第4.5話 重い愛
4話の恵美さん視点です。
映画を見終わった後、美緒ちゃんのスマホに着信が入った。
別に聞くつもりは無かったけれど、スマホから漏れる声から二人の仲の良さが伝わってくるようで、胸がザワザワと複雑な気持ちが溢れてくる。
『遊園地行こっ!』と言う、電話の向こうの女性の声に耳を疑う。
(私の方が先に美緒ちゃんと遊園地に行く約束してたのに…。)
そして「分かった。」と言う美緒ちゃんの言葉に、今まで感じたことの無いほどに胸が苦しく締め付けられた。
美緒ちゃんが微笑み"美由紀"と呼んだ。その名前を聞いて、美緒ちゃんと温泉旅行に行った時、偶然会った美緒ちゃんの友達だと直ぐに分かった。
無邪気な笑顔で楽しそうに電話する美緒ちゃんを見たくなくて、思わず彼女から目を逸らしてしまった。彼女には、私以外にも沢山大切な人がいて、これからもそれは変わらない。家族や友達を大切にする美緒ちゃんの事が大好きで、そんな優しくて温かい陽だまりみたいな彼女だったからこそ好きになったんだと思う。
でも、そんな誰にでも優しい美緒ちゃんを、今の私は純粋な気持ちで彼女を見れなかった。
私の、醜く独占欲にまみれた心が囃し立てる。他の人なんか見ないで私だけを見て欲しい。その笑顔を私だけに見せてくれたら良いのにと。
こんなこと言ってしまえば絶対に重いと思われる。分かってはいるのだけれど、それでも彼女の存在が私の中で大きく育ちすぎた。この想いを口にしたら、もう一緒には居られないかもしれない。
我が儘だと言われても良い。面倒臭いと思われても良いから、あの子とは、二人きりで会ってほしくなかった。絶対にあの子は、美緒ちゃんの事が好きだから。そう私の中の本能が強く訴えかけてくるのだ。
電話を終えた美緒ちゃんは、心なしかウキウキしているように見え、今まで感じたことの無い程のモヤモヤとしたものが心を曇らせていく。あの子と約束する前に一言だけでも私に言って欲しかった。
本当は、あの子と一緒に行ってほしくは無いけれど、美緒ちゃんの行動を制限するなんて事は絶対にしたくない。頭の中ではそう思っているのだけれど、心がそれに追い付けない。
私は美緒ちゃんしか見ていないのに貴女は私以外も見ているんだね。私には、美緒ちゃんしか居ないのに。
「メグさん…?どうしました?」と、何事もなかったかのように、けれど、私を心底心配するような眼差しで見てくるものだから、何も言えなくなる。こんな子供っぽい執着心を見られたくなくて、思わず「何でもないよ。」と、彼女から顔を逸らしてしまった。そこに大人の余裕なんかは無く、ただ、自分の気持ちを悟られたく無かったから隠した。
甘く、少し掠れた声で私の名前を呼び「こっち向いてください…。」と、言われると逆らえなくなる。貴女の方を見てしまったら、絶対に気持ちが溢れだしてしまうと分かっているのに。
美緒ちゃんは、壊れ物を扱うように優しく私の頬を撫でる。こんなにも大切にされているのに、もっともっとと、段々と欲張りになってくる自分が嫌になる。そのうち、私が美緒ちゃんの足枷になってしまうのではと、嫌な考えが頭の中でグルグルとまわる。
「言ってくれないと分からないよ…。」と、優しく私を諭すように囁きかけられる。心の内を全てさらけ出して言ってしまえれば楽になるだろうか。この心のモヤモヤとした物も綺麗に無くなるだろうか。
しかし私の理性が、美緒ちゃんの負担にはなりたくないと、歯止めを掛ける。
喉元まで出かかった言葉を噛み殺し、彼女から目を逸らす。嫌われたくないという自分可愛さから、美緒ちゃんの気持ちからも、私の気持ちからも逃げ出した。私が我慢すれば、彼女はずっと私を好きでいてくれるんじゃないか。
私の陰鬱とした様子を見た彼女は、何も悪くないのに"ごめんなさい"と謝り、私を気遣うようにして席を立とうとする。美緒ちゃんの迷惑になりたく無い、悲しませたくない、そう思って自分の気持ちを隠そうとしたのに、結局私は貴女の事を傷つけてしまった。
自分の不甲斐なさに情けなくなってくる。美緒ちゃんの事を大切にしたいと思えば思うほど、空回りしている気がして、もうどうすれば良いのか分からない。
ただ、離れたくないと思った。今離れてしまえば、心の距離まで遠くなってしまいそうで怖かったから。思わず彼女の服を掴み引っ張ると、驚いた声をあげ、私の上へと覆い被さるように倒れ込んだ。
急に近くなった距離に、安心している自分がいる。私が勇気を出して彼女に手を伸ばせば、彼女は手の届く距離にいるのだと。
もっともっと彼女に近付きたくて、すがり付くように抱き締める。そうしたらもう、自分の気持ちを抑えきれず吐き出していた。"行かないで"という私の言葉を聞き、少し戸惑いを見せる。
彼女は、友達と遊びに行くだけだと言うけれど、私からしたら心配でしかない。あんなに甘え上手で可愛い女の子に言い寄られたら、もしかしたら私ではなく、あの子の方を選んでしまうんじゃないか。
今まで誰かに甘えたことなんか無かったから、どうすればあんなに自然に甘えられるのかが分からない。容易く彼女の懐に潜り込める美由紀さんが心底羨ましくてしょうがない。
子供のように駄々をこねることしか出来ない私を見放さず、美緒ちゃんは私の気持ちを汲んでくれた。一緒に遊園地へ行こうと言われた時は、本当に驚いた。美由紀さんが、こんなにもあっさり承諾してくれると思っていなかったから。
あまりにも突然の事に頭が追い付けずにいると、優しく微笑んだ美緒ちゃんが、ぎゅーっと私の肩を抱き寄せた。
「えっと…、これで安心してくれますか…?」と、私を気遣うように言葉をかけてくれた。
コクンッと頷き、彼女に身を委ねるようにして抱き締め返す。ピッタリと密着した身体から彼女の体温と、心地のよい心音が感じられた。先程までの不安がスーッと消えていくように、優しさと愛情が私を包み込む。
「好きだなぁ…。」と無意識に口から溢れ落ちる。私を抱く彼女の腕の力が強まるのを感じる。
「嬉しいっ…。私も大好きですっ!!」と、彼女は心底嬉しそうに言うと、私の頭から首元にかけて沢山キスを落としていく。
あまりにも甘く優しい愛撫に、愛しさが込み上げてくる。こんなにも私の事を好きでいてくれているのに、何を不安に思うことがあるのだろう。
美緒ちゃんが私の事を好いてくれているように、私も彼女に好きという気持ちを伝えよう。
ウジウジと悩んでいるだけでいるのはもう辞めよう。
ずっと彼女の隣に堂々と並んで居られるように。




