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log111.総隊長護衛方

 地下十一階へと突入したランスロットたちの目に入ったのは、咆哮と真っ赤な炎を吹き上げギラリと牙を剥くマグレックスの姿と。


「メテオキィィックゥゥゥ!!!」


 そのマグレックスに向かって斜め四十五度くらいの角度で飛び蹴りを決めるスティールの姿であった。

 さながら特撮ヒーローか何かのように背に背負った爆炎を推進力に、スティールは鋼鉄の足をマグレックスの胸に叩き込んだ。


「ぬりゃぁぁぁぁ!!」

《GYAAAAA!!!》


 溶け切った溶岩にめり込むスティールの足。

 その向こう側にある本体にも今の一撃は届いたのか、マグレックスが痛みの咆哮を上げる。

 その反動で宙返りを打つスティールに続くように、クマの着ぐるみの少女が腕を回し、勢いよく前に突き出す。


「―――!!」


 ぼそりと何らかのスキル名を呟くのと同時に、着ぐるみの腕があり得ないくらいに巨大化しマグレックスの足を殴り飛ばす。

 見た目相応の衝撃音を響かせ、着ぐるみ少女はマグレックスを転倒させた。


「よし、このまま一気に――!」

「――!?」


 倒れ込んだマグレックスに一気呵成に攻め込もうとするスティールであったが、着ぐるみ少女がそれを押し止める。

 いつの間にか現れた、円卓の騎士(アーサーナイツ)のランスロットたちの姿に気が付いたのだ。

 少女に腕を引かれ、スティールは驚いたように振り返る。


「なんだどうし――お前たちは」


 そしてランスロットたちが立っているのを見て、微かに目を見張った。


円卓の騎士(アーサーナイツ)……」

「ええ、その通りです」


 ランスロットはスティールに力強く応え、腰の剣を引き抜く。


「貴方たちを、助けに来ました!」

「よく言う。……それは置いておくにしても、想像以上に速いな」

「これが我々の実力だ」


 胸を張るランスロットとノースに、スティールは懐疑的な視線を向ける。


「……まあ、よい。このマグレックス、譲るつもりはない。何をする気かは知らんが、邪魔はしないでくれ」


 スティールはそれだけ言うと、マグレックスに改めて向き直る。隣に立っている着ぐるみ少女は円卓の騎士(アーサーナイツ)に向けて露骨に敵意をむき出しにしているようだ。


「―――ッ!」


 その証拠に、クマの着ぐるみの頭の表情が、牙を剥いた恐ろしげな顔つきになっている。デフォルメされているのでそこまで怖いわけではないが、その気持ちはよく伝わってきた。

