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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病
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第151話:憂い

 

「ん……」


 グラウディが目を覚ますと、視界に白い天井がぼんやりと映る。

 段々と覚醒していく意識の中、グラウディの頭にある1つの単語が浮かび上がった。


「ジルッ……!」


「……なんだ?」


「うわあっ!?」


 叫んだ途端に返ってきたその返事に、グラウディの心臓が跳ね上がる。

 見ると、ベッドの脇には椅子に腰掛けたジルがいた。


「な、何が……いったいどうなってやがっ……ジル無事か!? ここは何処だ!?」


「お、落ち着け! 私はこの通り生きている……ロードが治してくれたらしい。で、ここはギリシア城の一室だ」


「そ、そうか……よかった……てかフェンリルは!?」


「倒した……ロードがな。目を覚ました後にレヴィから聞いたよ。私もさっき起きたんだ。私達は1日寝ていたらしい」


「マジかよ……あれを……あ! ああ……」


 グラウディは両手を握る。

 失った筈のそれは、元通りそこにあった。

 起き上がった身体を再びベッドに沈め、グラウディは天井を見つめる。

 窓からは日の光が差し込み、心地よい風が部屋の中へと吹き込んでいた。


「結局……ロードに全部助けられちまった訳か。情けねぇなぁ……」


「まったくだ……人生の先輩として立つ瀬がないわ」


 2人は顔を見合わせフッと笑う。


「でも、感謝しねぇとな。おかげで約束を果たせる」


「約束……?」


 グラウディは再び身体を起こし、眉尻を下げながらジルを見る。


「おい……忘れちまったのか? 一緒に親父さんとこ行くって言ったろ」


「……そんな約束をした覚えはない」


「て、てめっ……! 親父さんに伝えることがあんだろ! ありゃ嘘かよ!?」


「や、やかましい! 貴様こそ"もしもの時は2人を逃す"とか言っていたくせにレヴィに私を……!」


「う……」


 2人は互いの顔を見れない。

 ジルはすぐに気を失った訳ではなく、レヴィに連れられるまで起きていた。

 つまり、グラウディの言葉をある程度聞いていたのだ。

 そのことに気付いたグラウディは、途端に恥ずかしくなり黙ってしまう。

 ジルもまた、グラウディの言葉を思い出して顔を赤くしていた。

 暫し2人の間に気まずい沈黙が流れた後、ジルは意を決して口を開く。


「ま、まぁ……なんだ……その……ありがとな。助かったのはロードのおかげかもしれんが、お前が励ましてくれたから……な」


「お……おう……」


 2人は再び黙ってしまう。

 今度はグラウディが意を決して口を開いた。


「嘘は……言ってねぇ」


「グラウディ……」


「まぁなんだ! あれだ……その…………俺はお前が……!」


 ジルの顔が真っ赤に染まっていく。

 その時扉がノックされた。


「ひゃいっ!?」


 ジルが素っ頓狂な声を上げ、それに反応して扉が開いた。


「し、失礼します……」


「ロ、ロード……レヴィ……」


「あの……ひょっとして私達……」


 2人の様子から何かを察したロードとレヴィに、グラウディは慌てて首を横に振った。


「な、なんにもねぇよ!? つ、つか、んなことより……! ありがとな……命を助けられちまった。お前らがいなきゃ俺らは……本当にありがとう」


 グラウディはベッドから立ち上がり頭を下げる。

 ジルも同じように頭を下げた。


「や、やめてくださいよ! そもそもお2人がいなかったら辿り着けてすらいませんから……だから誰のおかげとかじゃないです。みんなで勝ったんですよ」


「その通りです。で、では……ロード様?」


「え? あ、ああ! やることがあったんだったなぁ……じゃ!」


「失礼します!」


「ちょ! お前らっ……!」


 そう言うと、ロードとレヴィは風のように消えていった。

 再び2人きりになった部屋の中で、グラウディとジルは黙って立ち尽くしてしまう。


「あー……ジル……?」


 グラウディは両手を強く握りしめる。

 その手の平は汗でびっしょりと濡れていた。


「な、なんだ……?」


「い、一緒に……親父さんとこ……行こうな」


「……うん」



 ――――――――――――――――――――――



 グラウディさんとジルさんが目覚めた後、全員の身体が問題ないことを確認したうえでギリシア王との謁見が行われることとなった。

 俺達はジルさんに連れられ、謁見の間へと続く広い空間を進んでいく。

 通路には赤い絨毯が延々と敷かれ、その両端に大きな白い柱がずっと立ち並んでいた。

 城の内部も町と同じようにほぼ白一色。

