第14話 お姉さんと露天風呂
※メグさん視点です。
二人で手を繋ぎながらゆっくりと宿へと戻る。
手を繋いでいる間、ポカポカとした幸せな気持ちで満たされる。
私が美緒ちゃんに、何であんなに大胆な行動を取ったのかなんて考えなくとも分かりきっていた。美緒ちゃんが寒そうだったのもあるけれど、私が、美緒ちゃんと手を繋ぎたかったからだ。
急に美緒ちゃんに手を掴まれた時は少し驚いたけれど、もっとずっと一緒に手を繋いでいたい。離さないで欲しい、そう思った。
告白されてから、沢山美緒ちゃんのことを考え、自分の気持ちと向き合ってきた。でも、既に自分の気持ちに整理がついていたのかもしれない。
私、美緒ちゃんのことが好きなんだ…。
そう考えると、ストンッと腑に落ちた気がした。
まだ出会ってから余り月日は経っていないけれど、時間とか関係無いくらいに、美緒ちゃんと過ごす時は、掛け替えのないものとなっていた。
美緒ちゃんと会う前日は、そわそわと年甲斐もなく胸を踊らせ、彼女の笑顔を見るだけで私まで笑顔になり、幸せで温かい気持ちで満たされる。
美緒ちゃんと仲の良い友達を見て、自分以外の人に優しくする姿を見ては、ドロドロとした気持ちが渦巻き、私だけを見て欲しいと、自分の中に醜い独占欲があることに気付いた。
美緒ちゃんが悲しそうな表情をすれば、何か自分に出来ることはないかな?と、必死に思考を巡らせる。
ふとした時に美緒ちゃんの顔を思い浮かべては、無性に会いたくなる。
これを好きだと言わないのであれば、私は一生好きという気持ちを理解できないだろう。
自分の"好き"という気持ちに気付いた今、隣に居る美緒ちゃんへ"好きです"と伝えたくなった。
自分の気持ちが伝わったのかのように、ぎゅーっと手を握りしめられた。
"好き"と、告げようと口を開き掛けた時、握られた手のひらがスルッと優しく解かれた。
「もう着いちゃいましたね…。」
美緒ちゃんの声で、開き掛けた口をつぐむ。
既に旅館の直ぐ近くまで到達している事に気付いた。
離されて空いてしまったポケットの中、寂しさの残る気持ちを押し殺すようにぎゅっと手を握りしめ「本当だね。部屋に戻ろっか…。」と、出来うる限りの平静を装った。
***
※ここから美緒視点です。
旅館に戻り一息ついた後、晩御飯を食べ終えた私達は、二人で露天風呂へ向かっている。
「晩御飯も美味しかったし、露天風呂も楽しみですね~。」
「美緒ちゃんは、本当に温泉が好きなのね?」
「はい!温泉って広くて解放感があって好きです。あと、銭湯とかと違って景色が綺麗なところが多いですし。」
経路案内に従い歩いていると、直ぐに露天風呂へたどり着いた。
脱衣所に入ると、私達の他には誰も居ないようだった。
静かな脱衣所に衣擦れの音だけが響き、意識すればするほど心臓が速く脈打ち、言葉数も減っていく。チラリとメグさんの方へと視線を向けると、既に脱ぎ終わり、タオルで前を隠していた。
タオルから覗く白くスラッと伸びた手足に、思わず目を奪われそうになる。ぱっと直ぐ目を反らし「あ、えっと…メグさん。風邪引いちゃうといけないので先にお風呂行ってください。私も脱いだら直ぐに行くので…。」と、メグさんに催促した。
(やばいなぁ…。もう既にのぼせそう…。)
邪な気持ちを振り払い、急いで服を脱ぎ露天風呂の扉を開ける。
その瞬間、むわっとした湯船の熱気が肌を包み込む。
「うわぁ~…!。ひろい!」と、思わず感嘆する。思わず大きな声が出てしまったことに気付き、口を塞ぎ辺りを見渡す。幸い、私達以外に露天風呂を利用している人は居ないようだ。
体を洗っている最中のメグさんの横に座る。なるべくメグさんの体を見ないように。
「何だか貸し切りみたいですね~。」
「本当にね!ここの温泉、夕日が見える時間帯が人気みたい。夜は星が見えるから、私は、今の時間帯の方が好きだなぁ。」
「夜空も綺麗ですよねぇ~…。あ!じゃあ、今度二人で星を見に、海か山にドライブしに行きましょうか!」
思わず勢い良くメグさんの方に顔を向けてしまい、一瞬息が止まる。
滑らかな肌にシャワーから流れ落ちる水が滴る。何時も綺麗に纏められた彼女の美しい黒髪が濡れ、乱れたそれが肌にしっとりと張り付き、何とも危うい色香を放っていた。
彼女の視線が私と合わさり、じっと見つめられた後ニコッと微笑まれる。
「私も行きたいな…。美緒ちゃんとドライブ。」
そう言うとメグさんは、スッと立ち上がり湯船へと歩いて行ってしまった。
意識しすぎて余裕の無い自分に、心底呆れ返る。反対に、メグさんには全然意識されて無いのだろうなと思い、少しだけ寂しくなった。
「ふぁ~…。あったか~い。」
二人仲良く肩を並べ、露天風呂を満喫する。
空を見上げるとキラキラと星が瞬き、横を見るとメグさんが傍に居る。何て幸せなんだろう。
「綺麗ですね…。」
「綺麗だね~。」
大好きで大切な人と二人きりで、同じ空間、同じ時間に同じものを見て、綺麗だねと、共感し合えることに胸が熱くなる。
幸せすぎて思わず涙が出てきそうなのを見られぬよう、メグさんの右肩に頭をコテンと預ける。
「ん?美緒ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと…眠たくなってきちゃって。」
「じゃあ、そろそろ上がろっか?」
「!!い、いや、まだ大丈夫なので…。えっと…。もう少し、このままでいさせてください…。」
「うん…。本当に寝ちゃダメだよ?」
ふふっと二人して笑い合った後、肩を寄せ合い、何かを話すでもなく、ただ夜空を眺めていた。




