log89.飛翔
「五体武装・闇衣――天魔之外套」
「セイルウィング!」
セードーの体からは闇の、そしてコータの体からは光の波動が現れる。
闇の波動は全身を伝い、セードーがいつも首に巻いているマフラーへと集まりコウモリのような翼を形成。光の波動はコータの背中に集まり、天使の翼のような形となった。
波動が形を成したのを確認した二人は、力強く地面を蹴り、一気にウォルフがいる辺りまで飛び上がる。
「ヤァ!」
「チェリャァ!」
そのままワイバーンに攻撃を加え、ウォルフを救出した。
何とか体勢を整えたウォルフは、近場のワイバーンの背中に飛び乗り、飛び上がってきた二人を見やる。
「なんやそれ!? 自分らも飛べるんかいな!?」
「飛ぶ、というより跳躍距離の増加だ。ウォルフのそれと違い、滞空の効果はない。そちらは?」
「こっちは跳躍距離の増加と滞空効果付……なんだけど、どっちも〈風〉属性のそれに比べると弱めなんだよねー。滞空戦闘できるほどじゃないよ」
二人もウォルフと同様にワイバーンの背に着地する。
怒り狂ったワイバーンが彼らを振り落とそうと躍起になるが、三人とも気にした様子もなくワイバーンの背に座り込む。
そのまま付近を飛び回って何とか上に上がろうとしているエイミーへと声をかける。
「エイミーさん! まだ行けますか!?」
「私は大丈夫ー! 君たちは!?」
「こちらも大丈夫です。ウォルフ、やれるな?」
「誰に言うてんねん!」
ウォルフはニヤリと笑い、全身に風を纏う。
セードーは頷きながら、コータを窺う。
「コータ、手持ちに範囲攻撃スキルはあるか?」
「あるよ、いいのが!」
「よし。こちらも行ける。活路を開くぞ」
「おう!」
三人は一斉に飛び上がり、エイミーの進路上へと向かう。
「シャラァァァ!」
「チェス!!」
「えぇい!!」
道を阻むワイバーンを殴り倒し、蹴り砕き、斬り裂いて進む三人。
エイミーはそんな三人のために、何とか現状の高度を保ち、耐える。
「マジカルカッター! 邪魔よー!」
上空で戦う四人の奮闘を見て、アラーキーは大きな声を上げた。
「よし! 下から援護だ! せめて、あいつらに近寄るワイバーンを撃ち落せぇ!」
「「「「「オオォォォ!!」」」」」
アラーキーの言葉に奮起し、魔法や弓矢、銃弾が下からワイバーンを撃ち落さんと舞い上がる。
銃のリロードを終えたホークアイはニヤリと笑い、ワイバーンへと狙いを付けた。
「そう言うのは、得意だ」
「ハッハッハッ! サラはこっちの援護を頼む! ショットガンじゃ、届かないだろ!」
「ほっといてよ! えぇい!」
軍曹もガトリングガンで空を舞うワイバーンを叩き落とし始める。
サラや、遠距離攻撃法を持たない者たちは、援護に励む者たちを守るべく周辺のモンスターを攻撃する。
下の者たちの援護を受け、セードー達は活路を開くべくスキルを発動する。
「セイルウィング!」
「五体武装・闇衣」
「エアロボディ!」
風が、光が、闇が巻き起こる。
コータの武器が光を帯び、セードーとウォルフの右腕に闇と風が纏わりつく。
三人の戦士たちは己の武器を手に飛び上がり、一気に上空へと力を解き放った。
「ライトニング・ストームエッジ!!」
鋭い刃風を伴った〈光〉の渦が切先から解き放たれる。
「サイクロン・ナッコォ!!」
ウォルフの腕に宿った竜巻が肥大化し、ワイバーンを飲み込むべく突き進む。
「暗具砲!!」
そしてセードーは衝撃砲に闇の波動を纏わせ、斬衝撃波を拳の先から打ち出した。
渦巻く三つの力の塊が、ワイバーンを巻き込み斬り裂き突進む。
ワイバーンの悲鳴は渦巻く力が奏でる音に掻き消され、その体は容赦なく引き裂かれ、空を覆い尽くすほどに舞い飛んでいたワイバーンたちの一ヵ所に、ぽっかりと大きな穴が開いた。
「エイミーさん!」
「よーっし!」
コータの合図を受け、エイミーは一気に加速し、ワイバーンの穴を抜けて上空へと飛翔してゆく。
それを無事見送り、コータは一息ついた。
「ふぅ……これで、とりあえずは大丈夫かな?」
「せやな。……て、セードー?」
ウォルフはコータに笑って頷き……ふと、セードーの気配が傍にないことに気が付いた。
周囲を見回し、それでも彼の姿が見えないことに気が付き、下を見てみる。
すると、中空から一気に落下するセードーの姿が目に入った。
「ぁぁぁぁぁ―――………」
「って、セードー君落ちてる!?」
「あのアホ、なにしとんねん!?」
先ほどの暗具砲に、闇の波動をすべて使い切ってしまったのだろう。宙を飛ぶための手段がなくなってしまったセードーは、真っ逆さまに地面へと落下してしまったのだ。
コータとウォルフは慌てて落ちるセードーを助けるべく、彼を追って空を飛んだ。
三人の援護の元、何とかワイバーンの群れを突破したエイミーはそれでも追ってくるワイバーンたちを魔法で退け、屋上へと降り立った。
「よっし……! あとはワープのためのポイントを……!」
素早く後続のためのワープポイントを設置しようとインベントリからアイテムを取り出したエイミー。
そんな彼女に、巨大な蛮刀の刃が迫る。
「!? うひゃぁ!?」
慌ててステッキを盾にし、その一撃を受け流すエイミー。
何とか距離を取った彼女の目の前に立っていたのは、巨大な骸骨剣士であった。
カタカタと全身の骨を鳴らしながらゆらりと歩くその骸骨剣士には四本の腕があり、その全てに肉厚の蛮刀が握られている。
「……わ、私接近戦は苦手なんだけど……」
エイミーは顔をひきつらせながらじりじりと骸骨剣士との間合いを測る。
今の一撃を受けたことで、ステッキの耐久力がごっそり持っていかれている。受けられてあと一撃だろうか。それを越えれば、ステッキごとこっちの体が真っ二つにされるだろう。
(ボスクラス…だよね? 何とか誰かに来てもらわないと……!)
