神殿
ッスーーーー……
……半年放置は……エタったことになりますか……
なりますねはい、マジすんません。
そしてついでに言えば、感想にて平仮名題名はよみにくいとの指摘を受け、また以前から自分でもそう思っていたので(ならやるなよ)、思い切って普通な感じにしました。ご指摘ありがとうございました。じゃんじゃんくださいそういうの。私のメンタルがブレイクしないくらいで。
これまでのあらすじ:
主人公ユウカはドワーフの鍛冶女リンベルと共に祭りが間近の王都へ。二人でいちゃいちゃしてたらユウカが闇オークションで奴隷のカメリアを勝手に買ってきたよ。ユウカはカメリアの復讐手伝おうとオークションぶっ壊そうとしてるよ。あとユウカは強い魔法探して変な資料を見つけたよ。
槍王。
この称号とスキルを持つ者は、槍を扱うことにおいて他の追随を許さない。
剣聖や聖女と同じく、このスキルは生まれつき持っていることが多い。ただし、稀に槍を極めた者がこのスキルを獲得する場合もあるらしい。個人的には生まれつき持っていることの方に違和感を感じざるを得ないけども。
このスキルの特異的な点はいくつか挙げられる。
その内の主な一つは、ステータス成長に直接的に関係してくること。魔力の値が全く伸びない代わりに、体力、つまり肉体の成長に大きな補正がかかる。これは明らかに他のスキルとは異なった性質だ。
そしてさらに一つ。目立ったものではないけれど、重要な性質がある。
それは、『補正がかかる武器の形が指定されていない』スキルであるということだ。
「はあ、はあ」
「うん、いい感じだね」
「そ、そうでしょうか……?」
完全に息が上がっているカメリアは、手に持つ槍を杖代わりにしてようやく立っている状態。仔鹿みたいですよ。
「もうAランク冒険者と同じくらいの実力じゃない?すごい……いや本当にすごいな」
「ユウカ様には一度も当たらなかったのですが……」
「避けたからね」
「いえそういう話では……、なんでもないです」
そんな彼女の周りにはこれまた槍。ただしどれも違った形をしていて、長槍、短槍、斧槍から投槍まで、とにかく間合いが異なる槍がいくつも転がっていた。
「やっぱり《槍王》にはこの戦い方が合ってそうかな」
俺がカメリアに提案したのは、戦いの間に武器を取り換えていくスタイル。このスタイルは《槍王》の特性を活かすことを重きを置いている。
普通、スキルはその対象の武器の種類を細かく区分する。剣で言うなら《長剣術》《短剣術》《大剣術》《細剣術》とか。上位スキルになるほどその傾向は顕著になる。だがその点、《槍王》は違う。
《槍王》は『槍』を上手く扱うスキルだ。長いか短いか、重いか軽いか、そもそも手に持つのかそれとも投げる物なのか、それすらも問わずに、ただ槍でさえあればその補正は有効。ならばその強みを活かさない手はない。
大量に槍を用意して、戦闘中に場面に合わせてそれを持ち替える。魔法こそ使えないものの、あらゆる間合いに対応する、厄介極まりないオールラウンダー槍王の誕生だ。
ただこのスタイルで戦うにはアイテムボックスが必須になってしまう。大量の槍を抱えたまま戦うなんてできやしないから。これは早急に俺が空間魔法を取得してアイテムボックスの自作に取り掛かるしかないな。近い内に『神殿』とやらに向かうか。そもそも図書館で手に入れたあの情報が信用できるかってところが問題ではあるけど。
「そろそろ戻ろうか。リンベルももうすぐ全部作業終わるっぽいし」
「は、はい……」
戦闘の余波でぐちゃぐちゃになった地面を壊地魔法で元に戻して、視線を逸らす闇魔法の結界を解除、投槍が外に出ないように張っていた絶空魔法の竜巻の壁も散らして、全部元通り。これで良し、と。
「……そんな魔法まで!?」
なんか驚いてるけどそんな大したことじゃないからね、これ。ただの多重思考だからね。
◇
翌日、朝。
「ってことで、依頼受けてくるついでに『神殿』とやらに行きます」
「ほへ〜」
ねえ話聞いてる?リンベルさん返事適当じゃない?
