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log91.二人きり

 小さな音を立て、ジャッキーの握るサーベルが骸骨剣士の振り下ろした蛮刀に刃を立てる。


「――フッ!」


 ジャッキーは鋭く呼気を吐き、サーベルを振り上げる。すると羊羹にナイフでも差し込んだかのように、骸骨剣士の蛮刀は斬り裂かれてしまった。

 だが骸骨剣士は斬られた蛮刀のことなど気にしていないかのように、別の手に握った蛮刀を振り下ろす。

 ジャッキーは軽く後ろへと飛び、骸骨剣士の一撃を回避する。

 その間に、ジャッキーに斬り飛ばされてしまった蛮刀の切れ端は数瞬ののちに解けて消え、代わりに骸骨剣士の蛮刀が元通りになってしまった。

 それを見て、ジャッキーは小さく舌打ちを打つ。


「チッ。何度やっても結果は同じか……」

「不死属性持ち……やっかいだねー」


 ジャッキーが投げてよこしたマントを軽く体に巻きつけ手で握って落ちないようにするエイミー。

 彼女が口にした不死属性と言うのはゲーム内でモンスターに与えられる特性の一つだ。

 この特性を持つモンスターは通常通りの手順で死亡することはない。早い話が、どれだけ殴っても死なないのである。如何な超火力や超技術、超魔術を持ち出そうとも、それらをただ漫然と叩きつけただけでは、不死属性の者たちは死亡しない。どうやってこの不死を打ち破るか……それを見抜くのが、この第二ウェーブのギミックというわけだ。

 エイミーは立ち上がり、ジャッキーのすぐ後ろに付きながら、ジャッキーの様子を窺う。


「とりあえず、私がマーカー起動させれば皆来てくれるよね? それで、形勢逆転しようよ」

「……そうしたいが、許してくれるかな奴が」


 ジャッキーはエイミーの意見を肯定しながらも、油断なくサーベルを握る手に力を込める。

 骸骨剣士はゆらゆらと蛮刀の先を揺らしながら、二人の様子を見ている。


「――」


 ふとしたタイミングから、ジャッキーは瞬きをする。

 小鳥の羽根がふわりと浮かび上がるような、そんな瞬きだ。

 その瞬きの間に、骸骨剣士の体はジャッキーの眼前まで迫ってきていた。


「うわ、はやぁ!?」

「下がれ、エイミー!」


 声なき咆哮と共に振るわれる蛮刀を、ジャッキーは全力でいなしてゆく。

 一合、二合。鋼の軋む音共に、ジャッキーの手にするサーベルが力負けして歪んでゆく。

 彼が持つ剣も、長くゲームに身を浸しているだけあって相応の名を持つ逸品であるが、それでもサーベルという武器は元々が脆い。こちらをはるかに上回る巨躯の骸骨剣士の一撃に、サーベルの耐久力が耐え切れなくなってきているのだ。


