log210.一週間が経ち
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《イノセ~ントワァルドレェディオー!! 本日のお相手はこの俺マッソーとぉ!!》
《こんにちわー! ギルド・プロダクションIW所属の、ロクでーす! よろしくお願いしまぁーす!》
《羨ましいか、ラジオの前の諸君!? フハハハー! リアルもクソ熱くなってきた中、俺とロクちゃんは涼しい涼しい、フェンリル第三スタジオで、現在のマンスリイベント進捗報告といくのぜー!》
「いつものように鬱陶しいなこの禿げポンたんは……。マンスリイベントん時は、大陸全土で電波ジャック状態やし……」
「そう言ってやるなって。あたしらはあたしらで、潮騒のカフェーで涼しく過ごしてんだからさー」
クルソルを介して響き渡るマッソーの声を聞きながら唸り声を上げるウォルフに、よく冷えたクリームソーダを啜るサン。
さらに白玉ぜんざいを味わうミツキと、抹茶アイスを頬張るキキョウも苦笑する。
「そうねー。クーラーの効いた部屋で過ごすのも悪くないけれど、こうして暑い日差しを堪能するのも乙じゃないかしら?」
「私は体が弱いから、クーラー駄目で……。こっちの方が、過ごし易いです」
思い思いの感想を抱きながら、マッソーのラジオを聞き流す四人。ちなみに、イノセント・ワールドは世界中でプレイされている関係上、季節の概念はなく、それぞれの街の気候は常に一定となっている。
闘者組合の面々が今いるヴァナヘイムは基本的に常夏。アルフヘイムが春で、ムスペルヘイムが秋、ニダベリルが冬をイメージしているらしい。鉱山と火山に覆われているニダベリルが果たして冬なのかどうかはおいておいて。
「それにしても……もうマンスリーイベントの時期だったのねぇ」
「んだなぁー。シャドーマンの騒ぎがあったから、すっかり忘れてたぜ」
ミツキの言葉に同意するように、サンが頷く。
――シャドーマンの撃破から、一週間が経った。
謎のPKの撃破は、エタナが宣言通りに記事にし、号外としてイノセント・ワールド中にばらまかれることとなった。
セードーが放った最後の一撃を一面に飾った号外は、世界中のプレイヤーを驚かせることに成功した。
……しかし、そのすぐ後に起きた出来事が、世界中の注目を集め、シャドーマン撃破のニュースはあっという間に忘れ去られてしまった。
「それに、円卓の騎士の解散……あれも結構な騒ぎになりましたよね」
「おう、せやったな。……まあ、ハイエナギルドになりさがったゆうても、古参ギルドの一つやった、ちゅうわけやな」
シャドーマン撃破の方の翌日。円卓の騎士のGMであるランスロットが、円卓の騎士の解散発表を行ったのだ。
一時復帰した、元円卓の騎士クローバー・アルト・グレイン付添いの元、行われた会見は実に二時間にもおよび、イノセント・ワールドにおいて長い歴史を誇っているギルドの一つであった円卓の騎士の解散に至った理由がすべて語られた。
ランスロットが語った理由は、イノセント・ワールドのプレイヤーたちにとっては周知の事実であったが、それをGMであるランスロットが認め、公表したということは大きな驚きとなってイノセント・ワールド中を駆け抜けていった。
円卓の騎士解散後、元々円卓の騎士に所属していたプレイヤーたちは、各々の希望に従いアルト・グレインの仲介の元、新しいギルドを設立したり、別のギルドへの移籍などが行われる運びとなった。
そして円卓の騎士を隠れ蓑にハイエナ行為に及んでいたノースのその後であるが、アラーキーが持ち帰った例の書面メールが証拠となり、運営より二週間のアカウントロックが行われることとなった。不干渉主義の運営も、文面として残された証拠を提示されればしっかり動いてくれるようだ。……まあ、円卓の騎士乗り捨ての一環として狙われたウォルフとしては、運営の対応に若干の不満が残るようだが。
「……しっかし、あんだけやらかしとったボンクラの処分が二週間程度て短いんちゃうんか? もっとこう、アカウント取り上げとか、そのくらいの処罰があってもええんちゃうんか!?」
「それはあたしも思った! ……けど、ノースの奴リアルで罰喰らってるみたいだぜ? 知り合いの知り合いに関係者がいたから聞いてみたんだけど」
