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log169.ケンカ

「……まあ、ノースがこちらを目の敵にしている理由は分かった」


 最初に沈黙を破ったのはセードーだ。

 彼は小さく眉根を寄せて頷きながら、眉間のしわを揉み解す。


「あとついでに、ノースが全てをランスロットに押し付けようとしているのも理解した……。ランスロットが見た目通りの年齢だというのであれば、大した下衆っぷりだな。吐き気もせん」

「何も知らない子供に全部押し付けるなんて……。良心が痛まないんでしょうか……」


 むしろ自らが傷ついたかのような痛ましい表情のキキョウに、ブルースが微かに首を振って見せる。


「良心が痛むようなら、彼はきっと大成していた器だよ。重ねて言うが優秀な人間なのだよ」

「人間ができとらへんやんか」

「そっちの育成重視しろよ」

「面目次第もない」


 ずばりと言い切るウォルフとサンに、ブルースは頭を垂れた。


「しかしそこが一番難しいところでね。同じ環境で育っているはずのアルトとは、まるで逆の方向に育っているのだよ」

「何度か名前が挙がっていますけれど、アルト君ってどんな方なのかしら?」

「アルト様はかつての円卓の騎士(アーサーナイツ)においてクラブのエースを務められるほどの才子であり、キングアーサーの後継とも呼ばれたお方で剣の腕にも秀で、さらに人柄もよく多くの者に慕われ――」

「仮面を付けていますので素顔はいまいち不明ですが、アスカさんの言う様に優秀な人材だったようですねー」


 立て板に水といった様子で語りだすアスカを置いて、エタナがネタ帳と書かれた手帳を捲る。おそらく、今まで集めた情報でもまとめてあるのだろう。


円卓の騎士(アーサーナイツ)における交渉事を一手に引き受けていたようで、初心者に対する戦闘支援を旨とする性質上、よそのギルドとの衝突も多かった円卓の騎士(アーサーナイツ)に関する揉め事をすべて解決してみせています。彼自身の実力も相まって、円卓の騎士(アーサーナイツ)の二代目GM最有力候補だったのですが、キングアーサー引退と同時にゲーム活動の休止を宣言。その後は一年前後ぱったり音沙汰がなくなっています」

「もめ事を解決……弁護士の卵みたいな人なのかしら?」

「どうだろう。彼は弁舌が立つ方ではないからね。しかし彼の実直な人柄は、多くの人間を引き寄せたのは確かだよ」

「さらにかつてのマンスリーイベント時に指揮をとられた際は、それはもう八面六臂の活躍を見せ、少数の群で多数の敵を押し止めるばかりか、そのまま一気呵成に敵本陣へ乗り込み、一刀の元敵軍の指揮官を討ち取って見せたときにはなぜ彼がスペードではないのかと噂され――」


 誰も聞いていないアルトの自慢話を延々騙り続けるアスカの姿に苦笑するブルース。

 アスカは極端な例だろうが、少なくとも二つ名を持つだけの実力はあったということだろう。


「キングアーサーのように未来を切り拓く“王”の器でないのは確かだが……平時においてもっとも難しい平和を保つことのできる“君主”の器であったのだよ」

「ふむ……物事の均衡を正す能力……アーサーも高く評価しておったものだ。惜しむらくは、彼自身がその能力を評価しておらんことか……」

「クラブのアルト、確かに自己評価は低いですね。口癖は“私でなくとも大丈夫でしょう”だったとか?」

「それはゴシップネタじゃないか! アルト様の口癖は“皆さまであれば大丈夫でしょう”だっ!!」

「ぎゃぁぁぁ!? すいませんすいません!!」

「言葉は似ているが、ニュアンスがだいぶ違うな」


 アスカの逆手のショートソードを危ういところで白刃取るエタナ。

 双方の技の冴えに感心したように頷きながら、セードーは改めてブルースへと向き直る。


「しかしまあ……ただノースの犯行動機を語りに来たわけではないだろう、ブルース。おしゃべりが趣味とも思えん。狙いは何だ?」

「狙いというほどのものでもないよ……私はただ、聞いてみたいだけだ」


 ブルースはセードーへ微笑みかけながら、ゆっくりと問いかけた。


「君たち……闘者組合ギルド・オブ・ファイターズが今回の件に対し、どう動くのか」

「―――いくらその身を堕したとはいえ、かつて大ギルド最大勢力の一角を担ったギルドが円卓の騎士(アーサーナイツ)だ。最盛期に遠く及ばんとしても、一弱小ギルドに落とせる相手ではない」

「ゆうてくれるやん? そのボンクラギルド勤めの女が」

「そのボンクラに務めているからこそ知るのだ。あのギルドの底力を」


 牙を剥き敵意をむき出しにするウォルフの眼光を真っ向から受け止め、アスカは静かに続ける。


「……たとえ飛空艇アバロンがなかろうとも、多くのレアアイテムがなかろうとも……彼らは大ギルドの端くれなんだ。有象無象の塊であろうとも……鋼鉄の鎧を纏った騎士が彼らなんだ。だから、君たちでは――」