「それと何があるのか全く分からないので、私一人で行ってこようと思います、はい」
「ふ〜……えっ」
これは割と苦渋の決断だった。なんだかんだこの王都も平和って訳じゃない。裏通りでは奴隷オークションなんてもんがあったし、この前襲いかかってきた……いや襲われる前に殺したけど、そいつが何だったのかもまだ分かってない。
ただ『神殿』とやらの方が危険そうなんだよな。もしかしたら何もないかもしれないけど、ある可能性の方が断然高い。リンベルを連れていったとしても、俺がリンベルを守り切れるかも分からない。それよりかはカメリアを護衛に付けて王都で待っててもらった方がまだ安全だろう、たぶん。カメリア強いし、そこらのやつには負けないだろ。カメリアいなかったらリンベルも連れてっただろうけど。
「大丈夫なの?」
「まあイケるんじゃない?」
「軽いなあ……」
うん、たぶん。
「そんなわけで今日は少し帰りが遅くなるから、もし夜まで帰らなかったらご飯は先に食べといて、カメリアもね」
「はい」
「……ユウカちゃん、無理はしないでね?」
「分かってるよ」
近寄ってきたリンベルをぎゅーっと抱きしめてリンベル成分を補給してから立ち上が、立ち上…………いや、もうちょっともふもふしよう、リンベル可愛い、いい匂い。
「ぐへへへ」
「くすぐったいよぉ〜」
んじゃ、ちょっくら行きますかね。
「いってらっしゃ〜い!」
可愛すぎて元気百倍だよ死にそう。
『神殿』の場所は王都から北西に進んで、馬車で三日くらいの距離にある森の中らしい。馬車なんて使わないで俺は飛んで行くけども。
それとちょうどその方向に魔物の群れがいるとかなんとかで、ギルドに討伐依頼があったからついでに受けてきた。
仮にも国の中枢である都市の周りにこんなに魔物が居てもいいのかという疑問はわかないでもないが、普段よりも何故か魔物が多いらしいから仕方ないのか。その魔物の被害を少なくするのが冒険者の仕事だし、稼ぎダネが増えて喜ぶべきなのかね?そんなことはないな、うん。
王都は城塞都市。いくら無闇矢鱈と拡大してきた歴史があると言っても、現代東京みたいに住宅がどこまでも建ち並ぶなんてことはなく、ある地点を過ぎればそこからは人類の活動圏外だ。
上から見下ろせばその様子がよく見える。王都を離れて少しした今じゃもうちょっとだけ整備された街道以外は森、もしくは荒れ地または草原しか見えない。
うーん、よく考えてみれば、なかなか厳しい世界だよなあ。魔物の脅威が大きすぎてまともに移動もできやしない。そのための騎士団と冒険者なんだろうけど、商人でもない人達は一生生まれた土地から離れないなんてこともザラにありそうだ。
そんななか空を高速飛翔してる俺はよっぽどの異端なんだろうな。
「あいきゃんふらああああい」
風が気持ちぃいいい!
