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別行動

「ぼふ〜んっ!」

「またぐちゃぐちゃにしないでよ?」

「わかってる〜」

「まったく……」


 宿に帰宅、自宅ではないけど。早くどっか探さなきゃな。


「今日楽しかったね〜」

「うん、いろいろあったからね、飽きなかったよ」


 本当にいろいろ、ね。


「明日はどうする?」

「観光っ!」

「……また?」

「だってこの地区だって全部はまわりきれてないじゃん!まだまだ見るとこあるよっ!」

「……じゃあもうそれでいいか」

「ひゃっほ〜!さっすがユウカちゃ〜ん!」


 急ぐこともないしね。


「……あ〜、でも私達、鍛冶ギルドに顔出したほうがいいかなあ〜……」

「あー、それは行ったほうがいいんじゃない?」

「……うにゅ〜……」


 悩んでるリンベル可愛い。


「……うん、明日は午前中にユウカちゃんと遊んで、その後に鍛冶ギルドに行って、その後もう一回ユウカちゃんと遊びたいっ!」

「りょーかい。私は着いてく意味ないかな……」

「う〜ん、ユウカちゃんやることなさそうだけど……」

「……それなら冒険者ギルドの方行ってくるよ、私は」

「久しぶりの別行動だねっ」

「ああ、そういえばそうだね」


 最近ずっと二人でいたからなー。

 それにしても、リンベルが一人か……ふむ、ちょっと心配だな。


「……《魔遊剣》」

「んにゅ?何か言ったユウカちゃん?」

「いや、何でもないよ」


 極小の、透明な魔力の剣を作り出す。数は50。これをリンベルの周りに配置して、敵対行動をする奴を自動排除するようにして……。


「……あ、いや、これだと過剰か?」


 さすがに白昼堂々と殺すのはアレか……?


「……まあいいや」


 リンベルに手を出す奴はどうなってもいいか。


「……ついでに闇魔法で認識しづらくしておくか」


 光魔法、闇魔法、氷魔法、雷魔法は王都までの道中で魔導書が売ってたから速攻買って覚えた。今までずっと探してたんだけど見つからなかったからね、覚えられてよかった。


 で、闇魔法使えばそもそも絡まれないで済みそうだし、やっておいたほうがいいな。


「というか今日も使えばよかったな……」


 チラチラ飛んでくる視線がウザかったんだよ、リンベルは気にしてないみたいだったけど。


「なに一人でぶつぶつ言ってるの〜?」

「何でもないって」


 これだけやればたぶん大丈夫かな。






 ◇






「さあ行こ〜!」

「おー(棒)」


 翌日、宿で朝食をとってから出掛ける。


「まわってないとこに行くよ〜!」

「はいはい」


 朝っぱらからなんか人は多い。みんな何してるんだろうね。これ全部観光客なのかね?


「……『認識阻害』、『視線誘導』」


 俺達の顔を隠す魔法と、他者の視線を逸らすよう誘導する魔法をかけて俺とリンベルを隠す。いやあ便利だなあ、闇魔法。人の視線がないって最高。


 ちなみに闇魔法は世間一般からの印象は悪い。まともな攻撃魔法はない上、相手の精神に作用する魔法とか相手を呪う魔法とか影を操る魔法とか、とにかく暗い効果のものが多いからどうしたって忌避される対象になる。まあ俺は気にしないんだけどね、便利だし。


「……ん、ユウカちゃんなにかした?」

「うん、ちょっと魔法をね。私達が目立たなくなる魔法」

「へぇ〜すっご〜い!そんなことも出来るんだねっ!」

「まあね」


 そういえば普通の人ってどうやって魔法覚えて使ってるんだろう。俺は魔導書一回読めばすぐ覚えられるから適当にやってるけど……なんか一般的な方法じゃない気がする。


「……まあ、どうでもいいか」


 俺は俺、他人は他人だ。


「あっ、あそこまだ行ってないよっ!」

「お、昨日行き損ねてたか」


 俺は、俺の道を行く。






 ◇






「リ、リンベル様っ!?」

「やっほ〜」

「お疲れ様ですっ!!」

「「「「「お、お疲れ様ですっ!!」」」」」


 目の前には地面につくほど頭を深く下げる男共。


 隣にはドヤ顔で俺のコメントを待っているちっこいの。


「……ふふ〜ん」

「………」


 めちゃドヤ顔だ。可愛い。



 午前中も終わり。お昼は適当に露店の売り物で済ませた。それで今はリンベルを王都鍛冶ギルドまで送ったところ。

 そしたらまたもやリンベルが偉い人みたいな扱いされてる。謎だ。てかなんでリンベルだって分かるの?人相書きでも出されてるの?逮捕されるの?リンベル?


「……で、別れるわけだけど、いつ合流しようか」

「えっ無視っ!?」

「反応してほしかった?」

「いやまあちょっとくらいは……」

「いやーすごいすごい、さすが私の愛するリンベル、こんなに尊敬されちゃってすごいなー、なでくりなでくり、こんなにちっこいのになー、すごいなー、さすがだなー」

「うきゃ〜!やめて〜!」


 なんだよ、せっかく反応してあげてなでくりしてあげたのに。


「と、というか、あ、愛、愛しっ」

「で、いつ合流する?」

「…………はあ〜」


 なんだいリンベル、そのため息は。


「……3時間後くらいでいいんじゃない」

「なんか適当だね」

「ユウカちゃんのせいでしょっ!」

「心外だな」


 俺は何もしてないだろう?


