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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病
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第99話:火種


「ふん……なるほどのう」


「まぁそういう訳だから……報告は遅れたけど仕事はちゃんとやったよなザワン?」


「ヒーローを舐めないでいただこう!」


「やかましいわ。まぁよい……で?」


 ニーベルグ城の一室に彼ら男女5人の姿があった。

 バーン、アリス、ザワン、ニーベルグ宰相デルフ、そしてニーベルグ国王アディードである。

 ザワンはバーンを介し、ニーベルグからある調査を依頼されていた。


 それは現在一切誰の入国も出国も認めていないレアへと潜入し、その内情を探るというもの。

 その後はバーン達と共にティーターンに赴き、国王との謁見をする予定だったのだが、その際にロードからレヴィが攫われたという連絡を受ける。

 バーンは自らが行きたい衝動を抑え、ケルト付近に行くと言っていたズィードに連絡し、ザワンにも行くように指示を出した。

 その後、バーンはアリスと共にティーターン王と謁見し、数日前にニーベルグへと到着。

 ザワンはインヘルムからケルトへと帰還後、数日休んでからニーベルグへと走ったのだった。


「年齢関係なく徴兵されているみたいだし、徴税と称した財産の没収もあったぜ……ヒーローには見ていて辛い惨状だった……!」


「ザワン様の報告によりますと……国は混乱し、国民はかなり困窮しているようです。いつの間にか戦争状態にまで発展していたらしく、気付いた時には今の状態だったようですな。上層部はそんなことなどお構い無しに次々とティーターンの属国を吸収、今じゃ戦力的にはレアの方が上です。国民を愛する政策をとっていたレアは一転、いきなり戦争国家へと変貌し、国民から全てを奪い始めた……と」


 デルフからの補足を受けたアディードは頭を抱えた。

 バーンからの報告で知った無能に関する事柄や、神殿関係、ティタノマキア、竜族、勇者など、問題はまだまだ山積みである。

 魔族にしても、魔王がいなくなっただけでまだ全てが片付いた訳ではない。

 それに加え、人間同士の戦争というあってはならないことが、アディードを今何よりも悩ませていた。


「ちっ……金の切れ目が縁の切れ目か……」


「ああ、多分な。元々ティーターンとその属国は金で結ばれた関係だ。ティーターンが財政難に陥り、その煽りを受けて属国も厳しい状況にあったのは間違いない。そこでレアはティーターンと交わした密約を公にし、義理を通す必要もないと教えたうえで属国を次々に買収した。今ティーターンについてる属国は西にある本国周辺の古参だけ。東にあるレアの周辺はもちろん、半分以上は既に飲み込まれちまった」


 バーンの言葉を受け、アディードは苦虫を噛み潰したような顔して再び舌打ちをする。

 現在ティーターン軍とレア軍の直接的な衝突はないが、互いの属国同士の小競り合いは頻繁に起きていた。

 なんとか戦争を回避したいティーターンはオリンポスやケルトに助けを求め、その4国で話し合いを持つ場を設けようとしたのだがレアはそれを完全に拒否。

 訪れたオリンポスの使者に対し、〝戦争をしたくなければティーターンがレアの奴隷になるしかない〟と言い放ったという。

 ニーベルグに声が掛からなかったのは、アディードとティーターン王の仲があまりよろしくないからであった。

 しかしアディードは人間同士の戦争などしている場合ではないと判断し、独自にそれを止めようと動いていたのである。


「バーンよ、ティーターンはどうじゃった?」


「ああ、国は大混乱……民衆は皆怯えていた。ティーターン王は個人的な知り合いだったから会ってくれたみたいで、本来は誰とも会わないようにしているらしい。で、事態はかなり深刻だな。何度も話し合いをしようとしたらしいが、レアは一切聞く耳を持たないみたいだ。レアの返答はいつも同じで、〝滅ぶか従うかどちらか選べ〟だとよ。因みに従うってのは属国になれって意味じゃない。完全な奴隷になれってことだ」


「共存の道はない……と。ティーターンは金で領土を増やし、属国にも甘い汁を吸わせていた。だから多少の小競り合いはあれど、これまで特に大きな戦争などなく強国として君臨し続けていたのだがな……」


 肩肘を付きながら呟くように語るアディードに、バーンは腕を組みながら答える。


「レアはここまで予見していたのかもな。地下資源という不確かなものに頼っているティーターンはやがて衰退する……だから属国にならず、力を蓄え機を待った。最高のタイミングで仕掛ける為に」


