第6話 大切な気持ち
メグさんと美由紀と私で遊園地に行った日から数週間経った今日。
私は今、美由紀と一緒に近所にあるカフェで寛いでいる。
「ちょっと…、美緒…?何で、そんなに浮かない顔してるの?」と、少し心配そうに私の顔を覗き込む。
心配してくれる美由紀に、「ええっと…あの……。」と、物凄く歯切れの悪い言葉しか出せずにいた。
私が今日、美由紀を誘ったのは、ただ一緒にお茶をしたかった訳ではない。今日…、私とメグさんの関係を、親友である美由紀には伝えたいと思ったから…。
私達の関係を知ったとしても、美由紀はそれに嫌悪など抱かないとは思う。……いや、もしかしたら、私がただ、そう思いたいと思っているだけなのかも知れないが…。
緊張から喉がいつになく乾き、目の前にあるグラスの水をぐいっと仰ぐ。
「あっ…!分かった!!恵美さんのことでしょ!」と、閃いたとばかりに唐突にそう言われ、思わず噎せかえる。
「ん"な"っ!……何でそう思うの…?」と、思わず大きな声を上げそうになるのを必死に堪え、コッソリと聞き返す。
私の焦る様子を見た美由紀は、意味深にニヤリと笑みを向ける。
もしかして私達の関係が、既に美由紀にはバレてしまっているのでは無いか。そんな気さえしてくる。
ドクリと、心臓が嫌な音を立てジワリと背中が汗ばんだ。
「もうっ!美緒っ!そんな顔しないでよ!」と、彼女は眉尻を下げ私の頬をぷにッと優しく摘まんだ。
いきなり頬を摘ままれたことに少し驚いたが、それにしても、そんなにも私は変な顔をしていたのだろうか。
心配させぬよう、直ぐに顔に笑みを浮かべ「ごめんって~。そんなに変な顔してた?」と出来るだけ何時もの様に気丈に振る舞う。
私の態度に何か思うことがあったのか、彼女は小さく溜め息を吐くと「美緒!!みゆが何年美緒と親友だと思ってるの?隠し事しても意味ないんだから!!」と、少し不機嫌そうに頬をぷくっと膨らませている。
その様子がリスみたいで可愛らしく、思わず笑みがこぼれた。
何時もそうだ…。
何時もは、お転婆でマイペースな美由紀だけれど…。私が悩んでいたりする時、必ずそれに気付き、一緒になって考えてくれる。
そんな彼女にだからこそ、メグさんとの事を話そうと思ったのだ。
人の気持ちに寄り添うことが出来、裏表がなく、真の通った彼女だからこそ…。
私は、少しだけ震える指先をぎゅっと握り締め、深呼吸する。そうすると、少しだけ緊張が和らいだ気がした。
未だに少しふて腐れている美由紀の瞳を真剣に見詰めた私は、震える唇で告げる。
「あ、あのね…。メ、メグさんと…私……つ……つっ…付き合ってるの……。」
思いきって告げたあと、美由紀がどんな反応をするのか分からず、だんだんと怖くなってきたため、直ぐに顔を反らした。
沈黙が怖いと思ったことなんて今まで無かったのに、今は、それが怖くて仕方がない。
美由紀は、私達の事をどう思ったのだろう。
たとえ、理解してくれなくても良い…。
でも…、それでも、私達の存在は認めて欲しい…。
なんだか矛盾しているような気がするけれど、そう思った。
はぁ…。と、溜め息が聞こえ思わず身体を強張らせる。
「美緒っ。話してくれてありがとう。」と、優しく落ち着いた声が聞こえ、そっと美由紀の方へと視線を向けると、心底嬉しそうに満面の笑みを向けていた。
彼女の表情をみた瞬間、肩の荷がおりた気がして、安堵から思わずテーブルの上に突っ伏した。
そんな私をみた美由紀は、私の頭をワシャワシャと撫でると「美緒が、なんか悩んでるのには気付いてたけど、美緒から話してくれるの待ってた。えへへっ、話してくれてうれしいっ!」
「美由紀っ……。」美由紀の優しさや、思いやりがひしひしと伝わってきて思わず涙ぐむ。
「あー、でも、二人が友達以上なんだろうな~とは、何となく気付いてたけどね。」
「………へ??」
美由紀の発言により、思わず涙が引っ込んだ。
私達が友達以上ということに気付いていた……?え…?まだ、メグさんと数回しか会ったことの無い美由紀に気付かれていた…?
上手く隠していたつもりなのに隠しきれていなかったということ…?
ちょ、ちょっとまって!まだ数回しかメグさんと会ったことの無い美由紀に気付かれているということは……。
もしかして…。親にもバレてるのでは…………?
ど、どうしよう…。いつか話さなければいけないとは思っているけれど、まだその時ではないと思っていた。
両親に私達の事を話す時は、メグさんと同棲する時にでも打ち明けようと思っていたのに!!
いやいやいや、焦るな!焦るな私!まだそうと決まった訳じゃない!
もし、バレていたと仮定するならば、少しでも関係がギクシャクするはずだ!そうだ!そうに決まっている!
ということは、まだバレていないんだ!
そう言うことにしておこう!
何とか自分の中で無理やり納得させ、心を落ち着かせる。
「ちなみに…、どこら辺で気付いたの…?」先程から気になっていたことを恐る恐る聞く。
「いや、なんか…。雰囲気…?どこって言われると難しいんだけど…。美緒、めちゃくちゃお姉さんのこと好きじゃん!って思って。」
おうふっ…。自分が隠しきれて無かったのかよ…。
今度から気を付けよう…。
「美由紀は、偏見とかって無いの…?同性なのに~…とか……。」
「え~、そんなの幸せなら関係無くない?好き同士だから付き合うって普通の事でしょ?ただ、性別が同じだったってだけで、付き合っちゃダメって誰が決めたの?」
それが、当たり前で常識なのだと言わんばかりに堂々と言う美由紀に思わず、喉が詰まったように声が出せなかった。
もしかしたら、一番それを気にしていたのは、自分自身だったのかもしれない。周りから変な目で見られたら…。誹謗中傷されたら…。
なんで、好きな人と付き合うだけで、そんな事を気にしなければいけないのか。
ただ、好きになった人が女性で、同性だっただけで…。
いや、女性だからとか、性別なんて関係ない…。メグさんだから、好きになったんだ。
今更当たり前な事に気付かされたようで、思わず笑みが溢れる。
「美由紀……ありがとう…。」
「え??何が??」と、小首を傾げている彼女に「なんでもないよ。」と、微笑むと「え!?なにそれ~!めっちゃ気になるんですけど!!」と、無邪気に笑う。
美由紀と友達で、本当に良かった。
こんなにも自分をさらけ出せるのはきっと、親友である美由紀にしか出来ないから。