「小難しい話はよくわからんが」


 アスカの説得らしい文言を押し止め、セードーは小さく鼻を鳴らしながらこう答えた。


「売られたケンカは買うものだろう。三途の川の渡り銭、六文銭を叩きつけて、な」

「……は? ロクモン……?」

「―――ッハ! せやな、セードーの言う通りや……。あんだけ豪快に安売りされて、買われへん方がもったいないわなぁ」


 セードーの言葉の意味が分からず呆けるアスカを置いて、ウォルフが掌に拳を打ちつける。

 その乾いた音に合わせる様に、サンが口笛を吹いた。


「ヒュゥ♪ 言うじゃんセードー。そういうセンス、あたし嫌いじゃないぜ?」

「はしたないわよ、サン。……確かに、撒かれた種は刈り取らないと、ね」


 口笛を吹くサンを窘めつつ、ミツキは小さく微笑んだ。


「言われっぱなしというのも、癪だものね……。お灸を据えに行きましょうか?」

「……そうですね。このままじゃ、いけませんものね」


 そしてキキョウは瞑目し、少しだけ楽しそうに微笑んだ。


「……悪の栄えた試しなし……。自分の手で、実行してみる機会です!」

「うむ! その意気やよし! 若人よ、苦難の先にこそ光あれである!」

「私にぜひ密着取材をさせてください! いい記事書けそうです!!」


 タイガーとエタナまでセードー達を後押しするようなことを言い始め、アスカは頭を抱えてしまった。


「君たちは……人の話を聞いていないな!? 勝てるわけないだろう! そもそも君たち素手じゃないか! 鎧装備で高Lv勢揃いの円卓の騎士(アーサーナイツ)に! 常識的に考えて!」

「安心しろ。空手は元々、鎧兜に刀を装備した薩摩武士に対抗すべく開発されたとも言われる武術……。剣と鎧を身に纏った程度の騎士であれば、むしろいい的だ」

「一撃の爆発力を重視する八極拳が、うすぺらい鎧なんぞで止まるか! 弾丸みてぇな一発お見舞いしてやんよ!」


 グッと拳を握るセードーとサン。それに同調するように、ウォルフも頷いた。


「ボクシングは紳士のスポーツ……。当然、相手の状態になんぞ左右されへん! 当たるんやったら何ぼでもなるわい!」

「何の根拠にもなっていないわよ、ウォルフ君? ……もちろん、我が水月流護身術、鎧兜程度では怯みませんとも♪」


 おどけて言うミツキに続き、キキョウもやや興奮したように叫んだ。


「橘流杖術は戦国に端を発する実戦武術です! 杖の持つ無限の変化、ごらんにいれましょう!」

「そういうことじゃなくて! そういうことじゃなくてー!?」


 もはや涙目になりつつ叫ぶアスカ。

 そんな彼女の隣でクツクツと笑うブルース。


「思っていた通り……皆一心だ。二心無く、己の持ちうるものに信を捧ぐ……か。その在り様、確かに見せてもらったよ」

「それこそが我が闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの唯一の掟。己の信ずる武に、己を捧ぐのが我がギルドなり!」


 ラッドスプレッド・フロントを決めるタイガー。

 エタナはタイガーのスクショを取りながら、アスカを慰めるようにポンポンとその背中を撫でた。


「ごく一般論で正論なご意見をありがとうございます。――ですけど、ここは逸般人の集まりですので、そうした基本的な意見が全却下は良くある話なんですよー」

「私はこの人たちを思っていってるのにぃ……!」

「気持ちだけ頂いておこう。それで十分だ」


 泣きが入りだしたアスカに頷いてみせながら、セードーは振り返り今後の相談を始めた。


「……先の話があった以上、円卓の騎士(アーサーナイツ)が本腰入れてこちらに侵攻してくることはなかろう。なので出鼻をくじく意味も込めて、今日中に一回襲撃をかけてみたいのだが」

「ええやんええやん? 敵本拠地に殴り込みやな!」

「あたしそういうの大好き!」

「あ。じゃあ、一時間休憩挟みませんか? ちょうどリアルがご飯時だし、せっかくですから四時間(フルタイム)、円卓の騎士アーサーナイツ戦に注ぎましょうよ!」

「いいわね、それー。ちょっと残りのログイン時間が微妙だものね」

「ふぅむ。吾輩は時間が合わなさそうである。この後会合があるのである」

「ミスターが出張られますと、それだけで終わりそうな気がしますし……」

「む? そうであるか」

「ええ。さすがにLv100ともなりますと……。っと、チャット? ちょっと失礼」


 着々と決まってゆく円卓の騎士(アーサーナイツ)への侵攻作戦。エタナは少し離れた一でそれを眺めつつ、ブルースへと問いかけた。


「実際のところ、勝率はあるんでしょうかね? いくら堕ちたと言っても、アスカさんの言うとおり大ギルドの一角ですし……」

「再編を経た円卓の騎士(アーサーナイツ)は、ノースの手駒で固められている。全員、ノースより受け取ったレアアイテムで身を固めた典型的な効率厨と呼ばれる人材……彼ら、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの動きについてこれる者はいないよ」


 ブルースは穏やかに微笑みながら、しっかりと頷く。


「この会戦、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの勝利は約束されている。振られた賽の目は、どう転んでも必中だよ」

「はぁ……まあ、私としてはかっこいいセードーさんが見れればいいのですが……。しかし、アバロンはどうするのです? あの飛空艇、なかなか捕捉できませんし、円卓の騎士(アーサーナイツ)の中でもそれなりの地位でないと直接転移できないと聞きましたが」

「このたびの再編で、アスカ君もその地位から下された……。しかし策はあるとも。……あー、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの皆さん! 私から一つ提案があるのだがね」


 ブルースは小さく一つ咳をして、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの話し合いへと参戦していった。




なお、転移キーはGMとその代行が弄れるため、その関係で弾かれた模様。

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