「くっ……!」

「ジャッキー! マジカルカッタァー!」


 ジャッキーのサーベルが耐え切れなくなるのを察知し、エイミーはステッキを振るう。

 弧を描くステッキの先から放たれた虹色の刃は屈みこんだジャッキーの頭上を通り過ぎ、骸骨剣士の胴体を斬り裂く。

 ぐらりと揺れる骸骨剣士の上体に押しつぶされないよう、その場を駆けだす二人。

 あわや地面に落下しかける骸骨剣士であったが、寸でのところで手にした四振りの蛮刀を屋上へと突き立てる。

 そうして支えられた上体に、下半身がゆっくりと斬られた部分を接続した。


「あーもう、めんどくさいなぁ! 何をやっても倒れないなんてぇ!」

「――フフ」


 ゆらりと立ち上がる骸骨剣士を見て怒声を上げるエイミー。そんな彼女の声を聴いたジャッキーが、不意に何かを思い出したように笑いだした。


「? どーしたのよジャッキー。急に笑い出して」

「フフ……いや、なに。初めて君と会った時を思い出してな」


 ジャッキーは笑いながらサーベルを鞘に納め、居合の体勢を取る。


「お互いにまだLv1……右も左もわからぬところに現れたオーガを相手取り、むやみやたらに魔法を連発。あわや気絶しかけていたのだったか?」

「む……それを言うならジャッキーだって、頭数ばっかりのゴブリンに追い立てられて、私のところまで逃げてきたんじゃない」


 まだまだ初心者と呼ばれる時期の失態を口にされ、エイミーはお返しとばかりにジャッキーの恥部を弄る。

 かつての恥を口にされたジャッキーだが、その表情は穏やかだ。


「だが、その後はお互いに敵を交換して事なきを得た」

「そうだねー。お互い、得意な相手ははっきりしてたし」


 魔法使いは範囲攻撃に優れ、近接剣士は単体相手に特化する。イノセント・ワールドに数多くある定石の中でも、もっとも愛されている定石の一つだ。

 見た目にもわかりやすく、特化することでVRMMOの戦闘に慣れてゆける、万人に愛される戦術という奴だ。


「その後は何となく気が合い、二人で冒険するようになったのだったな」

「そうそう。途中でアラーキーに出会ったり、初心者への幸運(ビギナーズラック)の皆に出会ったり……」


 ジャッキーの言葉に懐かしそうに昔を思い出し、それから彼女も何かに気が付いたようにぽつりとつぶやいた。


「……そういえば、最近はこっちで二人っきりって、あんまりないよね」

「ああ。初心者への幸運(ビギナーズラック)の方針を考えれば、無理もないがな。だが、本当に久しぶりだよ――」


 振り下ろされる斬撃に、居合を解き放つ。

 鋭い金属音と共に、骸骨剣士の蛮刀が二振りまとめて斬り裂かれる。


「――こうして君と二人でいるのはな!」

「もー。これからはずっと二人で生きていくんじゃないー」


 ジャッキーの言葉に、エイミーは少し恥ずかしそうにそう口にする。

 彼女とジャッキーは、リアルで婚姻関係を結んでいるのだ。それを考えれば、わざわざこちらでも二人きりになりたがる意味はないだろう。

 だが、ジャッキーは少しだけふてくされたように口にする。


「それでも、だ。どんな時でも君と二人でいたい……そう思うのはよくないかね?」

「それは…………嬉しいよー」


 エイミーはわずかな間を置き、自分の気持ちを口にした。


「嬉しくないわけないじゃん……好きな人と、ずっと二人なんてさー」

「はは。君も同じ気持ちでいてくれて嬉しい――よっ!」


 再び振るわれる骸骨剣士の一撃を、ジャッキーは風を纏った一撃で凌ぐ。

 轟音を立てジャッキーの一撃が弾かれ、風の刃があらぬ方向へと流れてゆく。


「……エイミー、私は――」


 ジャッキーの口にしようとした言葉が、風の刃が破裂した音で遮られ。


「―――あれ、アラーキーなにしてるのそんなところで……?」


 その着弾地点でスナック菓子のようなものを頬張っていたアラーキーの姿を露わにした。

 エイミーの言葉に、ジャッキーはギシリとかたまり、突然の介入者の姿に骸骨剣士は動きを止める。

 アラーキーが座っている場所の傍に、薄い土の壁のようなものが見える。アース・ベースという、土のかまくらを作るスキルを発動し、それを何かの方法で隠ぺいしていたのだろう。キキョウが少し気まずそうなのを見るに、彼女の〈光〉スキルが関係していそうだ。

