デート
「ふんふふ〜ん」
ご機嫌リンベル。鼻歌可愛い。
「華の第二地区だ〜っ!」
「おー(棒)」
昨日に引き続きやってきたのは第二地区。リンベルの言ったとおり、この王都の中でも最も華やかな場所として名を馳せている地区だ。それはなぜかと言うと……。
「やっぱりなんか高そうだね」
「そだね〜」
理由は簡単、他の地区と比べて上流階級が客層に多いから。
前にも言ったとおり、王都では中心に向かうほどに、そこに住む人々の階級は上がっていく。第二地区は……地位が高めの役人か大商人ってとこかね?ちなみに第一地区は貴族だけが住んでいる。一般の人は立ち入りも制限されているそうだ。
で、その第二地区に立地する店が安っぽい訳もなく、どこもかしこも高級感あふれるようなストリートとなっている。それに加えて、第三・四地区のような露店も少ない……というか全く開かれていない。地区によって差があることで有名なこの街を代表するような感じだ。
「そんじゃ当初の予定通り、適当に見ていきますか」
「いやっほ〜!」
そして今日の目的は主にウィンドウショッピング、と劇場があるらしいのでそこにも向かう。まあただの観光だ。散財するつもりはない。金ならあるけど。欲しいのがあったら躊躇なく買うけど。
あ、ちなみにカメリアは昨日で疲れたみたいだから宿に残っている。別にドーピング薬無理矢理飲ませたから壊れたとかそういう理由ではない、絶対にだ。本当だよ?
……まあ、なんだ、つまりは今日は、その、リンベルとの二人っきりのデートってことだ。
これまで二人旅してきて今更なんだって話ではあるんだが。王都で二人で買い物したあと芝居(劇場)を見るとか、こんなにデートっぽいデートは初めてじゃないか?素晴らしいじゃないか、ええ?ドキドキするね、してないけど。
「まずどこから行こうか」
「わかんな〜い!」
「ほ〜……」
「お客様もお目が高い。こちらは帝国で産出した新しい宝石でございまして、魔力を溜め込むと少し光る性質が……」
……いや、要らねえよ。てかリンベルもほとんど話聞いてねえよ。いや、聞いてあげようよ、なんか店員さん可哀想になってきたから。
「次行こっか、ユウカちゃん」
「……そうだね」
「…………またのご来店お待ちしておりますー……」
完全スルー……なんて残酷な。リンベル恐ろしい子。
なんて一幕がありながら高そうな宝石店(高そうじゃない宝石店なんて知らんが)を出る。
まあ自分達から入ったんじゃなくて、窓の外から覗いていたら(闇魔法で誤魔化してた)俺達の顔を認識した店員に捕まっただけだけど。
「リンベル、何も買わなくていいの?なんか見てたよね?買うよ?」
「う〜ん?まあ、別にいいかなって」
「……そう?」
リンベルが欲しいなら何でも買っていいのに。
「ていうか、何見てたの?」
「んっとね、ユウカちゃんに似合うアクセサリーだよ。いいのがなかったから買えなかったけど……」
「……なんだよこいつー、照れるじゃないかよー」
「うきゃ〜っ!くすぐったい〜!」
リンベルのくせに生意気。くすぐりの刑に処すぞこら。
「そんなの探さなくていいから。リンベルが好きなの選んでよ」
「え〜」
「もう何度も貰ってるから、大丈夫だよ」
そう、何度も貰ってる。もう十分だと思、ていうか一緒にいるだけで十分なんだけど。
……てか、あれ?そういえば俺の方からリンベルに何か贈ったことあったっけか?いっつもリンベルからの贈り物に返してた、だけ、か?
……マジ?
「oh……」
「ん、どしたの?」
気付いてしまった。
やばいやばいやばい。なんたる不覚。俺からは何もしていないなんて。女性にばかり貢がせて自分は遊び散らかすだけのホストの如き所業。なんだその不名誉な称号。嫌だぞそんなの。
「……よし、早く行こうリンベル。時は待ってくれないよっ」
「えっ、急になにっ!?」
真面目に何かしら見繕おう。リンベルに似合うようなやつを。なるべく今日中に。このままだと俺の体裁が瀕死だ。
「ねえリンベル何か欲しい?」
「えっ、え〜……ユウカちゃんのアクセサリー?」
違ぇよ、そうじゃねえよ。
◇
太陽の光に輝く純白の髪。
幼げながらも女性らしさを感じさせるその身体付き。
大きく丸く、可愛らしい瞳は金色の宝石のよう。
薄い桃色の唇は今すぐに奪いたくなる程魅力的で。
いつも可憐な笑顔を見せてくれる君はまさしく一輪の花だ。
……的な感じで、まあ何が言いたいかっていうと。
「リンベルが可愛すぎる……」
「ふぇっ!?」
ダメだ、アクセサリーというアクセサリーがリンベルという存在と釣り合わない。主張が激しいような物はそのままリンベルに食われるだけだし、大人しめの物はそもそもリンベルという光に霞んで見えない。誰だよリンベルをこんなに可愛くした奴。
なんかもうリンベルはリンベルで良くねって思えてきた。自然体が一番だよきっと。ごちゃごちゃ飾り付けて何の意味があるんだ。リンベルはそのままが一番可愛いよたぶん。その存在自体が美を体現してるよ。だからアクセサリーとか要らんよ、リンベルには。うん、そうに違いない。
