第139話:ゲイボルグ
「ダメだ。それは俺がやる」
「この先を知っているのはグラウディさんだけです。この後誰が道案内するんですか?」
「それは……」
「なら私が……!」
「ジルさんが強いのは知ってます。でも、対多数向きじゃないですよね?」
「う……だ、だが!」
「死ぬつもりはないです。俺は空も飛べますし、転移も出来ます。それに対多数の武器や回復手段もある……だから、この中でアレをどうにか出来るのは俺だけなんです」
嫌な予感はしていた。
ロード様はいつもそうだから。
でも、今までとは違う。
ちゃんと現状を理解し、私達の戦力を分析したうえでそう言っている。
実際、この中で数百匹のモンスターを相手に生き残れるのはロード様だけだろう。
ロード様と伝説の武具様達の力を合わせれば……決して不可能ではない。
「大丈夫、必ず後から追い付きますから。フラガラッハとハディスは一旦戻ってくれ」
「はっ……主人よ、ご武運を」
「危うくなったら吾輩を使うのだぞロード!」
「ああ、ありがとな」
ロード様はお2人を手帳に戻し、深く息を吸い込んだ。
いつにも増して集中している。
今のロード様ならきっと……。
なら、ロード様の意思は……私が守る。
「グラウディ様、ジル様……ロード様の言う通りに致しましょう」
「おいレヴィ……!」
「お前本気か? あれだけの数だぞ……確かにロードは強いが……!」
「ロード様なら大丈夫です」
「お前……」
「お2人もロード様を信じてください。ロード様は後から必ず来ます」
ロード様がフッと笑う。
だから私もロード様に笑みを返した。
「……ありがとなレヴィ。必ず追い付く」
「はい……神獣を倒してお待ちしております」
「ははっ……そりゃいいや」
「お、お前ら……」
「別の方法もある筈だ……もう少し考えてからでもいいのではないか……?」
お2人はまだ納得されてないようですね。
ですが、恐らくこれが最善手。
「神獣の元に辿り着き、それを駆逐するのが私達の務め……そうですよね?」
「……ああ」
「ならばそれを成し遂げましょう。その為にここまで来たのですから」
「グラウディさんとジルさんの気持ちは分かります。俺が逆の立場なら……やっぱり止めると思いますから。でも、信じてください……絶対に後から追い付きます」
「…………はぁ……分かった」
「グラウディ……!」
「仕方ねぇよジル。ロードとレヴィにここまで言われちゃな……それに、他に方法も浮かばねぇ。だから、俺達は俺達の出来ることをしよう」
「クソ……ロードお前……! 死んだら承知せんぞ!」
「はは……みんなも気を付けて。神獣だって生半可な相手じゃない筈です」
「ああ、分かってる。そっちは俺らを信じろ」
「……はい。まずは城から魔物を引きずり出します。突入のタイミングは魔石で」
「ああ、分かった」
「ロード、武運を」
「お待ちしております……ロード様」
「ああ……行ってくる」
――――――――――――――――――――――
魔物とドラゴン達は協力して城を守っていた。
普段は互いに殺し合い、喰らい合う仲であったが、今はそんな気が起きなかった。
それが何故なのかは分からない。
今の彼らにあるのは、ただ"城を守る"というその意思だけであった。
城正面の入り口の前には40メートルの巨体を誇る大竜種がおり、空には数十匹の翼爪竜種が飛び回っている。
また、城の周りを囲うように巨腕竜種や息吹竜種、多頭竜種などが徘徊していた。
城の中は魔物の巣窟と化し、ハディスが語ったように全てを躱して歩くことは不可能と言える。
中にはSSランクが数匹、さらにはSSSランクの魔物すらおり、数だけではなく質も高い。
通常、モンスターは都市型ダンジョン全域に散らばっている。
だが、数日前……つまり神獣が現れてからというもの、全てのモンスターは何かに操られるように城へと集約していた。
彼らは今日も城を守る。
特に何もない日々に退屈してはいたが、守らなければならないのだから仕方がない。
だが、幸か不幸か、そんな退屈は突如として終わりを告げられる。
突然凄まじい雷鳴が轟き、それに驚いたモンスター達は一斉に鳴き始めた。
この都市に雨は降らない。
何故ならこの空も太陽も偽物だから。
そして次の瞬間、見たこともない凄まじい光がどこからか放たれ、彼らの守る城の頂上を破壊した。
「グオォォ……ォォォォオッ!」
最初に気付いたのは城の正面を守る大竜種。
大気を震わす程の咆哮により、周囲を守るドラゴンはもちろん、城の中にいた魔物達も一斉に飛び出してきた。
「おっほぉー! 大量大量ー! 最ッッッ高じゃねぇかよなぁ!! もういいか!? いいんだよなぁ!? 早くやらしてくれよぉぉ!!」
「うるさい」
「落ち着けゲイボルグ……もうちょっと引きつけてからにしよう。グングニルは仲良くな」
「分かった」
「だってよぉだってよぉ! あたいはずぅッッッ……と我慢してたんだよぉ!? まぁこんな最高の場面で出してくれたからいいけどさぁ! 堪らねぇよ堪らねぇ……最ッッッ高に滾るぜぇッッ!!」
「うるさい」
「2人が協力すれば一気に数を減らせるからさ。な?」
「分かった」
「ひっひっひ……合わせろよグングニルぅ……ご主人様の為なんだからよぉ!」
「うるさい」
「はぁ……」
3人の前には軽く100を超えるモンスターが押し寄せてきていた。
モンスター達の目は血走り、咆哮を上げながら大地を激しく揺らしている。
開けた空間故にモンスター達は大きく広がり、まるで津波のように粉塵を上げながら突き進んでいた。
相対するはグングニルとゲイボルグ。
白銀の少女はふわりと身体を浮かせ、自身である槍に最大限の魔力を込める。
もう1人の髪から服まで全身が黒い細身の女は、大きく開いた胸元から見える豊満な胸を見せつけるかのように、漆黒の槍を構えて身体を仰け反らせた。
「我が名はゲイボルグゥッ! 眼前の敵は我が魔槍の前にことごとく散りッ! その幾重にも重なった屍を歩くことが我が至福ッ! さぁ……あたいと欲望の架け橋になっておくれよぉ!? ひっひっひ!」
「……エポリィが言ってた意味がよく分かるな」
「こいつ嫌い」
「グングニル……仲良くな……」
モンスターとの距離が迫る中、ロードは装備した武具達に触れていった。
頭にはルーが使用した兜であるカフヴァールを被り、鎧はアーサーが使用した鎖帷子ウィガール。
足には空を歩けるタラリアを履き、指にはソロモンの指輪をつけている。
右手には雷神の槌であるミョルニルを持ち、左手には竜狩りの剣リジルを握っていた。
さらに、ロードの周りをフラガラッハとタスラムがふわふわと浮いている。
因みにこれらの武具は能力を使わなくとも魔力を僅かずつ消費していく。
だからロードは普段彼らを身につけることをせず、これまで一度に多くの武具を装備することもなかった。
だが、今回は敵の数が多く、様々な状況に対応出来るようにと考えた結果、こうして全身に武具を纏うことに決める。
「来るぞ2人とも……!」
「うん」
「任せなぁッ!」
迫るモンスターに対し、3人は魔力を練り上げた。




