第5話 お姉さん達と遊園地へ!
「着いた~!!!」と、元気に声に出したかと思ったら、勢いよく後部座席のドアを開け車から出ると、一足先にゲートまで駆けていく美由紀。子供のように楽しそうにはしゃぐ美由紀に、"落ち着け"と一言言いたい所だが、既に米粒ほどの大きさに見える美由紀には、私の声は届かないだろう。
私の隣でクスクスと笑うメグさんに、思わず「すみません…。」と呟く。
「美由紀さんを見てると、なんだか自分まで元気になってくる気がする。」と、優しく微笑む彼女の表情からは、昨夜の不安そうな雰囲気は感じられず、何時ものメグさんに戻っていた。彼女の楽しそうな様子にホッと胸を撫で下ろした。
昨夜、思わず遊園地に一緒に行こうと誘ってしまったけれど、流石に急すぎたかなと心配していたのだが、それも杞憂だったようだ。
タッタッッタッと、美由紀がこちらに小走りで戻ってくると「ちょっとー!2人とも遅いっ!早く行こっ!!」と急かし、私達の背中をグイグイと押してくる。
「ちょっ、ちょっと!分かったから、押さないでよ、美由紀!」
「はいはい!じゃあ、こんな所で突っ立って無いで、早くゲートまで行くよっ!」と言うと、私とメグさんの手を取り、ゲート前の受付へと向かった。
入場チケットを買い、ゲートにいるスタッフのお姉さんにチケットを渡し入場する。
「うわぁ~!懐かしい!」
久し振りの遊園地に思わず胸が踊る。
ふと、隣に居るメグさんの方へと視線を向けると、キラキラと瞳を輝かせ、辺りを見渡していた。
「ねぇねぇっ!やっぱり遊園地に来たら、まずはジェットコースターだよねっ!」と、美由紀が指差したのは、この遊園地内で一番怖いと言われているジェットコースターだ。
高度もさることながら、一番の目玉は、あのほぼ直角に等しい傾斜だろう。しかも、ほぼずっと回転しているのではないかと言う程、予測不可能な動きをする為、全く心の準備が出来ずに、ただただスピードと重力に圧倒されるのだ。
「……まぁ、ここに来たら、まずあれに乗らないと始まらないよね。」と言い、ジェットコースターの方へと歩を進めた時、くいっと後ろから服を引っ張られた。
後ろを振り向くと、メグさんが何か言いたげにしてうつ向いている。
「メグさん……?」と、彼女の顔色を窺うように顔を覗き込む。
パッと顔を上げた彼女は、「ううん…。ごめんね、なんでもないの。」と、微笑んだ。
何でもないわけがない。そんなはず無いのに、どうして、何でもないと笑うのだろう。
私には、相談出来ない事なのだろうか…。恋人になったからと言って、心の内、全てをさらけ出してくれるとは思っていない。思ってはいないけれど、私に出来ることが有るのならば、何でも、どんなに些細なことでも言って欲しい。
「メグさん…、私って、そんなに頼りないですか…?」と、彼女に問いかける。おそらく私は今、物凄く情けない顔をしているだろう。彼女の前では、常に良いところを見せていたいのに…。
彼女は、眉尻を下げ困ったような表情で「美緒ちゃん、違うの!これは……。」と言いかけた時「おーい!2人とも!早く並ぶよ~!」と、少し離れた所から、手をブンブンと振り大きな声で美由紀が言った。
「…っ。メグさん、美由紀が待ってるので行きましょうか!」無理矢理笑顔を作り平静を装う。
そして、彼女の手をぎゅっと繋ぐと、美由紀の方へと小走りで向かった。
***
あれから、遊園地内の絶叫系アトラクションを全て制覇した私達は、ぶらぶらと園内を歩いている。
「はぁ~!!!めっちゃ楽しかったねっ!やっぱりジェットコースター最っ高~!」と美由紀は、清々しい笑顔で言うとぽんぽんと私の肩を叩いた。
