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log108.地下十一階

 地下十階を降り、地下十一階へと突入したセードー達の目の前に現れたのは、一頭の怪獣であった。


〈ANGYAAAAAAAA!!!〉


 赤黒く輝く鱗を持つ恐竜は、セードー達の姿を見るなり咆哮を上げる。

 耳が裂けそうな咆哮を上げながら怪獣はその辺りの柱よりも太い尻尾を振り回し、鼻面を天井すれすれまで突き上げる。

 その姿を見たウォルフが、突然嬉しそうな叫び声を上げる。


「ティラノや! ティラノサウルスやぁぁぁぁ!!」


 白亜紀最大の肉食恐竜そのものであった。

 やや興奮したように叫ぶウォルフは置いておいて、セードー達は即座に武器を構える。

 目の前の恐竜はそれに応えるように口元に火を灯し、咆哮と共に天井へと噴き上げた。

 紅蓮の炎は天井を舐めつくし、そこにぶら下がっていた数多のランプを灯していった。


「……ティラノサウルスは火を噴くのか?」

「いや、噴かへん」


 目の前の恐竜が火を噴いたのを見て正気に戻ったウォルフも拳を構える。

 そして恐竜が火を噴いたのを見て、リュージが忌々しそうに舌打ちをした。


「チッ。鱗が赤黒かったんでまさかと思ったんだが……」

「レアエネミーの、マグレックスか。どうにもねぇ……」

「レア? レアエネミーなのかあれ!?」


 スティールは勇ましく火を噴き、荒々しく鼻息を吹き出す恐竜……マグレックスを指差す。

 スティールの質問に、ホークアイが小さく頷いた。


「ああ、レアエネミーさ。溶岩竜・マグレックス。ニダベリルの山の中を歩いていると遭遇することがあるレアエネミーでね。あの赤黒い鱗はみんな溶岩なのさ」

「今はいいんだが、戦闘態勢に入ると接触ダメージが入るようになるんだよな……」


 言っている間にも、マグレックスの鱗が少しずつ紅く輝き始める。

 さらにその巨体の周りには陽炎も現れ始めている。どれだけの熱が、あの体から発せられているのだろうか。

 水球を用意しながら、ミツキはマグレックスを知っているらしい二人に問いかける。


「それで? あの体を冷やせばいいのかしら?」

「いんや、冷やしちゃまずい。あの溶岩が固まるとまともなダメージが入らなくなる。何しろ装甲の値が1000になるからな」

「1000って……それじゃ、メタルゴブシリーズじゃねーか……」


 リュージの言葉に、サンが絶句する。

 ちなみにメタルゴブシリーズとは、この手のRPGにはある意味おなじみの経験値大量入手可能なモンスターで、極めて高い装甲値と猛烈に低いHPで有名なモンスターである。

 倒せればLv1のキャラがLv30位になる量の経験値がもらえるが、その装甲値のせいでまともなダメージを与えるにはLv50以上のステータスかそれ専用の特殊な武器が必要というモンスターである。


