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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病
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第148話:策

 

『なッ!?』


「はぁぁぁぁぁぁッッ!!」


『うぉぉぉぉッ!?』


 レヴィを背に、ロードの握る聖剣とフェンリルの拳がぶつかり合い、周囲に激しい光が広がっていく。


「はぁッッ!!」


『がぁッ!?』


 光を纏ったつるぎがフェンリルの拳を跳ね返し、数瞬を置かずに放つ二撃目がフェンリルの身体を吹き飛ばした。


『がッ!』


 フェンリルは倒れているグラウディを飛び越え、二層の奥にある湖に激しい水飛沫を上げて沈んでいく。

 ロードが振り返ると、レヴィの膝がガクッと折れた。


「ロード……様ぁ……」


「レヴィッ!」


 倒れこむレヴィを抱きしめ、ロードはそっと床に寝かせた。


「悪い……遅くなって……」


 レヴィは弱々しく首を横に振り、ロードに優しく微笑んで見せた。

 強がりだと分かっていたが、ロードもそれに笑顔で返す。


「私は大丈夫です……それよりジル様とグラウディ様を……!」


 ロードはレヴィが指差す先に横たわるジルに駆け寄り、手にしたエクスカリバーに普段より多く生命を込める。

 現れた聖剣は赤いマントを翻し、ロードにスッと跪いた。


「頼む」


「承った」


 エクスカリバーはすぐに鞘を抜き、ジルに向けて力を発動した。

 ジルの身体が輝くと同時に腹部の傷が塞がり、鎧までもが元に戻っていく。

 苦しそうに息をしていたジルだったが、やがて静かに寝息を立て始めた。


「ジル様……よかった……」


 ロードはその間にグラウディへと転移し、彼を担ぐと一瞬で入り口へと戻る。

 そしてジルの隣にグラウディを寝かせ、再びエクスカリバーが事象を巻き戻すと、ジルと同じように呼吸が元に戻っていった。


「これでいい……じきに目覚めよう」


「ありがとうエクスカリバー。奴を見張っててくれ」


「心得た」


「よし、アスクレピオス」


 手帳から医神の宝杖を引き抜き、すぐさま生命を与えた。

 現れたアスクレピオスに、ロードはレヴィを治すよう指示を出す。


「お任せあれー!」


 エクスカリバーの力は同じものに使う度効力が弱まってしまう。

 ジルとグラウディは緊急性が高かった為にエクスカリバーの力を使用したが、ロードは今後のことも考え、レヴィはアスクレピオスに任せたのだった。


「我慢してねレヴィちゃんー」


 アスクレピオスの杖がレヴィの頭をこんっと叩くと、瞬間レヴィは激痛に顔を歪ませた。


「ぐうっ……あっ……! ロ、ロード様……お伝えをっ!」


「レヴィ……!」


主人あるじよ。我が見ている故……話を聞いておくがよい」


 ロードは頷き、苦しむレヴィの手を握る。

 レヴィは痛みを堪えながらロードに全てを伝え始めた。


「簡潔にっ……はぁっ……はぁっ……あれはフェンリル……奴の力は……」



 ――――――――――――――――――――――



 フェンリルは水底まで沈んだ後、浮力に任せゆっくりと浮き上がり始めていた。

 別にダメージの所為で動けないという訳ではない。

 確かに右肩から左脇腹にかけて大きな傷は付いたが、その程度の傷ならば問題なく動けるだろう。

 また、剣を受けた拳にも傷が付いていたが、彼にとって重要なことはそんなことではなかった。


 問題は現れた男が使っていたつるぎ

 レヴィの頭蓋を砕かんと放った渾身の一撃を弾き返され、さらに胸だけならともかく体毛に覆われた脇腹まで斬り裂かれている。

 咄嗟に魔力を喰らい致命傷は避けたが、これは通常の武器ではあり得ないことだった。


『確かにエクスカリバーと……いや、まさかな……』


 そんなことを考えている間に水から顔を出したフェンリルは、両手で水面を激しく叩いて跳び上がった。

 そうして地面に降り立つと、離れた位置にいるその男を睨みつける。

 その傍には初めて見る銀色の鎧を着た女がおり、その後ろにはレヴィに寄り添う白いローブを着た女が立っていた。


『侵入者は4人だった筈だが……まぁよい。全て喰らえば同じこと』


 フェンリルは侵入者が4人だと知っていた。

 それはフェンリルの能力ではなく、このダンジョン自体の力。

 もっと言えば、モンスターを操っていたのもダンジョンが持つシステムの1つであった。

