log151.その頃のセードー
キキョウと別れてから、かれこれ一時間は経っただろうか。セードーの姿は今、ミッドガルドの郊外にあった。
そしてその傍には、顔をおそろいのヘルメットで隠した二人組の剣士の姿があった。剣を抜き払い、戦闘態勢に入った二人の剣士は同時にセードーに剣を突き付け、声高に叫ぶ。
「「シャドーマン! 貴様を倒すのは、我々ツインズセイバーだ!!」」
「………」
セードーは俯いた顔を微かに上げ、胡乱げな眼差しでツインズセイバーとやらを見やる。
かれこれ一時間。キキョウが情報を集めている間に、セードーは次から次へと襲い来る自称正義の味方達に追い立てられていた。
キキョウと別れる直前に出会った三人組、リボルマインと名乗った連中を誘い、人気のない場所へと向かったのがまずかった。
セードーとしては無用な決闘に、関係のない人々が巻き込まれることのないようにと配慮したつもりだったが、人目が付かない方がいいのは相手もまた同じだったようだ。
リボルマインとやらを倒した後に出るわ出るわ、あとからあとからわんこそばか何かのように自称正義の味方達がセードーの元へと殺到したのだ。
この辺りは、おそらくかつてカネレが行った拡散行為の影響だろう。一時的にとはいえ、セードーは有名人だったのだ。あまり、いい意味ではなかったが。
結果として顔と名前がそこそこ売れていたセードーの動向は、自称正義の味方達のアンテナにそこそこ引っかかりやすかったようだ。おかげで、単独行動になってしまった彼は自称正義の味方達の格好の釣り餌となってしまったわけだ。
もう数を数えるのも嫌になってきてはいたが、挑まれた以上は何らかの返礼を返さねばなるまい。
「……その決闘を請け負う」
セードーはぼそりと呟いて、決闘場を展開する。
挑まれた以上、セードーは逃げるつもりはなかった。敵と見据えられ、背中を見せるのは士道に反す……と考えているわけではない。必要であれば逃走を選ぶくらいはセードーでもする。
ただ、この手の連中から逃げ続けたところでつけあがるだけだということを、セードーはなんとなく察していた。中学生の頃、山の中で師と修行していたセードーのことが面白くなかった故郷の不良たちに因縁を付けられ、師から私闘を禁じられていたのもあってセードーは逃げに徹していた時期があった。
今ほどの技術も力量もない当時であっても、ただの不良程度をあしらうのは訳もなかったセードーにとって、不良から逃げるのは修行の日々にも満たない程度の雑事であった。
だが不良にそれが面白いわけがない。幼く若く、そしていろいろ足りない彼らにとって獲物と見定めた相手に逃げられてしまうのは、自らを飾り立てるちっぽけなプライドが許さない。初めは二人だった不良は三人に増え、それでもだめなら四人、五人と少しずつ増えてゆき――。
最終的に故郷中の不良たちの目を掻い潜り、修行場であった山中へと進むどこぞのスニーキングミッションのような有様になっていた。日を追うごとに荒さを増す不良たちのおかげで、地元の治安は悪化してゆき、彼らの手に金属バットやどこからか引きずってきた木材などが握られるような事態となってしまった。それらが振るわれる先はセードーであったが、時折無関係なものに振るわれることもあった。それらの鎮圧のため、警察や消防が出動する結果となったことも一度だけあった。セードーの故郷の黒歴史であり、暗黒時代などと揶揄されてしまった時期である。
……ので、師を身罷り故郷を離れるにあたり、自分で撒いた種は自分で狩らねばと奮起した。結果、一晩での鎮圧に成功、彼の故郷には悪い子を殴って回る新種なまはげ伝説が生まれることになったが、彼は何も知らずに今に至る。
