表裏
表裏一体
街も、ユウカも
「ありがとうございました」
ギルドから撤退する。
バジリスクはかなり高値で買い取ってもらった。やったね。
「さっさと帰ろうか、リンベル」
「うんっ」
空はもう暗い。思ったより時間かかったな。
「晩ごはんはなにかな〜っ!おいしいといいな〜っ!」
「……あれだけ宿高いのに不味かったらちょっとキレそう」
「……ユウカちゃんがキレたら宿壊れちゃうよ〜……」
値段に見合ってなきゃ吹き飛ばす、建物を(物理)。
「……美味しいといいね」
「そ、そうだね〜……」
どうしたんだいリンベル、そんな引き攣った顔して。
「何これめちゃうまいやん」
「おいしい〜!」
吹き飛ばなかった。
高級宿の2階にあるレストラン、そこではコース料理が出てきた。
もう一度言おう、コース料理が出てきた。
「いやなんでだよ」
「うにゅ?どしたのユウカちゃん」
「……何でもない」
異世界にもあるのか?それとも地球人が持ち込んだ?後者の方がありそうだが。
「ふにゅ〜、これもおいしい〜」
「………」
どうやらこのレストランは宿泊客しか利用できないようで、周りに居るのはある程度は資産がありそうな人達だけ。耳触りのいい音楽も流れてるし、本当に高級レストランみたいだ。
そして料理の完成度は高い。バカ高い。星取れそう。
「……これは、高いだけのことはあるね」
「そだね〜」
朝夕の食事代は宿代に含まれている。
まあ、これだけ美味しいなら許してやろうじゃないか。
「……なんでこんな美味しいんだ?」
この宿だけ時代間違えてない?
「ごちそうさまでした」
「ふぃ〜、お腹いっぱ〜い」
「結構あったからね」
量は異世界基準だった。
晩ごはんを食べ終わって部屋に戻る。ちなみに風呂はなかった。魔法でなんとかできるからいいけどさ。
「あっ!ベッドが綺麗になってるっ!」
「……ちょっと悪いことしたね」
ホントに直してくれるとは思わなかった。罪悪感が……。
「ぼふ〜ん!」
「またしわくちゃにしないでよ、リンベル」
「わかってるよ〜」
ベッドは2つ。まあ俺とリンベルは最近一緒に寝てるから1つは使わないけど。
「さて、私はこの後も少し外に行こうかなって、思ってたんだけど……」
「……うにゅぅ……」
もう眠いのか。
「門のところでも寝ただろうに……」
「うぅん……」
さっきまで騒いでたのに急に眠たくなるとか、赤ちゃんか。
「さすがにこんなリンベルは連れてけないか……」
一人で行くべきか。うん、そうしよう。
「すぴー……すぴー……」
「ああもう、布団もかけないで寝ないでよ」
風邪引くぞ?
リンベルにそっと掛け布団を掛ける。これでよし。
「リンベル、これから私外出てくるから」
聞こえてないだろうけど。
「……ぅ……ユウカちゃ……」
……まったく。
「………」
寝てるよね?
「……ふーむ」
寝顔を覗き込んでみる。
改めて見ると……可愛い顔してんなあ。髪綺麗だなあ。柔らかそう。モフりたい。
「……おっと」
無意識にリンベルへ伸びていた手を止める。
「……むう」
やっぱり、自分で思っていたよりも、リンベルのことが大切な存在になってるようだ。魔物氾濫の時のあの自分の取り乱し様からも分かってたけどさ。あれは情けない姿だった……。
「………」
この感情は……恋愛感情ではないと思うけど……親愛、かな?恋愛って言っても、今の俺女だし。
まあどっちにしろ、リンベルが大切ってことには変わりない。
それならやることは一つしかない。
「ねえ、リンベル」
必ず、守り抜く。
「愛してるよ」
もう二度と、失わない。
「……行ってくるね」
最後にリンベルのふわふわの頭を撫でてから、俺は部屋を出ていった。
◆
「………」
バレてないかな。
「……ユウカちゃんって、結構恥ずかしいこと言うよね……」
ビックリ、するじゃん。
「……顔、赤くなってないかな」
急に言われるから、ドキドキしちゃったよ。
◇
夜の街は、昼とはまた違った顔を見せる。
「ほー」
さすがは王都、夜でも人通りは多いけど、昼と比べると少しは減ってるか。というかそれよりも……。
「明るいなー」
魔導灯が通りを照らす。これは他の街でも見れたけど、王都はその数が尋常じゃない。途切れることなく魔導灯が連なって、道を余すことなく照らしている。本当に都会って感じだ。今の日本とほぼ変わらないんじゃないか?これ。
「うーんっと、こっちの方かな」
ただしそれは表通りだけ。
「……あった」
表があれば裏がある。
光があれば陰ができる。
これは、どこの世界でも真理だ。
「横道、発見〜」
そして、この王都でも。
こっちの世界のこういうとこがどんなか、興味あったんだ。
「薄暗いなあ……」
必要最低限の魔導灯だけが設置された裏通り。
この狭い道を通る人は全くいない。気配はあちらこちらにあるというのに。
……王都は治安がいい?嘘つけ、それは裏通りを見てないから言えるんだ。めちゃ治安悪そうじゃねえか。
「出番あるかもね、蒼黒、碧黒」
(ほんと?)(………血がほしい)
蒼黒碧黒はほぼ常に携帯してる。長すぎて邪魔なことも多いけど、武装を解くなんてありえない。まあ素手でもいくらでも殺れるけどね。
「機会があれば、ね」
(待ってる)(………むう)
先、進んでみようか。
「………」
人っ子一人歩いてないな。いくら裏通りだからって、これはおかしくない?
