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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病
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第154話:対価


「本当なら武具達はあたしに気付かない筈なんだけど、あのつるぎはなんでか気付いてた。それで無理やりそのつるぎを出したから、あたしの封印に綻びが出来ちゃったの……表紙の傷はその表れ。綻びは日に日に大きくなって……頑張って直そうとしたけど、どうすることも出来なかったの……」


 メルはそう言って肩を落とす。

 あの時俺を助ける為に……。


「そうだったのか……俺の為にありがとなメル。その、封印ってのは直せないのか……?」


 するとメルはエクスカリバーを見る。

 そうか、彼女なら……。


「お願いエクスカリバー……神の力を持つあなたなら、神の創ったものを直せる筈……このままだと力を失って、あたしはこの世界から消えちゃうの……」


「……やってみよう」


 エクスカリバーは鞘を抜き、メルに向けて力を発動した。

 すると、破れていたメルの服がどんどんと直っていく。


「わぁ……!」


 あっと言う間にメルの着ている黒いワンピースは綺麗になり、彼女は立ち上がって嬉しそうにくるくると回り出した。

 ……丈が短いから目のやり場に困る。


「ありがとうエクスカリバー! うん……うん! っ! 封印が戻ってるっ! よかったぁ……」


「礼には及ばぬよ宿主。そなたの中はなかなかに快適であるし……その礼だ」


「えへへ……ありがとうっ!」


 ニコッと笑うメルに、エクスカリバーが笑顔で返す。

 とりあえずはこれで一安心か。


「よかった……あ、メルは神に創られたんだよな?」


「うん……ちゃんと話さなきゃだね。あたしは伝説の武具を封印する為に神様に創られた手帳……神具"納める者"。神様がなんで伝説の武具を封印したかったのかは知らないけど……数千年前、神様はあたしをある人に託したの」


「それって……」


「そう、ロードとレヴィもよく知ってる……クラウンだよ。神様は強くて正しい人間を探してた。クラウンはそれにぴったりだったの」


 そういうことだったのか。

 クラウンさんは趣味だと言っていたが、神から頼まれて伝説の武具を集めていた訳だ。

 じゃあなんでそれを俺に……。


「クラウンは長い時間を掛けて、神様の期待通りに全ての武具を集めたの。そうしてそのまま人生を終えるつもりだった……ロードに会うまでは」


「クラウンさんはなんで……」


「それはあたしにも分からない。でも、クラウンは間違ってなかったと思う。だって……ロードはいい子だもんっ! だから……あたしの所為で武具が奪われたのが許せなかったの……ロードに申し訳なくて……」