ともあれ、そんな過去の経験があるため、こう言う手合いはその場でケリを付けることにしている。あまり増長させてはならないというのが、生まれ故郷で学んだことの一つだ。
「コォー……」
薄く呼気を吐き、天地上下の構えを取るセードー。
対し、ツインズ某は構えた剣を左右対称になるように動きつつ、セードーと向き合う。
「我らツインズセイバーの変幻自在の剣!」
「果たして貴様に見切れるかな!?」
そう見栄を切り、同時に駆け出すツインズ某。
「「やぁー!!」」
左右対称になるように動きつつ、そして振るわれる剣。斬りつけられる位置や速度、さらに細かい角度まで完全に対称的になっているのは見事と言わざるをえまい。
――が、完全に一致しているが故に見切るのは容易い。
「――チェリャァッ!!!」
鋭く叫びながら振るわれる正拳と足刀。振るわれた剣を捌くように打ち込まれ、容赦なくツインズ某の体を打ち据える。
「おごっ!?」
「ごぼっ!!」
双方の喉笛を叩き潰すように振るわれた腕と足は、狙いを違うことはなかった。
ツインズ某はセードーの攻撃から逃れる様に後ろへと飛んだ。
「ご、ごほっ!? な、なんで私たちの攻撃が当たらなかったの!?」
「わ、わがんない!? むしろなんでこっちに攻撃が当たったの!?」
あっさりカウンターを取られたことに混乱をきたすツインズ某。おそらく今まではさしたる苦労もなく敵を倒してきたのだろう。その敵が人かどうかは知らないが。
セードーは無言でツインズ某へと近づいてゆく。わざわざ敵に塩を送ってやる理由もない。
「「ひっ!?」」
ツインズ某が怯えたように一歩引く。しかし当初の目的を思い出し、なんとかその場に踏み止まった。
「な……なかなかやるな!」
「だ、だが我々の実力はまだ発揮されていない!」
叫んで同時に左右へと別れる。
セードーはそれを無理に追わず、ゆっくりと双方の動きを眺める。
「正面がだめなら!」
「側面でどうだ!!」
叫ぶが早いか、ツインズ某はセードーの両脇を挟み込むように駆け抜けようとする。
その速度はなかなか速い。先ほどのようにカウンターを狙うには苦労するだろう。
「「たぁぁー!!」」
ならば避ければよいだけである。セードーは垂直に飛び上がり、ツインズ某の双撃を躱す。
「「なっ!?」」
攻撃をかわされ驚愕するツインズ某。その二人の頭めがけ、セードーは落下しながら蹴りを打ちこんだ。
「――川蝉落とし――」
「ぎゃぁっ!?」
「ぐげぇっ!!」
体を捻りながら放たれた後ろ回し蹴りは狙いを違わずツインズ某の頭を回す。
二度も首にダメージを受けるような攻撃を喰らい、ツインズ某はもんどりを打って転げまわる。
セードーは地面へと降り立ちながら、まだHPが0にならないツインズ某を茫洋とした眼差しで観察する。
(……腕の割には死なないな。HPが無駄に多いのか……あるいは魔法装甲と言う奴か。クリティカル音がしていないな)
肉体の急所を狙えば、大抵の生き物のHPを一発で0か、あるいは瀕死帯に追い込める自信がセードーにはあった。だがそれも、相手が非装甲装備であればである。
何らかの装甲で肉体を覆っている場合、どれだけ急所を突こうが装甲のおかげでクリティカルが発生することは絶対にない。例え薄い紙一枚であろうが、装甲属性を持つものを挟んでしまうと、相手へのクリティカルは発生しなくなる。生身を突いてこそのクリティカルなのである。
モンスターであれば外殻や装甲属性筋肉が、そして人間であれば魔法装甲や魔術障壁と呼ばれるものが体表面に張られているとクリティカルが発生しなくなる。こうなるとクリティカルによる一撃必殺を狙いたいセードーにはなかなかやりにくい相手となる。
(魔術障壁は呪文詠唱を阻害すればよいが、魔法装甲は装備を破壊する必要がある。どれがそれかがわからない以上、そのまま攻めた方が容易いか)
