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log140.週刊・決闘日和

 いったんセードー達と別れたエタナ、キキョウ、サンの三名はエタナが所属するギルド“イノセントタイムズ出版社”のギルドハウスのあるアルフヘイムへと赴くこととなった。

 いったんエタナとパーティを組み、彼女のワープについてゆく形でアルフヘイムへ向う。


「アルフヘイムかー。そう言えばあたし、一回も行ったことなかったな」


 アルフヘイムへと向かう直前、仲間と別れてエタナへと着いてゆく道すがら、サンはポツリとつぶやいた。


「おや、そうなんですか?」

「おう。なんつーか、興味が湧かなかったっつーか。アルフヘイムって、魔法使いが行く街だろ?」

「向こうですと、おいしいお野菜が有名なんですよ? サラダとか、野菜炒めが絶品らしいです!」


 ミッドガルド食道楽に勤しんでいたキキョウはクルソルを弄りながら瞳を輝かせる。もうすでに頭の中はアルフヘイムの食道楽で一杯な様だ。

 そんなキキョウの様子に苦笑しながら、エタナはクルソルを取り出す。


「御野菜だけじゃなく、果物も有名ですよ? 取れたての御みかんっぽい果物とかすごい美味しいんですから」

「果物! そういうのもあるのですね!」

「結局食い物なのな……。まあ、あたしもそっちの方が興味は湧くけど」


 キキョウの様子にため息をつきながら、エタナのワープを待つサン。


「さて……せっかくですし、ちょっと寄り道もしましょうか? キキョウさん、サンさん、それでいいですか?」

「もちろんです!」

「急ぐ理由も……あんまねぇしな」


 キキョウとサンの返答を聞き、一つ頷きサンはワープ先を設定する。


「でしたら、跳ぶ先はアルフヘイムの正面ゲート……。ギルドハウスには、ゆっくり向かいましょうか」

「はーい!」


 キキョウの元気のよい返事をBGMに、エタナたちはアルフヘイムへとワープした。






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 ワープを終えた瞬間、キキョウたちの鼻孔を擽るのは、青々とした新芽の香り。

 そして煌々と照る太陽は、ヴァナヘイムほどではない……例えるのであれば、日本の初夏。ちょうど風が気持ちよく、思わず外を出歩きたくなる陽気だろうか。

 足元が素足であるキキョウたちは、自分たちのくるぶしをくすぐる草花の感触に思わず歓声を上げた。


「わぁ……!」

「おっ……!」


 先ほどまで陰気なムスペルヘイムにいたせいだろうか……。広々とした草原の上に立つ街、アルフヘイムは想像以上に清々しい印象を与えてきた。いや、街というよりは集落だろうか。草原の上に、そのまま多くのテントが立っているのだ。

 おそらく、ヴァナヘイムやミッドガルド以上に広く場所が取られている。二階以上の建造物がないおかげか、今までで一番広い街に見えた。

 だが、街ゆく人々の様子は今までで見てきた街の中で最も牧歌的だった。

 主に道を行くのはエルフ種族のようだが、よくある創作物のエルフのように排他的な様子はなく、道を歩いているプレイヤーたちとも気軽にあいさつを交わしていた。

 犬の代わりに散歩しているのは大きな牛で、牛が引く荷台にはとれたての野菜が山のように積まれているのが見えた。

 アルフヘイムへと足を踏み入れながら、サンは辺りを見回して小さな歓声を上げた。


「すげぇなぁ……。スイスとか、アルプスとか、そっちの光景にそっくりだぜ……」

「私、あまりこういう場所には縁がないんですけれど……思わずお昼寝したくなっちゃう地面ですね……」


 地面にしゃがみ込み、草を撫でるキキョウ。

 瑞々しい草たちは風にあおられ、気持ちよさそうに体をそよがせている。

 キキョウの言葉に小さく微笑みながら、エタナは二人を先導し始める。


「御昼寝は人の通らない場所でお願いしますよー。さあ、行きましょう!」

「あ、はい!」


 進むエタナの背を追い、キキョウとサンは軽く駆け足を踏む。

 道を歩くエルフの老人に会釈を返しながら、キキョウはエタナに問いかける。


「エタナさんのギルド……イノセントタイムズ出版社って、どんなギルドなんですか?」

「イノセント・ワールドにある一出版社です! ……というには、いささか大きなギルドですけどね」


 エタナは後ろ頭を掻きながら、自らが所属するギルドについて説明を始める。


「イノセントタイムズ出版社は、イノセント・ワールドで出版業を行っているギルドとしては一番古いものです。というよりは、ビラ新聞とはいえイノセント・ワールド内における出版行為を一番最初に行ったギルドというべきでしょうか?」

「へぇー。古いギルドなんじゃん。つか、大ギルド?」


 道行くエルフのお姉さんから果物一つ買いながらのサンの言葉に、エタナは苦笑して首を横に振る。


「いえ、そこまで大層なギルドではなかったりします。出版系列で大ギルドって言いますと、やっぱりイノセント・ワールドの攻略情報を大大的に発行してます“スクエアR”とかでしょう。イノセントタイムズ出版社は、あくまでイノセント・ワールド内における事件とかをビラ記事にして配り歩くギルドですよ」

