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log69.目覚める属性

「あー、ちくしょう! あたしが止めさしたかったのに……!」

「すまんな……ふふ」


 セードーにECの止めを掻っ攫われたせいか、地団太を踏んで悔しがるサン。

 セードーはと言えば、口では謝罪しながらも嬉しさは隠しきれないのか小さな微笑みを浮かべていた。

 そうしてしばしEC攻略の余韻に浸っていると、ドームの壁の一部が下へとめり込んでゆく。

 ぽっかりと空いた穴の先は暗く、そこに何があるのかをうかがい知ることはできなかった。


「を? ああ、先に進む通路かいな」

「敵が出てきたりは……」


 壊れてしまった棍の代わりに新しい棍を取り出しながらキキョウが穴の奥を窺う。

 暗い穴の奥から何かが飛び出してくるような気配はない。特に危険な様子もなかった。


「……しないみたいですね。どうしましょう?」

「どうもこうも、戻り道はないわけだし、あそこを進むしかないんじゃないかしら?」


 パーティのHPを回復しつつ、ミツキは視線を穴の方へと向ける。

 実際彼女の言うとおり、ここへとやって来た際の扉は存在せず、出入り口のようなものも他には見当たらない。

 その気になればドームの壁を乗り越えることは可能であろうが、それを実行して果たして問題ないものだろうか。


「……まあ、疑う理由もあるまい。道がなければ素直に道をゆくべきだろう」

「せやなぁ。無理に変な道行って、それで損してもおもろないし」


 一行は休憩を終え、立ち上がる。

 進む先は新たに現れた入口だ。

 ウォルフを先頭に穴の中へと足を踏み入れていく闘者組合ギルド・オブ・ファイターズ

 穴の中には明かりらしい明かりはなく、お互いの姿もぼんやりとしか視認できないほどの暗闇がどこまでも続いていた。

 どうやらトンネルのようだ。道はまっすぐ一本のようで、壁も天井も存在する。


「お、おう……これちょっとすげぇな……」

「うぉ、ウォルフさん……? 道は、まっすぐですか……?」

「いやまっすぐやで? 壁もあるし、落ちたりせぇへんやろ……」


 サンとキキョウにそう答えながらも、不安は募るのかウォルフの声は少しだけ暗い。

 そのまましばらく無言で歩いてゆく一向。

 いつ果てるともわからない無明の闇の中の道……。互いの恐れさえ伝わるようなその行軍は、意外なことにすぐに終わりを告げた。

 暗闇の中を進む一行は、しばらくすると目の前に明かりを見つけたのだ。


「……ん? おお! 明かりや、出口やで!」

「あ、ホントだ!」

「ああ、よかったです!」


 先頭を行く三人は歓声を上げ、その明りに向けて駆け出していった。

 後ろに控えていたセードーとミツキはそんな三人の背中を見て、小さく苦笑した。


「暗いのが怖いのは分かるけど、あれは喜びすぎじゃないかしらぁ?」

「まあ、気持ちはわかりますがね。山の中で過ごす夜ほど怖いものはありませんから」

「それは怖さの質が違うんじゃないかしら……」


 二人もまた三人を追って明かりに向かって歩いてゆく。

 暗いトンネルを乗り越えると、そこにあったのは小さな研究室のような場所であった。


「おぉー……」

「なんでしょう、この部屋……?」


 部屋の中には用途不明の機械が並んでおり、メーターやメモリが微かな反応を示している。

 据え付けられたランプが明滅を繰り返しているのを見るに、通常のフィールドと違いこの区画には電気が通じているようであった。

 クツクツと音を立てて煮えるフラスコの中を覗きこみながら、セードーは興味深そうに呟いた。


「ふむ……。よくは分からんが、今でも動いているというのは驚きか」

「あれかいな、半永久動力とかそう言うんがあるんかいな……」


 適当な試験管を手に取りながら、ウォルフは呆れたように呟く。

 そうしてしばらく部屋の中を探索してみると、ミツキが何かを発見したように声を上げた。


「あら……? ねえ、みんな? こっちに来て頂戴」

「はいはーい? なんじゃらほいほい」


 ミツキの呼ばわる声に導かれて向かってみると、部屋の奥の方に大きなガラスポッドが一つ据え置かれていた。

 どう説明すべきだろうか。もっとも近いものは……シャワールームだろうか。ガラス張りになっている個人用シャワールームから、シャワーを取り外したような機構になっている。声を上げたミツキは、ポッドの傍にある機械を操作しているようだった。

