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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で
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第195話:ウッドガルド

 

「ん……う…………?」


 目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。


「ここは……ぐッ……!?」


 身体を起こした瞬間、全身に激痛が走る。

 でも、おかげで自分が生きていることを実感出来た。

 どうやらいつの間にか気を失っていたらしい。

 それにしても、ここはいったいどこなんだろう?

 駄目だ……まだ頭がぼーっとして……。


「レ、レヴィちゃん……! よかった……!」


「あ……ソロモン様……」


「……心配したよ」


 部屋に入ってきたソロモン様は、持っていた水と食料をベッドの側にあった机に置き、椅子を私の前に持ってきて腰掛けた。

 そうか……私は途中で気を……。


「すいません……」


「謝ることなんかないって……とにかく目が覚めてよかった。あ、まだ寝てなよ。エルフちゃん達が回復魔法で治してくれたけど、まだ動いちゃ駄目だってさ。相当酷い傷だったから当然だけどね」


「そう……ですか……あの、今エルフって……」


「ああ……ここはエルフ達の国ウッドガルド。で、今いる場所は、その中心にある世界樹ユグドラシルの中に造られた……エルフ達の城の一室って訳さ」


「ウッドガルド……そうだったんですか……ソロモン様、ご迷惑をお掛けして……」


「いやいや……だから謝らないでってば。レヴィちゃんを守ることが俺の使命だからね」


 使命…………はッ!?


「ロード様は!? ソロモン様! ロード様はッ!?」


「落ち着いて……大丈夫、生きてるよ」


「あ…………あぁッ! よかったッ……よかったぁ……!」


 ロード様……今すぐ会いたい。

 会って謝らなきゃ……早く……今すぐ……!


「ロード様はどこに……どこにいるんですか!?」


「レヴィちゃん落ち着いて……旦那はここにはいないんだ。今はケルトで休んでる」


「ケルトに……い、行かないと……!」


「レヴィちゃん待った。君はまだ動ける身体じゃない」


「でも……!」


「それに、旦那はまだ眠ったままらしい。起きたら連絡がくることになってるからさ。レヴィちゃんはまず自分の身体を治すことに集中しよ? な?」


「…………」


「……気持ちは分かるけど、どっちにしろまだケルトには行けない。レヴィちゃんが眠っている間にも色々あってね」


 ケルトに……行けない?

 いったい何が……。


「わ、私は……どれくらい眠っていたのですか?」


「……3日だ」


 そ、そんなに?

 ということはロード様も……。


「旦那も命に別状はない。ただ……まだ意識が戻らないってだけなんだ。きっとそのうち目を覚ますさ」


「…………はい」


 ロード様に会いたい……お側にいたい……。

 こんな時に側にいられないなんて……私はなんて……なんて馬鹿なんだろう。

 自分に腹が立つ……なんの為に私は……。


「うっ……うぅ……ひっく……」


「……レヴィちゃんが落ち着いたら今の現状を話すよ。俺のことも含めてね」


「は、はい……ぐすっ……すいません……」


「いいんだ……じゃ、また後で来るから。動いちゃ駄目だよ?」


 ソロモン様はそう言って部屋を出ていく。

 私は次々に溢れ出る涙を……止めることが出来なかった。



 ――――――――――――――――――――――



 ……言えねぇわな。

 でも、いずれ分かっちまうことだ。

 クソッ……恨むぜ神様……!