「古くからあって、情報を広めてゆくなら大ギルドの一つなんじゃないでしょうか?」


 自分も野菜を買いながら、買ったものの一つをエタナに渡すキキョウ。

 エタナは一つ礼を言いながら、野菜を受け取る。


「どもです。……んー、確かにイノセント・ワールド内では有名ですけれど、広めています情報はどっちかと言えば噂とかある種の醜聞ですからねぇ。例えば私が書きました記事とかですと、やっぱりセードーさんたちとかの決闘記事ですし」


 そう言ってエタナが取り出すのは、先ほどのものとは別の決闘記事だ。

 最近は顔見知りも増え、セードー達も熱心にPVPを繰り返すようになっている。そのうちの一つのようだ。

 エタナは嬉しそうにビラ記事をキキョウたちに手渡しながら、記事の説明を続ける。


「よろしければどうぞ! 私の記事、週刊・決闘日和っていうんですけど、結構人気なんですよ! PVPに関する情報をまとめたもので、相手選びにも役に立つって!」

「……確かにいいかも。結構面白そうな奴が載ってね?」

「ホントですね……。PVP専門でいらっしゃる人も結構いるんですね」


 表面記事には今日の決闘者と題され、戦うプレイヤーたちが記事にされており、裏面は今注目のPVPプレイヤーたちがまとめられていた。

 キキョウたちから見て、週一で発行されるビラ記事としては、結構な情報量に思える。少なくとも一日一回PVPの相手を選んでいったとしても、ぜんぜん余裕である。一日二回、いや三回は決闘ができるかもしれない。


「いいな、これ……定期購読とか行けるのかな」

「もしそうなら、私します、購読……」

「よし、金出し合おうぜ。二人で出し合えば、そんなに負担じゃないぜきっと……」

「え、えっと……」


 自身が思っていた以上の食いつきに、逆のエタナの方が狼狽えてしまう。

 軽く後ろ頭を掻きながら、エタナは二人の意識をこちらに呼び戻す。


「と、とりあえず購読予約ありがとうございますね? あとで、ギルド内で正式に成約していただければ、定期的に御ギルドに記事を届けさせていただきますから……」

「お、マジで?」

「わぁ、ありがとうございます! みんな喜びますね!」

「あはは……ありがとうございます」


 無垢に喜ぶキキョウの笑顔に、エタナは笑顔を返しながら、改めて説明を続ける。


「おほん。……これ以外にも、各ギルド間の抗争具合でしたりとか、あるいはどのギルドが今週は武具を開発しているかですかとか、とにかく話題になりそうなものを各人が好き勝手に記事にして成約を頂いたり、あるいは無料で配り歩いたりするんです」

「これをただで!?」

「そっちの方がお得……つっても枚数に限りあるか。じゃあ、購読で」

「ありがとうございますー。……っていう感じで喜ばれることもあるんですけど、やっぱり売れ行き自体はさほどでもないんですよね」


 エタナは遠くを眺めながらつぶやく。


「なんと言いますか、私なんかは良い方なんですけれど……。やっぱり各ギルドごとの成果だよりのところが大きい鍛冶師速報なんかは、さっぱりですねー……。そもそも、そういうギルドに直接足を運んだりした方が早いっていうのが大きいんですけど。ゴシップ系記事にしても、ぶっちゃけ掲示板覗いた方が早いですし」

「なんで? 掲示板じゃ実名出せなくね?」

「それは記事も一緒ですから……。下手に実名使うと、一瞬でBANされちゃうんですよ」


 その辺りの規約違反にはとても厳しいゲームだと、エタナは語る。


「前に一緒にゲームしてた知り合いなんかは、興奮のあまりうっかり実名記事書いちゃったんですけど、その後一週間ほどの間ログインすらできなかったと言います。該当する部分削除で済む掲示板と違って、やっぱりものが残りやすい記事は監視が厳しいんですよねぇ」

「……の割にゃ、写真に目線とかいらないし、名前もイニシャルでいけるのな」


 そう言ってサンがひっくり返すのは先ほど手渡された週刊・決闘日和だ。

 表に写っている写真はセードーと何某かの戦士であるが、セードーはいつものマフラーしか顔を隠すようなものがなく、そして記事の方はSさん表記だ。おそらくこれだけでもセードーを特定することは可能だろう。

 ようは実名さえ使わなければいいのだろうか。妙なところでザルというか、いい加減というか。


「まあ、あんまり締め付けても誰も何もできなくなりますし……。直接的でさえなければ、割と大丈夫なのでしょう。そういうことにしておきます……」

「エタナさんの記事がBANされても困りますし、私たちもそれ以上は考えないことにしますね……」

「そうだな……」


 あまりツッコミすぎて「それじゃあ」と運営に本気を出されても困る。

 口にしたきゅうりっぽい野菜をシャクシャクとおいしくいただきながら、キキョウは小さく頷いた。


「ともあれ、いろんなことに耳目を向けているのであれば、シャドーマンについての情報も期待できそうですね」

「そうだなー。なんか目新しい情報があればいいけど」

「私の仲間が今そっちの調査にあたってくれています。……まあ、時間もあまり経ってませんから、期待はしないでくださいね?」


 そう言いながら、エタナはギルドハウスへの道を少しだけ急ぎ足で進んだ。




なお、件の週刊記事は満場一致でギルドとしての購読が決定した模様。

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