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log125.覇王

 激突は一瞬。両脇から攻め込んだセードーとウォルフを、アーヘリアが捌こうとする。


「おおおぉぉぉぉ!!」

「シャァァァァァ!!」

「えぇいやぁぁぁ!!」


 裂帛の気合いを持って敵を討たんとする三名。己の手にした武器を存分に振るった。

 鋭く風を切る拳がアーヘリアの体を叩き、唸る大剣は大地を抉る。

 この場において間合いを制していたのはセードーとウォルフの両者であった。

 アーヘリアの持つ長大な大剣は破壊力とリーチに長ける。ただ振るうだけでも大地を抉り裂くほどに強力な武器だ。

 だが、掴めるほどに狭い間合いにおいては圧倒的に不利な武器と言わざるを得ない。大剣の破壊力を支える重量が機動力を殺し、致命的な弱点となってしまっているのだ。

 それでも並みの戦士程度、間合いに入った瞬間に剛断しえる速度をアーヘリアは持っていたが、それは闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの二人にとってはいささか遅すぎる速度であった。

 アーヘリア自身も、そのことは自覚しているようだ。笑い声を上げながら両雄を称える。


「ハハハッ!! さすがだな二人とも! マッシヴギアの保有者は何人も見てきたが、やはりカテゴリーギアとして獲得している者は異様だよ!」

「ようゆうわ! こっちのスピードについてきおってからに!!」


 ウォルフは悪態をつきながらアーヘリアの一撃を躱す。

 さながら台風の中を進むような心境だ。一瞬の油断が一撃ですべてのチャンスを抉り取ってゆくだろう。

 その隙間を縫うように拳を叩き込みながら、セードーが吠える。


「この程度か!? 先ほどのように、こちらの攻撃を受け止めて見せろ!」

「いいだろう! だが、趣向は変えさせてもらう!!」


 セードーの言葉に答えるように、アーヘリアは大剣を両手で握りしめる。


遺物兵装(アーティファクト)覇王大剣(アーヘリア)!!」


 遺物兵装(アーティファクト)起動の合言葉。それを唱えた瞬間、アーヘリアの持つ大剣の姿が変わる。

 長大であった刃が縮み、一つであった柄が二つとなり、練り飴のように歪み、あっという間に二振りの刃へと変じる。


「いいっ!?」

「武器が変わった……!?」

「行くぞっ!!」


 アーヘリアの持つ大剣の変容を前に慄く二人に、その凶刃が迫る。

 大剣の利を生かす剛力が、双剣をしなやかに操る。

 その速度は二人の拳の速度に追いつき……そして勝るほどであった。


「のをっ!?」

「ちっ! 武器を変えただけでこうも変わるか……!」


 セードーとウォルフは一旦間合いを開け、仕切り直す。

 アーヘリアは無理にそれを追うことなく、両者の出方を窺い始めた。


「フフ……案外、まだ覚えているものだ。懐かしいよ。君たち位の時にはもっと大暴れしていたものだけれどね」


 アーヘリアは現役時代を懐かしむように、双剣の柄を繋げ合わす。

 すると今度は柄が勢いよく伸び、双剣の刃が鎌状に変化する。

 そのまま双頭鎌をクルクルと頭上で回し始めるアーヘリアに、セードーは訝しげに問いかける。


「それは何だ? フレンドに鎧を変える瞬時装着(アーマースイッチ)というスキルを操るものがいるが……ウェポンスイッチというスキルでもあるのか?」

「残念ながらウェポンスイッチはないな。これも遺物兵装(アーティファクト)の能力の一つ……武装変形だよ」


 アーヘリアが双頭鎌を勢いよく振るうと、その姿はまた大剣へと変じていた。

 愛おしげに大剣を撫で、アーヘリアはセードーの疑問に答えてゆく。


遺物兵装(アーティファクト)には最大三つまで、ギアでも属性解放でも取得できない特殊なスキルをセットできる。そのうちの一つに武器を様々なものに変化させるというものがあってね。この剣一振りあれば、文字通り多様な戦闘に対応できるというわけさ」

