第3話 ラブラブじゃねぇーか…。
美月さんがいきなり求婚し始めた時は、どうしようかと困惑していたのだが、メグさんが来てくれたことにより状況が一変し、まるで女子会みたいに和やかな空気に変化した。
そんな良い雰囲気を壊すかのように、リビングのドアから弟が顔をチラリと覗かせた時は、空気の読め無さ加減に心底呆れそうになった。
幸い私だけがそれに気が付いていたので、まだ入って来るなと指示しようとしたところで、私が扉の方へ視線を向けていたのがメグさんにバレてしまい、後ろを振り返ったメグさんに優太が来たことを知られてしまった。
「あら…?優太君、こんにちは。そこで何してるの?お腹大丈夫?」と、心底心配している彼女に申し訳なく思う。
「え…?お腹…?……あ、だ、大丈夫です!」自分でトイレに行くと言って出ていったことを気付いたようで、少し恥ずかしそうにそそくさとこちらまで近寄ると、メグさんの横の余った椅子に座った。
(は!?何であんたがメグさんの横に座ってんのよ!?席交換しなさい!)という言葉を呑み込み、必死に冷静さを保つ。
今は、この状況を抜け出す方が優先だろう。
優太に、メグさんと美月さんが旧友だったことを伝えると「優太君、美月が迷惑かけてない?この子昔から、一度決めたことには猪突猛進なところがあるから心配で…。」
「あはは…。」と、乾いた笑いしか返せなかった優太に、メグさんが気付かないはずが無かった。
「もしかして、既に何か迷惑かけてるの?美月…。」と、心底呆れ返ったという表情で美月さんを見る。
「え!?迷惑ですか!?ゆ、優太君…私、迷惑だった……?」と、きゅるんと大きくパッチリとした目を上目遣いで優太の方へ向ける。
「かわいい……。」と、思わず口に出してしまっている優太に心の中で舌打ちする。
「そんなに美月さんのこと大好きなら結婚すれば良いのに~。」と、半分投げやりに言うと、焦ったのか「え!?いや、それはちょっと…。って、あ……。」と、思わず本音を溢してしまった優太が、今にも泣いてしまいそうな美月さんを慰めるように頭を撫でている。
「え、優太君…。私と結婚してくれるって言ってたのに…。」と、涙声でそう言う彼女を見ていると、何だか可哀想になってくる。
「ご、ごめん美月ちゃん…。俺、その事全然覚えてなくて…。それって何時のことだったっけ?」
「この前…。私の家で一緒にお酒飲んだ時に…。」
美月さんの言葉で、場の空気が凍りついた。
(うわぁ…。優太、めっちゃクズ野郎だわ…。酒に酔って、自分で言ったこと忘れてやがる。こんなに可憐な少女の心を弄ぶだなんて…。)と、冷ややかな視線を向けてやると、流石に自分でも悪いことをしたと思っているのか、「美月ちゃんごめんなさい…。」と、申し訳なさそうに言った。
「別に大丈夫だよ…。私、結婚できなくても…優太君のこと好きなのは変わらないし…。」と、涙ながらにそう言う。
そんな美月さんを見て我慢できなかったのか、優太は彼女をぎゅっと抱き締め「本当にごめんね…。でも、俺達、出会ってまだ少ししか経ってないし、お互いのこともまだ理解できてないところもあると思うんだ。だから、俺は…結婚するなら、もっと美月ちゃんのこと知ってからが良い。だから、これから、ゆっくりで良いから美月ちゃんのこと…教えてくれる?」と、優しい声音で自分の想いを伝えた。
「うん…。私も、優太君のこと…もっともっと知りたい。」と、美月さんは嬉しそうに微笑むと、優太を抱き締め返した。
(おいおいおい…。ラブラブじゃねぇーか…。よそでやってくれよ…。こちとら、皆の前でメグさんとイチャイチャ出来ないっていうのに…。)
無事、円満に解決した二人は、これから仲直りのデートに行ってくると言い残し出掛けて行った。
「ふぅ……。メグさんが来てくれて本当に助かりました。」
「まだ状況を把握しきれてないけれど、美緒ちゃんの役に立てたなら良かった。」
二人が出掛けていった後直ぐに、両親も買い物に出掛けると言って何処かへ行ってしまい、少し静かになったリビングに二人の声だけが響く。
「そういえば、何で今日は美緒ちゃんの実家で会うことになったの?」と、素朴な疑問を向けられる。
「あ、それはですね…。メグさんと、一緒にお菓子を作ろうかな~って…。ダメですかね……。」と、顔色を伺うようにして返答する。
「ダメじゃないよ?作ろっか、お菓子!」と、ニコニコと満面の笑みを向け私の頭を優しく撫でた。メグさんの手の温もりから、彼女の愛情が伝わってくる様に感じ、胸が幸せで満たされる。
