log113.到達
地下十五階。いよいよ、セードー達がチャレンジしているマンスリーイベントダンジョンの、大ボスのいるであろうフロアに到達することとなった。
セードー達が降り立ったフロアには柱がなく妙に暗い。何かが隠れていると言われても、おかしくはなかった。
セードーはぐるりと周囲を見回しポツリとつぶやく。
「ここが地下十五階か……」
「ここにボスがいるのですね……!」
「前でんな。図々しいガキやな」
ランスロットは二人の先を行くように前を進む。
ウォルフはそれを見て舌打ちをしながらセードーに耳打ちした。
「……んで、実際問題どうすんねん。このガキ、先のノースとか言う騎士と比べたら三下もええ処やぞ?」
「まあ、戦力としてみるべきではないだろう」
ランスロットに聞こえぬよう声を落としながら、セードーはウォルフに返す。
「だが、あれでも我々の倍のレベルだ。下手を打てば、横から獲物を掻っ攫われる可能性も高い」
「信じがたいけどな……まあ、経験値オーブつこたんやろが」
セードー達の視界に写るランスロットの情報は、彼がLv63であることを告げていた。
これは単純に考えて、セードー達の二倍のステータスを持つということ……。
このゲームはステータスがすべてではないが、それでも警戒に値するレベルだろう。
「あのノースとやらが先に行かせた以上、何か切札は持っているはずだ」
「それ切らす前に、撃破できたら御の字やな」
不用意に先へと進むランスロットの背中を追うように、セードーとウォルフは歩きはじめる。
と、その時。
「ようこそ……シーカー達よ」
「!!」
部屋の中心から声がしたかと思った瞬間、青白い炎が昇り立つ。
ランスロットは素早く剣を構えて後ろへと飛び退いた。
「クックックッ……」
そんな彼の様子を嘲笑うように、炎の中から一人の剣士が現れる。
禍々しい全身鎧を身に纏い、悪鬼の形相を模したマスクを装着した魔界剣士……。地下十階にて相対した男と、おそらく同じ人物だろう。
炎から姿を現した魔界剣士は、わざとらしく驚いたリアクションを見せた。
「これはこれは……てっきりもっと大勢到達すると思っていたが、たった三人だけとは……他の者たちは、どうしたのかな?」
「彼らは、別の場所で戦っています!」
ランスロットは声高に叫んで剣を握りしめる。
キッと顔を上げ、魔界剣士を睨みつけた。
「そして私は……私たちは貴方を倒すためにここまで来た! 御覚悟!」
「勇ましいじゃないか……」
ランスロットの言葉に、魔界剣士はうっそりと目を細める。
自らを値踏みするような視線を前に、ランスロットは自らを奮い立たせて魔界剣士へと斬りかかろうとした。
「いくぞ! 我が名は――!!」
名乗りを上げ、駆け出そうとするランスロット。
その両脇を、セードーとウォルフが一瞬で駆け抜けていった。
「――っえ!?」
「先に行くぞ」
「ボーっとしてんなボケが」
二人は驚いたように硬直するランスロットを置き去りにし、一気に魔界剣士へと躍り掛かる。
「ほぉ!? そうくるか!」
魔界剣士はセードーたちの行動に目を向くが、中空から大剣を取出し、応戦しようとする。
だが、魔界剣士の行動よりセードー達が間合いに踏み込む方が早かった。
「シャッガンブロォァ!!」
「チェストォォォォォ!!」
魔界剣士の上段をウォルフの拳が、その腹をセードーの正拳突きが打ち据える。
防御する間も与えぬ二人の攻撃に、魔界剣士は悲鳴も上げられずに後方へと吹き飛んだ。
そのまま炎を突き抜けてすっ飛んでいく魔界剣士を見て、ランスロットが悲鳴じみた非難の声を上げる。
「ちょ……! 卑怯です! 名乗りも上げず、上げさせずに敵を攻撃するなんて!」
「卑怯? 何言うてん。敵を前に悠長に構えとる方が悪いんやろうが」
ウォルフはランスロットに舌を出してみせながら、はっきりと告げる。
「これがルールのきまっとる試合やったらともかく、ゲームとはいえ戦争やろ? 戦争に卑怯もクソッタレもあるかい」
「戦争にもルールはあります! 正しく正々堂々と、相手と向き合うべきです!」
「耳心地のいい言葉だ。その言葉にも一理はあろう」
