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log164.三度、セードーVSウォルフ

 ――立ち上がりは実に静かだった。

 セードーとウォルフは同時に踏み込み、互いの拳を振るう。


「「―――」」


 鋭い風切音とともに、互いの頭を掠める拳。

 至近距離で睨みあう二人は、数瞬の後に上体を逸らし――。


「シィィィィ!!」

「オォォォォ!!」


 示し合わせたように全力で打ち合いを始めた。

 お互いの急所を狙い、そして相手の攻撃を打ち捌くように拳を振るう。

 互いの腕が触れ合うたび、激しい打撃音が辺りに響き渡る。

 一歩も譲らぬ激しい打ち合い。しかし双方、一発も攻撃を受けていない。

 打ち振るう腕を払うたびに細かいダメージが入るが、クリーンヒットはない。

 嵐のような猛打は永劫に続くかと思われたが、次の一瞬、セードーとウォルフの拳が正面から激突する。


「シャァァァラァァァァァァ!!」

「ウゥオォォォァァァァァァ!!」


 空間が歪むかと錯覚するほどの轟音が辺りに響き、激突した二人を中心に辺りに衝撃波が生まれる。

 地面の砂はさながらさざ波のように波打ち、二人を覆い囲い、そして二人は受けた衝撃のまま互いに後方へと飛ぶ。

 砂を踏みしめ、ウォルフは素早くファイティングポーズを取る。


「フッ!」


 素早く呼気を整え、セードーとの間合いを詰める。

 対するセードーは天地の構えを取る。


「コォォ……!」


 深く深く、丹田へと気を練るように深い呼吸を行い、駆けてくるウォルフを待ち構えた。


「シャラァァァ!!」


 一気に深く踏み込んだウォルフは素早いジャブを繰り出す。やはり牽制など頭にない、本気のパンチだ。

 セードーは深く腰を落としてその一撃を回避し、ウォルフの足元をすくうように足を振り上げる。


「チェリャァ!!」


 ウォルフの股間を一気に蹴り上げる様に放たれた前蹴りは、滑るように回避された。

 滑らかなサイドステップ。足を取られやすい砂場とは思えないほどの機動力だ。

 足が振り上がりきる寸前、ウォルフはセードーの脇腹を狙いショートアッパーを繰り出した。


「シッ!」

「チェイ!」


 セードーはそれを迎撃するように肘を打ち下す。

 拮抗はほんの一瞬だが、足を引き戻すのには十分な時間だった。

 足は降ろさず、軸足を回し、鞭のようにしならせる。


「チェリャァァ!!」


 横殴りに振るわれる蹴りを、ウォルフは軽く屈みこんで躱し、一歩飛び退く。

 その間にセードーは足を降ろし、再び天地の構えを取る。


「コォォ……」

「………」


 深く呼気を吐き出すセードーと、無言で軽く足元を固めるウォルフ。

 しばし、互いを窺うように二人は動きを止める。


「………」

「………ッ」


 睨み合う二人。引き絞られる弦のごとく空気が張り詰めてゆく。


「―――!」


 今度はセードーが先に仕掛けた。

 すり足のような特殊な歩法でウォルフへと近づき、固めた拳を振るう。


「チェリャ!」

「シッ!」


 ウォルフはナックルパートでセードーの腕を弾き、逆に彼の懐へ飛び込もうとする。

 だが、いつの間にか彼の胸の辺りに据えられていた反対の手がウォルフの侵入を阻むように突き入れられた。


「ッ!」


 ウォルフは振るわれる腕を躱すようにスウェーを行い、再びアッパーを放とうとする。

 だが、逸らされたウォルフの状態に打ち振るわれるセードーの肘。


「オオォォォ!!」


 下手をすれば必死確定の一撃を、ウォルフはアッパーの機動を変えて迎撃する。


「シャァァァ!!」


 ぶつかり合う肘と拳。不十分な体勢から放たれたウォルフのアッパーはセードーの肘を打ち上げるに足る威力はなかった――。

