第166話:困惑
「ティ、ティタノマキアのリ、リーダーと!?」
「あ、ああ……話した。ちょっとな」
「な、何をっ!? いや……っていうかなんでここに!? どどどういうことですかっ!?」
こんなに慌てるレヴィも珍しいな……。
まぁ、確かに逆の立場なら俺もこうなるかも。
「なんでここにいるって知ってたのかは分からない。まぁイストにも来たし、なんらかの魔法かスキルを使ってるんじゃないかな。ただ、来た理由は多分フェイクと同じ……ティタノマキアの仲間になれってことだと思う。まぁ、そうはっきりとは言わなかったけどな」
クロスは"君がいれば成るというのに"と言っていた。
自意識過剰かもしれないけど、多分俺がいれば世界を変えられるってことだろう。
もちろん無能という概念をこの世界から消したいのは俺も同じだが、奴らのやり方には賛同出来ない。
そんな俺の考えも含め、クロスと話したことを全てレヴィに伝えた。
「なるほど……ということは、やはり無能と呼ばれる方をティタノマキアは集めている訳ですね」
「ああ。それに奴の口ぶりと行動からして……多分仲間にする無能を選んでる。フェイクの誘いを断った俺に対し、今度はリーダーのクロスが直々に俺のところに現れた……つまり、なんとしても俺を仲間にする必要があったんじゃないかな?」
ただ無能と呼ばれる人を集めたいのなら別に俺以外でも構わない筈だ。
それなのに、クロスは顔を晒してまでわざわざ俺に直接会いにきた。
よほど俺を仲間にしたかったんだろう。
「だとすると……あっさり引き下がったのが不気味ですね。フェイクは力尽くで連れて行こうとしていたのに……」
「それに関しては俺もそう思う。力尽くで連れて行くのが難しいと思ったのか、それとも本当に話がしたいだけだったのかは分からないけどな。とにかく分かったことは、奴らはやはり元無能の集団で、無能を生み出した元凶を知っている。そして、それをこの世界ごと破壊しようとしているってことだ。後でジルさんやニーベルグ王にも話しておかないとな……」
奴らは……いや、恐らく最初に知ったのがクロスなんだろうが、どうやってそれを知ったんだろう。
偶然知れるようなことじゃない筈だし、となると……誰かから聞いたって可能性が一番高いかな。
無能を生み出した存在に対抗する組織がティタノマキアの別にあるとか……あとは無能を生み出した側に裏切者でもいて、それがクロスに教えたとか……全部憶測に過ぎないけど。
「その一環として、無能と呼ばれる人を集めている……しかも選んで……あ、そういえば……ロード様の居場所を知っているのなら、ティアの居場所も知っている可能性はありますよね? でも、ティアに対してはアプローチしてこない……それも選んでるからってことになるんでしょうか?」
「多分な。アルメニアで処刑されてしまった女の人を助けなかったのもそういう理由だったのかもしれない。ただ……」
「何か気になることでも?」
「うん……本当に知らなかった可能性もゼロじゃないと思うんだ。クロスからは無能に対する仲間意識みたいなものを強く感じた。だから俺だけに目がいってて、ティアに気付いていなかったとかもあり得るだろ? 俺を見つけた方法が魔法とかスキルだったとしても、なんでも分かるものとも限らないし……やっぱり一応報せて……」
「どうぞ」
言い終わる前に通信魔石を目の前に出される。
「……ありがとう」
最早何も言うまい。
すぐに魔力を込め、俺はイストの冒険者ギルドへと魔石を繋げた。
――――――――――――――――――――――
「「旅立った!?」」
『は、はい……』
「な、なんで……2人はどこに!?」
『いや詳しくは……ガガンさんには冒険者として強くなりたいから、その為に首都ニーベルグへ行くって言ってたみたいですけど……フィンティさんは多分違うって……』
「エリー、それっていつ頃の話だ……?」
『え、えーっと……もうそろそろ1週間くらい経ちますかね……』
1週間前……丁度私が2人と話した頃だ。
そういえばあの時何かおかしかったような…………まさか。
「1週間か……ヒストリアにいる可能性もあるな……」
『あ、最初フォッケンに向かうって言ってたので、順当にいっていればいるかもしれませんね』
「そうか……また連絡する」
『はい……あの、何かあったんですか……?』
「いや、すぐにどうこうなることはないと思うんだけど……念の為話したいことがあったんだ。とりあえず切るね。ガガンさん達によろしく!」
『あ、分かりました! お気をつけて!』
ロード様が握る魔石から光が消えていく。
そして、すぐに別のところへ魔石を繋げようとしていた。
恐らくヒストリアの冒険者ギルドだろう。
『はーい! こちらヒストリ……』
「あ、ランナさん? ロードです!」
『えっ!? ロードくん!? お、お久しぶりー! どした……』
「あのっ! イストから2人組の女の子が来ませんでしたか!?」
『ちょ、ちょっと……! いきなりどしたの!?』
「あ、すいません……ちょっと慌ててたもので……そ、それでどうですか? ティアとアスナっていうんですけど……」
『あ、ティアちゃんなら会ったことあるから知ってるよ? イストに行く途中でここに寄ったからね。私は見てないけど……一応記録を確認してみよっか。ちょっと待ってね…………んーないね。少なくともギルドには来てない』
「そ、そうですか……」
ヒストリアにもいない……か。
日数的に首都ニーベルグへはまだ着いていないだろうし、ヒストリアに向かっている途中か、もしくは私の考え通りなら……。
『んで? ティアちゃんとそのアスナって子がどうかしたの?』
「あ、いえ……ちょっと連絡を取りたいだけなんですけど……イストから旅に出てしまったみたいで……」
『ああ、そういうこと。じゃあここに来たらロードくんに連絡入れようか?』
「あ、お願いします!」
その後少し言葉を交わし、ランナ様との通信を終えた。
「まいったな……2人はなんでイストを……」
ロード様は気付いていないけど、あの2人が旅に出るとすれば恐らく理由は1つしかない。
きっと……ロード様に会いに来ようとしてるんだ。
ただ、それを言ってもいいものか迷ってしまった。
それを言えば、多分2人の気持ちまで話さなければならなくなってしまうから。
それを私が勝手に言ってはダメな気がして……。
「あ、そういやレヴィは2人と話したんだよな? 何か言ってなかったか?」
「……特に何も。こっちは心配しないでいいとしか聞いてません」
嘘は言ってない。
「そっか……とにかく連絡を待つしかなさそうだな……」
「そう……ですね」
「ティタノマキアに会わなけりゃいいが……心配だ……」
正直2人には悪いと思ってる。
私が逆の立場なら、きっと耐えられない。
ロード様と離れ離れなんてもう嫌だから。
だから、あの2人がここに来ようとしているのなら来るまで待ちたい。
それに、休養や情報収集、武具様の願いを叶えるといったこととは別に、ここを離れ難い理由が他にもあった。
「探しに行きたいけど……竜族がな……」
「ええ……それが問題ですね」
そう。
竜族は恐らく来る……このギリシアに。
だから私達は少しでも力になれればと、ここに暫く留まることにしたのだった。
「心配だけど待つしかないか……一応ニーベルグやケルトにも連絡しておこう。はぁ……無事だといいけど……」
「あの2人ならきっと大丈夫です……強いですから」
ティア……アスナ……待ってるからね。




