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log157.号外速報

《PKシャドーマンの正体に迫る! 瓜二つの二人の真実とは!?》


「――×月×日未明、本記事記者は巷を騒がせる噂のPKシャドーマンと遭遇することに成功した。シャドーマンとは、ゴア表現をONにしたうえでイノセント・ワールド内のプレイヤーの不意を突き、決闘で相手を殺害して回ると言われている、最近になって出没するようになったPKの名である。被害総人数は概算で100を超えるとされ、各ギルド間でも回覧文章が出回ったり、あるいはPK行為を止めさせるため警邏ギルドが出動する騒ぎとなり始めている。

 本記者はそのシャドーマンの捜索を行い、そしてついにその正体の一端を掴むところまで迫ることに成功した。捜索に協力いただいたのは、シャドーマンの正体と目されるプレイヤーS氏。実際にシャドーマンと遭遇したプレイヤーから得た証言より、S氏はその姿がそっくりであるということから、警邏ギルドからも警戒されていたS氏は、自らの汚名を注ぎ、己の無実を証明するために本記者の捜索に協力を願い出てくれたのだ。

 そして捜索を行うこと数日、ついにS氏とシャドーマンが激突。両者は別人であり、S氏はシャドーマンではないことが証明されることとなった。

 極めて残念なことに、S氏はシャドーマンに敗北。シャドーマンは哄笑を上げながら、本記者など目に入らない様子で立ち去ってしまった。

 シャドーマンの強さは確かに噂通りであり、伊達に100人にも及ぶプレイヤーたちを殺害してきたわけではないことを窺わせる凄味があった。本記者としてはこれ以上の犠牲者が出てほしくはないが、おそらくシャドーマンの被害者はまだまだ出続けることだろう。

 この一件を受け、警邏ギルドの一つ「ジャッジメント・ブルース」からは―――」






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 速報と銘打たれた号外記事を片手に、来客用ソファに腰掛けているベルゼは皮肉げな笑みを浮かべる。

 シャドーマンの正体に迫るという記事には、シャドーマンとうり二つの姿をしたプレイヤー……セードーの姿が写った写真も掲載されており、両者が明確な別人格であることを裏付けていた。

 ベルゼはセードーが容易に貫かれている写真を見て、クツクツと小さな笑い声をあげた。


「よくできたコラだなぁ、おい……。こんな愉快な風穴が人間に開くかっつーの」


 馬鹿にするようにそう呟くベルゼは、手にした号外をくしゃくしゃと丸め、適当なくずかごへと放り投げる。

 そしてソファに体を預け、先日のように執務机で何かを書き続けるノースの方を見やった。


「―――んで? こっからどうすんだよ? こんなクソコラ記事でも、信じる奴ぁ多いぜ? このまんま、のんきに煽り続けてろってのか?」

「………まあ、難しかろうな」


 顔を上げないままベルゼに応えたノースは、ペンを動かす手を止めないまま会話を続ける。


「こうもはっきりと写真を乗せられてはな。警邏ギルドの方も、セードーとやらへの警戒はほとんど緩める方向で進んでいるようだ……。初心者への幸運(ビギナーズラック)の根回しもあった。今後は、奴への圧迫は以前ほどではなくなるだろうな」

初心者への幸運(ビギナーズラック)……人様に手ぇ貸して悦に浸るだけのギルドのくせに、やることが狡いじゃねぇの?」


 ベルゼはつまらなさそうに天井を仰ぐ。

 実際、初心者への幸運(ビギナーズラック)による警邏ギルドとの協議と今回の号外記事により、セードー=シャドーマン説は大いに崩れることとなった。

 もちろんベルゼの言うとおり、号外記事に乗っている写真がコラージュである可能性を提言する者もいたが、この号外記事を出したのがイノセントタイムズ出版社のプレイヤーであったというのが、強い説得力となった。

 イノセントタイムズ出版社……イノセント・ワールドに古くから存在する情報機関であり、トッププレイヤーの一人である“ビブリア”が組織するギルド……。噂・醜聞を追いかけるギルドであるが、裏付けがなければ記事にはしないを信条にしている。もちろんプロの記者ではないので精度自体は甘いものだが、その情報は常に事実を元にしていると言われているおかげで、なかなか正確な情報を得られるともっぱらの評判であった。

 今でも出版事業を続けていられるのがその証拠だろう。もし裏のない、嘘八百を並べるビラ記事を撒くようなギルドであれば、とうの昔に駆逐されてしまっている。生きた人間が暮らす世界とは、常にそういうものなのだから。


「イノセントタイムズ出版社……想像以上に手が早かったな。噂ばかりを追いかける三文ギルドだと侮っていた」

「ちっ、しまらねぇ……。こんなことでホントに連中を追い詰められんだろうな?」


 ベルゼは顔を上げないままのノースを睨みつける。

 彼にとってはセードーの進退などどうでもよい。重要なのはキキョウへの復讐……。群衆の中で恥をかかせられた彼女への報復さえ叶えばよいのだ。

 苛立ちを隠そうとしないベルゼに対し、ノースは余裕さえ漂わせながら返答を返した。


「そう心配するな……。結局のところ、シャドーマン自体はいなくなっていないのだ……。なら、何かの間違いが起こることだってあるだろう?」

「間違い?」

「そうだ。シャドーマンと、セードーとやらは良く似ている……」


 ノースは机の上に置いてある号外記事を眺めながら、うっすらと目を細めた。


「なら……間違えてセードーとやらを攻撃してしまうこともあろう……?」

「……まあ、あるだろうよ」


 ベルゼはノースの策とやらを察し、呆れたように肩をすくめる。


「それで? 罪のないセードー君を襲ってどうすんだよ? 今それやらかしたら、警邏ギルドに睨まれるだけだろうがよ」

「フ……貴様の事情を優先してやろうというのだよ」

「俺の?」

「そうだ。我々でセードーを押さえ、それを盾にキキョウとやらを呼び出せばよかろう? あるいは、その場でキキョウとやらの身柄を押さえてもいい。奴らは大体一緒に行動しているのだろう?」