 だが、セードーの肘はウォルフの拳とぶつかった場所から降りてこない。ウォルフのアッパーによって、威力が相殺されてしまったかのようだ。


「ッ!」


 そもそものはず。そもそも、セードーは今の肘打ちに必死の威力を込めていない。

 今の一撃は、ウォルフの真上を取るための、フェイク。

 ぶつかり合った肘を支点に、空中歩法(エアキック)で上を取ったセードーは、今度こそ必殺の一撃をウォルフへと振り下ろした。


「チェリャァァァ!!」


 振り下ろされた拳はまっすぐにウォルフの顔面へと振り下ろされ――。


「―――ッ!」


 次の瞬間、着弾した拳が轟音と砂煙を巻き上げた。






 吹き上がった砂煙を見て、キキョウは息を呑む。


「………!」

「あーあ。決まったな、ありゃ」


 サンはやれやれと言った風情で首を振る。

 結果は目に見えていたと言いたげだ。

 だが、ミツキとタイガーは厳しい眼差しで決闘の様子を見続けていた。


「……やりますね、ウォルフ君」

「うむ。大した胆力である」

「は? 何言って―――」

「あ……!」


 年長組の意見に首を傾げたサンは、キキョウの驚いたような声を聞き再び決闘の方に視線を戻す。


「ん? どうしたキキョ……オォ!?」


 そしてウォルフが倒れながらも、セードーの腕をがっしり掴んでいる光景を目の当たりにし、驚いたように目を見開いた。

 先ほどの砂煙……セードーの拳ではなく、倒れたウォルフの背中が上げたものだったのだ。






「………!?」

「へ、へへ……! つぅかまえたぁ……!」


 未だ振り下ろされる拳を目前に、ウォルフは不敵に笑って見せる。

 セードーは全力で拳を叩きつけようとするが、ウォルフの全力がそれをさせない。

 ぶるぶると震える目の前の拳を睨みつけながら、ウォルフは口を開く。


「人のこと優しい拳だのと抜かしてぇ……! おどれも大差ないやんかぁ……!」

「……ッ!」


 セードーは痛みに耐えるように顔を歪め、しかしすぐに歯を食いしばりながら拳をさらに突き下ろさんとする。

 だが、それをさせぬとウォルフは全身を力ませる。


「ぬぅぅぅぅ!!」


 砂の中に足を突き刺し、背筋に力を入れ、ウォルフは跳ねるように体を起こし上げた。

 あまりに予想外のことにセードーは一瞬反応が遅れ、ウォルフに腕を掴まれたまま体を跳ね飛ばされてしまう。


「ぐっ!?」

「どぉぉりゃぁぁぁ!!」


 ウォルフはその勢いのまま立ち上がり、セードーの腕を掴み、そして思いっきり振るう。

 重心さえ狂ってしまったセードーは、体勢を立て直す暇さえ与えられず身体を投げられてしまう。


「うぁぁぁ!?」

「シィィィ……!」


 思わずといった様子で悲鳴を上げるセードー。いつになく崩れている彼の調子を突くことに、ウォルフは一切躊躇しなかった。

 スキル・ソニックボディを発動し、風を纏うウォルフ。

 空中歩法(エアキック)でセードーが体勢を取り戻す前に、彼は空へ駆け抜ける。


「シャラァァァァ!!!!」


 鋭く風を切り、駆け抜けたウォルフは左腕を振るう。

 放たれたパンチはさながらマシンガンのごとく、その衝撃でセードーの体を打ち貫いてゆく。

 セードーは素早く両手を交差させてウォルフのパンチを防がんとするが、その隙間を縫ってウォルフのパンチはセードーの全身を打ち抜いてゆく。


「シャァァラララララララララララ!!!!!」


 左腕一本とは思えない連射力。十数本の腕が一度にセードーの元に殺到しているようにしか見えなかった。

 いかに耐久力だけであれば闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの中でタイガーに次ぐ数値を持つセードーであっても、これだけの攻撃を耐えきることは困難だ。