◇
「ふむ」
地図に書いてあった場所、の近くまでひとっ飛びしたものの……。
「うーん、見えん」
奥に行くにつれ森が深くなるわなるわ。それにしたがって木の一本一本がデカくなるわなるわ。完全にこんもり木で覆われて何も見えないねこりゃ。場外乱入は許しませんと、そういうことですね分かります。
面倒くさいけど、一回降りるしかないかなこれは。
「どりゃっ」
風の刃を纏って急転直下、こんもり森に穴をブチ空ける。降りる場所ないからね、自分で作らなきゃだよね。
さて、周囲の気配を探れば弱い反応がチラホラと。依頼の魔物はもう少し強い種だったはずだから、ここにはいない感じだな。
先に依頼を片付けてもいいけど、俺は好きなものは先に食うタイプだ。『神殿』の方から探そう。
とは言ったものの、何か手がかりある訳でもなく。
資料にも具体的な座標なんか書いてなかったし、ぶらぶらしてたらたまたまありましたよ、みたいな割と適当な書き方だった。まあGPSもないからしょうがないけどさ。
そんなわけで俺もぶらぶら走ります。ついでに言うと木が邪魔だからぶっ飛ばしながら走ります。気分はさながらマ○オカートのキラー状態。あっははあ、圧倒的自然破壊だあ。
しっかしこの森、方向感覚が狂うな。ふと気づけば今自分がどこにいるのか分からなくなりそう。俺の後ろには圧倒的自然破壊の跡があるからどこをどう走ってきたのか分かるけど、普通に歩いてたら絶対迷うわ。闇魔法か何かの効果かね。まあそんな魔法があるならそれはそれで、ここに何かあるっていうのが確実になるからいいんだけどさ。
いつになったら見つかるかなあ。
さて、結構走ったが。
『神殿』っていうからには神っぽいオーラでもあるのかと思って探してたけど、これまでそれらしい気配はなし。
それどころか魔物の気配すら奥に進むにつれてどんどん少なくなった。もう訳分からん。どうなってんだ。
……いや、逆にこれは、近づけてる、のか?
もし『神殿』に人よけの魔法がかかってるなら、いやその魔法が魔物にも効くのか知らんけど、効くならそこに近づくにつれ魔物が少なくなるのもうなずける。
ならなんで俺は近づける?……いや、こんな森全体に作用する大規模な魔法が、他人に無理矢理行動を強制できるような強力な魔法だとは思えない。もし効果が弱くて、例えば無意識下だけに作用する魔法なら、いちいち意識的に方角確認してる俺には効かなかった、ってことか?……分からん。が、一応そういうことにしておこうかな。
そうなると、『神殿』のだいたいの位置も割り出せるかもしれない。
「《気配感知》」
全力の感知、範囲は森全体、対象はある程度の強い気配を持つ者。
さて、どうなるか。
「……おー」
襲ってくるはずだった頭痛はカット。頭に入ってくる情報を三十人くらいに分裂した俺で処理していけば、自ずと見えてくることがあった。
ある点を中心にして、明らかに魔物の少ない場所がある。
「ビンゴだね。俺―――いや、私ってば冴えてるなー」
その場所―――推定『神殿』の座標を頭に刻み込んで、一直線に走る。
「蒼黒、碧黒」
(ふんふん)(……ぬーん)
「出番かもね」
(血くれる?)(……じゅるり)
「かもねえ」
それは敵によるな。うん。
そこには神殿……というよりは、廃墟があった。
今にも崩れそうな石壁。
蔦が壁の割れ目を好き勝手に這い回り、小さな紫の花を咲かせていた。
入口と思われる黒い穴の前には一対の戦女神像。こちらも苔むすほど古びており、それが存在してきた年月を感じさせる。
森が開け、上から陽の光が射すこの場所は、なるほど確かに、どこか神聖な雰囲気を醸し出していた。
「……ここ、か?」
周囲には何もなし。女神像にも仕掛けはないし、穴の奥を光魔法で照らしてもすぐに行き止まりに見える。
この中に何かあるとは思えないけど、まあそれは入ってから考えればいいことか。
特に何も考えず、その遺跡に一歩足を踏み入れ―――
『女神の因子を確認しました』
「っ!?」
ふぁっ、何だ!?誰の声!?
『転移を開始します』
その声が聞こえると同時に、足元に複雑な魔法陣と共に目が潰れるほど眩しい光が溢れ出す。
あれ、なんかこれ、見たことあるような……。
「もしかしてこれ、召喚の―――」
その続きの言葉を言う前に、俺の視界はブラックアウトした。いきなり過ぎません?