セードーは振り返ることなく倒れているであろう魔界剣士の方を睨みつつづける。
「だが、こちらにそんな余裕はない。今日、確実にこの場で奴を打ち倒す……。そのために、ここまで駆け抜けてきた。確殺できるというのであれば、喜んで全てを投げ打とう」
「だからと言って不意打ちは――!」
自分の言葉を歯牙にもかけない二人にランスロットが食ってかかろうとする。
その時、何かが破裂したかのような笑い声が上がり、辺りが一気に明るくなった。
辺りを照らすのは地面から噴き上がる炎の柱。その全ては魔界剣士が出てきたものによく似ていた。
そして吹き飛んだ魔界剣士は痛手もなさそうに立ち上がり、セードー達の方を向く。
「ハッ、ハハハハハ!! いいぞいいぞいいぞ! そう言うのは嫌いではない!!」
二人の拳を受けて吹き飛んでいた魔界剣士は笑いながら大剣を肩に担ぎ、セードー達を睨みつけた。
「そちらのボウヤと違い、君たちは正しく理解しているようだ! そうだ、何でも使ってくるといい! そうすれば天地の差を逆転し、あるいは私を打ち倒すことができるかもしれんぞ!?」
「ゆうやんけ、ワレェ」
「HPは減っていないな。装甲も厚そうだ」
二人は己に強化を施し、魔界剣士は大剣を構える。
「ソニックボディ!」
「五体武装・闇衣……」
「フフフ、マッシブギアか!? 先の一撃なら納得だな!」
魔界剣士は愉快そうに声を上げながら、一気に駆けだした。
「では今度はこちらから行くぞぉ!?」
「はやい!?」
ほとんど何も身に付けていないかのような身軽さで間合いを一気に駆け抜けた魔界剣士は、大上段から大剣を振り下ろした。
「ハァァァァッ!」
「コォォォ……!」
振り下ろされた大剣は、セードーの回し受けによってその軌道を逸らされる。
目標を見失った刃は地面を打ち、砕き、斬り裂く。
轟音と共に、地面が真っ二つに割れた。
「うわぁ!?」
ランスロットは慌てて大剣の射程から飛び退く。
叩きつけられた大剣が生んだ亀裂は、一体何人の人間が真っ二つにされるのかわからないほどに長く、深い。
必殺の一撃を凌がれた魔界剣士はニヤリと笑う。
セードーはそれに応えず魔界剣士の側面を取る。
「シッ!」
握り固めた拳から、親指だけを立てて相手へと突き入れる。
闇の波動も纏った拇指一本貫手が魔界剣士の脇腹に突き刺さる……。
だが、それよりも速く魔界剣士の手のひらがセードーの拳を握りしめた。
「ッ!?」
大剣から放した片手でセードーの拳を受け止めた魔界剣士は、そのままセードーを振り上げる。
「おおおぉぉぉぉっ!!」
「――!!」
まるで紙切れか何かのように振り上げられたセードー。
闇の波動を全身に纏う装甲代わりにしている彼であるが、地面を割るような魔界剣士の尋常ではないSTRの前ではどこまで役に立つものであろうか。
魔界剣士はそのまま、遠慮なくセードーの体を地面へと叩きつけようとする。
「シャラァッ!!」
その魔界剣士の腕を、ウォルフが殴り抜けた。
肘関節をピンポイントで狙い、突き抜ける衝撃が魔界剣士の叩きつけを阻止する。
魔界剣士の腕が、ガクリと曲がる。
「うぉっ!?」
一瞬の出来事に魔界剣士は驚きの声を上げ、その隙にセードーは魔界剣士の拘束から逃れる。
「チェスッ!!」
小さな呼気と共に繰り出された正拳突きが魔界剣士の手首を打ち据え、握りしめていたセードーの拳を離す。
魔界剣士は拘束を逃れたセードーから視線を外し、自身に向かってくるウォルフに目を向ける。
ひどく低い体勢で魔界剣士へと詰め寄ったウォルフは、魔界剣士の首を飛ばすように鋭いアッパーカットを放った。
「シャァッ!!」
「ぬっ!」
魔界剣士はそれをスウェーで回避。一歩下がり、手元に大剣を呼び寄せてウォルフを斬り裂こうとする。
だがウォルフはそれを許そうとしない。
「シィッ!!」
一瞬でステップインし、ウォルフは両の拳を連続で叩きつける。
手数で押すボクサーの拳が、目に留まらぬ素早さで魔界剣士の顔面を打ち据えようとする。
だが魔界剣士は素早く上げた大剣の柄で、ウォルフの拳をことごとくブロックした。