「ぐ……く……!?」


 じりじりと削られるHP。自由落下すら許されぬまま、嬲られてゆくセードー。

 やがて耐え切れず下がった防御を縫い、ウォルフの一発がセードーの顔面を貫いた。


「ご……!?」


 揺れる頭。脳こそないが、クリティカルヒットの快音が響き渡り、その衝撃でセードーの視界が歪む。

 瞬間、空を蹴り、ウォルフは一気に飛翔する。

 身に纏った風は鋭さを増し、速度を増し、ウォルフの姿が一瞬で豆粒のようになり――。


「シャァァァァァァァラァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 視覚化するほどに分厚くなった風を身に纏ったウォルフが、渦巻くそれごと抉りこむように拳を放った。


「マッハサイクロンンン!!! ナッコォォォォォォォォォォォ!!!!!」


 渦巻く風の塊がセードーへ音速でぶち当たり、轟音を響かせる。


「!?!?!?」


 現実であれば、体がバラバラになってしまいそうな衝撃が、セードーの全身へと襲い掛かる。

 そして風さえ打ち抜き、振るわれたウォルフの腕がセードーの体の真芯を捉え。


「おぉぉぉちろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ウォルフの裂帛の気勢と共に、その体を弾き飛ばした。

 叫び声さえ上げることも間々ならず、セードーの体は風ごと落下。

 さながら流星のごとく、セードーの体は地面へと叩きつけられた。

 ―――そして、止めの竜巻が生まれ、セードーの体ごと決闘場(バトルドーム)を打ち砕いた。






「ウォルフ、勝ちやがった……。っていうか、スキル込みとはいえ、あんなに動けんのかあいつ……」


 地面に着地するウォルフの姿を、サンが呆然と眺める。

 セードーを投げ飛ばし、そして止めを刺す間での彼は、サンがよく知っているウォルフではなかった。

 まるで人が変わったかのような、苛烈さが垣間見えた。先の戦いで、セードーへと突っかかっていた時など比にもならぬほどだ。

 ……あれこそ、ウォルフの真の実力なのかもしれない。普段お茶らけっぱなしの彼が、一切の慢心を捨てた姿が、あれなのだろう。

 呆然とするキキョウの隣で、サンは不安そうに空を見上げる。


「セードーさん……」


 止めの竜巻に巻き上げられ、セードーの体は空へと打ち上げられた。

 その姿はさながらぼろ雑巾のようだった。

 そして力なく彼の体はゆっくりと落下し……、激しい音を立てて砂浜へと落下した。


「………! セー――!」

「待つのだ、キキョウ君」

「ッ!?」


 思わず駆け寄りそうになるキキョウの肩をタイガーが掴む。

 振り返り、何故と訴える彼女にタイガーは諭すように告げる。


「……まだ、終わっておらぬ」

「まだ……?」

「ええ……。決闘は終わったわ。けれど、二人の戦いはまだ終わってない……」


 タイガーの言いたいことを理解するミツキは、静かに頷く。

 キキョウは二人の言葉を聞き、一瞬激高しかけるが、次のサンの言葉で冷静さを取り戻す。


「ウォルフ……セードーの止めさしたりすんのかな」

「ッ!」


 決闘は終わった。ガラスのように砕け散った決闘場(バトルドーム)がその証だ。

 だが、しばらくの間HPが0となったセードーは動けない……。

 そんなセードーに、ウォルフはどうするのか? 止めを刺すのか? 先の復讐に……。


「……! ウォルフ、さん……!」


 キキョウはウォルフに声をかけかけるが、何とか抑え込む。

 制止を口にしても、意味はないのだ。これは、セードーとウォルフの問題なのだから。


「………」


 軽く砂埃を払ったウォルフは、セードーの方へと振り返りゆっくりとした足取りで彼へと近づいていった。




なお、未だ夕日が輝いている模様。

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