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log109.地下十五階へ向けて

 赤々とした地下十一階に現れたマグレックスをスティールたちに任せて地下十二階に突入するセードー達。


「あの時見えた四体の影が一階ごとにいるとすれば、奴がいるのは地下十五階!」

「そしたらあと四つ階段下りたらええだけか! はっはぁー! 簡単やな――」


 高笑いを上げながら突入するウォルフの眼前に現れたのは、巨大なゴーレムであった。

 土気色に染まった地下十二階に立っていたのは、マグレックスさえ凌ぐ巨体を誇る、鋼の巨人。

 推定される全高は18m。野太い四肢や頭に反し、アンバランスに小型の胴体をもつ一つ目の機械人形は、両肩の装甲を開いて二十発近い小型ミサイルを雨あられのようにウォルフたちに解き放った。


「――ない! 撤回! いやになるほどきびしぃー!」

「叫んでる場合かよ! 来るぜ!」


 推進剤の燃える音共に飛来するミサイルを前に、サンは目の前の空間を叩くように貼山靠を仕掛ける。


「獅子咆山!!」


 そう名付けられたスキルが発動し、サンの背中から爆風と衝撃波が放たれる。

 迫りくるミサイルはサンの獅子咆山の衝撃を喰らい、目的に到達することなく自爆していった。

 大きく腕を振るい、震脚してみせながらサンは得意げに言い放つ。


「ハッ! ……爆発の衝撃を貼山靠で殺す、獅子咆山!! 見たか、これがあたしの必殺技だ!」

「見栄きってる場合じゃないでしょう! ホーク!!」


 ゆらりと腕を上げ、フィンガーバルカンを放とうとする目の前のゴーレムにショットガンで牽制を仕掛けながら、サラはホークアイに叫ぶ。

 ホークアイは開いている右目を眇めながら、ゴーレムの股下から先を見る。


「……ここも階段が開いてるっぽいな。ひょっとして、この先地下十五階まで一直線に行けるんじゃないか?」

「よっしゃ、せやったら先に進もう、すぐ進もう、さあ進もう!」


 階段が開いているという情報を聞くやいなや、ウォルフはゴーレムを迂回しつつ先へと進み始める。

 そんなウォルフに向け、ゴーレムはフィンガーバルカンの銃口を向け、容赦なく発砲。


「んぎゃー!? なんでやぁー!?」

「そりゃ、真っ先に敵に近づきゃ、そっちを狙うだろうよ……」


 軽妙なステップで銃弾の雨を回避するウォルフを見ながらため息をつき、リュージは緋色の大剣を肩に担いだ。


「じゃあ、ここは俺たちが残ろうかね」

「む? いいのか?」

「いいわよ。っていうかむしろあたしたちに譲りなさい」


 マコが拳銃の弾倉をそれ専用のドラムマガジンへと変えながら、フィンガーバルカンを連射するゴーレムを見上げる。


「レアエネミー、パトリオット……。やっと見つけた……!」

「あれもレアエネミーなんですか!?」

「おうさ。機械系のレアエネミーで、特定地点のみに現れるっていう、レアエネミーの中でも特にレアなうちの一匹でね」


 大剣を構え、リュージも目の前のゴーレム、パトリオットを見上げる。


「こいつはアーティファクトを100%ドロップで吐き出すことで有名でな……。ここ最近、ずっと追いかけてたのさ」

「ようやくだね……!」


 コータも剣を抜き払い戦闘態勢に入り始める。心なしか、先の二人に比べると何かを強く期待するような眼差しをパトリオットに向けていた。

 三人のプレイヤーが戦闘態勢に入ったことで、ウォルフ以外にもヘイトが溜まったのかパトリオットの頭部がぐるりとリュージ達の方へと向く。

 そしてその一つ目に、光が収束し始める。


「……あら、ひょっとして……」


 いやな予感にミツキが水球を生み出すのと同時に、パトリオットの瞳が瞬いた。

 一瞬で伸びた光はリュージ達の眼前に叩きつけられ、凄まじい爆音と閃光を辺りに撒き散らした。


「目からビーム!?」

「はっはっはっ! ロマンだな!」


 散発的に目が瞬き、幾度も瞬く爆音と閃光。パトリオットの目から発射される殺人光線を目の前に、唖然とする一同。

 だが、異界探検隊は怯まない。仲間たちの前に躍り出たレミが、光り輝く半球状のバリアを展開する。


「フォースバリアー!」


 レミが展開したバリアは、パトリオットが放つ殺人光線を受け止める。


「レミさん!」