 ランスロットは取りつく島もない二人の様子に若干怯むが、ノースはさして気にした様子もなく一つ頷いた。


「ふむ。ではここは貴公の出番だ、イース」

「任されよう」


 ノースに呼ばれたイースという名の騎士は、装飾を施された剣……というよりは杖を片手に一歩前に出る。

 スティールは自分たちに立ち並ぶイースを横目で見て、問いかけた。


「……戦うというのであれば何者か、どう戦うかくらいは教えてほしいものだ」

「我が名はイース。円卓の騎士(アーサーナイツ)、総隊長護衛方、東方の将」


 イースは名乗りを上げながら杖剣を振り上げる。


「我はアルフヘイムで名乗りを上げた騎士にして、魔導と共にある者」


 そして小さく口の中で呪文を呟くと、杖剣の切っ先から鋭い鎌鼬が解き放たれた。

 叩きつけられた風の刃に呻き声を上げるマグレックスを見上げ、スティールは一つ頷く。


「魔導騎士か。フレンドリファイアはやらかすな」

「無論だ」

「――!」


 スティールと着ぐるみ少女は駆け出し、イースは二人を援護するように魔法を放ち始める。


「水属性は使うな! ダメージが通らんようになるらしい!!」

「委細承知した! ……ククッ」


 そのまま一応共闘の体勢を取り始める三人を見て、ノースは階段を指差す。


「さあ、総隊長。ここはイースに任せ、我々は先を! 階段が開いているということは、先に進んでいる者がいるはずです!」

「はい!」


 ノースの言葉を疑うことなく、ランスロットは階段に向けて駆け出してゆく。

 ノースはその背を追いかけながら、イースに誰にも聞こえないよう声をかけた。


「―――うまくやれ」

「―――もちろん」


 イースはニヤリと頷き、そのままスティールたちの援護に徹し始めた。

 ノースと残る二人もランスロットと同じように地下十二階へと進む。




 そこで戦っていたのは異界探検隊とパトリオット。

 異界探検隊はパトリオットに狙いを絞らせないよう散り散りに動きながら、隙を見てパトリオットへ攻撃を仕掛けていた。


「えぇい! やっぱり9mm徹甲弾じゃ火力不足かぁ! あたしもアンチマテリアルライフルくらい持ってくるんだったぁ!!」

「なんか怖い響きだよマコちゃん!?」

「今ないものをねだっても仕方ないよ! ライトニングブレェード!」


 パトリオットの巨体に拳銃弾や光刃がぶつかるが、たいして損傷したようにも見えない。HPバーは揺れ動いているので、ダメージにはなっているようだが。

 雨あられにように降り注ぐミサイル、銃弾、レーザーを踊るように回避しながら、リュージが階段を下りてきた円卓の騎士(アーサーナイツ)を発見する。


「おー!? やってきた円卓の騎士(アーサーナイツ)って、お前ら!? 手伝う気があるならハリーハリーハリー!」

「リュージ!!」


 円卓の騎士(アーサーナイツ)を擁護するような発言をするリュージに、険しい表情でソフィアが声を飛ばす。

 そして彼女はパトリオットに一閃浴びせかけながら着地し、毅然とした表情でランスロットたちと相対する。


「……円卓の騎士(アーサーナイツ)とお見受けする」

「はい! 皆さまをお助けに参りました!」


 ランスロットはそう言って頷くが、ソフィアは頷かない。


「助力を乞うた覚えはない。早々に帰られよ」

「ここまで来て帰るつもりはありません! 我々もまた、貴方たちと志を同じくするものです!」


 そう言ってランスロットはソフィアを見上げるが、ソフィアはランスロットを見下ろす。


「――貴様らと同じだなどと、二度と口にしないでもらおう」


 ソフィアはランスロットの言葉に怒りを覚え、冷然と小さな総隊長を睨みつけた。


「貴様らがなにを考えて今ここにいるかなど聞きたくもないが、我々は欲しいものを手に入れるためにここにいる。……もう一度言う、早々に立ち去れ」

「ですが……!」


 ソフィアの視線の中に宿る嚇怒に微かに震えながらもランスロットは気丈に反論しようとするが、そんな彼の前に大盾を構えた騎士が立つ。


「そういきり立たないでほしい。我々は貴君らと敵対するためにここに来たのではないのだ」

「サース!」

「……誰だ、貴様」


 ソフィアの誰何に、サースは背筋を伸ばして答えた。


「我が名はサース! 円卓の騎士(アーサーナイツ)、総隊長護衛方、南方の将!」


 見せつけるように大盾を構え、サースは一気に駆けだす。


「我はヴァナヘイムで名乗りを上げた騎士にして、巨盾と共にある者!」


 そして最前線に躍り出て、パトリオットの攻撃を一心に受け止め始める。


「我が巨盾は万物を遮る! この程度の重火器など物の数ではないわぁ!!」

「お、メイン盾? じゃあ、そのままそのまま」


 リュージは呑気な様子でサースの傍に屈みこみ、トリガーハッピーの弾倉を交換し始める。

