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鎧と女将  作者: 井上啓二
エプローグ
28/28

その後の話

 ひとつ、その後の話をしよう。


 一年後ナカト・ポーケントッターは、約束どおり彼の愛するティアリンクとメロディの許に帰ってきた。


 大喜びするティアと大泣きするメロディが、ポーケントッターに言われて彼の腹を覗き込んでみると、ドライバーシートの上に、スカーレット・クロスフォードからの贈り物である褐色の粉(カカオ・パウダー)の詰まった小樽が、澄まし顔で収まっていた。


 それから大きな戦争や紛争が起こる度にポーケントッターは出征したが、そのいずれの戦いからも無事に生還を果たした。


 武勲を重ね、かつて幼い娘に語った通り、彼は世界最強の『ソウルアーマー』になったのだ。


 メロディ・スプリングウィンドは、『春の微風亭』の名物女将として長く働き続けた。


 数年後、彼女の姓がスプリングウィンドからポーケントッターに変わった後も、さらには夫の叙勲を受けて『レディ・ポーケントッター』と呼ばれるようになってからも、彼女は相変わらず『春の微風亭』の女将だった。


 ティアリンク・ポーケントッターは、ポートホープでいつまでも幸せに暮らした。

 美しく成長すると、彼女も『春の微風亭』で働くようになり、やがて働き者の婿をもらって元気な子供を沢山産んだ。

 名物女将であるメロディが引退を表明したあとは、宿を継いで次の女将となった。

 10歳年上の継母との友情は、終生変わることがなかった。


 そして時は流れ、メロディは夫や娘や孫たちに見守られながら幸福な人生を終えて、天に召された。


 その数年後、ティアも同様に充足した天寿を全うし、神の御許に赴いた。


『春の微風亭』は、ティアの子供や孫、さらにはその子供たちの時代に移った。


 ある日の朝、ティアのひ孫である宿の女将が自室の窓を開けて、ひいひいお爺ちゃんである『サー・ナカト・ポーケントッター』に朝の挨拶をすると、いつもなら鋭敏で優秀なセンサーで起床を察知してくれるポーケントッターが、その日はなんの反応も示さなかった。

 不審に思ったティアのひ孫やその子供たちが何度も話し掛けてみたが、やはり反応はない。


 妻と娘に遅れること数十年、鋼鉄の老巨人ポーケントッターはようやく全ての機能を停止し、愛する二人の待つ天国に昇ることを許された。


 それは、ティアリンク・ポーケントッターが初めて『春の微風亭』を訪れた日からちょうど100年目にあたる、創業315年目の記念日のことだった。


 fin

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


本作に登場する、メロディ・スプリングウィンドを気に入っていただけた方は、下記の作品も試読いただければ幸いです。


◆迷宮無頼漢たちの生命保険

https://book1.adouzi.eu.org/n8250gs/

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