第15話 お姉さんと年越し
季節外れなお話ですみません…。
露天風呂から上がり部屋へと戻ると、布団が綺麗に二組横並びに整えられていた。ふかふかそうな布団を目にすると、眠気が襲ってくる。今すぐにでも布団にダイブしたい気持ちを抑え込み、メグさんの方に視線を向けると互いの視線が合わさった。その綺麗な瞳を向けられ、思わず視線を反らしてしまった。
今更だが、今からこの布団でメグさんと一緒に寝るのかと思うと、心臓が速く脈打ち、緊張が増してくる。
布団が二組有るのは、分かっている。分かっているのだが、こんなにもピッタリと二組の布団を並べられていると、一組にしか見えない。むしろ、布団が一組しかない状況以上に、私の理性を試されている様に感じる。
前に一度だけ私の家にメグさんが泊まったことはあった。あの時は、互いに(特にメグさんが)酔っていたし、別々に少し離れた所で寝たのでそこまで緊張することは無かった。
(まぁ、気持ちを抑えきれずにキスしてしまったのだが…。)
メグさんは、この状況をどう思っているのだろう。まぁ、嫌だったら一緒に来ないとは思うが、特に何も考えていない可能性もある。それはそれで、信用されているという事だろうか。
(いや、既に夜這いモドキを犯した人間を信用するとかあり得ない…。もしそうだとしたら、メグさんがピュアすぎて心配です!もっと警戒心をもってください!!)
ぐるぐると頭の中で考えていると、ポンポンと優しく肩を叩かれた。
「美緒ちゃん、大丈夫?眠たくなっちゃった?散歩なら無理していかなくても…。」
「…!!」
メグさんの一言で一気に頭が冷静になる。自分から散歩に誘っておいて、目の前の布団の事で頭が一杯になり、その事を忘れていたなんて口が裂けても言えない。
「そ、そうですね。風邪引いちゃうかもしれないので…あ!じゃあ、代わりに窓辺で景色を見ながらお喋りでもしませんか?」
「そうしよっか。じゃあ、お酒でも飲む?」
(メ、メグさん!お酒なんて私に飲ませたら何するか分からないですよ!いや、でも酔ったメグさんも可愛かったしなぁ…。)
「良いですね!確か冷蔵庫にビールが入っていたと思うので…。」
部屋に備え付けてある冷蔵庫の中を覗くと、ビールやジュース等、飲み物が用意されていた。丁度ビールが二缶入っていたので、一缶ずつなら明日に響かないだろうと思い、晩酌をすることにした。
「そういえば、昼間にお土産屋さんでお煎餅買ったので、酒のお供にしましょうか!」
「良いの?誰かにお土産用に買ったとかじゃ…。」
「いや!自分用です!……あ!ちゃんと家族の分も買いましたよ!?」
クスクスと、メグさんに笑われてしまった。食い意地がはっていると思われたのだろうか…。まぁ、メグさんを笑顔にすることが出来たので良しとしよう。
***
お酒を飲みながらメグさんと話をしていると、あっという間に時間が過ぎていく。ふと時計に目を向けると、もうすぐ日付が変わる時間だった。
「あの…、えっと…。メグさん…。今日、メグさんと一緒に旅行に来れて…本当に嬉しかったです。本当に幸せです。今年ももうすぐ終わりですけれど、来年もメグさんと沢山思い出を作りたいです。」
自分の気持ちを正直に話すのは、やはり少し気恥ずかしく思う。でも、メグさんには、私の気持ちを知ってもらいたかった。
私の緊張と恥ずかしさがメグさんに伝染したのか、メグさんも何時もより少しソワソワしているように見える。
「私もね…。美緒ちゃんと旅行に来れて良かった。美緒ちゃんと一緒にいると何時も楽しくて、時間を忘れちゃうくらい…。」少し伏し目がちだった瞳が、何か強い意思を持つようにして、しっかりと私の目をとらえた。
「美緒ちゃんと一緒にいるだけで、私…すごく楽しい…。」
「はい…。」真剣に、ゆっくりと自分の言葉で気持ちを紡いでくれるメグさんに、愛しさが込み上げてくる。出来ることなら今すぐにでも貴女のことを抱き締めてしまいたい。でも、今は…。貴女の言葉を一言一句聞き逃したくは無かった。貴女の花びらのように可憐な唇から紡がれる言葉全てが愛おしい。
「楽しいだけじゃなくて、心がポカポカ温かくなるみたいに、安心するっていうか…。すごく落ち着くの…。」
そう言うとメグさんは、視線を外の景色へと移し、二人の間に少しの沈黙が流れた。この沈黙でさえ心地よく感じるのは、メグさんだからなのだろう。
私も外の景色へと視線を向ける。
暗闇に川が溶け込み、それを月明かりが優しく照らし、ゆらゆらと光の道を作っている。向こう岸には温泉宿が建ち並び、その周りには提灯がぽつぽつと淡く灯り、夕焼けごろに見たものよりも幻想的に見えた。
