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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病
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第97話:人間

 

 私の人生ってなんだったんだろう。

 なんの意味があって生まれたんだろう。

 あんなに幸せだったのになんでだろう。

 理由は簡単。

 無能だったからだ。

 もういいや。

 疲れたし。

 私は十分頑張った。

 だから私は首に縄を掛ける。

 森の中に建てられた古びた小屋の中で、私は人生を終えようとしていた。

 ふと過去の記憶が蘇る。

 3年前の……あの記憶が……。



 ――――――――――――――――――――――



「君の魔法は〝操作魔法〟だね。何かを操り、思いのままに動かせる素敵な魔法だ。大切にしなさい」


「……はぁい」


 正直嬉しくなかった。

 もっと可愛い魔法がよかったし、操作魔法なんてありきたり過ぎる。

 あーあ……色々期待してたんだけどなぁ。


「ねぇねぇ! シェリルの魔法なんだった!? 私は鏡魔法だったよ!」


「私は銀魔法。まだよく分からないけど……名前はいいかもー!」


 仲良くしてる2人の友達からそう言われ、私はますます落ち込んだ。

 私もそんなのがよかったなぁ……。


「ミルは鏡魔法で、リンは銀魔法かぁ……2人ともいいなぁ。私は操作魔法だってさー。つまんないの」


「いいじゃん操作魔法! 確かSSSランクのベアトリーチェ様は操作魔法でしょ? シェリルも強くなったりしてー! やっぱりシェリルは運いいよね!」


「そうそう! こないだも懸賞当たってたもんね! もしかしたらベアトリーチェ様みたいになれるかもよ?」


「ベアトリーチェ様は素敵だけど……私は冒険者になるつもりないしなぁ。もっと可愛いのがよかったのよ。こういう時こそ運がよくないと意味ないのにぃ」


「あー……シェリルの家はお金持ちだもんねー!」


「羨ましいよねー! それにー……シェリルの夢は綺麗な花……」


「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいからやめてよー! てか、ミルもリンも大して変わらないじゃないの!」