お菓子を作るため、キッチンへと移動しエプロンを着る。
もちろん、メグさんにもエプロンを着てもらった。
エプロンを着てキッチンに立っているメグさんが新妻のように見えて何とも愛おしい。
仕事から帰って来て、この姿で「お帰りなさい。」と、出迎えられたら幸せすぎて昇天してしまうだろう。
今までイチャイチャするのを我慢していたのを解き放ったかのように「えへへっ、メグさん大好きっ…。」と、彼女の後ろからぎゅーっと腰を抱きすくめた。
「なぁに?美緒ちゃん、お菓子作るんじゃないの~?」と、メグさんはクスクスと笑いながら、彼女のお腹に添えられた私の手にそっと自分の手を重ねた。
「ん~?作りますよ?でも、もうちょっとこのままでいさせてください…。さっきまでメグさんに触れるの我慢してたので…。」と、甘えるように彼女の左肩に自分の頭を乗せグリグリと擦り付ける。
「んっ、くすぐったい…。」と、彼女の口から吐息が漏れる。私の髪の毛が彼女の首を掠めたらしい。
「………メグさん、首弱いんですね。」
「そうかな?どうだろう…。自分で触っても別にくすぐったく無いけどな。」そう言う彼女の首をまじまじと見つめていると、うなじの少し下の所にホクロが1つあることに気付いた。
「メグさん、首の後ろにホクロあるんですね…。」
「え?そうなの?知らなかったなぁ。」
彼女自身が知らない彼女の事を、私だけが知っているという事に優越感と独占欲が交ざった様な気持ちになる。
首のホクロへ自分の顔を近付けると、チロリと舌先を彼女のそれへと這わせる。急に来た生暖かい濡れた感触に驚いたのか「ひゃあっ!」と、驚きビクンッと身体を震わせ身をよじる。
舐められた所を手で隠している彼女の手に、そっと口づけを落とし「私以外に見せないでくださいね?」と、優しく囁いた。
***
~おまけ~
※両親目線
「ただいま~。あら…?もうこんな時間だけど二人とも帰ってなかったのねぇ?」時計を確認すると、時刻は既に20時を回っていた。
「ただいま~。美緒~父さん達帰ってきたぞ~!」と、嬉しそうにお土産片手にバタバタとリビングの方へ向かう正人さんの後ろを私もついて行く。
リビングのドアを開けると、フワッと焼き菓子の甘く芳ばしい匂いが鼻腔を擽る。ダイニングテーブルには、大量のクッキーがお皿に乗って置いてあった。
「あら、クッキー作ってたのねぇ、美味しそう。」
「ん?二人は何処に行ったんだ?」キョロキョロと辺りを見渡す正人さんが「あ…。」と、小さく声をあげると、無言で私を手招きしてきた。
不思議に思い、正人さんの居るソファーの近くへと近寄ると、そこには美緒と恵美さんが二人仲良く手を繋ぎ、幸せそうにぐっすりと寝ている姿が見えた。
「あらあら、疲れて眠っちゃったのかしら。ふふっ、それにしも、本当に仲良しね~。」
「本当になぁ。何だか最近、初めから二人娘がいたんじゃないかと思うんだよ…。」と彼は、二人を慈愛の満ちた眼差しで見つめていた。
「あら、奇遇ねぇ?私もこの間そう思って、恵美さんに私の子にならない?って言っちゃったわ。」と、言うとすかさず「私達の子だろう?」と、優しく笑う正人さんは、優しく私の腰を引き寄せると、私の頭にそっと口づけを落とした。
「ちょっと、子供達の前でっ!」と、小声で反発すると、じーっと瞳をこちらに向けてくるものだから何も言えなくなる。
「もうっ正人さんは昔から変わらないんだから…。」と、照れを隠すように彼に背を向けブランケットを取りに行く。
持ってきた大判のブランケットを二人の膝にそっと掛ける。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
優しく声をかけ、二人が起きてしまわないようにそっと離れる。
「じゃあ、由美子さんは、椅子で座って待ってて。」と言いキッチンへと向かう彼を無視し、私もキッチンへと向かう。
「あれ、由美子さん座ってて良いのに。疲れてるだろ?」
「別に疲れてません…。」彼の気遣う言葉に少しだけムッとしたように言葉を返す。
「だって…。いつも一緒に紅茶淹れてるじゃない…。」と、彼に聞こえないようにボソッと呟く。
「ははっ、由美子さんは昔からずっと変わらず可愛いな~。」
「もうっ!ばか…。」
途中(ブランケットを掛けられたあたり)から目を覚ましていた美緒が、両親のラブラブな雰囲気に気まずく思い、出ていくタイミングを逃し、いつ出ていこうかと考えに考えた末、寝た振りを決め込む事にした事は言うまでもない。




