log119.イレイザー
レアエネミー・イレイザー
軍隊モンスターと称される、本体と分身で構成される群体型のレアエネミーだ。
このモンスターの最大の特徴は、“見えない”ことである。本体はもとより、分身も極めて優秀な光学迷彩スキルを装備しており、肉眼で捕えることがきわめて難しい。分身ならばギリギリ空間が揺らいで見えるため、おおよそどこにいるのかくらいは把握できるがそれでも近接戦闘は絶望的だろう。イレイザーの分身はDEX傾倒型の盗賊並に身軽だ。透明でなおかつ身軽な盗賊を捉えるのは至難の技だろう。
イレイザーの本体に至っては、東洋の神秘の一つであるニンジャクラスの身軽さを誇る。分身と異なり迷彩によって空間が揺らぐと言った変化も見受けられないので、本体を捉えるのは常人には不可能と言えるだろう。
不可視のイレイザー分身、本体を捉えるのに最低限欲しいのはサーモグラフだ。サングラスでもゴーグルでもヘルメットでもなんでもよいので、サーモグラフ系のアイテムは最低限欲しい。低体温のイレイザー達は皆同じ温度なので本体を見分けることは難しいが、それでもまったく見えないよりはましだろう。
もう一つ欲しいのは広範囲を攻撃できる面制圧系のスキルや武器だ。イレイザーの分身は最低でも十体、最大五十体前後出現する。出現数は遭遇した際のパーティレベルの平均で決まるが、大体五十体を相手にするつもりでかかるべきだろう。
イレイザーの分身自体は体力も低くダメージの減衰率も存在しない。ミッドガルドでも入手できる手榴弾でも爆殺できる。イレイザーに限らず、軍隊モンスターを相手にするために戦士系も一番安い手榴弾くらいは携行すべきだろう。
だがイレイザーの本体は戦闘力もニンジャクラスだ。例えその位置を捉えても攻撃を直撃することが難しく、ダメージの減衰率も高めだ。本体を撃破するためには威力が低い面制圧系の攻撃では時間がかかりすぎる。本体も分身も諸共粉砕できる、ギガクラッシュのようなスキルがあるなら話は別だが。
本格的にイレイザーの撃破を目指すのであれば、やはり確実にイレイザーの本体を捉え、なおかつしっかりとダメージが与えられる手段を用意したい。
魔導師系が仲間にいるのであれば、魔力を捉えるサーチ系の魔法を使ってもらうのがよいだろう。分身も本体も魔法を使用するわけではないが、本体の方が魔力も強い。サーチ系の魔法を使えば本体の場所を瞬時に把握することが可能だ。ひょっとしたら、分身は何らかの魔法で作られているのかもしれない。
ダメージを与える手段に関しては十全な威力を持つ武器やスキルさえあれば何とかなるが、可能であるならば減衰率を無視、あるいは軽減できる貫通系の特殊効果を持つものが望ましいだろう。
高速移動する的を捉える腕があれば、銃器系の武器やスキルが最適かもしれない。ヘッドショットでも決めてやれば、クリティカルの快音と共にイレイザーの本体も撃ち倒せるかもしれない。筆者はゲームを始めてこの方、そんな伝説のスナイパーのような腕前のプレイヤーには出会ったことがないが。(出典:Lv1から歩ける、イノセント・ワールドレアエネミーの旅「著:オーディール、発行:CNカンパニー出版部」)
ざわざわと揺れざわめく空間。
所狭しと立ち並ぶイレイザーの分身たちを前に、ホークアイは素早くリロードを行う。
「まったく……こいつら倒してもきりがないってね」
「はっはっはっ! いいぞぉ! 無駄に多い敵は私好みだぁ!!」
陰鬱なため息をつくホークアイとは反対に、軍曹はとても楽しそうに右腕が変形したガトリングガンを撃ち続ける。
黒鋼の銃身はけたたましく回り続け、白熱化した薬莢が大量の吐き出されてゆく。
「どこを撃っても敵ばかり! こんなに楽しいことはないぞぉ!! どんどんお代わりもってこぉい!!」
「分隊支援火器大好きだからねぇ、軍曹……俺もライトマシンガンくらいは持ってくるべきだったかね?」
「そうね……。今回ばっかりは私も意地張ってないで、マシンガン一丁くらい持ってくるんだった……」
忙しそうにオートショットガンをリロードしながら、サラは疲れたように呟いた。
ホークアイはカートリッジ、軍曹はベルト給弾方式だが、彼女は手込めで一発ずつ入れる必要がある。
サラはガンズギアのスキルの一つであるスピードロードのおかげで、とりあえずショットガンシェルを三発込められれば全弾補充されるようになっているが、それでもホークアイ達に比べて銃撃の間が空いてしまうのは避けられない。
「イレイザーの分身、思ってたより脆いみたいだし……。あーもー、マシンピストルが欲しいぃ~……」
「おやおや派閥替えかい? ショットガン一筋で行くんだろう?」
ぼやくサラをからかおうと、ホークアイは振り返る。
「うるさいわねぇ! あんただって、予備武器は持ってるじゃない!」