 私達3人はそれなりに裕福な家庭に生まれ、家も近かったから自然と仲良くなった。

 価値観や考え方も似ていたし、今みたいな冗談も気楽に言い合えるから……本当に最高の友達だ。

 恥ずかしいからあまり言わなかった〝綺麗な花嫁さんになりたい〟という夢も2人には話していた。

 だから冒険者になるつもりもなかったし、魔法は趣味というかなんというか……それでも可愛いのがよかったんだけどなー……。


 その後、私達はギリシアからアルメニアに向かう馬車に乗り、たわいもない話をしながら時間を潰した。

 アルメニアに着く頃にはすっかり日も暮れ、町にはぽつぽつと灯りがつき始めている。


「じゃ、今日は解散ね。パパとママに教えてあげなきゃだし」


「オッケー! 明日から特訓だね!」


「またねシェリル!」


「うん! またね!」



 ――――――――――――――――――――――



「ほう……操作魔法か。いい魔法じゃないかシェリル」


「そうねぇ。便利な魔法じゃない」


「もっと可愛い魔法がよかったの! 宝石魔法とか妖精魔法とかさぁ……他にいくらでもあったのにぃ」


 夕食を食べながら私はついつい愚痴をこぼしてしまう。

 するとパパは私を諭すように微笑みながら言った。


「まぁ、せっかく神様がくれた魔法なんだ……大事にした方がいいと思うぞ?」


「そうよシェリル。無能にでもなったら大変よぉ……人間じゃないんだから無能は」


 無能か……。

 確かつい最近人殺しをした無能がいたっけ。

 無能は女の人で、捕まって凄い拷問をされてるって噂は聞いていた。


「分かってるよぉ……ごちそうさま! 明日は3人で魔法の練習するからもう寝るね。おやすみなさい」


「お、そりゃいいな。上手くなったら見せておくれ」


「はーい!」


 私は2階の自分の部屋に入り、早速魔法を使ってみることにした。

 明日に備えてちょっと練習しとかなきゃね。

 机の上に紙を置いて……と。


「よーし……んっ!」


 物質を動かすイメージを浮かべながら、私は紙に魔力を送り込んだ。


「ありゃ……」


 紙はピクッと動いたけど、風で少し揺れた程度だった。

 んー……最初はこんなもんか。

 もうちょっとやってから寝よっと。



 ――――――――――――――――――――――



「おはよー! って……シェリルどうしたの? 目の下にクマが……」


「大丈夫……? なんか顔色悪いけど……」


「ん……あはは……ちょっと夜更かししちゃって……」


 あの後、結局夜中までずっと練習したのだが、吹くだけで飛ぶようなあの紙はほとんど動かなかった。

 段々と怖くなった私は練習をやめ、灯りを消してベッドに潜り込む。

 けど、寝れなかった。

 夕食の時に無能の話をしてしまったからだろう。

 怖くて怖くて……そればかり考えていたらますます眠れなかった。

 気付いたら朝になっていて、私は机の上に置いたままだった紙を見る。

 恐る恐る手をかざし、自分を信じてもう一度やってみた。

 けど……。


「そっかぁ……無理したら駄目だよ? とりあえず私からやるね!」


「ミルは鏡魔法だったけ……どんな風になるのか楽しみだねシェリル!」


「う、うん……そうだね」


 本当は今日ここに来るのをやめようかとも思った。

 けど、確かめないと。

 最初だから出来なくて当たり前……うん、きっとそう。

 だからミルの魔法もきっと……。


「わぁー! すごいよミル! ちっちゃいけど空中に鏡が出てる出てる!」


「へへーん! 昨日ちょっと練習したんだー! すごいっしょ?」


 心臓が痛い。

 すごく嫌な痛みだ。

 でも、まだ分からない。

 大丈夫……リンはきっと……。


「じゃ、次私ね! 手を見ててね!」


 やめてよ……。

 なんかもう……そんな言い方したらさぁ……!


「すごっ! 手が銀色になった! さてはリンあんたも……!」


「へへー! 練習しちゃいましたー!」


 全身から嫌な汗が噴き出しているのが分かる。

 なんで……2人は出来て……なんで私だけ?

 おかしいじゃんこんなの……ずっと一緒だったのに……。

 ずっと心臓が痛い。

 あ、でもあれかも。

 家だったから駄目だったのかもしれない。

 そうだそうだ……きっとここなら出来る。

 大丈夫大丈夫……絶対出来るから。


「じゃ、次シェリルの番ね!」


「う、うん……」


「なんか丁度いい……あ、この木の枝でいい?」


「い、いいよ……それくらい余裕よ……」


 木の枝って……紙すら動かなかったのに?

 あ、違う違う。

 ここは家じゃないから。

 あの家はきっと魔法が使いにくい場所なんだ。

 まったく……パパもママも言ってくれればいいのに……。


「じゃ、いくよ……」


 私は木の枝に手をかざし、一気に魔力を流し込む。

 必死で。

 動くと信じて。


「どうしたのシェリル……あ、今集中してるとこか! ごめんごめん!」


 違うよミル……もうやってる。

 もう……やってるのよ……!

 木の枝は……やっぱり動かなかった。

 膝がガクガクする。

 気持ち悪い……。


「ご、ごめん……体調が悪くて……今日はもう帰るね……」


「え……あ、うん……顔色悪かったもんね……またねシェリル」


「ま、またね……気を付けて……」


「ありがと……またね……」


 その場を後にし、私は重い足を引きずりながら家まで歩く。

 不思議と涙は出なかった。

 けど、とにかく心臓が痛い。

 両手で必死にそれを押さえるんだけど、全然痛みは消えなかった。

 むしろどんどん痛くなってる。

 ま、まだそうと決まった訳じゃない……だって数百万人に1人だよ?