転げ回った後何とか立ち上がるツインズ某を見てとりあえずそう決め、拳を固めるセードー。少なくとも、この二人に脅威を感じることはない。
だが、ツインズ某は違う。セードーの実力に遅まきながら気が付き、怯えたように一歩下がった。
「こ、こいつなんなの……!? や、やっぱり噂は本当だったの……!?」
「く、くそ! こんなLv40未満に負けるわけには……!」
ツインズ某は意を決したように、二人同時に頷いた。
「「――今こそ我らが奥義、見せてやる!!」」
叫ぶと同時に、ツインズ某の周りに霧のようなものが現れる。
その霧はあっという間にツインズ某を覆い隠し、辺りを飲み込むように広がっていった。
セードーは生まれた霧に構わず、その中へと足を踏み込んでゆく。
「………」
そしてすぐに気が付く。
先ほどまで霧の中にはっきりと感じていたツインズ某の気配が、そこら中に広がっていることに。
「……これは」
『フフフ……これぞ我らが奥義、ツインズフォッグ……』
『我々二人が生み出したこの必殺奥義、Lv40未満程度の貴様では破ることもできまい……!』
声も辺りを反響しているかのように、二人の位置が掴みづらく聞こえてくる。
しばし立ち止まるセードー……その背後から、ツインズ某の片割れの刃が振り下ろされた。
「ハアッ!」
「―――」
セードーは一歩足を引き、その一撃を躱す。
そこを突くように、ツインズ某のもう片方が剣を振るう。
「ヤァッ!」
「………」
この一撃を裏拳で捌く。
そこにさらに一撃が、そしてまた一撃が打ちこまれ続けてゆく。
「フン!」
「てぇい!」
「この!」
「たぁー!」
「………」
絶え間なく続く連撃。
間断なきそれらをセードーは捌き続けるが、そのうち一発がセードーの脇腹を掠めていった。
「っ! 今!」
「うん!!」
それを見たのか嬉しそうなツインズ某の声が聞こえ、止むことのなかった攻撃が一旦止んだ。
『フフフ……これが我らの奥義の恐ろしさよ……』
『どこから来るかわからぬ攻撃、如何な貴様とて躱しきれまい……!』
どうやらセードーに攻撃を当てられたことで、動揺を誘うつもりらしい。
セードーは一つため息をつき、一気に蹴りを付けるべく闇衣を発動しようとする。
「――見苦しいな」
そんな時だ。別の誰かの声が聞こえてきたのは。
微かな怒りをはらんだその声は、堂々と宣言する。
「無粋ではあるが、横槍を入れよう。消えたまえ諸君」
それは、決闘宣言。セードーに組みするために宣言されたものであった。
『え……!?』
『な、なに!?』
「舞え。アビゲイル」
唱えられる言霊。それとともに聞こえてくるのは、風切音。
高速で回転する何かが、セードーの耳元をかすめていった。
「……今のは」
霧のおかげでよく見えなかったが、なんとなく察しはついた。
しかし霧の中にいるツインズ某にはなにが飛んできたのかわからなかったようだ。
「え、ちょ!?」
「い、いやぁ!?」
聞こえる悲鳴。繰り返される斬撃音。
霧の中の殺戮は、瞬く間に終わっていた。
決闘場の消滅と共に霧が晴れ、HPが0となったツインズ某が少し離れた位置に倒れていた。
そしてツインズ某の上を周り飛んでいた刃の付いた十字型のブーメランが己の主の元へと飛んでゆく。
その軌道を視線で追うセードー。その先に立っていたのは、長身痩躯の男であった。
男は飛んできたブーメランを受け止め、セードーを見て静かに微笑んだ。
「私が犯した無粋を許してほしい、戦士セードー。あまりに、見るに堪えなかったのでね」
「………」
セードーは静かに男を見据える。
二人の間を、静かに風が通り抜けて行った。
なお、ツインズセイバーはそこそこ名うてのPvPプレイヤーの模様。(ただし2対1専門)