ショットガンのリロードを終えたサラは大声で言い返す。
……そんな彼女の背後に、イレイザーの本体が現れる。
攻撃の瞬間は姿を現すのか、全身を黒い装束で覆ったアサシンが手にしたナイフの刃をサラの首元に突き立てようとする――。
「サラッ!!」
「……!?」
ホークアイは素早く銃を構え引き金を引く。
発砲音が響き音速で銃弾が飛翔するが、イレイザーはそれを回避してしまう。
舌打ちと共にホークアイは次撃を撃ちこもうとするが、それよりも早くイレイザーは姿を消してしまう。
「こんの!」
分身に続き本体にまで背後を取られたサラは、苛立ったように後ろ脚を蹴り上げる。
だがすでに移動しているイレイザーには到底届かず、鋼で出来ているらしい靴が虚しく空を切る――。
ガゥンッ!!
――と、同時に発射された散弾がイレイザーの体を打ち据えた。
「!!」
イレイザーの体が散弾の衝撃で吹き飛ぶ。
見れば鋼の靴と見えたのは鋼の義足であり、サラの足、膝から下は完全に機械の義足となっていたのだ。
「ショットガンヒールの御味はどうっ!?」
奇襲に成功したサラは、満面の笑みでショットガンを向けて引き金を引く。
一発目は命中したが、二発目を放った時にはイレイザーの姿が消えてしまう。
「あぁん、もう!」
すぐに姿を消されてしまい、サラは苛立たしげに足を踏み鳴らす。
その衝撃か、あるいはそれ自体がリロード動作だったのか、小さな金属音と共に薬莢が排出された。
絶えず使い魔を飛ばし、イレイザーの動向を見張っているウェースがそんなサラを見て呆れたような声を出した。
「足を義足に変える、か……。健常者であるならば、良い選択とは言い難いぞ……?」
「何よ文句ある!? うちのギルドじゃ、みんなこうですけど!?」
近づく分身にショットガンの銃弾を浴びせながら、サラは居丈高にそう叫ぶ。
軍曹は笑いながらガトリングガンのベルトを交換し、ウェースへと説明し始める。
「はっはっはっ! 銃火団では体の一部の改造が推奨されているのさ! 銃器を振り回すなんて、現実じゃできない体験だからな! どうせなら徹底的にってことだ!」
「腕にガトリング、足にショットガン……。人によっちゃ腹にライトマシンガンまで仕込んでるぜ? ま、それもロマンの一つってことさ」
片手でアサルトライフルをぶっ放すホークアイ。ギガマグナム仕様のリボルバーを使用するだけあり、アサルトライフルの銃口はぶれることなく分身の体を撃ち抜いていった。
どこかの国の傭兵団だと言わんばかりに銃火を咲かせるホークアイ達に、ウェースは辟易したように呟く。
「喧しくてかなわぬ……。我が傀儡に当ててくれるな……」
「誰がそんなミスしますか!」
「いや、サラは。なぁ?」
「はっはっはっ! うむ、まあなんだ!」
ウェースの言葉にサラは牙を剥いて反論するが、ホークアイと軍曹は顔を見合わせて肩を竦めあう。
サラは無言でショットガンをリロードし、手近なホークアイに突きつけた。
「……何かしら、ホーク? 鼻欠けになりたい?」
「まさかまさか。ただ、ショットガンってのは狙いの甘い武器だからね」
ホークアイは誤魔化すように言いながら、サラから目を逸らした。
サラはそんなホークアイの態度に怒りを覚えたようだが、それはイレイザーへと叩きつけることにしたようだ。身を翻し、手近な分身に銃弾を叩き込み始める。
そっと胸を撫で下ろすホークアイに、笑い続ける軍曹。
無鉄砲に前に出るサラをカバーリングするように動く二人を見ながら、ウェースはゆっくりと思考する。
(……バラバラに動いているようで、統率がとれているようにも見える。やりづらい相手だ)
天井付近を周回しながらイレイザーの動きを監視する使い魔。
それが常時放つサーチ魔法の気配を肌で感じ、ウェースはそっとほくそ笑んだ。
(……だが、優位は我にあり。奴らはイレイザーが見えてはいないが、こちらにはサーチ魔法がある)
ウェースは無造作に連弩の引き金を引く。
飛び出した矢は鷹へと姿を変え、一直線にイレイザーの元へと飛んでいった。
「穿て、我が傀儡よ……!」
「おっと、そっちか」
ウェースの声に気が付いたホークアイが、イレイザーに襲い掛かる鷹を視線で追い、モシンナーガンをそちらに向ける。
鷹の嘴がイレイザーの肩を抉り、ダメージを与える。
それに続くようにホークアイが銃弾を叩き込む。
イレイザーはその二連撃に体を揺らすが、即座に姿を消してしまう。
「……二撃目は間に合わない、か」
ボルトを引いて薬莢を出しながらホークアイは呟いた。
その声を聞きながら、ウェースは仮面の奥の笑みを強める。
(ククク……! こちらの行動に反応し、イレイザーに当ててみせる腕前は大したものだ……。だが、場所がわからん以上先んじることはできまい!)