彼女の指差す方へ視線を向けると、フードコートが見えた。
「美緒、クレープ食べよー。お腹空いちゃった…。」
「えー?昼御飯の前に甘いもの食べるの?ご飯食べれなくなっても知らないよ?」
「大丈夫大丈夫!お姉さんもクレープ食べたいよね!」と美由紀は無邪気にメグさんへと話を振ると、「ふふっ、そうね……デザートは、別腹って言うし…。食べに行こっか。」と、優しく微笑む。
「さっすが~!お姉さん!ほらほら、美緒の大好きなお姉さんもこう言ってる事だし~…ね!行こ行こっ!」と、私を急かすように引っ張る。
「はいはい!分かったから。」
メグさんと美由紀はクレープを買い、私は、がっつりご飯が食べたかったので、ソフトクリームを購入した。
「………ソフトクリームも美味しそう…。」と、私のソフトクリームを凝視している美由紀のおでこにデコピンすると、「いてっ!」と、少し大袈裟にデコを擦りながら痛がる。
「はぁ…良いよ、一口あげる。」
「やったー!!ありがと美緒!……あむっ…。!!おいし~!」一口あげるとは言ったが、かなりの大きな口で食べられた…。
再びソフトクリームを食べ始めようとした時、メグさんが私の服をくいっと引っ張った。
小首を傾げメグさんの方を見ると、彼女は真っ赤っかな顔で「私も……。」と、言った。
彼女の意外な行動に思わず「えっ…。」と、戸惑う。
「美緒ちゃんの、私も食べたい……。」と少し上目使いで言われて断れる人なんていないと思う。むしろ全部あげたい。
「あ、え…っと!どうぞ!食べてください!」と、慌ててメグさんへとソフトクリームを差し出す。
彼女はそっと、ソフトクリームを持っている私の左手に自身の手を添え、ぺろっと可愛らしくソフトクリームを舐めた。
「うんっ、美味しいね、美緒ちゃん。」と言い、ペロリと上唇を舌でなぞる。その一連の動作に、ドクンッと心臓が高鳴った。
(あ"ぁ"ーーー!!!可愛いかよ!!二人きりだったら……完全に、キスしてたわ……。危ない危ない。……めっちゃキスしたくなっちゃったじゃん…。くっそー天然の小悪魔ちゃんめっ!そこも好きっ!)
心の声が漏れ出さないように、急いでソフトクリームを食べ終えると、「ちょ、ちょっと、ご飯買ってくる!」と、言い残し店へと駆け込んだ。
***
昼食後私達は、おどろおどろしい外観の、昔ながらなお化け屋敷の前にいる。建物の看板に赤いペンキで書かれた"恐怖のお化け屋敷"という文字は、何だか懐かしささえ感じる。
「うっわぁ~!久し振りに見ると、めっちゃ手作り感凄いねっ!」と言う美由紀からは、全く怖がっている様子は見てとれない。
「確かに…。」
「そうね……。」
私達の間には、拍子抜けたような微妙な空気が流れる。
「と、取り敢えず…。入ってみましょうか。」と言い、私達はお化け屋敷へと足を踏み入れた。
美由紀を先頭に薄暗い通路をヒタヒタと歩く。
「メグさん……。怖かったら…手、繋ぎましょうか…?」と、隣にいる彼女に小声で話しかけると、「ふふっ、じゃあ…お願いしよっかな。」と言い、私の手をきゅっと握った。
何だか普通のデートみたいで嬉しくなり、彼女の手を確認するように握り返す。
幸せを噛み締めていると、前方を歩いていた美由紀が「うぎゃっ!!!」と、声をあげた。
「美由紀?何かあったの?」と問いかけ、美由紀へと近付いた瞬間ポツッポツッと、私の顔に、冷たい水のようなものが降ってきた。
不思議に思い、ふと顔を見上げた瞬間ピシリと、身体が凍りつく。