 あわやバリアごとレミが貫かれる!そんな光景を想像したキキョウたちは悲鳴を上げる。

 だが殺人光線はレミのバリアに接触した瞬間、無害な風となって辺りに消えてしまった。

 バリアを張りながら、レミは得意げに胸を張った。


「私だって、<光>属性です! このバリアは、エネルギー系の攻撃を一切無効化するんです!」

「無効化系がLv30台で出ちゃうの……? 信じられない……」


 レミの説明に絶句するサラ。

 パトリオットは何発かレミに向けて殺人光線を放つが、それが効かぬと見るや余っていた片手を……物理属性のフィンガーバルカンをレミに向けた。


「あ、それはだめです物理攻撃は防げませキャー!?」


 降り注ぐ銃弾の雨に、レミは慌てて回避行動をとる。


「でぇい!!」


 そんなレミを救うべく、一瞬で飛び上がったソフィアがフィンガーバルカンを放つ腕を容赦なく蹴り上げる。

 轟音を上げて銃弾を放つ腕が弾かれそのまま上へと向けられる。

 そのままソフィアは滞空しながら、セードー達に向かって叫ぶ。


「ここは私たちに任せて、先に行くんだ!」

「僕たちが、ここは死守します!!」


 剣から光の刃を飛ばしながらパトリオットに斬りかかるコータも、ソフィアのように叫ぶ。

 リュージとマコはそんな二人の言葉に肩を竦めながらセードー達を促した。


「……っつーわけで、任せろ。円卓の騎士(アーサーナイツ)には負けねぇからさ」

「というか横取りしようとすんな。あいつはあたしらの獲物じゃ」

「殺気立つなよ……わかったわかった」

「では、ここは任せよう」


 露骨に歯を向いて威嚇するマコに肩を竦めつつ、セードー達は地下十三階へと急ぐ。

 フィンガーバルカンで狙われていたウォルフも異界探検隊のおかげでヘイトが外れ銃弾の雨から脱する。


「さて、アーティファクトドロップ目指して頑張りますかー」

「ここ数週間の恨みまとめて叩きつけてやりゃぁー!!」


 地下十三階へと降りる寸前に聞こえてきた私怨の籠ったマコの叫びに、セードーが軽く首を傾げた。


「アーティファクト……そこまでせねば手に入らぬアイテムだったか? 確かクエストを進めると入手できるとかなんとか」

「まあ、最低限の奴はな。良いのを追求しようとすると、どうしても試行回数が増えるもんさ」


 アーティファクト。イノセント・ワールドをプレイするものであればだれもが欲しがるレアアイテムの一つであるが、同時に確実に一つは入手できるアイテムでもある。

 セードーも何度かお目にかかったことがあるアイテムであるが、それほど魅力的なものであるようには写らなかったものだが。

 まだ不思議そうに首を傾げるセードーに、軍曹は豪快な笑い声を掛けてやる。


「はっはっはっ! アーティファクトで重要なのは、その効果だからな! 君もそのうちお気に入りのアーティファクトが見つかるさ!」

「はぁ。そう言うものですか」


 軍曹の言葉にまた首を捻りつつも、セードーは地下十三階へと降り立つ。

 いくつもの柱が並び立ち、青白い炎が辺りを照らす地下十三階。その場所に降り立った途端、冷気と表現できるほどに冷え冷えとした殺気がその肌を貫いた。


「……何かいるか」


 素早く構えるセードー。他の仲間たちも各々の武器を構える。

 そのままゆっくりと前進し、辺りを確認した。

 ……付近に敵影はなく、階段も普通に開いているようだった。

 だが、階段に一歩近づくごとに、肌に突き刺さる殺気は強まっているように感じた。


「……んだよ、どこにいるんだ……?」

「気持ち悪い……」


 背中合わせに進むサンとサラ。

 じりじりと、張りつめた糸のような空気と時間だけが流れてゆく。

 と、その時。


「チェイリャァァァァ!!」

「っぎゃ!?」


 ほとんど不意打ち同然にセードーが近くの柱に前蹴りを解き放った。

 心臓を貫くその気勢に、サンがあられもない悲鳴を上げた。


「んなろー!? いきなり何叫びやがんだ!!」


 薄い胸を押さえながら、サンが抗議すべく拳を振り上げる。だが、セードーはそれに構わず、鋭く叫んだ。


「来るぞ!!」

「え? なにが?」


 セードーの叫びの意味が解らず、首を傾げるサン。

 そんな彼女の後頭部を、キキョウの棍が鋭く通り過ぎた。


「エェイッ!!」

「オッフ!?」