 いつの間にか茣蓙のようなものまで敷いたアラーキーは、その後ろで何とも言い難い表情をするセードー達と一緒にジャッキーたちをまじまじと見つめているようだった。

 アラーキーはしばらくモグモグと口を動かしていたが、すぐに手を上げ、口を開く。


「――あ、俺たちのことは気にせず。さあさ、どんどん愛の言葉を口にしてくれたまへ」

「―――いつから見ていた」


 ジャッキーは刃を振り抜いた体勢のまま固まり、アラーキーに問いかける。

 彼の問いに答えたのは、気まずそうに棍を握りしめるキキョウ。


「え……と。ジャッキーさんが、その、思い出話をし始めたあたりから……」

「いやだってお前らリアルでもこっちでも隙らしい隙みせないし。結婚報告されてもいつも通りに振る舞うし。俺ぁー担がれてんじゃないかと前から疑ってたんだけどな」


 スナック菓子の残りを咀嚼しながら、アラーキーは感無量といった様子で何度か頷く。


「二人っきりになったらデレ甘……うん。そう言うもんなんかねぇ……。俺は趣味と結婚する気満々だから、そう言う甘々な生活はよくわからんが、いいもんだったぜ!」

「―――」


 ジャッキーは無言で体を翻し、アラーキーに狙いをつける。

 殺気を察し、アラーキーは踵を返しクラウチングスタートで駆け出した。


「アラァァァァァキィィィィィィィィィ!!!!!!」

「ぬはははぁー! 追いつけるもんなら追いついてみろやぁ!!」


 ボス戦だというのに大人げなく追いかけっこを始めるアラーキーとジャッキー。

 そんな二人を見送りつつ、ミツキがうらやましそうにため息をついた。


「はぁ……本当に羨ましい……何か、コツとかあるのかしら……?」

「ああ妬ましい……リア充オーラが妬ましぃぃぃ……!」

「あ、ははー……」


 呟くミツキに、妙なオーラを解き放つウォルフ。そんな二人の姿にエイミーは小さく苦笑するしかない。

 目の前で繰り広げられる珍劇場にため息を付ながら、セードーは立ち上がった。


「……とりあえず骨の一本でも折るとしようか」

「だなー」


 セードーと同じようにこの手の話に興味がないサンが立ち上がり、二人は骸骨剣士へと向き直る。

 セードー達の出現でヘイトが緩和されていた骸骨剣士は、急に動き出した二人に注目し、蛮刀を構える。

 突撃を始めた二人に向けて、我に返ったエイミーが慌てて助言を送る。


「あ、待って! そいつは不死属性持ち! だから普通に攻撃してもダメだよ!」

「不死属性? んなら、あたしが燃やし尽くしてやんぜぇ!!」


 だが、エイミーの忠告に耳を貸さずサンは体から炎を吹き上げながら骸骨剣士に突撃する。


「いぃくぜぇぇぇ!!」


 力強い震脚と共に、サンは肩を大きく廻す。

 ぐるりと下を潜るように……大地を踏みしめ、勢いよく全身を跳ね上げた。


「大纏崩捶ィィィ!!」


 元来は反撃に使う技、大纏崩捶。サンはそれをそのまま攻撃の技として使用する。

 下からの突き上げるような一撃に、爆炎の衝撃が加わり、骸骨剣士のすねを酷く打つ据えた。

 ベキリと嫌な音を立ててへし折れる骸骨剣士の足の骨。溜まらず骸骨剣士は膝をついた。

 セードーはその隙を逃さず、骸骨剣士の首元まで飛び上がる。

 闇の波動を纏い、足を大きく振るい。


「外法式無銘空手――」


 空中歩法(エアキック)を発動し、力強く足を蹴り抜く。


「羅漢斬空脚ッ!!」


 地を力強く蹴り上げるように、空を蹴り抜いたセードーの一撃が、骸骨剣士の首を一撃のもとに刈り取った。

 がっくり顎が大きく開き、骸骨剣士の頭は無残に後ろへと落下してゆく。

 ……だが、落ちてゆくはずの頭は空中でピタリと停止し、関節の鳴る音を立てながら元のように首へとくっつく。

 そして骸骨剣士が立ち上がった時、サンがへし折ったはずの足はもうくっ付いていた。


「いいっ!? 再生早っ!」

「不死属性……話には聞いていたが、これほどとはな」


 セードーとサンはそれぞれ構え、骸骨剣士と相対する。

 骸骨剣士はカタカタ音を立てながら、蛮刀をゆっくりと振り上げる。


「こういう手合いは、核を潰すのが定石と聞く……まずはそれを探そう」

「オッケー! 全身、粉になるまでぶっ叩いてやるぜ!」


 そして振り下ろされる刃をセードーが捌き、サンは大きく踏み込む。

 先に戦いを始めた二人を援護すべく、キキョウたちも駆け出していった。




なお、アラーキーとジャッキーの鬼ごっこはまだ続いている模様。

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