「なっ……、なまっ……!!?ぎゃ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
「ちょっ!美緒!?」
見上げた先に見えた落武者の生首に絶叫した私は、思わずメグさんの手を引っ張り、出口まで猛ダッシュで逃げてきた。
「はぁっ……はぁっ……。」乱れた呼吸を整えるため深呼吸を繰り返す。
「ちょっと~!美緒怖がり過ぎっ!それと、みゆを置いてくなっ!」と、私達が出た後に続いて、小走りで追いかけてきた美由紀に咎められる。
「いやっ!だって!あれは、流石に怖いって!!だって結構リアルだったし!!」
「むぅ…。それにしても、置いてくのは酷くない?……ま、良いけどさ~!美緒の面白い顔見れたし~?」と、悪戯な笑みを浮かべる美由紀。
「う"っ…。さっきのは忘れて…本当に…。」
醜態を晒してしまった事に思わず羞恥する。そんな私の肩をポンッと叩いた美由紀は「まぁまぁ、お姉さんも楽しそうだし良いじゃんか~。」と言われ、メグさんへと視線を向けると、彼女は口元を隠し必死に笑いを堪えていた。
「ちょっ!メグさんまで笑わないでくださいよー!」
「ご、ごめんね……美緒ちゃっ…ふっ、ふはっ…ん"んっ……ふはっ!」
「……お姉さん、いっそのこと一思いに笑ってあげて…。」と、私に同情するように美由紀が言った。
***
お化け屋敷の後、ジェットコースター2巡目を制覇し、日も暮れてきた為、そろそろ帰る事にした私達は、ゲートの方までゆっくりと歩いている。
「あ!そうだ、美緒。」と、言った美由紀にぐいっと腕を引っ張られると、ボソボソと小さな声で耳打ちされる。
「……うん、分かった。じゃあ、気を付けて帰ってよ?」
「大丈夫だって~!そのうち迎えも来ると思うから。じゃあね!美緒!お姉さんも、また遊ぼうね!」と、元気よく手を振ると、一足先にゲートの方まで駆けていった。
「えっ。み、美緒ちゃん。美由紀ちゃん一人で大丈夫かな…?」と、心配そうにゲートの方を見詰める彼女を安心させるように手を握る。
「まぁ、美由紀なら大丈夫ですよ。旦那さんが迎えに来てくれるみたいだし。」
「だ、旦那さん……?」と呟いた後メグさんが固まってしまった。
「あれ?言ってなかったですっけ?美由紀、高校卒業して直ぐに結婚してるんですよー。もう、旦那さんにめちゃくちゃ溺愛されてて……って、メグさん?顔が赤いですけど大丈夫ですか?」
彼女は、顔を両手で隠すと「な、何でもないです……。」と、か細い声で呟いた。
何時もと違う彼女の様子に心配になった私は、顔を隠している彼女の手を優しく剥がすと、互いのおでこをピタッとくっ付け自分の体温と比較する。
「うーん…。熱は、無さそうですね。本当に、体調は大丈夫ですか…?」
彼女の瞳を見つめ問い掛けると、恥ずかしそうに手の甲で口を隠し、「…大丈夫。」と答えた。
「あの…メグさん、まだ時間って大丈夫ですか…?」
「えっ?大丈夫だよ?」
「あの……じゃあ…最後に、私と観覧車に乗りませんか…?」
遊園地と言えば、最後に恋人と一緒に観覧車に乗るのが定番だと思う。
実は、メグさんに内緒でサプライズを用意していた私は、観覧車でそれを渡そうと目論んでいたのだ。
「うん…、行こっか!」嬉しそうに微笑むと、私の手をぎゅーっと握り歩き始めた。
空いていた歩幅が少しずつ狭まり、互いの肩が触れ合う程距離が近付く。
やっと、二人きりになれたことが嬉しくて…トクトクと、少し速いスピードで心臓が脈打つ。
「足元に気を付けてお乗りください!」
元気の良いスタッフさんに見送られ、観覧車へと乗り込む。勿論、二人仲良く並んで座った。