 そして、その白によく合う金色の装飾がそこかしこに散りばめられている。

 なんというか月並みな表現になってしまうけど……本当に綺麗な城だ。


 そうして辿り着いた大きな扉の前には、やはり白で統一された鎧を着る2人の衛兵が立っていた。

 2人は敬礼し、ジルさんがそれに応えると、衛兵達は背後に佇む巨大な扉に手をかける。

 開ききった扉の先にある謁見の間は、夜だというのにまるで昼間のように明るく、ドーム状になっている天井は物凄く高い。


 そして俺達から見て正面、そこには親衛隊と思われる何名かの騎士に守られるように立つ、白い服を着たギリシア王の姿があった。

 白く長い長髪に、白い立派な髭。

 金色に輝く王冠とその瞳以外は雪のように白い。

 かなり細身のようだが、それでもやはり王の威厳がそうさせるのか身体が非常に大きく見える。

 俺達はジルさんの後に続いて謁見の間へと入り、彼女に倣ってギリシア王の前で跪いた。


「此度の件、誠に大儀であった」


 そんなギリシア王から発せられる言葉は、やはり王足りえる者が放つ特有の重みを感じる。

 これまで出会った2人の王とはまた違う、静かな威厳……とでも言えばいいのだろうか。


「は……ありがとうございます陛下。ですが、そのほとんどはここにいるロード=アーヴァインとレヴィ=アルムロンドの力にございます」


「うむ……報告は聞いている。ロード、レヴィ、ギリシアの民を代表して礼を言わせてもらう。ありがとう」


「いえ……」


「勿体なきお言葉……」


「うむ……で、現れた神獣……いや、フェンリルか。奴の目的はギリシアではないと……貴公らはそう考えておる訳だな?」


「恐らくは……既にお聞きのことと存じますが、ダンジョンを確認しにいった兵士によれば、入り口こそ残っていたものの、内部は完全に崩壊していたとのこと。ダンジョンを破壊することが目的だったのかは分かりませんが、奴の口ぶりからして……最初からギリシアには興味がない様子でした」


 そう……レヴィから聞いたが、フェンリルは"ことわりを返してもらう"と言っていたらしい。

 そして、奴の口からはギリシアの"ギ"の字すら出なかったと。

 やはり最初からダンジョンの何かが目的だったのだろう。

 俺達にはそれが何かは分からないが……。


「結局真相は分からずじまいか……それにしても、神の使いとはいったいどういう意味なのだろうな。そのままの意味で捉えれば、神が我ら人間をどうにかしようとしていることになるが……」


「……それは分かりません。比喩的な表現の可能性もありますし、神の名を語る不届き者かもしれません。ですが、いずれにせよ……何か大きな力が働いているのは間違いないかと」


「そのようだな……竜族といいティタノマキアといい、それに加えて神獣か……世界にいったい何が起きているのか見当もつかぬ。して、ロードよ」


「は……」


「貴公の話を聞きたい。すまぬが知っていることを話してはもらえぬだろうか?」


 恐らくジルさんからなにかしらの報告を受けたのだろう。

 ギリシア王にも全てを話しておいた方がいいかもしれないな。

 必然ジルさんにもあのことを話してしまうことになるが……彼女には知る権利があると思う。

 ジークさんには悪いけど。


「……分かりました。俺が知る全てをお伝え致します。ですが……」


 俺が周りに目をやると、ギリシア王はそれを察する。


「よかろう……皆下がれ」


「しかし陛下……」


「案ずるでない。ジルもおるしな……頼む」


「……は」


 彼らが去った後、俺はこれまでのことを全て話した。

 無能という概念、ティタノマキア、魔族、竜族、神殿、勇者ロイとオリンポス、北の戦争、神獣、そして……奪われた伝説の武具。

 世界の憂いは解決するどころか増えている。

 ギリシア王は俺の話を聞き終えると、少し長めに息を吐いた。


「なんと険しき道を貴公は……まっこと頭が下がるわ。そして、よく話してくれた」


「陛下……もし無能と呼ばれる人が現れたら……」


「分かっておる。決して約束を違えぬと、我が名に懸けて誓おう。そして、ロイのことはまだ我が胸に秘めておく。さて、ニーベルグ王やケルト王とも話さねばな……時間を取らせてすまなかった。暫しギリシアで休むがよい。この老いぼれには、貴公らを労うことしか出来ぬからな」


「陛下……ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 ギリシア王に話したことで、改めて決意を強くした俺は拳を握り締める。

 別に気負っている訳じゃない。

 成すべきことを……為すだけだ。

 

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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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