log23.妖精竜捕獲
妖精竜の咆哮に引き寄せられるかのように、天を引き裂き雷鳴がセードー達の視界を焼く。
「うっ!?」
「きゃぁ!!」
轟音を立てて妖精竜の周囲へと降り注ぐ雷を見て、セードーは驚きの声を上げた。
「なんだ……!? まさか、雷を呼び寄せたのか……?」
そんな彼の目の前で、妖精竜の周囲の草が焼け、炎が上がる。
妖精竜はまた一つ咆哮を上げる。
すると、その鼻先に燃え盛る炎が収束し、一つの大きな火の玉を生み出した。
「む!」
セードーは小さく呻いて、腕を前に構える。
妖精竜の前で膨れ上がる火球を見て、キキョウもあわてて棍を構えた。
やがて妖精竜が操る炎は1メートルもの直径を持つ巨大な塊と化す。
さらにもう一度妖精竜が鋭い鳴き声を上げた瞬間、炎の塊が勢いよく飛び出した。
「さて、受けきれるか……!」
「セードーさん! メガクラッシュで……!」
迫る火球を前に、セードーとキキョウは一歩下がる。
と、そんな二人の間を一本のナイフが飛翔する。
ナイフは二人の前の地面へと突き刺さると、何らかの魔方陣を展開した。
「防土壁ッ!!」
アラーキーの叫びと共に、ナイフの尻についていたワイヤーが勢いよく引っ張られる。
すると、セードー達の前にあった地面が盛り上がり、巨大な壁となって立ちふさがった。
瞬間、壁の向こうで火球が爆発する音が響き渡った。
「セードー! 今のうちに回復しとけ!」
「すいません、先生……!」
鋭いアラーキーの叱責に、セードーはすぐさま回復ポーションを取り出す。
そのままアラーキーは前へと飛び出し、巻き取ったナイフをキャッチしたのとは逆の手に持ったナイフを盛り上がった土壁に突き刺した。
「ブレイクッ!!」
アラーキーがそう叫んだ瞬間、土壁は音を立てて破裂し、妖精竜がいるであろう場所へ向かって砕けた岩片を飛ばしてゆく。
だが、それは妖精竜には届かない。その方向と共に出現した、竜巻の壁がすべての岩片を吹き飛ばしてしまったのだ。
「おぅ!?」
アラーキーは驚き、一瞬動きを止める。
その動きを逃さず、妖精竜は再び咆哮を上げる。
今度は、頭上に巨大な水滴が生まれた……かと思った次の瞬間、水滴は巨大で鋭利な氷柱と化す。
妖精竜の咆哮を受け、氷柱は一直線に飛翔しアラーキーを切り裂かんとする。
「ぅお!?」
「ヤァッ!!」
だが、アラーキーにその刃は届かない。
旋風衝棍を纏ったキキョウの棍が氷柱を一撃で打ち砕いたのだ。
「アラーキーさん、私も!」
「すまんな! しかし……」
アラーキーの前で棍を回すキキョウ。
アラーキーは彼女に礼を言いながら、妖精竜を睨みつけた。
「複数の属性を容易く操るか……! 妖精竜、その名に違わずだな」
「そうなんですか!?」
「ああ。妖精ってのは、このゲームじゃ精霊の下位存在として扱われるんだが、その分いろんな属性を一度に扱える。妖精の力がどれか一属性に特化した時、その妖精は精霊へと格を上げるわけなんだが……」
唸り声をあげこちらを睨みつける妖精竜。
アラーキーもまた睨み返しながら、小さく舌打ちした。
「妖精竜は少し趣が違うな。どの属性にも秀でてる感じか。その分、固体としての大きさは他のドラゴンに比べりゃ小さいようだが……手ごわいぞこれは」
「どうやって捕まえますか!? 何か、方法があるんですか!?」
油断なく妖精竜へと構えながら問いかけるキキョウに、アラーキーは小さく頷いてみせる。
「騎乗ペットとなるエネミーをとっ捕まえる方法はそれなりにあるが、俺が使いたいのはペットタグを使う方法だな」
「ペットタグ、ですか!?」
「ああ」
アラーキーはインベントリから一つのタグを取り出す。
首輪のように繋ぐタイプで、シルバーのタグにはアラーキーの名が掘られていた。
「ある程度弱らせたモンスターの首にかけることで、そのモンスターをペットとして捕獲することができるレアアイテムだ。希少素材を使って、金をかけて制作しただけあって、効果は抜群。撃破時の低確率を潜り抜けることも、テイミングを取るためにSPを消費することもない、このゲーム中最も推奨される捕獲方法だ」