「うわぁ~!観覧車に乗るの久し振り過ぎて、めちゃくちゃワクワクします!」
少し興奮気味に窓を覗き込みながら言う私を見つめていたメグさんが優しく微笑み「ふふっ……今日は、美緒ちゃん達と一緒に、遊園地に、遊びに来れて良かった!凄く楽しかったよ。誘ってくれてありがとう…美緒ちゃん。」と言い、照れ臭そうに顔を少しうつ向かせる。
「よかった~!!」と言うと私は、隣に座る彼女の腰に腕を回し、ぎゅーっと抱き寄せる。
「メグさん、今日ずっと、何か言いたそうにしてたような気がして…もしかして、あんまり楽しくなかったのかな……って。でも、今のメグさんの言葉を聞いたら少し安心しました。」
「違うのっ!あれは…私が勘違いしてただけで……。」と、複雑な表情をするメグさんの瞳をじっと見つめ「何を勘違いしてたんですか?」と聞く。
すると彼女は、ぎゅっと唇を噛んだ後、何かを決心したように私を見つめ返し「美由紀さんが………美緒ちゃんの事を好きだと思ってたの……私。」と、凄く申し訳なさそうに言った。
「え"ぇっ!?そんな訳無いじゃないですか!!普通に友達ですよ!!もし…仮にですよ…?メグさん以外の人に告白されたとしても、私は、メグさん以外と、付き合うなんてあり得ないですから!と言うか…私は、おばあちゃんになっても……メグさんとずーっと一緒に居るつもりなんですけど……。」と、彼女の顔色を窺うように告げると、一瞬口をポカーンと、空けた後、我に返った様にハッとし、直ぐに両手で顔を隠してしまった。
「メグさん……顔見せて?」と微笑み言うと、ただ、顔を横に振るだけで顔を見せてはくれない。
「……メグさんの顔が見たいな~……ねぇ…ダメ?メグさん……。」と、甘えるように彼女の肩に顎を乗せ、耳元で囁く。
彼女は、少しビクッと肩を跳ねさせた後、ゆっくりと手を下に下ろす。
彼女の顔にかかる後れ毛を、そっと耳にかけ頬を優しく撫で、顔を覗き込むと、濡れた瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
彼女の目元に優しく口付けると、私の背中に回された腕が、ぎゅっと身体を強く抱き締めた。
「ねぇ…。メグさんは…私とずっと一緒にいてくれますか?」と問いかけると、コクコクと頷き「うんっ…ずっと一緒が良い…。大好きなのっ。」と、涙声で答えて貰えたことに歓喜し、思わず私も涙ぐむ。
「メグさんっ……あの、目を瞑っていてもらって良いですか?」と言うと、彼女は、素直にそっと目を閉じた。
彼女が目を閉じたことを確認した私は、鞄の中から1つの箱を取り出すと、それを空け、中に入っていたネックレスを取り出す。
彼女の首に腕を回し、そっとネックレスを着けた後、彼女の小さく可憐な唇に優しく触れるだけのキスをする。
もう少し彼女に触れていたかったけれど、そっと身体を離し「メグさん、もう目を開けて良いですよ。」と言う。
瞳を開けた彼女が首にかけたネックレスに気づくと「えっ……?」と、私とネックレスを交互に見つめていて、それがまた本当に可愛かった。
「えーっと…。何時もメグさんに幸せにしてもらっているので……何かプレゼントしたいなーっと思って……。」
「嬉しいっ……。一生大切にするねっ!ありがとう、美緒ちゃん…。私も美緒ちゃんと、一緒に居るだけで幸せだよ。」と、指先で涙を拭いぎゅっと私に抱きついた。
観覧車に乗っているのに、夜景ではなくお互いの顔を見つめ、何を喋るでも無く、ただただ手をぎゅっと握り締め、幸福感に満たされていた。
(メグさんに出会えて良かった…。好きになって良かった……。幸せだよ。大好き…メグさん。)