 ノースの言葉に、ベルゼはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。


「……ああ、そいつは都合がいいな……。だが、その後はどうするんだよ? さしもの円卓の騎士(アーサーナイツ)様も、無実の罪のプレイヤー襲ってただで済むのかよ?」

「ああ、そのことか……。確かに円卓の騎士(アーサーナイツ)はただではすまんだろうさ……」


 ノースはようやく顔を上げ、そして嫌らしく笑う。


「……どうせその頃に俺はここからいなくなる。そのための準備も進めている」

「はん? どういうことだよ?」

「まともにギルドを運営したことのない貴様は知らんかもしれんが、ギルドの立ち上げというのは、すでにギルドに所属していてもできるのだよ……」


 言いながらノースが掲げ上げて見せたのは、書状に形成されたギルド名簿だった。そこに記されているのは、円卓の騎士(アーサーナイツ)にある総隊長親衛隊のメンバーであるようだった。

 だがそのギルド名簿に付けられている名前は円卓の騎士(アーサーナイツ)ではない。そしてギルド名簿に記されているGMの名前はノースとなっている。


「そして複数のギルドに所属もできる……。離脱に関してもGMに許諾を得る必要は基本的にない」

「――ハッ。下衆いねぇ」


 ベルゼは愉快そうに呟く。

 早い話が、ノースは乗り捨てる気なのだろう。この円卓の騎士(アーサーナイツ)という船を。

 円卓の騎士(アーサーナイツ)の人間が無実のプレイヤーを襲ったという事実だけを残し、自身はほとぼりが冷めるまで潜伏する気ということだ。

 ある程度ほとぼりが冷めた頃、円卓の騎士(アーサーナイツ)としてではなく自身が立ち上げた新しいギルドの人間として表に出ればよい。

 姿などどうにでもなる。そのための派手な鎧なのだ。


「下衆で結構。わざわざ成金趣味の鎧まで纏い続けてきたのだ。ここで稼げない以上、円卓の騎士(アーサーナイツ)にこだわる理由もない……」

「そいつを脱いだら、あんたが誰かなんてわかんねぇだろうしな……ククッ」


 ベルゼは小さく笑い、そしてまた天井を見上げる。

 その視線の先には、GM室がある。まだ幼くも、円卓の騎士(アーサーナイツ)のGMを務める少年の部屋が。


「かわいそうになぁ……。これが終わった後、火消しに回るか、あるいはゲームを止めちまうか……?」

「やめたければやめればよいのだ。所詮ゲームなのだからな」


 悪びれた様子もなく、そうはっきり告げるノース。

 これからランスロットがどうなるのかなど、彼の頭の中には存在しないのだろう。

 新たなるギルドの構成員たちへ送るメールを作成しながら、ノースは小さく笑い声を上げる。


「そう、ゲームだ……フフフ。ゲームであれば、どう遊ぶかは我々次第だろう?」

「そういうこったな……クク」


 ベルゼも笑う。ノースの言葉に同意しながら。

 陰湿な者たちの謀は、誰に知られるともなく続いてゆく――。






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 とある日の英国。

 小さな屋敷の中でパソコンを叩いていた一人の少年のスマホが不意に鳴り始めた。

 友人の影響で視始めたジャパニーズアニメの主題歌を奏でるスマホを手に取り、少年は電話に出る。


「はい、もしもし」

『やあ、久しぶりだね。クラブのエース。お加減いかがかね?』


 電話口の向こうから聞こえてきたのは、ずいぶんと懐かしい声だった。

 少年は微かに驚いたような声を上げ、彼の名を呼ぶ。共に遊んでいたゲーム内での彼の名を。


「ブルースさん……? お久しぶりです! お元気そうで何よりです」

『君こそね、クラブのエース。君がゲームを休み始めてから、ずいぶん経つね』

「ええ、そうですね……。ログインもできず、掲示板も覗けないせいで、イノセント・ワールドで遊んでいた日々も随分懐かしく感じますよ……」


 少年はちらりと棚の方を見やる。

 そこに収められているのは、イノセント・ワールド専用のVRメット。どこでも代えるような市販品であるが、まるで唯一無二の逸品であるかのように大切にケースに収められていた。

 楽しそうに目を細め、それから少年はブルースとの会話に集中しようとする。


「それで、そちらはどうでしょう? アンナに、ランス……皆元気でしょうか?」

『ああ、元気でやっているとも。……だが、君の期待に添えるような形ではないがね』

「……どういうことでしょうか、それは?」


 思わせぶりなブルースの一言に、少年の声が微かに固くなる。

 ブルースはゆっくりと、今のイノセント・ワールドの……円卓の騎士(アーサーナイツ)の現状を少年へと語り始めた。




 なお、所属するギルドの数は上限がない模様。

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