「ある程度弱らせればいいんですね! それは、どのくらいでしょうか!?」
「大体、残りHP3割くらいかね? そんだけ削って、このペットタグを――」
「了解しました」
アラーキーのその言葉を聞き、彼の頭上を跳び越えセードーが妖精竜へと襲い掛かる。
「ハァッ!!」
空中歩法を発動しながら、セードーは妖精竜へと蹴りかかった。
妖精竜は慌てずに翼を羽ばたかせ、その場を飛び退く。
それに追いすがる様に、地面すれすれを這うかのような低姿勢でキキョウは駆けて行った。
「逃がし、ません!」
そして妖精竜の横っ腹を的確に打ち据える。
横旋回によって生まれた衝撃波が、妖精竜の臓腑を突き抜けた。
苦しそうな悲鳴を上げる妖精竜だが、それでも飛び上がろうとするのを止めず、もう一度翼を大きくはためかせる。
それと同時に生まれた、あまりにも大きすぎる爆風がキキョウの体を地面へと押さえつけた。
「キャッ……!」
「おいおい、飛び上がられるとこっちが不利だって……!」
アラーキーは妖精竜を逃がすまいとワイヤードナイフを振り上げるが、強風に煽られ体勢が維持できない。
「クッ!」
悔しそうに呻くプレイヤーたちを尻目に、妖精竜は悠々と空へと飛び上がっていく――。
「――コォォォ……」
――その頭上を、別のプレイヤーが取っていることにも気が付かず。
空中歩法によって妖精竜の真上を取ったセードーは、両腕を振り上げる。
「飛翔――猿臂打ちィ!!」
振り下ろされた両肘が、勢いよく妖精竜の後頭部へと叩きつけられる。
練気法による強化も合わさり、妖精竜のHPを削るセードーの一撃。妖精竜はたまらず、地面へと墜落していった。
その頭上に見える名前の下のHPバーの減り具合は、2割程度。あと5,6割は削らねばならない。
「コォォォ……!」
妖精竜を追って落下しながら、セードーは練気法を掛けなおす。
そして拳を握り、墜落する妖精竜へ追い打ちをかけるように、それを叩き付けた。
「衝撃……砲ッ!!」
拳そのものは届かない……だが、その先から打ち出された衝撃波は、妖精竜のがら空きの胴体を捕え、打ち据える。
妖精竜は悲痛な悲鳴を上げ、さらに速度を上げて地面へと落ちる。
やがてその体は妖精島の地面へと激突し、轟音と衝撃を辺りに撒き散らす。
この時点で、さらに1割ほど妖精竜のHPバーが減った。
「うぉ…! あと少しか!」
ワイヤードナイフを回し構えるアラーキー。
よろよろと立ちあがる妖精竜へさらなる追い打ちをかけようとするが、そんな彼より先に飛び出した影があった。
「……ッ!」
キキョウだ。
少しだけ申し訳なさそうな表情をしながら、キキョウは何とか四肢に力を入れて立ち上がった妖精竜の上へと飛び上がり、手にした棍を叩き付ける。
同時に叫ぶ。
「メガ……クラァァァッシュゥゥゥ!!!」
一撃必殺のスキル名を。
キキョウが手にした棍を中心に、衝撃波が辺りへと破壊を撒き散らす。
自らの背中で起こった爆発に、妖精竜は再び大地へと叩きつけられてしまった。
「ぉおぃ、やりすぎんなよ……!?」
思わず顔をしかめるアラーキーであったが、妖精竜のHPバーはいまだ3割強の残量を残している。
「……いらねぇ心配だったか。ならっ!」
アラーキーはナイフを地面へと投げつけ、ぴんと張ったワイヤーを弦に見立てて爪弾く。
「土竜発破ッ!!」
スキル名を唱えられるのと同時に、突き立てたナイフから導火線の火花のようなものが放たれる。
その火は微かに蛇行を繰り返しながら妖精竜の体の下へと潜りこみ、その下にある地面を勢いよく爆破した。
「キャァッ!?」
妖精竜の上に載ったままであったキキョウは、突然の爆発の驚き、宙に浮きあがった妖精竜の体の上から弾き飛ばされる。
その体は、一度地面へと降りたセードーが危なげなく回収した。
「っと、すまん!?」
「だ、大丈夫です! それより!」
三度目の御姫様だっこを体験しながらも、キキョウは妖精竜の方を指差した。
その頭上のHPバーは、すでに3割を切っている。
