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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で
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第156話:母

 

「ロードさんの情報? んー……」


「お願いエリーさん……無事かどうかだけ知りたいの。何か知らない?」


 翌日、私はティアと一緒にギルドに訪れていた。

 まずはどこにいるか知らないとお話にならない。

 ティアと私が知っているのは、ギリシア付近にいる元勇者さんの所に向かうって話だけ。

 細かい位置は分からないし、今もそこにいるかは分からない。

 ただ、近くにいけばティアの力で探すことは出来る。


「あ、じゃあ連絡してみる? 前に帰ってきた時に確か魔石をリンクしてた筈よ?」


「そ、それっ! きゃっ!?」


「本当に!? や、やってやって!」


「わ、分かったから風を止めてっ! 書類がっ!」


「あっ! ご、ごめん……つい興奮して……」


「ふぅ……じゃ、こっちにきて」


 ロードと話せる……やばいドキドキしてきた。

 ふと横を見ると、ティアが深呼吸を繰り返している。

 どうやら私以上にドキドキしているようだ。

 そうして私達はエリーさんに連れられ、通信魔石がある部屋へと入った。

 部屋の真ん中に大きな通信魔石があり、床には魔法陣が刻まれている。


「えーっと……ロードさん……ロードさんはっと……」


 エリーさんはその魔石に触れ、ロードの魔石を探しているようだ。

 ふぅー……落ち着け私。

 ティアはティアで過呼吸気味……私は背中をさすって彼女を落ち着かせた。


「あ、あった」


「「ひゃいっ!」」


 2人して変な声を出てしまった。

 恥ずかしい……。


「だ、大丈夫?」


「ダイジョウブ……」


「キニシナイデクダサイ……」


「う、うん……じゃあ呼んでみるね?」


「「オネガイシマス……」」


 エリーさんが魔力を込めると、通信魔石が淡い光を放ち出す。

 私達は息をすることも忘れ、じっとそれを見守っていた。

 お願い……ロード出て……!


『はい? どちら様ですか?』


 出たのは……レヴィだった。

 あ、いや……繋がったんだから別にいい!

 レヴィだから残念とか、そういうあれじゃないし!


「あ、レヴィさん? エリーです!」


『ああ! エリー様でしたか! ご無沙汰しております。何かロード様にご用ですか?』


「えっと、ちょっとまってね? ほら、繋がったよ2人とも!」


「「は、はい!」」


『あれ……今のは……?』


「レ、レヴィ! 元気!?」


「2人とも無事かなって……心配だったから!」


『ティア! アスナ! ご、ごめんね連絡しなくて……私もロード様も元気だよ!』


「よ、よかったぁ……今どこ……」


『レヴィ、誰と話しておるのだ? って、お、おいマリアナ服を脱ぐなッ! ロードがいる……ああ……』


 誰……?

 え、マリアナって……誰?

 少なくとも2人いるよねこれ。


「あのー……?」


『あ、ダメです! ロード様にお酒を飲ませちゃ……ああ……』


 い、いったい何が行われているの……?


