第120話:課題
「はぁ……はぁ……」
歩く度に頭がガンガンするし気持ち悪い。
とりあえず川を見つけないと。
"飲まず食わず眠らず"があるから3日くらいなら何となるんだろうけど、死なないだけで腹は減るし喉は渇く。
体力がなくなれば本当に動けなくなるし、そうなれば死ぬ可能性も……とにかくまずは拠点を作ることが先決だ。
山の中を歩きながら周りを見回すが、どこを見ても同じような景色ばかり。
水が流れる音も聞こえないし、聞こえるのは鳥のさえずりと虫の声だけ。
とにかく川を見つけられるまで歩き続けるしかない。
それにしても……。
「なんで上半身裸じゃなきゃダメなんだ……?」
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『ぬぁぁぁぁっ!?』
『目が覚めたか小僧』
な、なんっ!?
いっ……頭が痛い……気持ち悪い……。
『フッ……二日酔いは初めてか?』
『ジ、ジークさんいったい何が……えっ? なんで俺裸……しかもびしょ濡れなんですけど……』
『濡れてんのは俺が水をぶっかけたからだ。目を覚まさせる為にな。さて、それじゃあ今からお前に課題を与える』
『えっ……?』
『今から1週間山の中で暮らせ。因みにお前の装備と手帳は預かった。ついでに上着もな。使っていいのは魔法だけだ』
『は、はぁ……』
『食いもんと飲みもんはてめぇでなんとかしろ。因みに……魔物やドラゴンもいるから気を付けろよ?』
『は、はぁ……えっ!?』
『じゃ、1週間後に会おう』
そう言ってジークさんは俺に背を向けて歩き出した。
……あ、やばいこれ!
『あ、ちょっ……! ジ、ジークさん!?』
『強くなりてぇんだろ? じゃあ頑張って生きろ』
ジークさんの目は真剣だった。
意味は分からない。
けど……何か理由があるんだ。きっと。
『……分かりました』
『ん、じゃあな』
そう言って今度こそジークさんは森の中に消えた。
1人になった途端、なんだか急に心細くなってしまう。
ここで1週間……道具も武器も無し……。
『やるしか……ない』
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高い所から見れば何か分かるかもしれないと思い、俺は山道を上へ上へと登っていた。
二日酔いで体調は最悪。
おまけに上半身裸のせいでひどく寒い。早朝の山ってこんなに冷えるんだな……。
あ、そうか。火をおこす方法も考えないと。
レーヴァテインがいれば……。
「あ、いやいや……自分の力だけでやらないとダメなんだ」
ジークさんの真意は分からないが、多分自分の力だけで過ごすことにより、俺に何かを感じさせようとしているんだろう。
その為に俺から全部取りあげたんだ。
魔法以外を……。
「魔法か……そういえば伝説の武具やイアリス以外に使うのはレベル上げくらいで、何かをする為に使ったことってなかったな……待てよ」
今、俺は川を見つけたい。
でも正直歩くのもしんどいくらいだ。
しかし魔力はある。
なら……代わりに歩いてもらえばいいんじゃないか?