「レア王め……戦争反対だのなんだのと数年前は言っておったくせに……全部嘘だったという訳か!」


「もしくは何かが裏で糸を引いているか……とかな」


 バーンの言葉にアディードは眉をひそめる。


「……どういう意味じゃ。ひょっとして、無能という概念を創ったとかいう奴が関わっておるとでも言いたいのか?」


「いや、それは関係ないと思うが……要するに俺が言いたいのは、レアが行動を起こした動機が不鮮明だってことだよ。ただ単純に大国になりたいから戦争を起こすってのもなんだか幼稚だしな。そもそも大国になりたいってだけなら既に目的は達成しているし、わざわざリスクを冒してまでやる意味がない。怨嗟の線もあるが、レアがティーターンを恨んでいたなんて話も聞かないだろ? それに、レアの政策が180度変わったのも不自然だしな。もちろん全部ブラフだった可能性もあるが」


「まぁ……そうじゃのぅ……」


「だからなんで戦争をしようとしているのかを突き止めないとこの戦争は止まらない。とにかくレア王の真意を確かめないと」


「ふむ……」


「オリンポスやケルトは話し合いには協力しても、戦争には手を貸さないだろう。あくまでこれはティーターンとレアの問題だからな。レアはそれを分かっているから強気なんだ。もしくはまとめて相手をしても構わないと思っているかだが……いずれにしろ、ティーターンが白旗を上げる頃には多くの人命が失われる。それだけじゃない……この戦争が起きればヴァルハラのあちこちでレアのように武力に訴える国が出てくる可能性もあるし、その戦争に乗じてティタノマキアや竜族も動くだろう。ヴァルハラが戦火に飲み込まれる前に……なんとしても止めないと」


 アディードは背もたれに寄りかかり、目を瞑って腕を組む。

 暫しの沈黙の後、アディードはゆっくりと目を開いた。


わらわも自ら動くか……とりあえず一番信用出来るケルト王からいくとしよう。デルフ、バイパーを呼べ」


「へ、陛下まさか……直接!?」


「こんな大事な話を魔石で済ませろと……?」


 その幼い少女の見た目からは想像もつかない声で凄むアディードに、デルフは慌てて部屋を後にした。

 そう、アディード=ストラトス=ニーベルグは女性の王。

 ニーベルグは代々第一子を必ず王にするという決まりがあり、女子が生まれたとしてもそれは変わらない。

 そして女王という肩書きはなく、必ず王として育てられる。

 因みに見た目は幼い少女だが、その実年齢はケルト王オーランドよりも遥かに上。

 それは彼女のスキルに由来するのだが、彼女自身はそれを呪いだと思っている。


「バーン、ザワン、アリス、もう一度レアへ行け。今度は国の様子でなく、政府と王自身を調べよ。ことを起こした動機を解明するのじゃ。わらわわらわで動く。まだ国は動かせぬ……我らのみでやるしかない」


「分かった。準備をしてから行くわ」


「さて……オリンポスの阿呆にも会わなければならぬなぁ。1年に二度も会いたくはなかったが仕方あるまい。暫くは時を稼げるであろう……その間になんとかせい」


「なんとかね……やるしかないか」


 ヴァルハラに不穏な空気が流れていた。

 それは、久しくなかった戦争という名の悲しい火種。

 果たして何故それは起きようとしているのか、バーン達は決意を胸に部屋を後にした。



 ――――――――――――――――――――――



 竜狩りの国アルメニア。


 ヴァルハラ南西部に位置する中堅国家。

 竜族の国ドラゴニアに近いことから飛来するドラゴンが多く、竜狩りの技術が進歩している国である。

 ドラゴンの素材が国の財政を支えており、竜狩りを得意とする冒険者を優遇した特殊な政策を打ち出し話題となった。

 また、この国にはここ数年で現れたもう1つの顔がある。

 というより、これは国王の個人的な趣味と言った方が正しいかもしれない。



 ――――――――――――――――――――――



「そんなことはどうでもよい! まだ新しい無能は見つからんのか!」


「は……最早この国に無能はいないかと」


「ちっ……! 勢い余って殺してしまったのが悔やまれる。まだ1匹おるが……やはり2匹いないと落ち着かぬわ!」


 アルメニア国王ザンディ=ウォンド=アルメニア。

 彼は生粋のサディストだった。

 王という立場故それを隠してきたのだが、数年前に無能の女性がアルメニアで殺人を犯したのをきっかけに、彼は誰にも咎められない無能という存在の便利さに気付いてしまう。

 そう……彼は無能を快楽の捌け口にしていたのだ。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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