 彼らがいる場所は最深部の第二層。

 その下にある第三層がこのダンジョンの終着点となっているが実は違う。


 第三層には選ばれた者しか入ることの出来ない隠し部屋があり、そこからさらに下ったところこそがこのダンジョンの中枢であった。

 そこにはこのダンジョンを維持している巨大な魔石があり、それに触れることでこのダンジョン全てを掌握することが出来るようになる。

 フェンリルはそこにいたのだが、彼らが城に入った段階で部屋を後にし、戦いやすいこの第二層で待つことにしたのだった。


『1人を犠牲に辿り着いたのだと考えておったが、よもやあれを打ち破るとは……いやはや大したものだ』


「フェンリル……お前は何者なんだ? いったいここで何をしている……?」


『フハハ……答える気はない。それよりお主こそなんなのだ? 先の一撃……あれは普通では……』


 その時、フェンリルの目が見開く。

 その視線はロードが持つ手帳へと向けられていた。


『その手帳は……! なるほど……お主がロードか』


「!? な、何故俺の名前を……」


 フェンリルはそれに答えず、全身から膨大な魔力を放出させる。


「話す気はないってことか……!」


 ロードはそれに臆することなく手帳を開いた。


『……1つやることが増えたな。偶然か必然か……どちらにせよ、運命には違いあるまい』


「何を言っているかは分からないが……お前が人間の敵なのは分かった。なら、俺はお前を倒すだけだ……!」


『フハハ……同じようなことを……なら、我もそれにならおう。知るがよい……身の程をなッ!』


 瞬間フェンリルは大地を蹴り、凄まじい勢いでロードに迫る。

 だが、聖剣の一太刀がその突撃を許さなかった。

 振り下ろしたつるぎとフェンリルの拳が衝突し、2人は互いに弾き飛ばされる。


『ぬぅッ!』


「通さんッ!」


「デュランダル……!」


 ロードは黒き神剣を手帳から引き抜く。

 レヴィからの話を聞き、遠距離攻撃は通じないとロードは判断していた。

 さらに、エクスカリバーの光の斬撃で斬り裂けたことから、物理攻撃の完全な無効化ではなく、単純に防御力が異常に高いのではないかとロードは推察する。


『ぬぅッ!』


「はぁッ!」


 彼女はロードの指示通りに魔力を使わず、単純な斬撃のみでフェンリルを攻め立てる。

 しかし、フェンリルの体毛は能力を使わずには斬り裂けなかった。

 打ち合いの最中さなか、弱点である首を狙ったエクスカリバーの斬撃が空を切る。


『甘いわッ!』


 そこを狙われることはフェンリルとて分かっている。

 躱した刹那放たれた拳が、エクスカリバーの顎を下から打ち抜いた。


「ぐッ……おッ……!」


『そらぁッ!』


 宙に浮いたエクスカリバーの胴体に、魔力を帯びた強烈な飛び蹴りが打ち込まれ、彼女はロードがいる付近にまで吹き飛ばされた。


「がふッ……!」


 エクスカリバーの鎧が砕け散り、聖剣に微かなヒビが入った。

 生命を与えられた存在である彼女達のダメージは、そのまま自らである武具に伝わる。

 伝説の武具である彼女達は自己再生機能を持つが、戦闘不能となる程のダメージを受ければ武具は壊れ、暫くの間使用することが出来なくなってしまう。


『はぁぁぁぁぁぁッ!』


 フェンリルはエクスカリバーを蹴り飛ばした後、魔力を両手に凝縮し始める。

 吹き飛ばされた彼女は地面に叩きつけられるが、すぐに起き上がりロードの側でつるぎを構えた。


「大丈夫か!?」


「ゲホッ……この程度は傷に入らぬ……! それより何か分かったか?」


 ロードは2人の戦いを見ながら思考を巡らせていた。

 "相手の力を知ることが勝利に繋がる"。

 ジークに教わったことが、ロードの中で確実に活きていた。


「ああ……さっき俺が二撃目を放った時、魔力を吸われたような感覚がなかったか?」


「そう言われると確かに……確実に斬り裂いたと思ったが……」


「仕留めきれなかったのは魔力で生み出していた光刃が喰われたからだろう。つまり、魔力を喰わせなければ奴は斬れる」


「なるほどな……だが、先程は虚をついたに過ぎぬだろう? 手合わせした感じからしてそう易々とは……」


「策はある。奴の攻撃を……変化を利用すればいい」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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