図書館
「ちょっといい?」
「はーい、何でしょう……か!?」
王都へ帰還。冒険者ギルドへ真っ先に寄った。依頼はさっさと片付けないとね。
そして最早恒例と化した受付嬢のフリーズ。いい加減慣れてください。
「……はっ!何でしょう!?」
「依頼達成報告したいんだけど」
「依頼達成ですね、……え、依頼達成ですか?」
「そうだよ」
最初からそう言ってるだろうが。喧嘩売ってんのか。
「……依頼受けたの朝でしたよね」
「そうだね」
「いや達成早すぎないですかっ!?まだ昼過ぎですよっ!?」
「そう?」
これでも駄弁ったりしてゆっくりしてきたんだけどな。
「……圧倒的速度、それにその髪……もしかしてユウカ様って……噂の『瞬銀』様!?」
「しゅん、ぎん?」
なんじゃそりゃ。ダサい。
「『瞬銀』っていうのは今話題のAランク冒険者で移動速度と依頼達成がとんでもなく早い人でその人が通ったあとには銀の煌めきしか残らないっていうことを意味するすっごいかっこいい二つ名ですよっ!!その人自身の名前までは知らなかったんですけどもしかしてユウカ様ですかっ!?」
……わあ、急に早口だなあ(遠い目)。
「……それ、私?」
「ぷぷ、ユウカちゃんっぽ〜い」
「……まじ?」
「私はあまり分からないのですが……まあ確かに……」
「……えー……」
俺、『瞬銀』?……いや恥ずっ。二つ名とか恥ずっ。
「……人違いだね、うん」
「え?でも絶対ユウカ様―――」
「は?人違いだよね?ね?」
「―――は、はいぃ」
「うん、それじゃあ早く手続きよろしく」
「わ、わかりましたぁ……」
分かればいいんだよ分かれば。
「……ユウカちゃんガラ悪ーい……」
「黙らっしゃい」
「ぷぷぷ、『瞬銀』、ユウカちゃん瞬銀……ぷっ」
可愛いリンベルがうぜえ可愛い。
「ねえねえ『瞬銀』さ〜ん!『瞬銀』さ〜ん!」
「……うるさいよ」
滅茶苦茶に煽ってきやがる。え、何、誘ってる?そのまま逆襲していい?服剥いていい?
「わ、私はカッコいいと思いますよ……たぶん」
「……うん、ありがとうカメリア」
君が唯一の良心だよ。
「しゅ、しゅんぎ、しゅんぎん……ww」
「………」
ツボにはまったようでずっと笑い続けてるリンベル。
……うん、そろそろ本気でうざくなってきたな。ちょっと仕返ししてやろう。
「……『幻の放蕩ドワーフ』(ボソッ)」
「ぐはっ!?」
「幻……放蕩…………ほうとう食べたいな……」
「ちょ、ユウカちゃん、それはちょっと」
「放蕩……ドワーフ…………………ふっ(嘲)」
「あああああぁぁぁああっ!!」
はっ、ザマァ(笑)。うん、この二つ名よりはマシだな、『瞬銀』。
「あのユウカ様、『幻の放蕩ドワーフ』って……?」
「ぐっ!?」
「おお、よくぞ聞いてくれたカメリア。これ実はリンベルの二つ名(笑)で……」
「がはっ!」
「……えっ、あっ……」
「ユウカちゃんもうやめてぇえええ!」
泣きそうな顔のリンベル可愛い。
「まああれだ。やる奴はやられる覚悟を持てってね」
「あ、あはは……」
先程の会話を思い出したのか、俺の言葉を聞いたカメリアは苦笑いするのだった。
◇
「図書館?」
「うん」
「なんで?」
「調べ事」
昼ご飯は適当に済まし、王都中心へ向かう道を歩く。
「王立図書館って蔵書多いらしいし、なんか見つかるかなって。それにそこ観光名所らしいよ?」
「行く!」
「よしよし」
観光好きなリンベルは観光名所って言えばどこでも着いてくる。扱いやす……素直なのはいいことだよね、うん。
「何について調べるの?」
「んー?魔法かなー」
「魔法?」
「そ、新しいやつの情報が欲しくてね」
「ほ〜?」
何かしら見つかるといいなあ。
時間魔法と空間魔法。
最初の街にいる時に読んだ絵本の中に見つけた心惹かれるワード。それはまあ、いわゆるチートだ。
時を加速する。時を止める。瞬間移動する。空間を捻じ曲げる。世界を構成する根本的な理に干渉する恐ろしい魔法。この魔法の使い手は一人で戦場を制圧することもできる。
ただしその使い手は驚くほど少なく、最早お伽話の中だけで現れる代物だ。一説には存在しない魔法ではないかとも言われているそうな。まあ俺は存在してると確信してるけど。なぜならこの世界へ来る前の『女神の領域』でのスキル選択の時に、この魔法が選択肢にあったから。
この魔法を手に入れればやりたい放題、とまではいかないまでも、誰にもバレずに貴族を殺すくらいはわけないはずだ。リンベルももっと確実に守れるようになるし、少しくらい探してみても損はないだろう。
現在位置。
「おー……」
「ほ〜……」
「………」
王都第二地区。
「デカいなー……」
「そうだね〜……」
「……あの、通行の邪魔に……」
王立図書館前。
「これはあれだな……ぱぷぺぽん神殿的なやつだ」
「なにそれ?」
「……なんでもない」
デカいパルテノン神殿にデカい中身を肉付けしましたみたいな感じのデカい建物。デカい。これまるまる図書館とか、敷地広すぎないか?