「なるほど。いくつに変じるかわからん以上、まだ見えない伏せ札がありそうだな……」


 遺物兵装(アーティファクト)はセードーの想像を超える装備であるらしい。その一端を垣間見、多くのプレイヤーが血眼になって遺物兵装(アーティファクト)を求める理由をセードーは少しだけ理解した。

 ウォルフもまた遺物兵装(アーティファクト)の厄介さを理解したのか、セードーへと近寄り耳打ちをする。


「なあ、セードー……どないする?」

「やることは変わらん。だが……このままでは駄目だろう」


 セードーはアーヘリアを睨みながら、ウォルフに返す。


「ウォルフ、頼む」

「おう。ウォルフさんのええところ……余さず見せたろやないか」


 ウォルフはセードーの言葉に一つ頷き、そのまま数歩下がる。

 そして拳を交差させながら下におろし、目を閉じて深呼吸をする。


「スゥー……ハァー……」


 何か、精神集中しているようにも見える。ウォルフはそのままゆっくりと深呼吸を繰り返し始めた。

 すると、彼の足元で風が渦巻き始める。


「ん? ああ……なるほど」


 アーヘリアはウォルフのその行動に思い当たる節があったのか、にやりと笑って前に出ようとする。

 だが、セードーがその前に立ちふさがった。


「先には進ません」


 そう宣言し、セードーはスキルを一つ発動する。


「五体武装・闇衣――」


 セードーの全身から、変幻自在の闇の波動が現れる。

 そのままゆっくりと腕を回すセードー。

 闇の波動はセードーの全身を揺蕩っていたが、その動きに従うように腕に、そして足に集中してゆく。


「――暗技具足」


 両手両足を覆う装甲のように変じた闇の波動は、完全にセードーの手足を覆い隠してしまった。

 彼の手足はまるで、獣のそれのように見える。

 それを見て、アーヘリアがまた笑う。


「ほほぅ? そんな使い方もできるのかい、〈闇〉属性は?」

「この使い方しか知らん。闇は恐怖の象徴でも、力の証でもない……」


 セードーは天地上下の構えを取り、威圧するようにアーヘリアを睨みつけた。


「闇は己の身を隠し、あらゆる危難から身を守るものだ……!」

「っ……!」


 セードーの全身から、一種異様な気配が放たれ始める。冷気にも似た、冷たい気配……。言い知れないその気配を前に、アーヘリアは微かに息を呑む。

 どんなゲームであれ、敵として対峙すればある程度その本気具合が窺える。

 適当に手を抜いて戦っているのであれば手ごたえなどまるでないし、こちらの実力に慄いているのであればまるで赤子を相手にしているかのように一捻り出来るだろう。

 そして相手が本気でこちらと相対するのであれば……ゲームの画面越しに、その気迫も伝わってくる。どれだけ全力で、こちらに応じてくるのかが、手に取るようにわかるものだ。

 ゲームの領分がVRへと変容していくにつれ、その感覚もよりリアルになっていった。

 ゲームに言葉の通り“遊び”で臨んでいる者と、“本気”で臨んでいる者……その差がより顕著にわかるようになったのだ。


「……フ、フフフ」


 アーヘリアは、理解する。今この瞬間、セードーは“本気”になった。

 つい先ほどまで、“遊んで”いたわけではない。彼はずっと真面目にこのゲームに臨んでいただろう。

 だがしかし“本気”ではなかった。何をもってして“本気”と呼べるかは人に寄るだろうが、今この瞬間のセードーは間違いなく“本気”なのだろう。

 アーヘリアは自然と笑みをこぼす。目の前の少年の“本気”を引き出すことができたことに対して。


「……このゲームは、実に多様な楽しみ方のできるゲームだ」


 大剣を肩に担ぎ、目の前で構えるセードーを見つめ、アーヘリアはゆっくり語る。


「オープンワールド型で、なおかつシナリオによるルートの縛りがない……。どこに行こうと、何をしようと自由だ。何もせず怠惰に過ごすのも、人の物を奪う悪人になりきるのも、そう言った者から他者を守るのも、すべて自由だ」


