないようにされているだけに過ぎない。だから、あの時と同じ質問をそなたにしよう』


「あの時……?」


『最初に会った時、私はそなたにこう言った。"そなたは何をしている?"……と』


 その時、ドクンと……俺の心臓が激しく脈打った。

 なんでかは知らない。

 だが、俺はこれを――――


『そしてこう続く。"そなたはなんの為に戦っている?"』


「あ……」


 再び心臓が強く鼓動を鳴らす。

 胸が焼けるように熱い。

 何かが……これは……。


『"そなたは何を守っている?"』


「お、俺……は……!」


 そうだ。

 俺には守りたいものがあった。

 いや、守りたい……人がいた。

 大切な……絶対に忘れちゃいけない人が……!


『"そなたの大切なものとはなんだ?"』


「ぐッ……あぁッ!」


 その人はッ……銀色の髪を……!


「か、褐色の肌にッ……白と黒のメイド服を着ててッ……い、いつも俺を……俺のことをッ……!」


 優しく見守ってくれていた……!


「その……笑顔でッ!」


 そうだ……なんで忘れてたんだ。

 その人と一緒に生きると決めたのに。

 その人から二度と離れないと誓ったのに……!


『……"そなたはここで終わるのか?"』


「駄目だ……終われない。俺はまだ約束を……果たしていないッ……!」


 聞こえる。

 彼女の声が。

 俺を呼ぶ……大好きなあの声が……!


『問おう。そなた"達"の名は?』


 ああ……全部……全部思い出した……。

 そして、二度と忘れない。

 俺は……俺"達"はッ……!


「……俺の名はロード=アーヴァイン。かつて無能と呼ばれ、そしてそれをなくすと……そう決めたッ! レヴィと一緒にッ!」


 そう叫んだ瞬間、黒一色だった空間が一気に色を変えていく。

 つい先程まであった嫌な感情はいつの間にか消え、現れた白い空間は……まるで陽だまりの中にいるような……そんな温かさを俺に与えてくれていた。


『思い出したようだな』


「はい……あなたのおかげでまた俺は……」


『それは私とて同じこと。さぁ、行くがいい』


「はい……!」


 また助けられてしまった。

 それにしても……この人はいったい……。


『今はまだ……だが、いつか語れる日が来るだろう』


「……分かりました。じゃあ、いってきます」


『さらばだ担い手よ。そなた"達"に……勝利の導きがあらんことを』



 ――――――――――――――――――――――



「ッ! これは……!」


「お、おいジーク!」


「フッ……ったく……馬鹿弟子が」


 部屋を覆い尽くす漆黒の魔力が、徐々にその色を変えていく。

 彼は今、全てを取り戻そうとしていた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉおッ!」


 その身体からはいくつもの白い閃光が迸り、それが黒い魔力を次々に引き裂いていく。

 それはまるで……世界を照らす太陽のように。


「はぁッ……はぁッ……!」


 やがてその光が収まった頃、その中心にいた青年はゆっくりと立ち上がる。

 その左手に、黒き手帳を携えて。


「ロード!」


「へ、陛下……ジークさんも……」


「おう……で、頭は冷えたみたいだな」


「……ご迷惑をおかけしてすいません。でも、おかげで全て思い出しました」


「な……まさか記憶がッ!?」


「ほ、本当かよおい!」


 ロードは頷くと、手にしていた手帳に魔力を込める。

 直後、黒き手帳は宙へと浮かび、黒き光を放ち始めた。


「ッ! このタイミングで……しかもこれは……」


「ど、どうしたロード?」


「あ、いえ……なんでも……」


 それはすぐに人の姿へと変わり、黒い手帳を持った1人の少女がその場に現れる。

 金髪のツインテールに黒いワンピース姿の彼女は、つぶっていた目をゆっくりと開き――――


「ロ、ロードぉッ!!」


 涙を流しながらロードに抱きついた。


「のわッ!? はは……久しぶりだな……メル」


「よかったよぉ……よかったぁ……ぐすっ……もう会えないんじゃないかってぇ!」


「……ごめんな。心配かけて」


「あ、あたしこそごめん! 何も出来なくて……あたし悔しくて……!」


「いいんだ。レヴィが多分って言ってたけど、実際にそういう制約があるんだろう?」


「そうなの……あ、っていうかごめん! ぐすっ……こ、こんな話をしてる場合じゃなかったよね!」


「ああ。行かなきゃ……レヴィのところへ。メル、ティエレンを呼んでくれ」


「うん! あ、後ね! えーっと……あ、この子!」


 メルはそう言ってロードに手帳を開いてみせる。

 そこには、今のロードに一番必要な武具が描かれていた。


「この人は……」


「あたしは参加出来ないけど、手帳の中で武具達が話し合いをしてたの。でね、手帳がまた開いた時の為にって……」


「そっか……ありがとな……みんな」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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