log92.アシュラB
「シャラァァァァ!!」
「でぇぇぇいぃぃ!!」
気勢と共に空を裂く拳撃は、見事に白い骨の真芯を捉えブチ折る。
セードーとウォルフに大腿骨をへし折られた骸骨剣士がバランスを崩し、倒れかかってゆく。
キキョウがその身に向かって大きく跳躍。
「光陰・白打陣!!」
一声叫び、数度の跳躍と打撃を骸骨剣士へと叩き込んでゆく。
その全身を隈なく叩くかのようなキキョウの跳躍打撃が、骸骨剣士の骨を砕いてゆく。
鎖骨や顎の頬骨を砕かれ、声なき声で吠えているように見える骸骨剣士に、サンとミツキが止めを刺しに行った。
「蔵崩しッ!」
素早く骸骨剣士の足元へと潜りこみ、無事であった片足を勢いよく弾き飛ばすミツキ。
さらにバランスを崩した骸骨剣士は前のめりに倒れ、サンの目の前に倒れ込む。
「双撞掌ォー!!」
そして頭のてっぺんに発頸と共に両手を叩き込むサン。骸骨剣士の頭骨が、その衝撃に耐え切れず無残に砕け散ってしまう。
後に残ったのは、がらんどうな頭の中身を晒す骸骨剣士のみ……だが、セードー達は素早く骸骨剣士から間合いを取る。
「今度は……!?」
軽く息を弾ませるキキョウはじっと骸骨剣士の様子を窺う。
そのままダウンしていてくれることを期待していたが、骸骨剣士の全身がカタカタ鳴り始める。
そして糸か何かに吊り上げられたかのように、不自然に立ち上がる骸骨剣士。
その大腿骨はあっさり繋がり、砕けたはずの頭骨も塵が集まるかのように再生していった。
あっさり復活し、蛮刀を振り回し始める骸骨剣士を見て、サンは悔しそうに声を上げた。
「っだぁー! また再生した! 一体いつになったらおっ死ぬんだよ、このへぼ骸骨!!」
「うんざりしてきたなぁ……。ナンボ叩き放題かて、肉もないし、声もせえへん化け物叩いてもおもろくないで……」
サンとは対照的に言葉の通りにうんざりした様子のウォルフは、油断はないがしかしやる気もなさげに軽くフットワークを刻む。
回し受けの要領で掌を構えるセードーは、小さく呟いた。
「差し当たり、骨……というか全身に対する攻撃が無意味というのは分かりましたか」
「そうね……。じゃあ、別のところというと……」
ミツキはちらりと、骸骨剣士が握る蛮刀に視線を送る。
「あの剣、かしら?」
「剣が核……ありえるんでしょうか?」
「ありえるよー。デュラハンとかの不死属性バージョンは、剣が核になってることがよくありし」
相変わらずジャッキーのマントを体に巻きつけながらエイミーはそう口にする。
だが、小さく首を傾げて自身の疑問を口にした。
「……でも、ジャッキーが剣を壊しても直っちゃったんだよね……。どれが核かな?」
「……あるいは、全部が核で、一斉に破壊せねば倒せないとかでしょうか」
エイミーの疑問を受け、セードーは可能性の一つを口にする。
じり……とこちらとの間合いを測る骸骨剣士は、ゆらりと蛮刀を揺らす。
まったく同じ形をした四本の蛮刀は、まるで分身しているかのように蠢いている。
「前段階のエルダーゴブリンオーガも、同時撃破が条件でした。この骸骨剣士も、似たような条件でもおかしくはないかと……」
「んー、そうだねー。狙ってみる価値はあるかも……」
エイミーは軽く指をくわえて考え、それから頷いてみせる。
「よっし、考えるよりまず行動! じゃあ、あの骸骨剣士の剣を壊してみようか!」
「ッシャァ! やったるでぇ!」