「まあ、冷やしてももう一回熱したら装甲は溶けるんで問題ないっちゃないけど、時間がもったいない」

「では、ダメージ覚悟で直接攻撃するしかないか……」


 覚悟を決めて戦闘を開始しようとするセードーの耳に、同盟の仲間たちのチャットが聞こえてきた。


『聞こえるか!? こちら地下三階組! 円卓の騎士(アーサーナイツ)の連中がこっちに来たんだが、なんかスゲェ速さで先に進んでった!』

「これは……一方通行の?」


 セードーは一方的に流れてくるチャットにしばし耳を傾けた。






「あっという間に通り過ぎてった! 迷いなさすぎだろ、あれ……!」


 悔しそうに刀によく似た曲刀を振るう少年剣士。

 彼の傍には姿が消えつつあるゴブリンソルジャーの姿があった。

 背後を奇襲されかけた際、円卓の騎士(アーサーナイツ)の一人が通り際一閃していったのだ。

 鮮やかな手並みは惚れ惚れするほどであるが、円卓の騎士(アーサーナイツ)の者たちは少年剣士に声をかけるようなことはなくあっという間に階段へと向かっていった。


「ひょっとしたら、どっかからダンジョンの地図が漏れてるかもしれないぞこれ!」

『こっちにもキター! って、もう行くのかよ!? っていうかなんで知ってるんだよそっちが階段って!?』


 少年が叫ぶ間にも、別の階から仲間の悲鳴が聞こえてくる。

 この城砦ダンジョンは比較的優しい構造になっているが、それでも初見であれば迷いなく先に進むことは難しい。そうでなければダンジョンではなく、ただの城だ。

 だが、円卓の騎士(アーサーナイツ)は一直線に階段を目指して進んでいる。先導しているのはランスロットとあの四騎士だった。


『アーちょっとそこの騎士様方こっちのお手伝いを、って聞いてねー!』

「だめだ、あいつら下層のレアアイテムか何かを目指してるようにしか見えねぇ! 先行してるギルド、気を付けてくれ! あの調子だと、十分もしないうちにそっち行くぞ!」


 近寄ってくるモンスターを斬り捨てながら、少年剣士は仲間たちに叫ぶ。

 仲間たちが、円卓の騎士(アーサーナイツ)に勝つことを願いながら。






「……とのことだがさてどうしようか……」

「だなぁ」


 そろそろ辛抱が溜まらなくなってきているらしく、蒸気さえ吹き始めたマグレックスを見上げつつ、セードー達は考える。

 円卓の騎士(アーサーナイツ)が一直線にダンジョンの最下部を目指しているととなる、ここまで到達するのは時間の問題だろう。

 そして彼らの狙いはこのダンジョンで取れるレアアイテムである確率がきわめて高い。無論、完全100%善意から手伝いを申し出ている可能性もなくはないだろうが、上階のマップ埋めを完全に無視しているところを見るにその可能性は否定してもよさそうだ。

 となれば、ここでまごついている場合ではない。


「とりあえず、先に進めるかどうかだな……」

「そのことだけど、心配無いようよ」


 少しパーティから離れた場所に立ち、双眼鏡で先を見ていたマコが、一点を指差す。


「あそこに階段が見えるけど、特に塞がってないみたい。先に行こうと思えば行けるわよ」

「はっはっはっ! ならばとっとと先に進むべきだろう!」

「けど、マグレックスは? 無視していいの!?」


 軍曹は先に進もうとするが、サラはマグレックスから目を離そうとしない。

 このまま放っておいて先に進めば円卓の騎士(アーサーナイツ)がマグレックスを倒してしまうだろう。

 だが、それは――。


「なら、ここは我々が残るとしよう」

「――ッ!」


 そう言って前に一歩出たのはスティールと着ぐるみ少女だった。

 鋼の鎧を纏い、拳を握りしめるスティールを見て、セードーは問いかける。


「……いいのか?」

「もちろん。それに、マグレックスとの相性は我々の方がよいだろう?」


 全身に溶岩を纏うマグレックス……触れるだけでダメージを与えるような装甲を持つこのモンスター、まともに戦うための手段はそれなりに限られるだろう。


「ダメージ装甲を持つのであれば、遠距離攻撃か防御性能を高めるかの二択だが、この先にもレアエネミーやボスモンスターがいるのであれば、火力の高い銃火団(ファイアワークス)は温存すべきだと思う」

