第11話 お姉さんと温泉旅行に行きたいです!
私は真剣な眼差しで、机に置かれた温泉宿泊券のペアチケットを凝視している。
母さんが福引きで当てて来たらしいのだが、肌が弱い為すぐに乾燥してしまうから温泉は苦手と言って、行くかどうか悩む母に「それなら貰っても良い?」と伺うと、快く了承してくれたのだった。
チケットを受け取り、メグさんと一緒に温泉旅行に行きたいなぁと想いを馳せていると、私の思考を読んだのか「恵美さんに迷惑かけたら駄目よ?」と優しく微笑まれた。
もしかすると母さんには、私のメグさんに対する想いがただの友情ではなく、好きな人に向ける愛情なのだと既にバレているのではないかと頭をよぎる。
私の好きな人が同性だったとしても、母さんは今までと変わらずに私と接してくれるだろうか。母さんは偏見が無かったとしても、父さんはどう思うのだろうか。そんな考えが頭の中で堂々巡りし、不安が募るばかりなのであった。
チケットを受け取り、一旦自宅へと帰ってから数時間が過ぎた。ペアチケットを貰ったのは良いものの、メグさんを誘う事をまごついていたのだ。
何も考えずに誘えたら良いのだが、もし断られたらどうしようと、嫌な想像ばかりしてしまう。映画には話の流れで誘うことが出来たのだが、温泉ともなると話術の無い私は、どういう風に話を切りだせばいいのかと逡巡する。いくら考えても良い案が出なかったため、取り敢えずメグさんに電話を掛けることにした。
少しの緊張感とメグさんの声を早く聞きたいという想いが私の鼓動を速くする。5回ほどコールすると、「もしもし?美緒ちゃんどうしたの?」と待ち焦がれていたメグさんの声が耳に届いた。
「メグさんこんばんは!えっと…。メグさんの声が聞きたくなっちゃって…。」少し照れ臭そうにしていると、電話の向こうからガサガサゴソッと雑音が響いて聞こえた。
「あ…、もしかしてお出掛け中でしたか?また後からかけ直した方がいいですか…?」
「…っ!い、いや大丈夫!大丈夫だから!うん…大丈夫。」ふぅー…。と一息ついたメグさんを不思議に思い「本当に大丈夫ですか?」と投げ掛けると、「うん。気にしないで?」と、何時ものメグさんの落ち着いた調子に戻っていた。
「あの…、メグさんって温泉とか好きですか?」
「温泉?好きだよ?」"好きだよ"という言葉に思わず顔が熱くなるのを感じる。私に対しての"好き"では無いと分かってはいるが、彼女の口から出た言葉が私に対してのそれだったならば、どれほど嬉しいだろう。
「温泉宿泊券のペアチケットがあるんですけど…私と一緒に行ってくれませんか…?」
「えっと…。日にちは決まってるの?」
「12月31日から1月1日までの一泊二日なんですけど…。」
二人の間に少しの沈黙が流れる。(流石に二人きりでの温泉旅行は嫌だったかな?自分の事を好きだと言っている人と一緒じゃ安心できないよね…。)とネガティブな考えが頭の中を支配してくる。
「えーっと…。あ!今確認したら丁度お休みの日だったから行けるよ!」と、至極嬉しそうに言うものだから此方まで嬉しさが込み上げてくる。
「本当ですか!?やっぱりやめるとか無しですからね!約束ですよ!」
「うん…。約束ね!」
「メグさんと一緒に年を越せるだなんて本当に嬉しいです!」
「私も嬉しいな。楽しみにしてるね?」
「はい!当日の6時位にメグさんの家にお迎えに行くので、今度こそ家の中で待ってて下さいね…?」
「うふふっ、分かった。」
「じゃあ、お休みなさいメグさん!」
「お休みなさい美緒ちゃん。」
通話を終了し、ソファーにゴロンッと勢い良く寝転がる。ふぅー…、と思わず息が溢れ、我慢しきれずに顔がにやけてくる。
まさか本当にメグさんと温泉旅行に行ける事になるとは…。それに加え、年の終わりから年の始まりをメグさんとずっと一緒に過ごせるのだ。
幸福感で一杯になり、どくどくと高鳴る胸を押さえた。幸せすぎて涙が出そうになる。まだ付き合ってもいないのにこんなにも幸せなのだ。付き合うことが出来たら私はどうなってしまうのか…幸せすぎて心臓が止まるかもしれない。
温泉旅行の事を想像してみると、ワクワクドキドキが溢れる。足をバタつかせながら、ソファーに置いてあるクッションに顔を埋め、声を押さえ叫ぶ私は、まるで遠足前の小学生の様にはしゃいで、当日まで中々寝付けない夜が続いたのだった。




