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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病
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第102話:無茶

 

「入れ」


 ケルト王の言葉を受け、その扉がゆっくりと開いていく。

 そこから2人の騎士が現れ、ソファーの近くにまで寄るとニーベルグ王とケルト王に向け跪いた。


「遅くなりまして申し訳ございません。ウィンダム=ガドリウム=ケルト、只今戻りました。アディード様、ご無沙汰致しております」


 この人がケルト王のご子息……。

 髪型や髭が無いなどの違いはあるが、やはりケルト王によく似ている。

 身体はケルト王より大きい……強そうだ。


「同じく遅れてしまい申し訳ございません。リャナ=バスター、只今帰還致しました。再びお目にかかれ光栄ですアディード様」


「うむ。2人とも息災で何より」


「おかげ様で。あの……ところで彼らは……?」


 俺達に手を向け、ウィンダムさんは不思議そうな顔でケルト王に問い掛けた。

 それはそうだろう。

 見たこともない奴らが王の部屋にいればそうなる。


「ああ、そうか。君達はオリンポスにいたから顔は知らないのだったな。彼がロードだ」


「あっ! こ、これは失礼を……!」


「あ、いえいえいえ! こちらこそご挨拶が遅れまして……」


 どうやらケルト王から何かしらの話がいっていたらしい。

 慌てて跪くウィンダムさんに俺達も慌てて跪いた。


「まぁまぁ、その話は後にしよう。とにかく2人とも大儀であった。エディ、済まぬが椅子を」


「いえ、エディ様自分が……ウィンダム様どうぞ」


「ああ、済まないリャナ。ありがとう」


 リャナさんはウィンダム王子に椅子を出した後、エディさんの隣に立った。

 この人がケルト軍のトップ……ケルト王が言ったように確かに若く見える。

 彼女は赤く長い髪を後ろで縛り、赤いフルプレートメイルを身に纏っている。腰には美しく輝く銀色のつるぎを差していた。

 その鋭い瞳はどこを見るでもなく、まるで部屋全てを睨みつけているようだ。


「さて、早速で悪いが話を聞かせてもらおうかの」


「は……ですがこれといって進展はありません。両軍は睨み合いを続け、小さな小競り合いが散発的に起きている状態です。いくつか条件を出して和平交渉を進めましたが、レアは相変わらず聞く耳を持ちません」


「そうか……レアは何を考えているのか……」


「これは私の個人的な見解ですが……レアは今の状況を楽しんでいるように思えてならないのです」


「それはつまり……この状況こそがレアの狙いだと?」


「そこまでは分かりませんが……攻めるでもなく、かといって交渉に応じる訳でもない。自分達が主導権を握っているのが嬉しい……そんな印象です」


 なるほど……。

 まるで自分達が世界の中心にいる……そんな気分にはなっていてもおかしくはない。

 なんせティーターン、オリンポス、ケルトという、5大国家のうち3つを振り回している訳だからな。


「悦に浸っている訳か……しかし、動機としては弱いの」


「ああ、その快感を得るにはリスクが高過ぎる。もちろん他に考があってのことだろうな」


「必ず理由はある筈じゃ。今のうちにそれを解明し、戦を止めねばならん。だが、ニーベルグは迂闊に動けぬ。オリンポスとケルトには悪いがな……」


「だろうな。レアからニーベルグ領は近過ぎる。迂闊に手を出せば……」


「ああ……ニーベルグの町や村がいくつか消えるかもしれん。それだけはさせられぬ」


 ニーベルグの町や村が……消える。

 そうか……レアはニーベルグ領に隣接している。

 下手にニーベルグが動けば、レアがそれらに手を出さないという保証はない。

 しかも、それに対しニーベルグがレアにやり返せば更に状況は悪化することになる。


「ロードさん……」


 イストは北から数えた方が早い位置にある……ティアはそれに気付いて不安になったのだろう。


「ティア大丈夫だ。すぐにどうこうなる訳じゃない」


 とはいえティアの気持ちはよく分かる。

 突然自分の町が戦火に巻き込まれるかもしれないと聞けば、誰だって当然不安になるだろう。

 俺だって同じだ。


「そうじゃ。まだ猶予はある。表立っては動けぬがわらわも協力するつもりだ。バーン達が何かを掴むまでなんとか現状を維持しよう」


「ああ。しかし今日はもう遅い……続きはまた明日にしよう。一時解散でよいなアディード?」


「よかろう。因みにロード達はこの後どうするつもりじゃ?」


「俺達はこの後すぐに一旦イストに帰ります。その後はまた旅に。俺は俺にやれることをやるつもりです。そして、もっと強く」


「そうか……いずれお主達の力を借りることになるやもしれん。その時はよろしく頼む」



 ――――――――――――――――――――――



 その後、俺達は部屋へと戻り荷造りを始めた。

 とはいってもほとんど終わらせておいたのだが。


「意外でした」


 最後の荷物をカバンに詰め終わったところで、レヴィがポツリとそう言った。


「何が?」


「私はてっきり……また無茶なことを言うのではないかと」


 俺も意外だった。

 今まで散々無茶なことを言ってきた俺に、レヴィは何も言わずについてきてくれた。

 けど、内心気苦労が多かったのかもしれない。

 知らないうちにレヴィに甘えていたんだろうな俺は。

 でも、今までとはもう違う。

 いろんな意味で。


「戦争を止める為に北へ行くって言うと思ったんだろ? ……まぁ、この間まで言ってたけど。少しは成長したかな?」


「ええ、かなり。安心しましたよ」


 レヴィが嬉しそうに笑う。

 可愛い。


「全部は出来ない……けど、やれることはある筈だ。それに、必要ならいずれ呼ばれるさ」


「そうですね……で、今後はどうされるおつもりなんですか?」


「また情報収集からかな……ティアをイストに送ったら、まだ行ってない国や町に行こう。武具達もまた増えたし、その願いも叶えながらね」


「なるほど。よい案です」


「後はもっと……」


 その時、部屋の扉が叩かれる。

 俺が返事をすると、ケルト王がウィンダムさんとリャナさんを連れて現れた。

 その後ろからティアも顔を出す。


「陛下……こちらからご挨拶に行こうと思っていたのですが……」


「気にするな。2人がどうしても君に礼を言いたいというて聞かんのだ」


「ロードくん改めて礼を。王を……父を救ってくれてありがとう」


「自分からも感謝を。我が王の命を救って頂いたこのご恩……必ずお返し致します」


 そう言って2人に深々と頭を下げられる。

 俺は慌ててそれを止めた。


「本当に偶然でしたから……それに、俺の方が救われています。こちらこそありがとうございました」


「ぬはは! 命に比べれば安いものよ。まだまだ恩は返し切れておらぬ……だからこれを持っていくがよい。きっと君の力になる」


 ケルト王はそう言って2枚の紙を俺に渡してきた。

 1枚は地図で、なにやら文字が書かれている。

 もう1枚はどうやら手紙のようだ。


「陛下これは……?」


「インヘルムの地図を書いた者の居場所だ。俺の親友であり、バーンの師匠でもある。強くなりたいのであろう? ならば会って損はない」


「バーンさんの師匠……」


 地図に書かれた文字をよく見る。

 そこには俺が……いや、世界中の誰もが知っているであろう名前が刻まれていた。


「こ、この人は……」


「そう、其奴の名はジーク=エクスプロジオン。かつて……勇者と呼ばれていた男だ」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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