「実力を買ってくれるのは、ありがたいねぇ」


 ホークアイは微かに微笑みを浮かべながらも、鋭い眼差しでスティールを睨む。


「――だが、勝算はあるのかい? 相手は、レアエネミーだぜ?」

「舐めないでいただこうか」


 スティールは不敵に言い放ち、眼前のマグレックスを睨みつける。


「これでもLv46……今同盟においては高い方だ」

「――! ――!」


 そして隣の着ぐるみ少女はプラカードを持ち出す。そこには「私はLv43です!」の意思表示がある。

 どちらもLv40越え。少なくとも、相応の経験値は積んできている。


「少なくとも、ただ押し負けるつもりはない」

「……そうかい」


 ホークアイは軽く肩をすくめてライフルを背負い直す。


「じゃあ、後は任せようじゃないか?」

「応、任されよう」


 そうして先を進み始める仲間たち。

 セードー達もまた先へと駆け出し、マグレックスはそんなプレイヤーたちの行動に反応。ブレスを吐こうと口の中に炎を満たす――。


「させるかぁ!!」


 だが、それより先にスティールが飛び上がり、拳を固める。

 そして同時に肘先から火を噴き始め、大声で叫んだ。


「ロォケットォォォ!! パァンチィィィ!!!」


 吹き出す炎の勢いで加速したスティールの拳が、マグレックスの横顔を容赦なく殴り飛ばした。


〈GOGYAAAAAA!!??〉

「――!!」


 そして着ぐるみ少女が駆け出し、ごろりと前転を始める。

 ゴロゴロと転がり続ける着ぐるみ少女の体がやがて一つの玉となり、凄まじい勢いでマグレックスの足へとぶつかった。

 その勢いと衝撃に、溜まらずマグレックスは地面へと倒れ込んだ。

 先へと進む寸前、ホークアイが振り返り軽く手を振る。


「言ったからには、きっちり倒せよ!」

「もちろん」


 返事を聞かずに消えるホークアイに返しながら、スティールは鋼の拳を握りしめた。


「かつて自ら被った汚名を雪ぐときは、今だ!」


 大きく叫ぶスティールには負けぬと言わんばかりに、マグレックスは咆哮を上げる。

 そして立ち上がるマグレックスへと、スティールは再び飛びかかっていった。










「俺が思うに――我々は勝てばよいのだと思う!!」


 セードーの言葉に、ギルド同盟の者たちは一瞬意味が解らず首を傾げる。

 勝てばいい。いったい何に? いったいどうやって?

 同盟の仲間たちの疑問に、セードーは大きく手を振りながら答える。


「彼らは来るだろう、我々がいるダンジョンに! 彼らは戦うだろう、我々を救うと言って! そして彼らは勝つのだろう……我々に! 我々が得るはずだったものをその手にして!」


 セードーは訴えかける。自身の想いが届くように。


「そうして、まるではるか高みにいるかのように我々に微笑みかけるのだ! その顔に勝者の笑みを浮かべて! ――そんなの、俺は嫌だ!!」


 セードーの叫びを聞き、誰かが息を飲む。

 心の底から吐き出すような、セードーの叫び。敗北を知る者のみが出し得る悲痛なそれが、ギルド同盟の者たちの胸を打った。

 セードーはしばし顔を伏せ、そして何かを振り払うように勢いよく顔を上げる。


「だから俺は思う! 勝ちたいと! 目の前に現れる理不尽に! 我々が得るはずだったものを奪おうとする者たちに! 真っ向から挑んで、勝ちたいと!」


 何かの作戦というわけではない。何かのまじないでもない。

 ただひたすらに、自分の感情を吐き出しているだけの、幼稚な演説。


「………」

「………」


 だが、それでもギルド同盟の皆の目つきが変わり始める。

 セードーの演説を聞き、それに耳を傾け。


「俺は、初めてのイベントを……皆と笑顔で終えたいと思う! そのために、俺は勝ちたい! 目の前の障害に! 打ち勝ちたい!!」


 彼の言葉と、自分の胸の中にある想い……それを照らし合わせ。

 確かにくすぶる勝利への想いを、少しずつ燃やしてゆく。


「このゲームを楽しみたい……俺は、楽しみたい! だから、勝ちたいのだ!」


 セードーは叫び、拳を天に突き上げた。


「このゲームに、勝ちたいかぁぁぁ!?」

「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 セードーの叫びに呼応し、ギルド同盟から咆哮が上がる。


円卓の騎士(アーサーナイツ)に……勝ちたいかぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 地面を揺るがさん勢いで、咆哮が上がる。


「ならば! 円卓の騎士(アーサーナイツ)には何一つ奪わせない! モンスターも経験値もレアアイテムも! 何一つ奪わせず、真っ向から勝利する!!」


 セードーはまっすぐにギルド同盟の仲間たちを見つめ、大きな声で叫んだ。


「それが俺の考えうる、作戦だ!!」




なお、冷静なマコみたいなプレイヤーは若干覚めた眼差しでみんなを見ていたとかいないとか。

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