「私…、美緒ちゃんのことが好きなんだと思う。」
バッと勢い良くメグさんの方へと視線を戻し、思わず「え…?」と聞き返していた。あまりにも突然に、ポツリと、この景色の感想を言うかのように然り気無く言うものだから、自分の聞き間違いではないのかと疑う程に戸惑っている。
景色を見ていたメグさんが、再び私の目をとらえ、儚げに微笑んだ。
どうしてそんな風に笑うのだろう。何処かへと消え入りそうな程に、か弱く見える姿を目にすると、思わず、机にのせていたメグさんの手をぎゅっと握りしめていた。掴んだ彼女の手は、何時も通り少し冷たかった。
「私、美緒ちゃんのこと…好きだよ。」
再び告げられた言葉と、しっかりと私を見据える真剣な眼差しに、ドクンッと心臓が高鳴る。ずっと待ち望んでいた言葉を聞けた喜びが全身を駆け巡る。
「もうっ……泣かないで?」
メグさんの言葉を聞いてはじめて、私が泣いていることに気付いた。それに気付いてしまえば、瞳から止めどなく涙が流れ落ちてくる。いくら止めようと涙を拭っても溢れてくる。
メグさんの指先が私の目元に触れ、そっと涙を拭った後、壊れ物を扱う様に繊細に頬を撫でる。
頬に添えられた彼女の手に自分の手を重ね合わせると、彼女と私の体温が溶け合い一つになっていく様に感じられた。
何か喋ろうとすると、喉が詰まったように言葉が上手く吐き出せない。メグさんにもう一度、私の気持ちを伝えたいのに…。貴女に伝えたい言葉が有りすぎて、一度に全ての気持ちを伝えることが出来ない事に気が焦る。
高ぶった気持ちを落ち着かせようと深呼吸し、メグさんの瞳を見つめる。彼女の慈愛に満ちた眼差しからは、"ゆっくりで良いよ""大丈夫だよ"と私を安心させるような優しさが伝わってきた。
「好き…。」やっとの事で絞り出した言葉は、たったの二文字。声は掠れ、貴女に聞こえたかも分からないほどの小さな声だった。
「ふふっ…。ありがとう、美緒ちゃん…。」
私のか細い声を聞き逃さず、私の想いを受け入れてくれたメグさんに感謝の気持ちを伝えたいのは私の方なのに…。
「メグさんっ…。好きになってくれてありがとう…。大好きです…。」
未だに流れる涙を袖で拭い、精一杯の笑顔を見せる。
これ以上、涙と鼻水でグズグズな顔の格好悪い姿を晒したく無かった。
***
「あっ……。美緒ちゃん、明けましておめでとう!今年からは、恋人としてよろしくね?」
時計を見ると、既に日付を跨いでいた。予定では、一緒にカウントダウンをしたかったのだが、私が号泣してしまった為それも出来なかった。
「はっ…!!はいっ!こちらこそです!メグさんの事、絶対に幸せにしますっ!」
頭の中で幾度も"恋人"という言葉を繰り返す。そうだ、私達両思いなんだ…。メグさんは、私の恋人なんだ…。
「ふふっ…。私も、美緒ちゃんのこと…幸せにしたいな…。」
「私、メグさんが傍にいてくれるだけで幸せですよ?」
「…っ!!」私の言葉で顔を真っ赤にさせるメグさんが、とてつもなく愛おしい。
(メグさん可愛いなぁ~。抱き締めたい……。)
「……いいよ?」
「…え?」
顔を紅潮させながら私の方まで近づくと、両手を広げ待機している。
(え…。は!?もしかして、口に出してたの!?恥ずかしっ!!)
私の方まで顔に熱が集中していくのが分かる。付き合って初めてのハグだ、緊張しない訳がない。しかも、真正面から抱き締めるとなると、互の顔が近すぎて正気でいられなさそうだ。
おずおずと立ち上がり、吸い寄せられるようにメグさんの元まで近づき、ぎゅっと腰を抱きすくめる様にして体を委ねる。心臓が苦しい程に高鳴る。密着した体からは、私と同じようにドクドクと少し速く脈打つ心音が伝わってきた。
「メグさん…。大好き。」
少しだけ体を離し、そっと彼女の唇に触れるだけのキスをした。
「…っ!!」メグさんは、顔を真っ赤にさせ目を見開き驚いていた。
「あ…もしかして、嫌でしたか?…こういうの…。」
あまり考えていなかったけれど、付き合って直ぐにキスはまだ早かったのかもしれない…。誰とも付き合ったことが無かったため、どのくらいのスピードで距離を縮めたらいいのかが私には分からなかった。
「……嫌じゃないよ?」そう言うと彼女は、チュッと可愛く音を立て私の頬に口付けた。メグさんからのキスに胸が締め付けられる程愛しさが込み上げてくる。
「はぁ~………。メグさんが可愛すぎる…。」
これからこんなに可愛いメグさんを一人占め出来る何て夢のようだ。
腕の中にいる愛しい貴女の存在を確認するように再び強く抱き締めた。




