第8話 クリスマスパーリーナイト!
8、クリスマスパーリーナイト!
善は急げと言うように、すかさずケータイを手に取りメグさんに電話をかける。ケータイを握る手から汗が滲み、少しの緊張と期待を胸に彼女が電話に出るのを待つ。
「もしもし、美緒ちゃん?こんばんは~。」
彼女の優しい陽だまりのような声に、一瞬にして緊張が解ける。愛しい人の声を聞くだけでこんなにも満たされるという事を彼女に会うまでは知らなかった。彼女が紡ぐ言葉1つ1つに心地好い胸の高鳴りを感じた。
「こんばんは、メグさん!夜遅くごめんなさい…。」
「今、本読みながら炬燵でゴロゴロしていただけだから気にしないで?」彼女が炬燵で寛ぐ姿を想像し、思わず笑みが零れた。
「あの…、メグさんに折り入って話がありまして…。」
「え?どうしたの?」
「メグさんってクリスマスの日って予定埋まっちゃてますか?もし予定が入ってなかったら…その日1日私と一緒にいてくれませんか?」
「あ…。その日仕事だから1日一緒に居るのは無理かな…。でも、夜からなら会えるよ?」
「夜からでも会いたいです!」
誕生日にメグさんと過ごせる事に束の間の喜びを感じ、それも弟のニヤケ顔を見た瞬間儚く崩れた。
「あの…。実は二人きりではなくて…。私の家族も一緒に過ごす事になるんですけど大丈夫ですか…?」私は、おずおずと渋る様にそう告げる。
本音を言ってしまえば、当日メグさんと二人きりでイルミネーションを見に行ったりデートっぽい事をしたいのだが。流石に、私の為に今まで準備してくれていた家族の好意を無下にする程、私の性格は歪んではいなかった。
「え!そんな、家族団欒の時間を私が一緒に居ても大丈夫なの?」彼女は少し複雑そうな声音で聞く。
「いや、メグさんが来てくれなかったら私も行きませんよ!」前言撤回。やはり私の性格は少し歪んでいたのかもしれない。弟の顔を見やると、ジトーッとした目付きで私を見下していた。弟も毎年準備を手伝わされる為、私の発言に少し腹を立てたのだろう。
少し意地悪な弟だが、毎年律儀に私の誕生日を祝ってくれている辺り、何だかんだと言って大切にされてるなぁと、暖かい気持ちになった。
「そういう事なら、私も一緒に過ごさせてもらうね。」
「ありがとうございます!それじゃあクリスマスの日、お仕事終わったら迎えに行くので連絡して下さい!」
「うん。分かった。」
「それじゃあ、メグさんおやすみなさい!」
「おやすみなさい、美緒ちゃん。」
メグさんと連絡を終え、脳内で先程の"おやすみなさい、美緒ちゃん"というフレーズを何度もリピート再生させるのだった。
「姉ちゃん、鼻の下伸ばしすぎてメスゴリラみたいだよ?」
「誰がメスゴリラじゃ!?」
バカにするようにプッと吹き出しながら此方に指を指してくる弟のそれをへし折ってやりたい所だが、今の私にはメグさんと一緒に過ごせる輝かしい未来しか見えていないため、海の様に広い心で許すことにしたのだった。
「まあ、一緒に過ごせるだけ良かったじゃん。俺達も一緒だけどさ。」
「それが一番の問題だよ。メグさんと二人きりで過ごしたいーーー!」と、テーブルに突っ伏し項垂れた。
(姉ちゃんの好きな人…。どんな奴か見定めてやろうじゃないか。)
「え?何か言った?」
「ん?いや、楽しみだなぁ~って。」
ふふっと不適な笑みを浮かべる弟に、一抹の不安を感じた。
***
時は流れクリスマス当日。私はというと、仕事を終わらせたメグさんを迎えに、マンションの前で待機していた。
マンションのエントランスから小走りで駆け寄ってくるメグさんを見つけ、思わず顔が綻ぶ。メグさんに助手席へ座ってもらい車を走らせた。
「すみません、直ぐ家に行きたい所なんですけど…。ケーキ屋で予約したケーキを受け取って来るのを頼まれてしまったので。少し待っててもらって良いですか?」
ケーキ屋に到着し、メグさんを車に残して店頭へと向かった。
今夜の主役本人にケーキを取りに行かせるのは、やめて欲しい。毎年私がケーキを受け取りに行く係に任命されているのだが、それがなんとも苦行としか思えないのだ。
何故なら、「みおちゃんで、お間違えありませんでしたか?」とにっこり微笑み、ホールケーキを持つお姉さんに、チョコペンで記入された名前を確認されなければならないからだ。
まあ、店員のお姉さんからしたら誰が"みおちゃん"かなど分からない訳で、そこまで気にしなくても良い事なのだが、この年で実際にその場面に出くわすと公開処刑その物だったのだ。
気恥ずかしさで一杯になり、ケーキを受け取るとそそくさと店を後にした。
***
「メグさんお疲れ様です。ここが私の実家です。」
ゆっくりと車を実家の目の前にある駐車場に止め、ケーキを片手に玄関へと向かった。
白を基調とした洋風な外観。その中心にどっしりと構えるウッド調の玄関扉が印象的だ。アイアンで出来たハンドルを引き玄関を開けた瞬間。
パパパーン!!!
「ハッピーバースデーでぃあ美緒ーー!!!」
クラッカーの音が大きく玄関に鳴り響き、目の前にはカラフルな紙吹雪が舞っていた。その先には、キャッキャウフフと年甲斐もなく騒ぐ両親と、その横でニヤニヤと笑う弟の姿が見えた。