 そんな仲間の様子にため息をつきながら、ソフィアは踵を返してパトリオットの方へと向き直る。


「ソフィアさん……!」

「貴様らと慣れ合うつもりはない。……去るなり留まるなり好きにしろ」


 それだけ言い切り、ソフィアはパトリオットへと飛び掛かる。

 ランスロットは伸ばしかけた手を降ろし、悔しそうに唇をかみしめる。


「何故、わかってくれないのです……!」

「……人とはかくも冷たいもの……ですが、だからこそ我々が手を差し伸べるのです」


 ノースはランスロットを支えるようにその背中を撫で、そして先を示す。


「さあ、ここはサースに任せ、我らは先へ。彼女をいたずらに刺激しないようにしましょう……」

「……はい」


 ランスロットはノースの言葉に意気消沈しながらも先へ進む。


『――このリュージとか言うのが、おそらく手練れだろうな』

『――そうか、ならば消せ』


 不意に聞こえてきたサースのギルドチャットにそう答えながら、ノースはランスロットともう一人はランスロットを追いかけた。




 地下十三階。大量の不可視の敵を狙い撃ち続ける銃火団(ファイアワークス)を見つけたランスロットは大きな声を上げて彼らに近づいてゆく。


円卓の騎士(アーサーナイツ)です! 貴方たちを――!」

「おっと」


 だがホークアイはあいさつの代わりに銃口を向ける。

 思わず身を竦めるランスロットの頭上を、ライフル弾が掠めてゆく。


「ヒッ……!?」

「悪いね。今立て込んでてさ」


 悪びれた様子もなくホークアイはそう言って、リロードをし始める。


「挨拶はいらない。ここ抜けて先に行くなり、足を止めてこっちを手伝うなり好きにしな」

「ホーク! 真面目にやりなさい!」


 ショットガンで付近にいたイレイザーの分身を吹き飛ばしながらサラが檄を飛ばす。

 軍曹は呵々大笑しながら辺りに群がる分身たちをガトリングガンで蜂の巣にしていった。


「はっはっはっ! この密度だと、どこに撃っても当たるなぁ! 爽快爽快!」

「笑ってる場合かぁ! とっととイレイザー見つけないと……!」


 わずらわしそうに辺りを蹴散らしながら、サラもリロードを始める。

 目に見えないイレイザーとその分身……頭に装備しているナイトビジョンをもってしても対応に苦慮しているようだった。

 ランスロットは戦場さながらの銃火を前に身をすくませ続ける。

 そんな彼に近づく分身を見て、ノースは鋭い声を上げた。


「総隊長!」

「……ハッ!?」


 ランスロットは慌てて反応するが、それよりもノースが剣を振り下ろす方が早い。

 そのまま真っ二つになるイレイザーの分身を見て、もうひとりの総隊長護衛方が前に出る。


「ここは私が出ましょう……。見えぬ敵とあらば、私の方が対応しやすい……」


 大きな連弩を手にした騎士が、ゆらりと前に出ながら名乗りを上げた。


「我が名はウェース……。円卓の騎士(アーサーナイツ)、総隊長護衛方、西方の将……」


 ウェースは連弩をなにもいない上空に向け、引き金を引く。


「我はムスペルヘイムで名乗りを上げた騎士にして、傀儡と共にある者……」


 上空に打ち出された矢は、空中で静止すると小さな鳥となり、グルグルと天井を周回し始める。


「我が使い魔は魔を見抜く……。例え姿を隠そうとも、その身に宿した魔の力までは隠せまい……」


 ウェースはぼそぼそ呟きながら、地下十三階の一角に向けて無造作に連弩を向けた。


「そこだ……」


 そして飛び出した矢は中空で姿を変え、鋭い嘴をもった鷹となってそこに存在したイレイザーの肩を抉る。


「………ッ!!」


 イレイザーは一瞬姿を現し、その場から飛び退こうとする。


「そこだぁ!」

「はっはっはぁ!」

「狙い撃つ!」


 だが銃火団(ファイアワークス)はその隙を逃さず一気に畳み掛ける。

 雨のように銃弾がイレイザーへと降り注ぎ、容赦なくHPを削ってゆく。

 だが、殺しきるには程遠い。二割ほどHPを減じたイレイザーは何とか姿を消し、そのまま分身の中へと紛れ込んでゆく。


「クッソ、逃げられた!」

「そう甘くもあるまい……フフ……」


 ウェースは小さく笑い、ノースの方を見る。

 ウェースの絶対有利を確信し、ノースは仮面の奥でほくそえみながらランスロットを促す。


「ここにいては、我々は足手まといです……! 先に進みましょう!」

「え、ええ、そうですね……!」


 見えない敵に怯えながら、ランスロットは一気に階段へと駆け抜けてゆく。

 その背中を追いながら、ノースは収まらぬ笑みを仮面の奥で浮かべつづけた。




なお、総隊長護衛方は総隊長に次ぐ地位を持つ模様。

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