「ソロモン」


 じっとしていられず、あてもなく城の中を歩いていた時、突然背後から声を掛けられる。


「あ、ジルちゃん……」


「……"ちゃん"はやめろと言った筈だ」


 おーこわ……。

 グラウディも大変だわこりゃ。


「そ、そうだったね……ごめんごめん……」


「まったく……で、レヴィはどうだ?」


「あ! 目を覚ましたよ。意識もはっきりしてる。レヴィちゃんは大丈夫みたいだ」


「そ、そうか! よかった……」


 そう。

 レヴィちゃんが目を覚ましたのはよかった。

 よかったんだけど……。


「……その様子だと、言えなかったようだな」


 はは……バレバレか。

 言えねぇよ……。

 まだ……言えねぇ……。


「はは……まぁね。レヴィちゃん泣いちゃってさ。多分……自分を責めてるんだと思う。だから、今はまだ……」


「……無理もない。私も顔を出すのはもう少し後にした方がいいかもしれんな……」


「あ、旦那はまだ目を覚ましてないって言っちゃったから気をつけてね……ごめん」


「いや、その方がいいだろう。ところで、お前食事は?」


「へ? あ、ああ……食えないことはないけど……」


「そうか。なら付き合え」


「え、あ、は、はい……」


 有無を言わさないジルちゃ……ジル様の後に続いて廊下を歩く。

 俺がレヴィちゃんに言えなかったことを知るのはごく限られた旦那の関係者だけだ。

 彼女ももちろんその1人。

 起きたら話そうってなってたんだが……俺は言えなかった。

 いずれ知ることになるのは分かってる。

 でも……今はまだ……。


「おう。ソロモンも来たのか」


 着いたのはグラウディの部屋だった。

 窓際に置かれた机の上には、水や食料がいくつか並べられている。

 昼食兼作戦会議って感じかな?


「ああ、邪魔するよ」


「グラウディ、レヴィが目覚めた」


「ほ、本当か!? そりゃ……! あ……で、言ったのか?」


「いや、言えなかった……」


「……そっか。そうだよな……まぁ、座れや」


「ああ……」


 促されるまま、俺はいくつかある椅子の1つに腰掛ける。

 その真正面にある窓からはユグドラシルを中心に造られたエルフの自然豊かな町が見え、昼時だからだろう……広場は大勢の人で賑わっていた。

 きっとこれはいつも通りの風景なんだろうな。

 でも、きっとみんな不安を抱えてる。

 今のところ竜族に目立った動きはないが、いつ奴らが再び動き出してもおかしくはなかった。

 それはみんな……分かっている筈だから。


「……美しい国だ」


 ジル様も外を眺めながらポツリとそう呟く。

 ギリシアのようになって欲しくない……と、顔がそう言っていた。


「……取り戻そう。俺も微力ながら力を貸すよ。その為に生き残ったんだろ?」


「フッ……お前は本当にいい奴だな」


「ジル様にお褒めいただき……」


「……"様"もやめろ」


 マジこえぇ……。

 目がやべぇーもん。


「あ、ソロモン魔力は? また吸っとくか?」


「ん、ああ……今んとこ大丈夫だ。悪いなグラウディ、助かるよ」


「いいさ。あんたの力は必要だし、俺もジルと同じ気持ちだからな」


 俺の能力の1つに"魔力吸引"ってのがある。

 その名の通り、触れた対象から魔力を奪う力だ。

 そいつのおかげで俺はこの身体を未だに維持出来ていて、今は主にグラウディから魔力を貰っている。

 日に何度も使うと力が暴走する怖れがあるから、身体をなるべく動かさないようにして魔力を節約し、やばそうになったら貰うようにしていた。


「……ありがとな。じゃ、とりあえず現状の確認からかな?」


「ああ。レヴィに説明せんとならんし、現状をまとめておこう。新たに得た情報もある」


 新たに得た情報か……。


「ん? それって俺らだけで話しちゃっていいの?」


「いや、多分そろそろ……」


 グラウディが何かをいい掛けた時、部屋の扉がノックされ、そこから……なんともまぁ……超絶美人のエルフちゃんが姿を現した。


「失礼しますね。お待たせして申し訳ありません」


「いや、今始まったところですよ。呼んじまって悪かったです。座ってくださいヴィクトリアさん」


 ヴィクトリアと呼ばれたその美人ちゃんは、軽く会釈をすると、俺の隣にあった椅子に座る。

 うん……超いい匂い。


「えーっと……あなたは……」


「……お初に。我が名はソロモン。我が主人あるじロードの使い魔にして魔神の指輪なり……どうぞよろしく」


「いやキャラ……」


「なんでしょう? 何か問題がおありですかな? グラウディ殿」


「殿て……」


「ふふっ……初めましてグラウディ様。わたくしはヴィクトリア。ウッドガルド魔戦団の総団長を務めさせていただいております。どうぞよしなに……」


 ……やばい惚れた。

 何この完璧美女。

 長く伸びたブロンドの美しい髪。

 透き通るような青い瞳。

 そして……素晴らしく豊かなその双丘……。

 麗しい……。


「ソロモン……貴様……」


 あ、やばい。

 "お前"から"貴様"になった。


「さ、真面目にやろっか! えーっと、何から話そっか?」


「はははっ! やっぱおもしれーわこいつ」


「はぁ……」


「ふふっ……こんな時だからこそ、こういった方には救われますね。で、進行はジル様にお任せしてしても?」


「ああ、私がやろう。まずはそうだな……やはり竜族からいくか」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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