「レ、レヴィ……?」


『あ、ごめん2人とも……今快気祝いという名の酒盛りが始まってて……』


「そ、そうなんだ……ロードは……?」


『……今倒れたところ』


 ああ……。


「そ、そっ……かぁ……あ、あのさ! 今どこにいるの?」


『え? 今はギリシア城にいるけど……』


「あ、そうなんだ。ってギリシア城に……相変わらず色々やってるみたいだね……」


『うん、色々あった……休養も兼ねて暫くはギリシアにいる予定だけど、そっちはどう? 何かあったの?』


「ううん! イストは平和だよ! こっちのことは心配しないで!」


「単純に無事かどうか気になっただけなんだ! また連絡するからロードによろしく伝えておいて。またねレヴィ!」


『うん! こっちからもまた連絡するね!』


「「またねー!」」


 通信が切れ、魔石が光を失っていく。

 "また帰ってきてね"とは言わないと、最初から2人で決めていた。

 会いにいくことで私達が本気だと示したかったから。

 無事ならそれでいい。

 それに、居場所も分かった。


「ありがとうエリーさん。助かりました」


「いえいえ。また連絡したかったら言ってね」


「うん、ありがとう!」



 ――――――――――――――――――――――



 私達はギルドを後にし、昨日と同じく商店通りにやってきていた。

 だが、今日はごはんを食べにきた訳ではない。


「まずはとにかく馬車……これがなきゃどうしようもないね。安いやつなら買える筈だよ」


「そういえば……馬はどうする気?」


 正直馬はかなり高い。

 今のお金じゃどうしようも……。


「ふっふっふっ……実はね、馬の当てがついたから会いにいくことにしたんだ」


「あ、そうなの? それで……当てって?」


「重装騎士団の人がね……譲ってくれるってさ」


「えぇっ!? それ大丈夫……? っていうか話したの?」


「ううん、依頼を受けてから移動するのが大変なんだって話をしたら、予備の馬でよければ譲るよって言ってくれたの」


「い、いいのかなぁ……」


「う、嘘は……言ってない……から。移動は大変だし!」


「まぁ……ね。じゃあ、帰ってきたら返そう」


「うん、そうしよ。後は通信魔石……こっちはフォッケンかヒストリアに行かなきゃ……アスナ道分かる?」


「大体はね。でも、一応地図を用意しないと」


「分かった。買えるものから買っていこう。お母さん達にバレないようにしなきゃ」


「絶対反対されるからね……置き手紙はするけど。首都に行くことにしておけばいいよね?」


「うん。理由は冒険者として強くなりたいからでいい。それに、首都にはどっちみち行くしね」


「ガガンさんには首都に行くって言っとこうか。多分分かってくれる筈……」


 なんだかすごくワクワクしてきた。

 ロードと話せなくて逆によかったかもしれない。

 だって……今から会いにいくんだから。


「よし、やるよティア!」


「おー!」



 ――――――――――――――――――――――



 準備を始めてから2日後の夜。

 私は早朝の出発に備え、部屋でお母さんにバレないように準備を進めていた。


「よし……と……アスナは準備終わったかなぁ」


 アスナが私と同じ気持ちだったのは嬉しかった。

 正直なところ……反対されるかもしれないって思ってたから。

 この旅が結構無茶なことくらい分かってる。

 アスナは顔を隠す必要があるし、道中色々と危険なこともあるだろうから。

 でも……それでも……。


「もう……待つのは嫌……」


 ロードさんとレヴィがそういう関係なのは分かってる。

 別に邪魔をしたい訳じゃなかった。

 2人とも恩人だし、あの2人なら別にいい。

 私はただ……側にいたいだけ。

 それだけでいい。


「ん! とりあえず……ベッドの下に入れて……」


「ティア入るよ?」


「のわぁーっと!? お、お母さんなにっ!?」


 いきなり扉が開き、お母さんが部屋に入ってきた。

 あ、危なかった……。


「……どうしたのティア?」


「な、なんでもないよ!? っていうか! 乙女の部屋をノックもせずに……!」


「あら、これは失礼……ふふふ」


「まったく! 思春期を甘く見ないでよね……それで? 何か用?」


「思春期ねぇ……旅に出るのも思春期だから?」


「うん、そう……ひぁっ!? な、あ……なにを……旅ぃ? 出ないよぉ……? 行かない行かない……や、やめてよねぇ……あはは……」


 ば、ばかな……なんでバレて……。


「……我が娘ながらなんと分かりやすい。あなた、アスナちゃんと一緒に商店通りで色々買ってるでしょ。地図にコンパスにランプにテントにお鍋に保存食に水にロープに斧に鉈に……極め付きは馬車。バレないとでも思ったの?」


「ううっ……!」


 ぜ、全部バレてる!


「な、なんで……」


「ふっふっふっ……主婦の情報網を甘く見ないでよね。町で噂になってたし、その後に怪しい動きをしていたガガンさんをみんなで問い詰めたら吐いたわ」


「ああ……」


 ガガンさん……怖い思いをさせてごめんね……。


「首都に……行くだけなのね?」


「……うん」


「はい、嘘」


「ええっ!? な、なんで……」


「何年あなたのお母さんやってると思ってるの? ただ首都に行くだけならあなたは多分隠さない。もっと危険なことだから隠した……違う?」


 ああ……バレバレだぁ……。


「…………ごめんなさい」


「ティア……お母さんは怒ってないよ?」


「え……?」


「あなたが何をしようとしているかまでは分からない。けどね、あたながそこまでしてやりたいことなら……絶対にやりなさい。もちろん心配だけれど……それと同じくらい嬉しいの。知らぬ間に子は育ち、親の手を離れていく……その時がきたんだなぁ……ってね」


「お母さん……」


「だから……がんばれティア!」


 こぼれそうになる涙を必死に止める。

 お母さんの子供に生まれて本当によかった。

 ありがとう……大好きだよ……。


「ばいっ! がんばりまず!!」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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