「ペットタグを!」
「おう!」
アラーキーは一声叫び、妖精竜へと駈け寄ろうとする。
だが、妖精竜はそれをさせない。
全身の毛を逆立て、叫びを上げる。
同時に吹き荒れる風。妖精竜を中心に爆風が逆巻き、その近くに何者も寄せ付けないように荒れ狂った。
「発狂モードか……!」
アラーキーは舌打ちと共にわずかに下がる。
特定のモンスター……特にレアエネミーと呼ばれるモンスターは、HPが一定以下になると発狂モードと呼ばれる行動パターンを取るようになる。こうなると、迂闊に近づけば大ダメージを喰らいそのまま死に戻ってしまうこと必至だ。
こういう場合の定石は、発狂モードがいったん収まるまで待つことであるが……。
「そのまま飛び上がられたりすると面倒だ……!」
アラーキーはセードーへと振り返る。
「セードー! ちょっと手を貸せ!」
「具体的には?」
「上の方に飛ぶ!!」
「わかりました」
セードーはキキョウの体を地面に下し、アラーキーへと駈け寄る。
その間に、アラーキーは地面を1メートル四方に切り取り、板のように持ち上げる。
「こんなもんか……! セードー!」
「いつでも」
セードーが頷くのを見てから、アラーキーはセードーの上へと板を投げ、さらに自分の体がその上に乗るように飛び上がった。
セードーは軽く拳を引き、アラーキーがその板の上へと着地したのを確認してから。
「衝撃砲ッ!!」
真上へと降ってきたそれに向かって、全力で拳と衝撃波を打ち据えた。
「大地硬化!!」
アラーキーはセードーの衝撃に備え、自分が乗った板を魔法で強化する。
セードーの攻撃とアラーキーの魔法はほぼ同時に完了し、衝撃波で板は打ち上げられアラーキーはまっすぐに飛び上がっていった。
「っし、さすがSTR特化……!」
セードーの手によって打ち上げられた即席のエレベーターは、アラーキーの思惑通りに妖精竜の竜巻を跳び越える。
ここからであれば、発狂モードの生み出した竜巻の影響がない……その目の中へと飛びこめる。
「っしゃぁ! 妖精竜……!」
アラーキーはその手にペットタグを握りしめ、板を蹴って竜巻の中へとその身を飛びこませる。
「ゲットだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
咆哮を上げ、竜巻の中へと飛び込んでいくアラーキー。
ちょうど、上空へと逃げていた妖精竜とばっちり目が合った。
「逃がさねぇぞ、妖精竜ッ!!」
アラーキーはワイヤードナイフを投げ、その首にワイヤーをひっかける。
妖精竜は構わず上昇しそのまま逃げようとするが、アラーキーは何とか妖精竜の体に取りつく。
「んごごご……!!」
そして首へと抱き付き、伸縮自在のペットタグのチェーンを伸ばして妖精竜の首へと巻いていった。
「おとなしく、しろ……このぉ!!」
自身に何かされる気配に、妖精竜は一層激しくその身をよじる。
だが、抵抗は無意味とばかりにアラーキーはペットタグのチェーンを伸ばし。
「おぉりゃぁぁ!!」
がっちりと、解けないよう。その首にタグを巻きつけた。
カチリと、タグの金具同士が噛む音がする。
それと同時に、過剰に伸びていたチェーンが妖精竜の首回りのサイズに最適化するように縮む。
タグに掘られていたアラーキーの名が、ひとりでに消えてゆく。
それに呼応するように、妖精竜の瞳から敵意が消え、その全身を震わせていた怒気が収まる。
「っとぉ!」
アラーキーは妖精竜から振り落とされないようにその身にしがみ付こうとするが、その心配はなかった。
妖精竜は、自分からアラーキーが落ちないように体を動かし、ゆったりとした安定飛行を始める。
「お、おおぉ……!」
自らの行動がうまく言ったことを確信し、アラーキーは顔を綻ばせる。
そして、無事にアラーキーの騎乗ペットとなった妖精竜が、勇ましい咆哮を妖精島上空で上げたのであった。
なお、他の方法はテイミングを利用してそれなりの確率で捕獲するか、撃破時の低確率レアドロップである卵で1から育てるかの模様。