「サンちゃんの人脈ってどうなってるの……?」
「あんま詳しくはあたしも知んない。まあ、それはともかく、今回の一件が露呈したせいで、一族から半追放処分だって。権限だけじゃなくて居場所も取り上げれて、半年分の活動資金だけ渡されて、成果があげられたら戻っていいんだと」
「それは大丈夫なのかしら……?」
半年分がどの程度の資金なのかはわからないが、一般的に考えればかなりの重罰ではないだろうか。要するに、生活資金だけ渡されて家を追い出されたわけだ。成人していればまだ何とかなろうが、未成年だと軽く詰んでいるだろう。まあ、あまり同情の念はわかないが。
アルトたちの一族にも軽く通じるサンの人脈に首を傾げながら、キキョウは白玉を口に運ぶ。
「……んー。そう言えば、皆さんは結局、カネレさんに何をお願いしたんですか?」
そして口にするのは、一週間前のシャドーマン撃破の際の報酬のことだ。
イノセント・ワールドの開発側の人間であるカネレからの直接報酬。それはイノセント・ワールド内において実現可能なことを、なんでも一つか二つカネレが叶えるというものだ。
さすがに未実装のアイテムなどをすぐに実装させると言ったことは不可能だと言われたが、そうでなければ割と何でもなるというのがカネレの言葉であった。
事実……。
《――さて、イベントの進捗情報なわけだけど、ロクちゃんはどう? 捕まえられた? 妖精竜》
《それがまだなんですよー。新しく遠洋にできたっていう妖精島……ちょっと遠くて! そこまで行けてないんですよー!》
《あー、確かに遠いよねぇ。早足の漁船は出てるけど、結構お高いもんねぇ》
「……遠いんやな、新妖精島」
「まあ、大分沖の方で沈みましたし……アバロン」
今発生しているマンスリーイベント……とあるプレイヤーの要望と意見を採用したという建前で出現した、新しい妖精島の話を耳にし、ウォルフとキキョウがポツリとつぶやいた。
実装後も、ランダム遭遇系のレアエネミーであった妖精竜……そのあまりの遭遇率の低さを苦に感じた一人のプレイヤーが熱心に妖精島の停留を求めたため、その熱心さに折れた運営が実装した……と説明されているのだが……。
実はこの島、シャドーマン撃破の際の報酬としてアラーキーが求めたものである。
自身の報酬権利を放棄したアラーキーであったが、その後改めて考え直し「タイミングはいつでも構わないから、妖精竜が低確率で出現する地域を実装してほしい」とカネレに申し出たのだ。
その理由は、妖精竜の普及率の低さだ。せっかくの頼れる相棒である妖精竜……もっといろんな人に接してほしいというのが、彼の願いであった。
自分のためではなく、人のためであるというのが、何とも彼らしいというか。
そして新妖精島が出現する場所となったのは、ヴァル大陸より遠く離れた洋上であり……円卓の騎士の旗艦であったアバロンが沈んだ場所でもあった。
これは、あの場にいた円卓の騎士関係者……特にランスロットの強い希望であった。
例え円卓の騎士がなくなるのだとしても、その思い出が詰まった場所に行き来ができるようにしたい……というのが、ランスロットたちの希望だったのだ。
新妖精島は一度到達できれば、クルソルを使ってワープが可能となる。いつでも、アバロンが沈んだ場所に赴けるというわけだ。
ちなみにアバロンが沈んだ場所と妖精島の座標が一致していることは公表されてはいないが、好奇心から下へ潜ったプレイヤーによりアバロンの残骸が発見されたことにより、イノセント・ワールドのプレイヤーたちが知ることとなった。
一時期はイノセント・ワールドを席巻するギルドの旗艦、運営も目標として使いやすかったんだろう、というのが大方の意見となっている。
アラーキーとランスロットたちの願いを知っているウォルフたちは、ラジオから聞こえてくる喧しいDJの語りを聞き流しつつ、自分たちがなにを願ったのかを語り始める。
「私は結局、遺物兵装のコアにしました。そのうち、入手することになるかもですし……。まだ、使いませんけど」
「あたしも遺物兵装コアだなー。……八極拳でも、武器は学ぶし。まだ、何にするかは決めてないけど」