「もうっ、早く行ってユウカちゃんっ!じゃあねっ!また後でねっ!!」

「分かったって、分かったから押さないで」


 すぐ不機嫌になっちゃって、可愛い奴め。


「じゃあ、また後で」

「べ〜だ!」


 可愛い奴め。







 少し離れたところまで来たら横道へ逸れる。ここなら人も少ないかな。


「名前は、そうだな……『魔義眼(マジックアイ)』にしよう」


 光魔法と闇魔法の混合で新しい魔法を作り出す。


「これで、接続……完了かな」


 どうやら全ての俺の魔法やスキルには《異形精神》の効果が乗っているようで、それぞれ一つの精神を持っていて勝手に動くことができる。《魔遊剣》がその代表だ。


「行け」


 そして今飛ばしたのは黒い球体。その球体に映る光景を光魔法で集め、それが闇魔法の影を通じて俺に映像として送られるというものだ。つまり魔法の名前の通り、その球体を新しい目として使うことができる。ちなみにこの魔法は闇魔法で隠蔽してるから、大抵の人は気付かない。

 まあこの魔法、普通の人じゃその新しい視界の処理は脳の構造上出来ないだろうけど……俺には無限の《異形精神》があるからなんとでもなる。割とチートだなこれ。


「ちゃんと見えるな」


 今見えるのは鍛冶場で鍛冶をしているリンベル。こうしてずっと見ていれば何かあってもすぐ駆けつけられる。プライベートを覗いてるみたいで若干後ろめたくないこともないが……。


「リンベルの安全には代えられない」


 バレなければいいだけさ、簡単だろう?

 え?発想がストーカーのそれ?知らんな。


「さて……ギルド行くか」


 とりあえず依頼だけ見てこよう。リンベルからはあんまり離れないようにしないと。





 ギルドに入っても誰も俺に視線を向けない。闇魔法最高。


 掲示板までするする進む。


「うーん」


 今受けたい、って依頼はないなあ。わざわざ受けなくていいか。


「早速やることなくなっちゃったよ……」


 ギルドに来た意味ほとんどないな、これ。何しよう。


「あー……そこらへんぶらぶらしておくかー……」






「《見切り》、《鑑定》」


 常に《見切り》と《鑑定》をしておく。こうすると滅茶苦茶な情報量が頭に叩き込まれるから常人にはオススメしない。まあ俺は《異形精神》が処理してくれるから……やっぱチートだわこれ。


「〜♪〜〜♪」


 大通りを歩く。あらゆるものを視界に収めるように。周りの露店の商品一つ一つ。こういうとこにはたまに掘り出し物があるんだ。


「……あ、なんかあった」


 いきなり見つけたわ。


 急いで足を道の隅のみすぼらしい露店へ向ける。明らかに人気のなさそうな店。まあ売ってる物もガラクタばっかだし、当たり前と言えば当たり前だけど。


「おじさん、それ頂戴」

「うおっ!?なんだあ!?」


 闇魔法が掛けてあるから、店主には俺がいきなり現れたように感じたはず。まあ驚くよね。しかも俺超絶美少女だし。


「いいから、それ」

「あ、これかあ……?自分で言うのもなんだけど、これただのガラクタだぞ……?」

「それでいいから」


 店主が手にとったもの、確かに見た目はよく分からないモノだ。だけどね―――





 名称:¤∆¿"℉≪の§^実

 詳細不明。





 ―――鑑定が、()()()()()()んだよ。




「毎度あり。あんたもよく分からんもん買うなあ」

「趣味だよ……あ、ついでにそれも買う」

「塗料?なんに使うんだ?」

「何でもいいでしょ」

「……変わった人だな、あんた」


 ついでに置いてあった塗料を買う。髪を染める用。


「ありがとう、いいモノが手に入った」

「お、おう」


 最後にスマイルをプレゼント。プライスレス。




「さーて」




 掌の上に、金属のような、木のような。




「これは何かなー……」




 何かの果実を転がした。








 ■





 解説置き場



 ○魔法の習得方法について

 主人公は特殊である、言うまでもなく。通常、魔導書の内容を理解すれば魔法を覚えられるとされているが、まずその内容が難解であるため習得には時間がかかる。そして魔法が覚えられると言っても、読めばすぐにどんな魔法でも使えるようになるわけではない。

 火魔法を例を上げれば


 Lv1:ファイアボール

 Lv2:ファイアアロー

 Lv3:ファイアストーム


 といったふうにスキルのレベルがあがることで、段階を追って魔法が使えるようになるのである。そしてその際、新しい魔導書を読み、その魔法の構成を理解しなければその魔法は覚えることができない。つまり、スキルレベルが上がる→魔導書を読む→魔法習得、の流れである。断じて自分で適当に新しい魔法を作れるわけではない。

 ではなぜ主人公がこれほど適当に魔法を扱えるかというと、それはそのずば抜けた才能と圧倒的な魔力量と精緻な魔力操作技術のためである。本来扱えないはずの魔法は魔力を無理矢理注ぎ込むことで実現し、それを巧みな魔力操作で維持する、つまりはゴリ押しである。ただしそれを可能なものとしているのは主人公自身の努力であり、それがなければ為せることではないだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 二人共可愛いです〜 ユウカさんはちょっと意地悪いかもw ストーカーぽいですけど、リンベルさんの安全には代えられない、というのは私も凄く同感です。というか、そ…
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