さらにおかしいのは、辺りに人の気配をかなり感じるということだ。きっとここの住人だろうけど……これは、隠れてるのか?
「きな臭っ……」
明らかになんかあるじゃん。
ほらー、こんなところを超絶美少女が歩いてますよー。裏の住人なら襲って然るべきでしょー。
「………」
来ない、誰も。つまらん。もっと奥行こう。
しばらく歩いた。
やっぱり周りには気配がたくさん。けど誰一人として外へ出てこない。
どんどん奥へ。
次第に気配が少なくなってくる。
まだまだ奥へ。
周囲の気配が完全に途絶えた。
不自然な程、ぱったりと。
これは……ここから排除、されてるのかな?
「……ねえ、そこの君達?」
いくよ、蒼黒、碧黒。
(やったー)(………待ってた)
後ろから音もなく近付いてきた暗殺者。その数4人。殺意高いねえ。
「……っ!?」
「アハッ」
その飛び道具の初撃を碧黒で弾き返す。今のは針、かな。たぶん毒塗り。
「今、攻撃、されたね?」
(された)(………殺意あった)
「これからするのは、正当防衛、だよね?」
(せーとーぼーえー)(………当たり前)
……だよねえ。
「つまり、殺しちゃっても、いい、よね?」
(いけいけごーごー)(………血、いっぱい)
だよねえ。
ねえ、初撃を防がれて油断がなくなった暗殺者さん達。
君らは、俺の敵、だよね。
「……敵は殺せ」
遠慮は無しだ。
「なっ……!?」「こいつは……」
魔闘術全開。即、潰す。
「誰に喧嘩売ったのか、分からせてやるよ」
「ゲフッ」
「はい、終わり」
4人じゃすぐ終わっちゃうね。
「生け捕りー」
「ぐっ……」
一人は殺さず残しといた。間違って吸わないでよ、蒼黒碧黒。
(わかったー)(………むう)
「さて、なんでいきなり襲ってきたのか、教えてほしいナ?」
必殺、美少女の上目遣い。これに落ちない男はいない、はず。相手倒れ込んでるから凄んでるようにしか見えないけど。
「………」
「ダンマリねえ」
落ちなかった。無念。
「それならぁー」
しょうがない。
「喋りたくさせてあげるね?」
前世でやったことあるから、やり方は分かるよ?
「《毒薬作成》『永劫なる悼み』『liquid』」
今じゃこんなに便利なスキルがあるし。
「ギッ…!?ガァァアアア!?」
「あっごめーん、一滴垂らしちゃったー(棒)」
永劫なる悼みの効果の激痛。痛みに慣れてても耐えられるようなもんじゃない。
「早く喋ってほしいんだけど……時間掛かったら、もっと垂らしちゃうかもなあ……」
もう一滴、手にポトリ。
「アアアァッ、ァアア!?」
「早く、言ってくれるとありがたいな?」
うるさいから。
「イガッ、ギャァァアアア!!」
「はい、お疲れ様」
「ケヒュッ……」
(うまうまー)(………血おいしい)
終わったから始末。
「はあ……貴族主催の奴隷オークション、ねえ」
聞きたいことはだいたい聞けた。
奴隷オークションがこの近くで行われてるんだと。それで会場に近づく奴は彼らが全部消してたらしい。ご苦労なことで。死んじゃったけど。
「この国じゃ奴隷は禁止されてるんだけどなあ……」
貴族がやってちゃダメでしょ。
……潰しとくか、スルーするか。
「……ああ、でも」
どうせなら。
「どうせなら一回、参加してみようか」
奴隷オークションとやらに。
「何もしないのは、勿体ないよね」




