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log190.シャドーマン再び

「しゃ、シャドーマン!?」

「なるほど。奴が先に侵入していたか」


 こちらを見て哄笑を上げるシャドーマン。ここに来るまでの破壊跡や、今いる動力炉の惨状を見るに、それはそれは大暴れだったのだろう。

 円卓の騎士(アーサーナイツ)としても、セードー達以上に望まぬ客だったことだろう。“シャドーマン”に対して宣戦布告こそしていたが、本物と一戦交えることなどノースたちのプランの中にはなかっただろうし。

 以前シャドーマンの強さを目の当たりにしているエタナは、怯えたように一歩後ずさった。


「ど……どうしましょうか!? こんなところにシャドーマンがいるなんて……!」

「予定外だが……逃がしてくれそうな雰囲気ではないな」


 ポツリとつぶやくセードーに応えるように、シャドーマンは跳躍した。

 身に纏うオーラが尾を引きながら弧を描き、セードー達のいる格子模様の足場へ着地した。

 ガシャンと大きな音を立て、足場が大きくグラリと揺れる。


「……っと」

「――シィ」


 足場の揺れが収まるのを待ってから、シャドーマンはゆらりと立ち上がりセードー達の方を見る。

 その顔に浮かぶ笑みは、以前相対した時よりもずっと生き生きしているように見えた。

 シャドーマンは笑みを浮かべたまま両手を広げる。


「――サア、アソボウカ!」


 そして口を開き言葉をしゃべる。

 声と呼ぶには、あまりにも甲高く、そしてひび割れた不愉快なものであったが。まるで機械が無理やり音を合成したかのようだ。

 シャドーマンの金切り声に顔をしかめながら、セードーは軽く首を振った。


「……初めて聞いたが、随分ひどい声だな……」

「な、何ですかこれぇ……! なんか、ひどい合成音聞いてる気分です……」


 エタナも耳を塞いで思わずといったように呟く。

 シャドーマンはそんな二人の様子を前に不思議そうに首をかしげたが、すぐにセードーに向かって歩み始め――。


「待ちなさい、シャドーマン」


 その前に、棍を手にしたキキョウが立ち塞がった。

 片手に握りしめた棍を振るい、シャドーマンと正対するキキョウ。


「スゥー……ハァー……!」


 深く深呼吸した彼女は、頭上で棍を回し、力強く構えた。


「あなたの相手は、私がします……! かつての大敗、ここで雪ぎます!」

「―――?」


 シャドーマンはキキョウの言っていることが理解できなかったのか小首をかしげたが、すぐに笑顔を取り戻す。

 なんにせよ、彼女が遊び相手になってくれると考えたのだろうか。

 クルソルでキキョウのベストショットを取るべく準備しつつも、エタナは不安そうにセードーへと問いかけた。


「せ、セードーさん……! 大丈夫なんでしょうか!? キキョウさん一人じゃ、さすがに……!」

「……だとしても、割って入るわけにもいかない」


 セードーは腕を組み、まっすぐにキキョウの背中を見つめる。

 小柄な彼女の背中は、緊張に強張って見える。しかし、それ以上に不退転の意志を表しているようにセードーには思えた。


「俺が手を貸すのは……キキョウが負けたときだ」

「……わかりました」


 セードーの言葉にエタナは一瞬迷いながらも、小さく頷く。

 そして目の前で強敵に立ち向かわんとする友人の背中を、自分も見守ることとした。


「………」

「―――」


 辺りに響き渡るサイレンの音が聞こえなくなるほどの緊張感。

 赤く輝く部屋の中、最初に動いたのはキキョウであった。


「ヤァァァ!!」


 手にした棍をクルリと回し、体も回転させ、横薙ぎに棍を振るう。

 腰に通し軸を安定させた一撃を、シャドーマンは後方に跳んで躱す。

 キキョウはそれを逃がさぬと、追い立てるように棍を振り回す。

 腰から肘。肘から肩。さらに首へと棍をからめるように振り回し、触れるものすべてを弾き飛ばさんとばかりに、一つの暴風のようになりながら、キキョウはシャドーマンへと追い迫る。


「旋風嵐ッ! テェェェイ!!」


 そう広くもない足場の中、追い立てるように迫るキキョウの棍を前に、シャドーマンはクルリと背中を向けて別の足場へと飛び移る。


「ッ!」


 そうして少し離れた足場へ飛び移ったシャドーマンは、キキョウに向けて手招きをした。ニヤリと笑みを浮かべながら。

 挑発にも見えるその行為に応えるべく、キキョウは大きく飛び上がった。


「逃がさない……!」


 足場を揺らし、シャドーマンへと迫るキキョウ。

 ……そうして中空へ飛んだ彼女に、シャドーマンは無造作に掌を向けた。


「―――シィ」


 浮かべた笑みは深く、暗い。

 キキョウがその笑みの正体に気付いた瞬間、シャドーマンの掌から鋭い氷の剣が飛び出した。


「――魔氷斬雪剣(ダイヤモンドクロス)――」

「っ!」


 ノイズ混じりの、妙に流暢な人の声。それにキキョウが驚く間に、巨大な氷の刃は彼女の体を貫こうとする。


「光陰流舞!」


 しかし彼女の体に氷の刃はかすらない。

 光が瞬いたと見えた瞬間、キキョウの体はシャドーマンの立っている足場へと移動していた。

 大きく棍を払いながら、シャドーマンへ向き直るキキョウ。

 それを迎え撃つように、シャドーマンは両手を広げながら彼女の方へと振り返る。


「――ヤァァァァ!!」


 鋭い気勢と共にシャドーマンへと躍り掛かるキキョウ。シャドーマンは、今度は両手でもってキキョウの棍を捌き始めた。


「キキョウさんもさすがですね……! 私じゃ、最初の一撃でノックアウトですよ!」


 キキョウの戦いをスクリーンショットへ収めながら駆けるエタナ。

 彼女を追いかけながら、セードーは聞こえてきた声が気になっていた。


「今の声……どこかで……?」


 響いてきたのはシャドーマンの喉からだったが、明らかにシャドーマンは発声していたようには見えない。そもそも、聞こえてきたのは少女の声だ。機械の合成音にしか聞こえないシャドーマンの声ではない。