「ギアは使えんのと違うか、確か。ワイはアクセ遺物兵装やな! このネックレス! どや? どや!? まだスキルは入れてへんけど!」
「あら、オシャレさん。私も遺物兵装、この片眼鏡ね。スキルは、何を入れようかしら」
遺物兵装は入手難易度と利便性が比例するアイテム。入手する機会があれば、率先して入手すべきだろう。たとえコアの状態だとしても、CNカンパニー辺りに持ちこめば、一財産にもなる。
……とはいえ、何でもくれると言った報酬で見事に四人被るのは、珍しいとも言えそうだが。
「……見事に皆被ったな」
「アハハ……まあ、遺物兵装はプレイヤーごとに特徴の変わるアイテムだから……ほら、私なんかはただの棒になると思うし」
どんよりした表情でつぶやくサンを慰めるように、キキョウは苦笑しながら肩を叩く。
もう少しお金(ゲーム内マネー)とか、経験値とか、選びようはあったかもしれない。
とはいえ、願ったものはもう戻せない。サンはため息をつきながらクリームソーダを啜り。
「……そういや、セードーも最終的に遺物兵装になりそうなんだっけか?」
今ここにはいない仲間のことを思い出す。
それを聞いて、キキョウが小さく頷いた。
「あ、うん。シャドーマンとの戦いの時にいろいろと仮実装されてたシステムを、簡単なバグ取りと一緒に、遺物兵装にまとめるんだって、セードー君は言ってたよ」
「ふーん……って、あれ? キキョウ、セードーのこと、君呼びだっけ?」
ふと耳にした聞き慣れない呼び名にサンが首を傾げると、キキョウは朗らかに微笑んだ。
「あ、うん。この一週間、ぜんぜん顔が見れなかったけど……メールはしてたから。なんだか、普通にお話しするより、良くメールしてて……いつの間にか」
「ふーん。前より仲良くなったんだねぇ」
「顔見いひんほうが仲良うなるってどないやねん……」
「フフフ……私なんて、いまいちすれ違うのに……フフ……」
サンはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、ウォルフとミツキが何やら形容しがたい表情になる。
彼女らの言うとおり、この一週間セードーは顔を見せていなかった。
先のシャドーマンとの戦いで、バグとも仕様ともつかない状況が発生したため、その調査と調整、バグ取りを行っていたのだ。
その間に、何やらセードーと一歩進んでいたらしいキキョウを、サンは軽く小突く。
「このこのー。顔見れなくてさびしがってねぇと思ったら、リアルの方で連絡取ってたのかよぅ」
「セ、セードー君がメールくれたのが始まりだもん! 私からじゃないよぅ」
「なんだよ、セードーから!? その方が驚きだけど、連絡は続けてたんじゃないかよぅ」
「だ、だって、メールくれたんだからお返事返さないと、って思ってたら、回数が増えたんだもん! しょ、しょうがないじゃない!」
「いいじゃんいいじゃん! セードーとのラブラブメール、今あたしに見せれー!」
「ら、ラブラブじゃないもん! あ、仲良くないって意味じゃないけど、そういうのじゃないもん!」
「――何の騒ぎだこれは」
キキョウのクルソルを奪いにかかるサン。
キキョウは素早く棍を取出しサンを威嚇し始め、そんな現場にセードーが現れた。
「あ、セードー君!?」
「よ、色男がお出ましだな!? ヒューヒュー!」
「なんだそのテンション……?」
セードーはサンの様子を訝しみながら、キキョウの隣に腰掛けた。
その自然な動作に歯を食いしばりつつ、ウォルフはセードーへ近況を尋ねる。
「ごの゛い゛っ゛じゅ゛う゛がん゛な゛に゛を゛じどっ゛だん゛や゛ごる゛ぁ゛……!!」
「何故濁点満載。先に伝えていただろう。シャドーマン討伐の件で、カネレのところに通っていたのだ」
「うりうりー」
「う~」
キキョウのほっぺを突きはじめるサンの姿を温かい眼差しで眺めながら、セードーは小さく息を吐く。
「……まあ、色々あったな。イノセント・ワールドの開発の裏事情を垣間見たり、なかなか有意義な一週間だったよ」
そうして彼はカネレを呼び出すべく、一週間前に獲得したメールアドレスを使用した日を思い出していた――。
なお、通数で言うなら、一日に五十件前後やりとりしたとかしないとか。