 セードー達は近づいてガラスポッドを見上げる。


「これは……?」

「さっき見つけたのだけれど、属性解放のための機械ってこれじゃないかしら?」

「なんでそれがわかったんですか?」


 キキョウの疑問に、ミツキは振り返りながら操作していた機械を示してみせた。


「それはこれを見てくれればわかるわ」

「はい?」

「どれどれ?」


 キキョウとサンが言われるがままに覗き込んでみると、そこには不可思議な言語が箇条書きで並べられていた。

 いわゆる古代語という奴であろうか。少なくともイノセント・ワールドに存在する都市で使われる共通言語ではなかったが、視界内に翻訳された字幕が現れる。


「あ、読めます」

「えーっと……“簡易属性解放機”? そのまんまだな、おい」


 一番上に存在する一文を一つ読み、サンは小さく顔をしかめる。

 そのまま文字を追ってみると、以下のようなことが判明した。

 この機器の名称は簡易属性解放機。その名の通り、属性を開放するための機器であり、本来存在する属性解放機の機能制限版らしい。

 本来の属性解放機との相違点は、ある程度レベルの低いものでも機器を使用できる点。そして解放される属性は完全ランダムであると言う点である。

 使用方法は、対象となる人物がガラスポッドの中に入るだけ。中に入ると検査機器で適正が存在するかどうかを確認ののち、ガラスポッドが閉じ属性解放が開始されるという。

 その他に、属性解放が為される際にどれかの属性になる確率を上げる方法なども書かれていたが、サンはそこまでで興味を失い、顔を上げた。


「とりあえず、こん中に入ったら属性解放できるらしいぜ?」

「なんや大昔にあったゲームのパワーアップアイテムみたいな扱いやな……」


 ガラスポッドを撫でながらウォルフはそんなことを呟いている。

 セードーはポッドの入り口を覗き込みながら、小さく呟く。


「……ではとりあえず入ってみるか」

「え? 大丈夫なんですか?」

「ここまで来て罠ということはないだろう。ここも非戦闘エリアっぽいしな」


 言いながらすでにセードーはポッドの中に体を潜り込ませている。

 両足でしっかりポッドの床を踏みしめ、直立していると空気の抜けるような音共にガラスポッドの入り口が塞がる。

 セードーの姿を見て、キキョウは不安そうな声を上げた。


「セードーさん、大丈夫ですか?」

「今のところ変化は……」


 そう呟いていたセードーであったが、次の瞬間ポッドの中が七色の輝きで満たされる。


「ぬ!?」

「きゃ!?」


 突然の出来事に一行が驚き戸惑うのを余所に、七色の輝きは強くなり、中にいるはずのセードーの姿が見えなくなってしまう。


「せ、セードーさぁん!?」

「うわぁ、どないなっとんやこれ!」


 目を庇いながらもポッドを見るが、光が強すぎて中の様子を窺うことはできない。

 そうしてしばらくすると、徐々にではあるがポッドの光が収まってゆく。


「お、おお……?」

「大丈夫、セードー君……?」


 そして光が完全に収まる頃には、ポッドの中に入る直前のままのセードーがそこにいた。

 セードーはしばらく呆けていたが、ポッドの扉が開く音を聞きハッと意識を取り戻し、頭を振りながらポッドの外へと出てきた。


「お、おう……大丈夫か?」

「む、うぅむ……だいじょう、ぶ? だいじょうぶ、だ。うん」


 強すぎる発光に目をやられたのか、少しふらふらしながら外に出るセードー。

 ウォルフの肩を借りながら外に出てきた彼は、しばらく目を瞬かせていたがすぐに気を取り直したように自分で立ち上がった。