 イノセント・ワールドのメインシナリオの最終目的は、異次元にいるとされる魔王を倒すことだ。シーカー達は異次元へと向かう方法を見つけ出し、魔王を倒す存在だと言われている。だが、多くのシーカー……いや、プレイヤーはその最終目的のことを忘れ、イノセント・ワールドの世界でのんびりと遊びまわっている。

 その理由は、魔王を倒すというのは本当に“目的”でしかないからだ。これを持ってゲームはエンディングを迎えるというような、“結果”には決してつながらない。

 魔王のHPを削りきったとしても、魔王は死なず、また別の異次元へと逃げ去ってしまう……。そうしてプレイヤーはまた魔王に挑むのだ。無限に続く魔王との戦いに、終止符を打つために。

 そんないたちごっこに腐心するプレイヤーは、まずいない。大抵の者は魔王との一戦を終えると早々に自分のお気に入りの街まで向かい、ぬくぬくとイノセント・ワールドにおける余生を過ごす。いや、そもそも魔王まで到達しない者の方が多いかもしれない。メインシナリオで達成することとなるクエスト群は、経験値以外の報酬にうまみがないことで有名だからだ。

 では、このゲームでは何をすべきなのか? どうすれば、終わりを迎えられるのか?

 その問いに対するイノセント・ワールドの生みの親、如月純也の答えはこうだ。


“どこまでもいつまでも、この世界を楽しんでほしい。この世界を楽しめなくなった時……それが、君たちにとってのエンディングだ”


 ……すべてはプレイヤーの赴くまま。“ゲームが楽しかった”という結果のために、あらゆる“目的”に腐心する……。それが、イノセント・ワールドというゲームの遊び方だと彼は言う。

 そして一度エンディング(終わり)を迎えたとしても、いつでも戻ってきてほしいと彼は言う。その時までに、イノセント・ワールドを楽しめるように変えてゆくからと。


「……そんな世界の中で私が腐心したことは何か? 私の名を知らぬというのであれば、知らないだろう?」


 その世界から、一度は去ったアーヘリア。

 彼はかつて味わってきた熱い感情をその胸の中に呼び覚ましながら、凶悪に笑う。


「かつて私は覇王を名乗り、そう呼ばれていたよ……。あらゆるプレイヤーの頂点に立つ、PvPという覇道を制した王……“覇王アーヘリア”とね」


 数多くのプレイヤーの前に立ちふさがり、その一切を撃砕してきた覇王アーヘリア。

 その胸に抱いた、あくなき勝利への執念を再び取り戻し、アーヘリアは吼え猛る。


「いくぞ、セードーッ!! この覇王との戦い、貴様に制することができるかぁ!?」

「おおおぉぉぉぉ!!」


 覇王の咆哮に答えるように、セードーもまた吼える。

 往年の覇王に、一人の若き拳士が、また挑む。




遺物兵装(アーティファクト)覇王大剣(アーヘリア)

「最初期のイノセント・ワールドの頃、PvPにおいて無双無敵を誇ったプレイヤー・アーヘリア。彼が遺物兵装(アーティファクト)実装時に、自身の名と称号を冠して作成した遺物兵装(アーティファクト)が、覇王大剣アーヘリアである。当時は確殺攻撃を搭載するのが遺物兵装(アーティファクト)の主流であったが、アーヘリアはあえてその流れに反し、複数の武装に変化できる武装変化のスキルを搭載。強力な遺物兵装(アーティファクト)によって一撃必殺を狙う数多のPvPプレイヤーたちを、変幻自在の武器格闘術によって撃破していったという」

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