「ッ!?」
「はぁぁぁ!!」
驚き硬直するウォルフ。
一瞬だけ隙だらけになる彼を立てに斬り裂かんと、魔界剣士は大剣を上段から振り下ろす。
「チェストォォォォ!!」
だが大剣の腹を、セードーの真空足刀蹴りが襲い掛かる。
「うぉっ!?」
鋭い衝撃を剣に受けた魔界剣士は、たまらず横へと飛び退いた。
セードーはそのまま地面に着地し、ウォルフの隣へと並んだ。
「く、すまんセードー!」
「気にするなウォルフ」
素早くファイティングポーズを取り直すウォルフに、前羽の構えで魔界剣士を見据えるセードー。
魔界剣士は腕に響いた衝撃を抜くように、大剣の血振り動作を行う。
悠々とした動きで大剣を構え直す魔界剣士を見て、ウォルフが小さく舌打ちした。
「チッ、なんやアイツ……。ワイの動きについてきおったぞ」
「こちらも隙を突いたつもりで、隙を突かれた」
先ほどの一本貫手を受け止められたことを思い出し、セードーは表情を険しくする。
「人の姿をしているだけはある。おそらく、普通のモンスターには通じる戦法は通じんぞ」
「せやな。舐めてかかれる相手やないのは分かっとったことやけど……」
魔界剣士は自らの調子を整えるように、肩を大剣で何度か叩き背負うように大剣を構える。
そしてセードー達に狙いをつけ、一気に駆けだした。
「おおおぉぉぉぉ!!」
「来るぞ!」
「こいやぁ!」
一気に駆け抜けようとする魔界剣士に対し、セードー達は自らも打って出る。
互いに前進し、あっという間に互いを間合いに収めた三人。
至近距離を捉えた魔界剣士の刃が薙ぎ振るわれ、セードー達はそれをぎりぎりで回避する。
「シャッ!」
「ハァッ!」
魔界剣士を間に挟むように立ち、セードーとウォルフが拳を叩き込む。
魔界剣士は素早く剣を離し、二人の拳を手甲で受け止める。
だが、それだけでセードー達の攻撃は止まらない。
今度は拳を掴まれぬように素早く引き、セードーは空中で足を振り上げる。
「外法式無銘空手、薙ぎ落とし!!」
空中歩法で宙を蹴り、魔界剣士の首筋を狙った鋭い三日月蹴りが放たれる。
魔界剣士は素早い動作でしゃがみ込むが、そうして低くなった彼の腹にウォルフが潜りこんだ。
「ッシャァァァ!!」
そのまま抉りこむようにフックを何度も放ち、魔界剣士の腹の装甲をへこませようとする。
二発、三発と攻撃を受ける魔界剣士は顔をしかめウォルフの首をへし折ろうと腕を伸ばす。
「ハウンドナッコォ!!」
その気配を察したウォルフはスキルを発動し、魔界剣士と距離を取る。
スキル発動と同時に後方に飛び、スキルの反動で吹き飛ぶウォルフ。
魔界剣士を彼の追撃に移らせぬため、セードーはもう一度宙に飛び魔界剣士の頭上を取る。
「チェイリャァァァ!!」
「くおぉぉぉぉ!!」
頭上から闇の波動を纏った鋭い手刀突きを繰り出すセードーに対し、魔界剣士は新たに取り出した大振りのナイフ二本で対抗する。
金属音は幾度も鳴り響き、セードーと魔界剣士の攻防の激しさを物語る。
「エイアァァ!!」
「だぁぁぁぁ!!」
互いの攻防の隙間を縫うように、互いの一撃が二人を襲う。
セードーの手刀が魔界剣士の兜のひとかけらを抉り、魔界剣士のナイフがセードーの脇腹の肉を斬り裂く。
痛みに顔をしかめ、セードーはついでとばかりに魔界剣士の顔に蹴りを入れる。
「ハァッ!!」
魔界剣士はその蹴りを避けることができず、甘んじて顔のマスクで受け止める。
セードーはその反動で魔界剣士から飛び退き、地面に着地する。
仕掛ける気配を窺っていたウォルフが素早くカバーに入り、セードーに声をかける。
「どや、まだいけるか!?」
「仔細無い……! 死ななければ安い!」
セードーは素早くポーションで減ったHPを回復し、再び立ち上がる。
「死なねば何度でも行ける!」
「その意気や! 行くでぇ!!」
立ち上がったセードーと共に、ウォルフは勢いよく魔界剣士へと駆け出してゆく。
「……………」
そんな三人の攻防を、ランスロットはただ見ていることしかできなかった。
なお、ボスが動き出す前に攻撃を加えるのは、メインクエスト系以外ならぎりぎりセーフの模様。