がちゃり、と骸骨剣士が一歩前に出る。
エイミーはじり……と足を擦り――。
「っ!」
意を決し、骸骨剣士から一気に間合いを取るべく駆け出した。
骸骨剣士を中心に、大周りに円を描くように動く。城砦の天井は正方形の形になっており、動き回るのには十分な広さがある。
「何とか間合いを……!」
インベントリ内からワープ用に用意しているマーカーを取出し、設置を試みようとする。
そんな彼女の背後に、骸骨剣士は一瞬で間合いを詰めてきた。
「えっ!? うそ!」
エイミーは慌てて屈みこみ、骸骨剣士の一撃を回避する。
コロコロ転がりながら離れようとするエイミーを、骸骨剣士は執拗に追い立ててゆく。
ガチャガチャとやかましく関節が鳴り響き、蛮刀が唸りを上げて城砦の天井を削り裂いてゆく。
「わ、わ、わぁー!?」
悲鳴を上げながらなおも逃げ惑うエイミー。前転を繰り返しながらも何とか体勢を立て直し、ダイブするように骸骨剣士から飛び離れる。
骸骨剣士は一瞬力を溜め、次の瞬間には飛び上がりエイミーを斬り裂くべく蛮刀を構えた。
「っ! シールド!!」
エイミーは素早く魔法を発動。彼女を中心に半円ドームの防御障壁が現れ、振り下ろされた蛮刀の一撃を受け止める。
だが、骸骨剣士の一撃であっという間にシールドの耐久度が削られていってしまう。
「くぅー……! ボスクラスの攻撃なんて――」
エイミーは悔しそうに歯を食いしばりながら、破壊されたシールドの中から跳んで逃げようとする。
「受け切れるわけないじゃないー!?」
シールドが砕け散り、蛮刀の一撃がエイミーに迫る。
ギリギリのところでその必死の一撃は回避できたが、地面を打ち据えた瞬間に周囲へと衝撃波を発生させる。
その衝撃波に全身を打ち据えられ、エイミーはたまらず悲鳴を上げた。
「きゃぁー!?」
魔法使い型の宿命として、装甲の厚い鎧を装備できない。一応物理耐性の高めの防具を装備しているが、それでも物理型ボスクラスの一撃に耐えられるわけでもなく、エイミーのHPを身に纏っている衣装ごと削っていってしまう。
衣装の節々が破けたあられもない姿で、エイミーは苦しそうに倒れ伏せる。
「うう……乙女の柔肌がぁ……」
何とか体を起こし、次撃に備える。
だが今の一撃で全身がマヒしてしまっており、まともにスキルを発動することができなくなってしまっていた。
「くぅ……ここまで……?」
ステッキを握る手にも力が入らない。
そんな彼女に向けて骸骨剣士は歩みを進め、手にした蛮刀のうち一振りを構える。
力なく倒れるエイミーの、その細い体に向けて蛮刀の一撃が振り下ろされた。
「……!」
エイミーは思わず目を伏せる。
骸骨剣士の一撃はエイミーに向けて――。
ガキィン!
「……大丈夫か?」
――放たれた。だが、その一撃を一人の剣士が受け止める。
細いサーベルで骸骨剣士の蛮刀の一撃を受け切ったのは、ジャッキーであった。
ボロボロになったエイミーの姿をなるべく視界に入れないように俯きながら、ジャッキーは背後で倒れるエイミーに声をかける。
「間に合ってよかった」
「ジャッキー……マーカー、間に合ったんだね……」
エイミーは安堵から息を溢し、先ほど自分が転がり通り過ぎた方を見る。
そこには小さな魔方陣のようなものが現れており、その中心には小さなナイフが突き刺さっていた。
さっき転がって骸骨剣士から逃げていた際、何とかマーカーを設置することができたのだ。
同様のマーカーは下の方にも設置してあり、どちらか一方で起動処理を行うことで、双方向の転送用ポートとして機能するようになるのだ。
INTの値によって、どれだけの人数が一度に転送できるかが決まるので、起動するのは基本的に魔法使いの役目になるが、ジャッキーのような戦士でも転送ポートを起動することは可能だ。転送可能人数が一人に限定されてしまうのが難点であるが。
ジャッキーは背後を見ないまま、エイミーにマントを放って投げながら骸骨剣士と正対する。
「下がっていてくれ。こういう手合いは私の相手だ」
「うん、気を付けて!」
ジャッキーのマントで露わになった肌を隠しながら、エイミーは危険の及ばなさそうな距離まで逃げる。
改めてサーベルを構え直し、ジャッキーは骸骨剣士を睨んだ。
「……こい!」
ジャッキーのその言葉に反応するように、瞳のないはずの骸骨剣士の目が輝き、空気を震わせず咆哮を上げる。
謎の圧力が発生し、ジャッキーのマントが軽くはためく。
骸骨剣士は手にした蛮刀を振り下ろし、それを迎え撃つべくジャッキーはサーベルを振るった。
なお、下は混戦に次ぐ大混戦の模様。