「……う、うん。すまない、ウォルフ。もう大丈夫だ」

「ホンマかいな……? 気ぃ悪いんやったらすぐ言えや? こういうゲームでもあるんやからな」

「ゲーム酔いって奴だよな。今の光、結構強かったしな……」


 まだ少し具合が悪いような様子であったが、セードーは何度か深呼吸を繰り返し、それからクルソルを取り出した。


「とりあえず、属性が解放されているかどうかを確認しようか……」

「ん? 視界に表示はされへんかったんかいな?」

「された気はするんだが、目が眩しくてよく見えなかったんだ」


 ステータス画面を表示し、属性解放の欄を探すセードー。


「えーっと、解放属性はここでよかったか……?」

「確かギアと同じような欄にあったはずやけど、どや?」


 ウォルフも一緒になって覗き込んでみる。

 セードーがスクロールし該当欄を表示してみる。

 するとそこには、解放属性:〈闇〉と表示されていた。


「「……おぉう」」


 思わず変な声が出る二人。

 その声を聴き、キキョウたちも何事かと寄ってきた。


「どうだったんですか?」

「なんだよ、何属性だよ?」

「えーっと……」


 セードーは頬を小さく掻き、それから自らのクルソルを示してみせた。

 キキョウたちも一様にその画面を覗き込み。


「「……へぁ」」

「あら、まあ……」


 変な声を上げた。

 まさか特異属性を引き当てるとは思っていなかったのだ。


「え、えー……マジかよ、おい……」

「なんで特異属性やねん……。自分、夜影竜の紋章(シャドウペイント)に引き続き、特異属性〈闇〉まで引き当てて……」

「いや、俺のせいではなかろう……」

「属性を片寄らせるのに、その属性に関わりのあるものを持っていることってありましたけど、そのせいでしょうか……」

「あらそうなの……じゃあ、十分確率はあったのねぇ……」


 思いもよらぬ状況に困惑する闘者組合ギルド・オブ・ファイターズ

 そのまましばらく黙りこみ、それから残る一人のプレイヤーへと視線が向けられた。


「……キキョウ」

「ひゃ、ひゃい……!」


 代表してセードーから声を掛けられたキキョウは、上ずった声を上げながら飛び上がる。


「……とりあえず、入ってみてくれ。せっかくだから」

「わ、わかりました……」


 促されたキキョウは、おずおずと簡易属性解放機へと向かう。

 その中に納まり、再び虹色の輝きを浴び始める彼女を見ながら、セードーはサンへと声をかける。


「ついでにサンもやっていくか?」

「あたしはいーよ。初めっから〈火〉属性狙いだから」

「セードーの場合、夜影竜の紋章(シャドウペイント)があったから属性が寄ったんやろしなぁ……」

「サンが入っても、〈火〉は狙えないでしょうねぇ」


 二度目ともなればさすがに強い虹彩の輝きにも慣れる。

 その輝きに目を焼かれないようにしながら、一向はキキョウがポッドの中から出てくるのを待った。

 そして輝きが収まり、キキョウが中から出てくる。

 その顔は、信じられないものを見たかのような、そんな表情であった。


「……キキョウ、どうしたのだ」

「えーっと、キキョウちゃん?」


 恐る恐るといった様子で声をかけるセードー達。

 そんな彼らに、キキョウはゆっくりと答えた。


「あの……私も、属性〈光〉になっちゃんたんですけど……」

「「「「………ああ」」」」


 キキョウの告白に対する反応は、何故か納得したようなそんな物であったという。




なお、本来の確率は1%未満とのこと。

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