「あ、待てコラァ!」
エイミーの音頭に、イの一番とばかりに駆け出すウォルフと、それに続くサン。
二人の背中を見てため息を付ながら、セードー達も駆け出した。
「同時に壊さねば意味がなかろう……」
「フフ、しょうがないわよ。キキョウちゃん、あなたがお願いね? 私は、皆のフォローをするわ」
「はい!」
役割を軽く決め、散らばる五人。
まず一番先に骸骨剣士を間合いに収めたウォルフが飛び上がり、その手に握られた蛮刀を狙う。
「シャオラァ! ショットガンブロォォ!!」
さながら散弾のような拳の連打を、蛮刀の横腹に叩き込む。
骸骨剣士の蛮刀が嫌な音を立ててひび割れた。
だが、その一撃で剣をへし折れなかったことにショックでも受けたか、ウォルフが顔を歪める。
「かったぁ!? なんでできとるんや、この剣!?」
「てめーの一撃は、一発が軽すぎるんだよ!」
そんなウォルフの言葉を前に、ふふんと得意げに鼻を鳴らしながらサンは振り下ろされた刃を迎え撃つ。
「男なら……一発で勝負してみろぉ!!」
震脚と共に固めた拳で、骸骨剣士の蛮刀の刃をへし折ろうとするサン。
拮抗は一瞬。ぶつかり合った拳と刃が火花を散らし、さらに爆炎を辺りに撒き散らす。
次の瞬間には蛮刀がへし折れ、刃はその衝撃でどこかへと飛んでゆく。
サンは骸骨剣士の剣をへし折れたことがよほど嬉しいのか、満面の笑みで飛び上がりウォルフにガッツポーズしてみせた。
「へっへぇー! どうだい!?」
「ぐぬぬ……!」
「悔しそうにしている場合か! 追撃しろ!!」
悔しげに呻くウォルフに叱咤を飛ばし、セードーは飛び上がりウォルフがおり損ねた蛮刀を狙う。
「チェイリャァァァ!!」
セードーの足刀蹴りは見事に蛮刀のひびを捉え、一撃で骸骨剣士の剣をへし折った。
「ぬぁ!? そこはワイに譲るところやろ!?」
「言ってる場合じゃないですってば!?」
また悔しがるウォルフを狙う蛮刀を見上げ、キキョウは棍を構える。
「MPも少ないから、狙いを絞って……!」
振り下ろされる一撃に向かい、キキョウは光の槍となって襲い掛かる。
「光陰流槍ぉー!」
一瞬で伸びた光の槍は蛮刀を貫き、半ばからへし折る。
残りの蛮刀は一本となり、焦ったウォルフは慌ててその一本へと走ってゆく。
「ぬぁー! 残った一本逃してたまるかぁ!」
「あらあら」
ミツキはそんなウォルフの動きを先回り、飛び上がり残った蛮刀が握られた骸骨剣士の関節を握る。
「ミツキさん!?」
「そぉ、れっ!」
そしてそのまま勢いよく骸骨剣士の腕をねじ上げてしまう。
骸骨剣士は声を出せぬまま口を開き、ポロリと蛮刀を取り落してしまう。
「さあ、ウォルフ君今よ!」
「ありがとー! ホンマありがとー!」
ミツキに泣きながら礼を言い、ウォルフはまっすぐに蛮刀の元へと向かう。
エイミーはちらりと骸骨剣士が握る、おられた蛮刀を確認する。
骸骨剣士が握っている蛮刀は怪しげな煙を上げているが、再生する気配はない。
「何とか間に合いそう……!」
「せぇい!」
「てりゃぁー!」
蛮刀が再生しないのは、セードー達が骸骨剣士の肉体を攻撃しているのもあるかもしれない。
とにかく骸骨剣士が再生しないよう、彼らは絶えず骸骨剣士に刺激を与えているのだ。
「決めろよ、ウォルフ!」
「まかせたりゃぁー!」
ウォルフは拳を握りしめ、大きく腕を振るう。
そして屋上に突き立った剣に向けて、まっすぐに拳を叩き込んだ。