 友の思わぬ一撃にサンは飛び上がるほどに驚いたが、それと同時にモンスターの小さな悲鳴も届いた。


「!? 今のって!」

「遅すぎやぞ! はよきづけい!!」


 何もない場所に拳を振るうウォルフ。

 同時にミツキも踊るように腕を振るい、軍曹とホークアイも近場の何かに向けて銃を撃ち始めた。


「え? え……?」


 サン同様にサラも意味が解らないようだ。

 どうすべきか迷い、ショットガンを情報に構える彼女。

 サンはそんな彼女の方へと視線を向け。


「――ッ!」


 その背後に迫る、何らかの影を見る。

 サラの背後には何もいない……ように見えた。

 だが彼女の背中が微かに歪み、そこに何かがいるように空間が揺らめいていた。


「サラッ!」

「えっ!?」


 サンの鋭い声に反応し、サラは反転し何かいるかどうかも確認せずショットガンの引き金を引いた。

 鋭い破裂音と共にサラの背後の歪みが砕け、そのまま消滅していった。

 崩拳を放つ寸前の体勢で動きを止めたサンが、そのままの姿勢でサラに問いかけた。


「……お前って、射線の確認とかしないタイプ?」

「こ、この状況なら迷わず撃つでしょう!?」


 ごまかすように、何かがいた空間にショットガンシェルを残らず撃ちこみ、サラはリロードを始める。

 それを狙うようにまた空間が揺らめくのを見て、今度こそサンは崩拳を叩き込んだ。


「でぇい!!」


 何かを叩く鈍い感覚と共に、人型のモンスターが一気に燃え上がった。

 できそこないの人間のような不気味の様相が一瞬炎の中に現れ、そのまま灰へと還る。

 サンはそのモンスターの顔つきに顔をしかめつつも、油断なく辺りを見据えた。


「さっきからの気配はこいつらかよ!」

「いや、目立つ気配はこいつらのものだが、おそらく殺気の大本は別だ!」


 また一体人型のモンスターを蹴り殺すセードー。

 その言葉に、ライフルの引き金を引くホークアイが小さく呟いた。


「光学迷彩タイプのモンスターに、完全に見えないモンスター……ひょっとして、レアエネミー・イレイザーか?」

「イレイザー?」

「はっはっはっ! 俗に軍隊モンスターと言われる、本体と分身で構成されるタイプのボス系モンスターでな! イレイザーはそうしたレアエネミーの中でもトップクラスの撃破しづらさを誇るのさ!」


 辺りに群がる透明な分身をハチの巣にしながら軍曹がイレイザーについて説明を始める。


「分身は光学迷彩系なんだが、イレイザー本体は本当に見えない! これがびっくりするぐらいに!」

「そんなのどうやって倒せっちゅーねん!!」

「仮にも光学迷彩の敵モンスターを見ないで撃破しながら言うセリフじゃないね……」


 近寄ってくる分身どころか、遠巻きにしている分身すら近寄って殴り倒すウォルフを見て首を横に振りながら、ホークアイは水中眼鏡のようなものを取り出す。


「一般的には、サーモグラフ系の装備アイテムを使えばいい。肉眼で見えなくても、体温くらいはある設定らしいからな。一応これで見える」

「なるほど」


 足刀蹴りで分身を一体蹴り倒しながら、セードーはホークアイの背中につく。


「……ちなみにそれはいくつある?」

「この人数で、イレイザーを相手にするのは考えてないんで、銃火団(こっち)の人数分しかないよ」


 サーモグラフを装備しながら、ホークアイは近場の分身に一発撃ちこむ。

 セードーは一つ頷き、そのまま階段に向けて駆け出した。


「ではここを頼む」

「任されたよ。サラ、軍曹!」

「はっはっはっ! 任されよう!」

「みんな、行って!」


 サーモグラフを装備した銃火団(ファイアワークス)のメンバーが、先ほどよりも的確に分身らを撃破し始める。

 階段に足を掛けながら、ミツキが不安そうに呟いた。


「ここまでレアエネミーが続いた……ということは、この先にも当然いるわよね……」

「今度のがどんなレアエネミーなのか、分かりませんよね……」

「「「………」」」


 キキョウもまた、不安そうに呟く。

 先を行く三人はその声に答えることができず、そのまま地下十四階を目指して駆け出していった。




なお、サーモグラフは割と消耗品仕様な模様。

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