 そして、セードーは今の声に聞き覚えがあった。しかし、単語には聞き覚えがなかったため、記憶の底から声の主の名前が引き出せない。


「どこだ……? どこかで聞いているはずなんだが……」

「ちょっとセードーさん、どうしたんです!? キキョウさんが、ほら! 戦って――!」


 セードーが記憶の引き出しを必死に開けている間にも、戦いは進む。

 キキョウの棍を大きく飛んで回避したシャドーマンは宙返りを打ち、キキョウの頭上を跳び越える。

 背後を取られたキキョウは、シャドーマンに棍を振るいながら振り返る。

 しかしシャドーマンはキキョウの射程にはいない。目の前を通り過ぎる棍を眺めながら、再びキキョウに向けて掌を差し向ける。


「――召喚・熊之手兎――」


 向けられた掌に魔方陣が生まれ、その中から一匹のウサギが飛び出す。

 そのウサギは中空でキキョウを睨み、巨大な熊の手を出現させた。


「え、ベアクロー・ラビット!?」

「……どういうことだ? 何故奴が……?」


 キキョウの目の前に出現したベアクロー・ラビットは、その豪爪でキキョウの体を引き裂かんとする。

 不意打ちにも近い一撃に、しかしキキョウは焦らない。

 ベアクロー・ラビットの攻撃に対し盾にするように棍を両手で回転させ、一つのスキルを発動した。


「光陰無尽光ッ!!」


 スキル発動と同時に、キキョウが回す棍が光の輪を生み出し、その中から無数の光り輝く棍が飛び出した。

 輝く棍はベアクロー・ラビットの呼び出した熊の手に刺さり、本体ごと突き破ってゆく。

 相手の防御を無視する〈光〉属性の一撃を前に、ベアクロー・ラビットは再び沈んでゆく。


「なんですあのスキル!?」

「防御無視で、敵に密度の高い乱撃を与えるスキル……。光陰流槍から派生したと聞いている」


 ベアクロー・ラビットごと魔方陣を貫く光の棍は、シャドーマンにはわずかに届かずその体を逃がしてしまう。

 光の輪を失った棍を頭上で振り回しながら、キキョウはシャドーマンを睨みつける。


「――シィ」

「……っ!」


 一歩後ろへ飛んだシャドーマンは、キキョウを見上げてまた笑みを浮かべる。

 強い愉悦の浮かんだその笑みを前に、キキョウは顔を険しくした。

 正対する二者をスクリーンショットに収めながら、エタナは緊張した面持ちで呟いた。


「さっきの一撃、当たらなかったんだ……」

「反撃も当然視野の内だったのだろう……だがそれ以上に……」


 セードーは唸りながら、シャドーマンを見やる。

 こちらを機にかける様子もなく、今はキキョウに集中しているようだ。愉悦に歪んだ顔を、まっすぐ彼女に向けている。


「シャドーマン……奴はどうなっているんだ? また別の人間の声がしたぞ?」

「……ですよね。さっきのスキルも、どういうことなんでしょう……?」

「わかるか? エタナ」

「はい。ベアクロー・ラビット……というより、レアエネミーを召喚するスキルがあるんです。召喚特化になるんで、それ以外にスキルポイント振る余裕は、よほどLv高くなきゃできないはずなんですけど……」


 だが、同時にシャドーマンは先ほど魔氷斬雪剣(ダイヤモンドクロス)なるスキルを使用している。

 魔導書か何かのスキル習得系アイテムを使用した可能性も捨てきれないが、それ以上に手順がむちゃくちゃだ。

 差し向けた掌からいきなり魔法が放たれるなど、聞いたこともない。

 明らかに以前と異なる戦法をとるシャドーマンを見て、セードーは眉をしかめた。


「いったい何があったんだ……? いや、何をしてきたんだ、シャドーマンは……」

「前、セードーさんが戦った時は、どうだったんでしょうか?」

「……完全に徒手空拳だった」


 セードーが睨む間に、キキョウとシャドーマンが再びぶつかる。


「ハァァァ!!」

「シィィヤァァァ!!」


 振るわれる棍。その間を縫うように突き入れられる拳。

 キキョウに攻撃を仕掛けるシャドーマンの攻撃の方は、どこかセードーの外法式無銘空手のものに似通っている。


「ちょうど、あんな感じで?」

「……そうだな、あんな感じだ」


 振るい、振るわれる技々。

 キキョウの紫電打ちを凌ぎ、シャドーマンが羅漢斬空脚を打ち下す。

 手数で回すシャドーマンの攻防を、キキョウは間合いの広さで押し戻さんとする。


「シィィィ!!」

「くっ……!」


 しかし、シャドーマンの猛攻は間合い程度では止まず、キキョウはやがて押され始める。

 シャドーマンの拳を何とか捌かんとするキキョウだが、ある一撃を受け切れず、

別の一撃が肩を掠める。


「………」

「キキョウさん……!」


 徐々にではあるが追い詰められ始めるキキョウの姿を、セードーとエタナはじっと見守っていた。




マダマダオワラナイ……。

モット、モット、モットォ!!

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