第4話 デレデレお姉さんには、敵わない
4、デレデレお姉さんには、敵わない
「メ、メグさん…。」
「なぁに?美緒ちゃん?うふふっ、あったかいねぇ?」
私の左腕に両腕を絡ませ、コテンッと肩に頭を乗せ頬擦りされる。全神経を左腕に集中させ彼女の温もりを感じる。
少しなら大丈夫だよね、と自分に言い聞かせ彼女の頭に自分の頭を優しくもたれさせる。今にもキスしてしまえる距離に心臓はドクンドクンと速く脈打つ。
シャンプーの匂いなのか、メグさんの香りなのか分からないが、ふんわりと甘く咲き乱れる花のように甘美な香りが鼻腔をくすぐる。
隣の彼女の顔を覗き込み、自由の利く右手で顔がよく見えるように、顔に掛かった髪をするりと耳へかける。
「っん…。」その時、小さく可憐な唇から吐息が漏れた。その姿があまりにも扇情的で胸が熱くなり、目を反らすことが出来なくなる。
「すみません。くすぐったかったですか?」優しく頬を撫で耳元で囁くと、彼女はピクッと肩を反応させた。
「耳…くすぐったいの…やぁだ。」眉尻が下がり潤んだ瞳でこちらを上目遣いで見つめられる。おそらく、本当に耳がくすぐったいのが嫌なのだろうが、私からしたら誘っているようにしか見えない。今すぐ押し倒して貴女の全てを愛したい。そのシルクのような肌を優しく愛撫し、どろどろになるまで溶かし1つになりたい。
そんな欲望にまみれた眼差しで貴女のことを見ている自分を許して欲しいと思うことは、我が儘なのかもしれない。今は、貴女の隣に居られるだけで胸が愛しい気持ちで満たされるのだから。
ふぅ…。と深く息を吐き、一旦昂った気持ちを落ち着かせる。
「メグさーん…。ここで寝ちゃダメですよ。」
「んぇ?なんれ…めっ…なの?」酔いと睡魔で殆ど呂律が回っておらず、幼子のような喋り方にぎゅんっと心臓を鷲掴みにされる。
(んあーーー!!!可愛すぎだろ!まじで何なの可愛い好きヤバい…)
「何でって…風邪引いちゃいますよ?」
「いーの!ここで一緒に寝よ?」ガシッと左手を掴まれる。ぷくっと頬を膨らませ、こちらを睨むようにする姿は、可愛いだけで何の威嚇にもなっておらず、違う意味で何でも言うことを聞いてしまいそうだ。好きな人に一緒に寝ようと誘われたのにも関わらず断らないといけないなんて…。何の拷問なのだろうか…。
「私が嫌なんです…。メグさんに風邪ひいて欲しくない…。」
そう言うと、うーん…と何か悩むように唸る。
「お願い…、メグさん。ベッド行こ?」切望するように見つめ懇願する。これでも駄目ならベッドまで引きずってでも運ぶしかないと心に決めた。
「じゃあ…ベッド行く。」不貞腐れたような表情を見る限り、渋々了承してくれたみたいだ。
メグさんの手を引いてベッドまで誘導する。ベッドに近づくと、今まで我慢していたのかバタンッと倒れ混み、スースーと寝息をたてはじめた。
メグさんに布団を掛け、頭を優しく撫でる。起こしてしまわない様、静かにそっとおでこに口付けた。
「おやすみなさい…メグさん。」
***
ピピピッピピピ
目覚ましアラームの軽快な音で目覚め、むくりとソファから起き上がる。予想していた通り、ソファで寝ると腰や首が痛くなった。こんな日の為にソファベッドを買っておくんだったと少し後悔した。
ぐっと両腕を上げ伸びをしてから辺りを見渡す。 ベッドには、スヤスヤと気持ち良さそうに眠るメグさんの姿が見えた。昨日の事を思い浮かべ、クスッと笑みが溢れる。次からはお酒を飲む量を減らしてもらおうと心に誓った。
軽く身支度し、メグさんが起きる前に朝ごはんを作っておこうとキッチンへと向かう。冷蔵庫の中を見渡し何を作るか思案する。
(うーん今朝は少し冷え込んでたから温かいものがいいかな?)