敵の姿が見えないせいで、ホークアイ達はウェースの後からイレイザーに攻撃せざるを得ない。
火力自体はホークアイ達の方が高いが、それでもウェースよりも先に攻撃ができないのでは、彼に先んじてイレイザーを撃破することはまず不可能だ。
(今は少しずつ削り、発狂を確認したら、後は高火力の傀儡に変えて、一気に畳む……奴らに手を出す間など、与えんよ……!)
イレイザーは発狂すると、常に透明になるようになる。攻撃してくる時はもとより、ダメージを受けても透明化が解除されないようになる。
こうなれば後はウェースの独壇場だ。今のところイレイザーの正確な場所を把握できているのは、サーチ系の魔法を持っている彼だけなのだから。
(半分切るまでは、貴様らにも攻撃させてやろう……。だが、その先は譲らん。私がイレイザーを撃破するのを、指をくわえて見ているがいい……!)
再び、ウェースの放った鷹がイレイザーの肩を捉える。
今度は軍曹がガトリングガンを回し、その体を撃ち抜いた。
「はっはっはっ! 蜂の巣になるがいい!!」
勇ましい掛け声とともにイレイザーの体を削る軍曹のガトリングガン。
高火力な彼の攻撃はイレイザーのHPを容赦なく削り……ダメージを受けているというのにその姿を透明なものへと変えてしまった。
「はっはっはっ! ……どうしたことかな?」
「発狂……!?」
すぐにその可能性に思い至ったサラが、愕然と呟いた。
それを確認したウェースは連弩の矢束を入れ替える。
(ハッハァー! これでよい! あとは我が傀儡をすべて叩き込み、蹴りを付けてやる!)
「完全に消えたな……。ダメージを受けても透明になったってことは、もうこの後は姿を現すことはないわけか……」
ホークアイは小さく呟きながら、アサルトライフルとモシンナーガンを仕舞う。
「やれやれ。しかたないね……」
そうして懐から取り出したのは、ライジングブルー・ギガマグナム。
最大クラスの大きさを誇るそのリボルバーを取出し、ホークアイは両目を開いた。
「こいつの出番と、いこうじゃあないか」
(両目を開いた……?)
今まで片目をずっと閉じていたホークアイが両目を開いたことに、ウェースは微かな不審を覚える。
だが、特にオッドアイというわけではない。何らかの魔眼……というわけでもなさそうだ。
ホークアイはそのまま無造作に狙いをつける。イレイザーを狙っているのかもしれないが、まったく見当はずれの咆哮を狙っているのが、ウェースには分かった。
(……ただのはったりか、あてずっぽうか。ギガマグナムの破壊力なら分身を巻き込んで本体にダメージを与えられると踏んだのだろうが……)
ウェースは勝利の笑みを浮かべ、イレイザーへと狙いを定める。
(弾の無駄だな……。イレイザーは貴様から見て4時方向で大人しくしているよ……!)
「………」
ホークアイは無言で引き金をゆっくりと引く。
カチリと、小さな音を立てて撃鉄が起き上がった。
(もらったぁぁぁぁぁ!!)
声には出さないまま、ウェースはイレイザーに止めを刺すべく連弩の引き金を引く。
ウェースの傀儡と、ホークアイの銃弾。飛び出したのは、同時だった。
なお、ニンジャは都市伝説の類として伝えられてるとかいないとか。