「……はあ……」
情けない。まさか自分がこんなこともできないとは思わなんだ。まあ確かに前の世界でもこういう機会は……あまりなかったかもしれない。少なくとも心を込めて贈ろうと思った人はいなかったな。参ったな。どうしよう。こんなんじゃ笑い者にされるな。
「あう、あう……あっ、ユ、ユウカちゃん、劇場ってあそこっ?」
「……ん、ああ、そうだね。あそこだ」
そんなことをグダグダ考えていたらいつの間にか劇場に到着していた。
……うん、まあ贈り物のことは一旦忘れよう。今日は楽しい楽しいデートだ。一人でうじうじ考えるんじゃなくて、しっかりリンベルをエスコートしないとな。
「私こういうの初めてなんだ〜!」
「へえ、今までの旅で見たこととかなかったの?」
「う〜ん……こういうのって、一人で見るの寂しそうだったから……」
「あーなるほど」
リンベルは初めての劇場、と。……うん、初めて。初めて、初めてね。ふーん……。
「……大丈夫大丈夫、怖くないから、力抜いて、すぐに終わるよ、大丈夫、ちょっと入れるだけだからねー、先っちょだけだからー」
「別に怖くは……って何言ってるのユウカちゃん?」
「……あいや、何でもないよ、うん。ほら、早く行こう」
「あ、うんっ!」
危ない危ない。内なる男の精神が変なことを口走ってしまった。……ごほん、気を取り直していこう。
「ぴぃぇぇえええ」
「いや泣きすぎでしょ」
「だってぇえ、感動しだんだもぉぉおん」
舞台を見終わり劇場を出てすぐ。リンベルがぴえんぴえん言ってる。
確かにクオリティは高かった。作り込まれた話の流れ、さすが異世界とでも言いたくなるほどの美男美女の役者、そして彼らの高い演技力、さらには魔法も使った照明や音響設備等々、現代と比較しても遜色ない、いやもしかしたらそれ以上の出来だった。素直に賞賛&尊敬しよう。
ただリンベル程泣ける内容かと言われれば首を傾げるしかない。内容は王道のラブストーリーで、最後には想い人と結ばれてハッピーエンドだっただけだ。そんなに泣く要素は何処に?リンベルのツボはよく分からん。
「うん、もういい時間だね。帰ろうか。カメリアも待ってるだろうし」
舞台がかなり長かったからもう時間がない。そしてカメリアをそんなに一人にしても悪いし、早く帰らないと。
「ぴぇええ」
「だから早く泣きやもうね」
「はくじょうものぉぉお」
うーん、しょうがない奴だにゃあ。
「自分で歩かないなら私が運ぶよ」
「ぴぇえ、え?」
「よっと」
リンベルお姫様だっこヨーイ。
「ほいっと」
「いや待っ」
空中散歩準備ヨーイ。
「宿まで一直線じゃーい」
「きゃぁぁああでじゃゔゅぅぅぅうう!!」
れっつふらーい。
第二地区から第四地区の入口まではかなりの距離がある。まあ国一番の大都市がそんなに狭いわけはないんだけど、それは置いておいて。実は、この王都の中を移動するだけでかなーり時間がかかるのだ。んで、行きは昨日と同じように、リンベルを抱えて、屋根の上を走ってショートカットした。だから帰りは趣向を変えてみようと思った、んだけど……。
「みゃぁぁああ!!」
「まあまあ落ち着いて。ほら見て、街が綺麗だよ」
「ううぅ……そんなこと言ってもぉ……」
まだ飛行には慣れていないのか、ギュッと目をつむったままのリンベル。可愛い、食べていいですか?ていうか君俺に抱えられて飛ぶの何回かやってるよね。なんでまだそんなに怖がってんの?
「……目開けなきゃ落とすよ」
「鬼畜ぅ!」
俺がボソッと呟くとカッと目を見開いたリンベル。うん、それでいい。
「ひ……わあっ!」
きっとこの光景もリンベルは気に入ってくれるだろうし。
「すごいっ!綺麗だよユウカちゃん!」
「そりゃ良かった」
ここ数日で見慣れた街並みも、上から俯瞰すれば雰囲気は変わるものらしい。うーん、人がゴミみたいだ。
「おお、ここからだと城もよく見えるね」
「ホントだっ!すっご〜いっ!」
後ろを振り向けば見えるのは巨大な白亜の城。地上からじゃ第一の壁で城の尖端しか見えなかったから、しっかり見るのは今が初めてだ。
造りは西洋風。いくつかの尖塔があり、きっと昔はそこから外を監視してたんだろう。今はほぼ完全に過去の遺物になってるが。材質は……なんだろう、魔法で作ったのか、よく分からん感じになってる。まあうん、つまりは白くてデカイ城ってことだ。(適当)……正直俺は日本の城の方が好きだからなんとも言えない―――
ドクン
「………」
……まただ。昨日と同じ。やっぱり……何か、ある。
「……帰ろうか」
「うんっ!」
胸がざわつく。肌がヒリヒリするような、そんな感覚。
「……不穏、だなあ」
なんだか、嫌な感じだ。
城壁と検問は……お亡くなりになりました……(死因:ユウカに無視されて飛び越えられたため)