冷蔵庫から玉ねぎ、卵、ホワイトソースを取り出し流しの横の空いているスペースに並べる。
玉ねぎを薄くスライスしバターを引いたフライパンで、きつね色になるまでじゅわーっと炒める。バターが焦げ、部屋中に香ばしい匂いが充満する。鍋に水をいれ沸騰させ、コンソメキューブと先程の玉ねぎとホワイトソースを入れて煮詰める。じっくりコトコト煮ている間に目玉焼きと、分厚く切った食パンを焼いてお皿に乗せる。シチューにとろみが付いてきたら塩で味を調整して完成。
「お…おはよう。美緒ちゃん…。」おずおずとキッチンに顔を出すメグさん。眉間に皺を寄せ、頭を押さえている。
「もしかして二日酔いですか?」
「…うん。」
「お水と薬持ってくので先にソファに座って待っていてください!」
「ありがとう…ごめんね?」
直ぐに水と薬を準備し、メグさんの元へ持っていく。
「謝らないでください。二日酔い辛いですよね…。早く良くなると良いんですけど…。」
「いや…そうじゃないの…。えっと…。」申し訳なさそうにこちらを見つめ、何かを言い淀んだ。
どうしたのだろうかと、メグさんの言葉を待つ。
「き…ぅ…ご…んね……。」
「え…?何ですか?」
あまりにもか細く喋る声は、私の耳まで到達する頃には途切れ途切れにしか聞こえなかった。
何かを決心したかのように、ぱっと顔を上げ「昨日は、ごめんね!」と、誰がみても分かるくらい顔を真っ赤に染め、そう告げた。一瞬思考を巡らせ、どれの事についての"ごめんね"なのかを考える。
「メグさん…。昨日のこと覚えてたりします?」そう聞くと彼女は、それを肯定するようにプシューッと音が聞こえるのではないかというほど、さらに顔を赤くし、膝を抱えて顔を埋めた。
まあ確かに、普段大人しい人があれだけ大胆になること事態恥ずかしいのかな?私としては、デレデレに甘えてくるメグさんを見ることが出来たので、役得でしかなかった。まあ、メグさんを寝かしつけた後中々寝付けなかったのは、言うまでもない。
そこで、ある1つの疑問が浮かんだ。
(待てよ…。昨日の事ってどこまで覚えてるんだ?もしかしてキスをした時まで覚えてないよね?いや、確かに眠っていたはずだから…それは無いはず…。)
「えっと…。美緒ちゃんに抱きついたところから、記憶があやふやなんだけど…。嫌だったよね…?迷惑掛けちゃってごめんね?」ハの字に眉を下げ、物凄く申し訳なさそうにそう言う。
「メグさんの可愛らしいところを知ることが出来たので、逆に嬉しかったです。でも、次からはお酒を飲む量を減らしてくださいね?一緒に飲むのが(理性の強い)私だったから良かったですけど…。男の人だったら食べられちゃってたかも知れませんよ?」
「ごめんね…。でも、家族以外とお酒を飲むのが初めてで…、つい楽しくなっちゃって…。」と、恥ずかしげに小さく呟き顔をうつ向かせた。
初めて…という言葉に息を飲む。彼女の初めての時を、他ではなく私が共に過ごせたことに、幸福感と少しの優越感に満たされた。
「楽しんでもらえたなら、嬉しいです。」彼女につられるようにして、私も顔を赤くしてうつ向く。それを誤魔化すように、「そうだ!朝御飯準備したんですけど食べれますか?」と、矢継ぎ早に話す。
「ありがとう…。いただきます。」と、にっこりと微笑む。
「じゃ、じゃあ直ぐ準備してくるので待っててくださいね!」昨日あれだけ傍にいたというのに、彼女の笑顔を見ると顔が赤くなる。心臓は苦しいくらいに脈打ち、愛しい気持ちが溢れてくる。
私の作った料理を二人仲良く食卓を囲む事が出来るだなんて、少し前の私からしたら想像も出来なかっただろう。今この幸せな時を大切に噛み締める。
美味しそうに食べる彼女を時折見つめては、幸せだなぁ、メグさんを好きになって良かったと思いを馳せた。
食べ慣れたはずのシチューは、彼女と食べるといつもより一層美味しく感じたのだった。