「とりあえず入ってみようか」
「うんっ!」
「あの、私は……」
「カメリアもね」
「……はい」
入場料一人銀貨3枚取られたんだが?
「キレそう」
「お金ならあるしいいじゃんっ」
「いや、まあ、うん……」
カメリア買うのに最近稼いだ金だいぶ使っちゃったんだよなあ……。言うなればカメリア危機、カメリアショックだ。できれば出費は抑えたい……うん、未だ高い宿とってる時点で説得力ゼロだな。
「それにしても、すごいなこれは……」
「ね〜」
「……壮観ですね」
見渡せば辺り一面、本、本、本。高い天井ギリギリの高さの本棚が何十列も並び、その全てに本がぎっしりと詰まっている。一体合計何冊あるんだこれ。集めすぎだろ。というか高いところの本はどうやって取るんだ。題名も見にくいし、手も届かんぞ。
「……まあいいや。とりあえず本探そう」
俺は魔法で探せるからね。
どうやらここでは職員に頼んで本を取ってもらうのがいいらしい。棚一つ一つでジャンル分けされていて、それぞれに職員が一人ついていた。そして彼らが本の目録を持っていて、そこから目的の本を見つけたら職員が魔道具で本を取る、らしい。……うん、自分で探した方が早いや。
「……うーん、やっぱ見つかんないか……」
「……ぅぇっ、ひっ……」
『魔義眼』を大量生産して関連してそうな書物を探して、職員にはバレないように絶空魔法でまとめて大量に持ってきた。おかげで今の俺は本の山の中だ。闇魔法で隠蔽してるから誰にも文句は言われないけど。それに異常に上がった動体視力と《異形精神》のおかげか速読ができるようになって、『魔義眼』も合わせて5冊くらい同時に読み進めてるから、物凄い速度で読める。そのおかげでこの山の処理もあっという間に済んだ。
ちなみにリンベルとカメリアはそれぞれが適当な本を探してきてそれを俺の隣で読んでいる。俺の用事に付き合わせて少し申し訳ないけど楽しめているようでなにより……というかリンベル、なにそんなに号泣してるのかな?何読んでるの?
そして肝心の中身だが、いまいちピンとこない。どれもこれも既に知っているような内容。空間と時間に関する研究は進んでないのか?そんなわけないよな、ここまで有用そうな魔法について研究しないわけがない。と、なると……。
「ここには置いてないか……」
重要すぎる文書はこんなところには置かないか。もっと別の場所に厳重に保管してるのかね。王城とか?研究所とか?そんなの王都にあったかな?いや、そうとも限らないか。ここに置いてあるけど、一般の目には触れない場所にあるだけかもしれない。関係者以外立入禁止の区画とかかな。そんな分かりやすいとこに置くかな?もしくは隠し部屋?ああそれと……。
「地下ってのもあるか」
とりあえず全部洗ってみようかな。
◇
見つけた。
「カメリア」
「はい」
「少し離れる。命令、リンベルを守れ」
「分かりました」
『魔義眼』では特におかしな所は見つからなかった。
それでもと思って音を使って探してみたら、ビンゴだ。
「ここか」
一部の床だけ反響が微妙におかしかった。たぶん、下に広い空間がある。人の気配も下からわずかに感じられるし間違いない、と思う。
わざわざ地下に部屋を作るってことは、何かしら重要な何かが隠してあるだろう。空間・時間魔法に関するものもあるかもしれない。ちょいと覗かせてもらおうか。
「誰も床を破ってはいけませんなんて言ってないしね」
違法じゃないよね?
「『絶音』『隠蔽』」
音が周りに聞こえないよう、そして目立たないよう絶空魔法と闇魔法を使う。からのー。
「『貫地』でどーん」
壊地魔法で一気に床に穴をどーん。
「……降りましょうか?」
何があるかなー。
「うわっ何だ!?」
「誰だ!」
「あ、やっべ」
「「ぎゃっ……」」
シュタッと降りたはいいけどいきなり人がいてビビった。とりあえず気絶させたけど、顔見られてないよね?
えーっと、壊地魔法で空けた穴を塞いでっと……。
「おー……あるねえ……」
目の前に並ぶのは、上の図書館と比べれば少ないものの、それでもかなりの量がある本棚。
この中にお目当てのモノがあるといいんだけど。
「さて、さっさと探しますかね」
誰かが来る前にね。