だが次の瞬間、ウォルフの拳は剣の表面に張られた障壁により弾かれてしまう。
「いぎぃっ!?」
それと同時に、骸骨剣士の全身に幽鬼のごとき炎が噴き出る。
「ぎゃー!?」
「な、なんだ!?」
青白い炎は骸骨剣士に触れていたセードー達の体を舐めるように這いずるが、彼らの体を焼くことはなかった。
だが、骸骨剣士は炎を吹き上げた途端力を得たかのごとく浮かび上がり、カタカタと歯を鳴らしながら宙に浮かび上がる。
そしてへし折れていた蛮刀の刃を復活させ、そのまま扇風機の羽根のように回りながら地面に突き刺さった蛮刀を回収に飛んでいった。
「ギャース!?」
突然の骸骨剣士の奇行に、ウォルフは悲鳴を上げながら逃げ出す。
骸骨剣士は蛮刀を回収し、そのまま空中に浮かび上がりながらカタカタと笑うように骨を鳴らす。
すると先ほどまで無名表示であった骸骨剣士の頭上に、名前が出現した。
その名は“アシュラB”。HPは相変わらず表示されないが、今ここで名前が出現したということはこれからが本番なのだろう。
頭上ギリギリを通り過ぎて行った蛮刀の刃に冷や汗をかきながら、ウォルフはアシュラBを睨みつける。
「おぉう……! 危うく首がなくなるところやった……!」
「空中に浮かび上がった……か。剣を折りにくくなったな……」
アシュラBは骨を鳴らし、さらに蛮刀を研ぐような動作と共に鋭い金属音を鳴り響かせる。
幽鬼のごとき青白い炎はそのままであり、辺りを不気味に煌々と照らしている。
やがてアシュラBは蛮刀を構え、再びプロペラか何かのように急回転を始める。
「くるぞ!」
「ひぃー! もうギリギリ回避は御免やで!?」
そのまま突っ込んでくるアシュラBから逃げるべく、ウォルフは大急ぎでその場を離れてゆく。
アシュラBはウォルフを無視し、そのまま屋上を凄まじい勢いで飛び回り始める。
「うぉ!?」
「きゃあ!」
その軌道はめちゃくちゃで、何もないところでいきなり曲がるせいで攻撃の先を読みづらい。
アシュラBの蛮刀に危うく斬り裂かれかけ、セードー達は飛び退き何とか回避してゆく。
「わひゃぁ!? な、なんかむちゃくちゃだよー!?」
「さっきより動きがいいじゃねーか!?」
「本気になった……ってところかしらね……!」
触れるもの皆斬り裂かんとするかのようなアシュラBの回転攻撃は止むことなく、屋上を縦横無尽に飛び回り、まだ追いかけっこを続けていたアラーキー達の方へと突き進んでゆく。
「あ!? 二人とも、あぶない!」
「だーもーやめろってばなんだいきなり!?」
「ぬあ!?」
迫りくる円盤刃を前に、アラーキー達は慌てて防御体勢を取る。
「ストーンウォール!」
「シルト・ヴィントホーゼ!」
アラーキーが生み出した石の壁の周りに、ジャッキーが生み出した竜巻の盾が纏わり付く。
猛烈な勢いで回転していたアシュラBは、その竜巻石壁に引っかかり盛大に吹き飛んだ。
同時に二人が生み出した竜巻石壁も粉々に砕け散る。
「ぎゃー!? なんなんだよホントに!?」
「ぐ……! 馬鹿を追いかけまわし過ぎて、状況が全く分からん……!」
石壁破砕の余波でよろめく二人の前に、体勢を立て直したアシュラBが迫る。
「えぇい! しつこい!」
「だれかー! 状況を教えてくれー!」
武器を構え、しかし逃げ惑う二人を見て、エイミーは呆れのため息を一つついた。
なお、BはボーンのBの模様。