 そんなの……そんな確率で私が……。

 違う違う絶対違……。


「あら、おかえりなさい。早かったわねぇ……」


「え……? あ……ただいま……」


 気付いたら家の中にいた。

 どうやってここまで歩いてきたか覚えていない。


「パパは……?」


「ん? 今日はお仕事よ。ドラゴンが出たらしいわ」


「あ、そう……ねぇママ……」


「なぁに?」


 ちょっと待って……。

 それを聞いてどうするの?

 もしそれが私の想像通りなら……いや、きっと大丈夫。

 それに、これは試しに聞くだけだから。

 だって私はそうじゃないし。

 そう……これは仮の話。


「もし……もしもだよ? 私は違うけど、もし無能が家族にいたら……ママどう思う?」


「え、どうしたの急に……」


「例えばの話だってば……さっきいつもの2人とそんな話をしてたのよ。ね、どう思う?」


「えー……そうねぇ……私なら……」


「ママなら……?」


「うーん……無理! 考えたくもない!」


 あ……。


「…………だよね」


「あーなんか想像するだけで怖くなってきちゃったー! 変な質問しないでよぉー……あーやだやだ……」


 ああ……。


「ちょっと部屋で寝てくる」


「あら……具合でも悪いの?」


「ううん……眠いだけ」


 階段を上り部屋に入ると、私は机の上に置かれた紙を見つめる。


「無能は人間じゃ……ない……」



 ――――――――――――――――――――――



「これだ……」


 翌日、あたしはアルメニア大図書館に来ていた。

 昨日もほとんど寝ずに魔法の練習をしたのだが、結局紙はピクリとも動かなかった。

 どうしてもその事実を認めたくなかった私は、やり方自体が間違っているんじゃないかと思ったのと、もう1つ確かめたいことがあってここへと足を運んだのだ。


 ようやく見つけたその一冊の本を棚から取り出し、隠れるように部屋の隅にある1人掛けの勉強机に座る。

 別にこの本を読むこと自体がやましい訳ではないんだけど、なんとなく誰にも見られたくなかった。

 特にミルとリンには。

 〝魔法大辞典〟と表紙に大きく書いてあるその本には、現在よく知られている一般的な魔法の使い方がかなり細かく載っており、他にも魔法について様々な情報が記載されている。


「操作魔法……操作魔法……あった」


 目次から目当てのページを見つけ、操作魔法について書かれた記述を読んだ。


「やっぱり教わった通りだ……やり方は間違ってない……あ、ダメダメ。弱気になるな弱気になるな……」


 後はどれくらいが平均なのか……ひょっとするとあの2人が特別で、私が普通ってことも考えられる。

 それを調べよう……えーっと、これか……76ページね。


 〝15歳の誕生日に魔法を授かった後、早い者はその日のうちに魔法を使えるようになる。一般的には1週間以内に魔法が身体に馴染み、ある程度能力を使うことが可能になるケースが多い。また稀ではあるが、なかなか魔法が身体に馴染まず、能力の発現がかなり遅くなる場合もある。長年調査を行なった中には、一番遅い者で約1ヶ月掛かったというケースもあった。ただし、〝無能〟と呼ばれる存在はどれだけ時が過ぎようとも、その能力が発現することは皆無である〟


「や、やった……」


 私は魔法をもらってからまだ2日……。

 やっぱりあの2人が早かっただけだったんだ。

 よかった……。

 私は本を元の場所に戻し、図書館を後にした。


 家までの道中、本当に身体が軽く感じた。

 あんなに心配したのがバカみたい。

 とりあえず1週間掛けてゆっくり練習しよっと。

 そもそも私が無能な訳ないし、私が普通であいつらが異常ってだけ。

 なんの心配もいらなかったんだ。

 そう……だから大丈夫……。


「ばっかみたい……本当に……」


 でも、何故だか私の心臓は……まだ痛いままだった。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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