「重量制限は俺の体重の5倍……これくらいの木なら……」
3メートルほどの高さがある太めの木。
見たことない木だな……ここの固有種だろうか。
とりあえず生命を込めてみよう。
「おっ……おお!?」
すると、生命を与えられた感覚がしたと同時に、木の枝葉がざわざわと動き始めた。
さらに根元の土が盛り上がり、根っこが次々に飛び出てくる。
枝が数本まとまり腕のようなものに変わり、根っこを足にして木は人型へと形を変えていく。
そうして木は2本の足で大地に立ち、ぺこりとお辞儀するような仕草を見せた。
「あ、よろしく……えっと……名前を付けた方が呼びやすいな。じゃあ……モクさんでもいいかな?」
木だからモクさん……我ながら安直だった。
しかし、どうやらモクさんは気に入ってくれたらしく、枝葉を振りながら踊るような仕草をしている。
結構可愛い。
「ありがとうモクさん。乗せてもらっても?」
するとモクさんは膝?を突き、俺が乗りやすいような体勢を作ってくれた。
俺が頭部分に座ると、モクさんはスッと立ち上がる。
「おお……結構高いな。モクさん、俺は川を探してるんだけど……どこにあるか知ってるかな?」
俺がそう言うとモクさんは枝の腕を組み、ちょっと考えた後に自分の幹をドンと叩く。
どうやら任せろってことらしい。
キョロキョロと周りを見回す仕草の後、モクさんは俺が来た道とは別方向に山道を下り出した。
あ、下に……いや、モクさんを信じよう。
モクさんはゆっくりではあるが、山道をずんずんと進んでいく。
思ったより揺れないな……あ、気を遣ってくれているのかも。
なんにせよ助かった……ありがとうモクさん。
――――――――――――――――――――――
「ん……」
いかん寝てしまった。
ここは……。
「か、川だ!」
どうやら寝ている間にモクさんが連れて来てくれたようだった。
しかも寒くならないように俺の身体を葉っぱで覆ってくれている。どうやらいい木に巡り会えたみたいだ。
俺はモクさんから飛び降り、川の水を手ですくってみる。
澄んだ水だ。多分飲めると思うけど……。
「モクさん、飲んでも大丈夫かな?」
するとモクさんは再び幹をドンと叩く。
信じろってことかな。
「よし……ぷはっ! 冷たくて美味しい……」
これなら大丈夫そうだ。
どうやらここは山と山の間みたいだな。開けた川の周りは小さな石で埋め尽くされている。
うん、ここを拠点にしよう。
寝床はモクさんの頭でいいとして、次は火をおこす方法を考えないと。
「火打ち石があればなんとかなるんだが……そう簡単には見つからないよな」
あれは確か金属を含んだ石だった筈……それに硬い石をぶつけて火花をおこし、それを燃えやすい藁なんかにぶつけて火をつける。
昔はそうやっていた人もいたらしいが、今じゃ魔石があるから使っている人もほとんどいない。
「火をつける方法と……後は食料か。なんとかしな……ん」
……何かいる。
どこかからかは分からないが、この感じは……多分モンスターだ。
動物ならありがたかったんだけどな……魔物や竜は不味くて食えたもんじゃないらしいから。
ま、向こうにはそんなこと関係ない。
俺を食うつもりなんだしな。
「モクさん警戒を。俺は仲間を増やす」
モクさんはこくんと頷き、両腕を広げて大きく構えた。
俺は辺りを見回しながら目の前にあった縦横1メートル程の岩に手を触れる。
いけるかな……んっ!
「よし……!」
生命を与えた岩はみるみる形を変え、角張った岩が頭と胴体、そこから岩でできた短い手足が生えていく。
そうして立ち上がった岩はゆっくりと俺に向けてお辞儀をした。
「よろしく……えーっと……イワさん」
そのまんま過ぎるが……他に思いつかなかった。
なんか小躍りしてるから気に入ったみたいだけど。
「イワさんも警戒を」
イワさんは頷くと、モクさんとは別の方向を向いて辺りを警戒し始めた。
俺の意思がすぐ伝わるからやりやすい。
で、問題は俺だ。今の俺は武器がないから武芸百般が発動していない。
さっき1人で歩いていた時に木の枝を拾ってみたがダメだった。
恐らく……俺が武器だと認識していないからだろう。
「投石は……武器になるよな」
足元にあった石を拾ってみたが、能力が発動した感じはしなかった。
だが投げつければ武器になる筈だ。投げる力くらいは強化されるかもしれない。
俺はいくつか石を拾ってポケットに詰め込んでおいた。
敵の気配は未だに感じていたが動きがない。
どうやらイワさんが増えたことで警戒しているみたいだな。
このままいなくなってくれると……。
「そう甘くないか……!」