 そう言ってまた泣きそうになるメルをレヴィがぎゅっと抱きしめる。


「レヴィ……」


「大丈夫ですよメル様……ロード様はクラウン様と同じ、強くて正しい人間ですから。必ず取り戻してくださいます」


「ぐすっ……うんっ! あたしも協力するっ! どこにいるかは分からないけど……近くにいけば武具を感じられるからその時は教えるね!」


「分かった。何か合図をくれたらメルを呼ぶよ」


「うんっ! あ、あと……呼んでくれてありがとう。あたしずっと1人だったから……誰かと話をしたこともなくて……寂しかった。だからすっごく嬉しいの! えへへ……」


 そうだよな……何千年もずっと1人で……。

 俺の3年間よりよっぽど辛い。


「これからはもう1人じゃない。よろしくなメル」


「あ……うんっ!」


「さ、今日はもう寝よう。エクスカリバー、悪いが見張りを頼む」


「心得た」


「そういや、メルは眠ったりするのか?」


「え? どうだろう……やったことないや……」


「じゃあ一緒に寝てみましょう。せっかくですから」


「い、いいの? 邪魔じゃない……?」


「ないない。じゃ、灯りを消すよ」


 大きなベッドに3人で川の字を作る。

 レヴィに抱きついて横になったメルは、顔が見えなくても分かるくらい喜んでいた。


「わぁ……夢みたい……」


「可愛いですねメル様は……よしよし」


「えへへ……」


 俺はそんな2人の声を聞きながらふと思う。

 きっと世界にはこんな幸せが溢れている筈だ。

 それを理不尽に奪わせたくはない。

 世界をどうにかしようとしている連中をなんとしても……。

 そう決意を新たにし、俺は眠りについた。



 ――――――――――――――――――――――



 オトリス城。

 ティタノマキアの本拠地であるその城の一室にクロスとアナの姿があった。

 ランプの灯りに照らされた薄暗い部屋の中、アナが長テーブルに武具を並べていく。

 その数は6。

 クロスはそれを黙って見ていたが、武具から放たれる魔力に眉をひそめた。


「……これをどこで」


「ふふ……我が友人から……あの者より奪い取ったとのことです」


「……その友人とやらは?」


 アナは上を指差す。


「天に……」


「そうか……」


 並べられた武具は魔力とともに禍々しい何かを放っている。

 それがなんなのかは分からないが、クロスにとってはどうでもよかった。

 なんにせよ、伝説の武具が手に入ったことには変わりないと。

 そしてこの力があれば、今以上に事が運ぶであろうという確信があった。


「感謝せねばなるまいな。この力があれば……」


「はい……必ずや……」


 クロスは目の前に置かれたつるぎを握る。

 瞬間激しい怒りの感情がクロスを支配しようとするが、彼は平然とそれを押さえ込んだ。


「ふむ……誰にでも扱える訳ではなさそうだ」


「ええ、振るうだけなら誰にでも。ですが、膨大な魔力と強靭な精神力がなければ……のまれて死にます」


「なるほどな。使える者は限られそうだが、場合によっては……」


「そういった使い方もありますね。失うには少々惜しいですが」


「事が成せればよい。とはいえ切り札足り得る存在……使い所を誤る訳にはいかぬな」


 クロスはつるぎを机に置く。

 暫しそれらを眺めた後、今度は正面に立つアナを見た。


「これは俺が預かっておく。構わないか?」


「もとよりそのつもりです……主よ」


 アナの返事を聞いた直後、クロスは武具に手をかざした。

 すると、並べられていた武具が1つ……また1つと消えていく。

 全ての武具を収納したクロスは椅子に腰掛け、机を挟んで立っているアナを再び見つめた。


「で、進捗は?」


「ぬかりなく……ティーターンを始め、各国の軍に目立った動きはありません。ですが1つ……ニーベルグの重装騎士団が動いたのは確認出来ました。とはいえ、国境には近付いておりませんが」


「そうか……ネズミは?」


「かなりの手練れかと。匂いすら残さず……」


 クロスは顎に手を当て考える。

 賊がレアに入ったのは1ヶ月以上前、そこまでは分かっていた。

 だが、その後一切動きがない。

 もしかすると既に離れているかもしれなかったが、確信がない以上警戒を解くことは出来なかった。

 その所為でティタノマキアのメンバーをレアに常駐させる羽目になってしまっている。

 人手はいくらあっても足りないくらいだった。


「ちっ……面倒な。そのまま警戒を続けよ。他は?」


「それぞれ散っております」


「シェリルはリセルとフェイクに任せたのだったな。さて、踏み出せるかどうか……」


「ふふ……既に足は上がり、後は踏み躙るのみ。それに……伝説の武具であろうと闇に堕ちるこの世界。抗うには少々……」


「フ……確かに。後は奴らが上手く動けばよいが……まったく、時の流れに逆らうのも容易ではないな」


「あら珍しい……あなた様から弱気な発言を聞けるとは……」


「ククッ……お前にしか言えぬこともある。まぁ聞き流せ。さて……なんとしても駒を揃えなければな」


「ロード=アーヴァイン……彼がいればすぐにでも達せられるのですけどね」


「直接会わねばなるまい。話をしてみたいしな。それに……」


 クロスは言い掛けた言葉を飲み込む。

 それは彼が捨てた感情。

 だから、二度と吐いてはならぬと決めていた。


「無駄なことよ……人に何かを求めるならば、何か対価を払わねばならない。それが常。それがことわり。それが……人だ」


 光と闇はいつしか出会う。

 その時互いの感情は、互いに何かを得ることになるだろう。

 シェリルもまたその1つ。

 そして、ティアもアスナも。

 その邂逅は、もう間近に迫っていたのだった。


第4章終了。

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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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