とある黒幕の最期の話
ゴブリン戦の直後まで遡ります
「判決を下す」
どこだ。
どこで間違えた。
「No.126、死罪」
まだだ。
待ってくれ。
やり直させてくれ。
「第三刑、魔物合成に処す」
私は。
私は、こんなところで、終わる男では。
「連れていけ」
「…………っっっ!!」
声も出せない。
こんな惨めな最期なんて。
ああ、あいつさえ。
あの少女さえ、いなければ。
◆
No.16のゴブリンクイーンが死んだ。
いや、殺された、何者かによって。
駆けつけた時には遅かった。
既に冒険者の見張りがついていて、死体の回収は不可能だった。
冒険者ギルドがNo.16を回収することを、ただ見ているしかできなかった。
私が国から言い渡された任務は魔物の知能向上実験。
ゴブリンに改造を施し、知能向上の方法、そしてそれに伴う影響を調べることだった。
結果は成功。脳のある部位を弄ったNo.16が知能の向上を見せ、中位から上位の冒険者からは身を隠し、下位冒険者のみを襲うようになった。
またNo.16は特異進化を果たし、より効率的に狩りができる能力を身につけた。
これは大きな成果だった。
この研究を応用すれば魔物により構成された軍も現実的となる。そしてその手柄により、私はもっと登り詰めるはず、だった。
その実験の途中で殺された。
死体の回収さえできなかった。
明らかな失態だ。
あの国ではそんなことは許されない。
殺される。
始末されてしまう。
「クソッ」
逃げる?無理だ。そんなことはできない。すぐに見つかって殺されるのがオチだ。
弁明する?無意味だ。結果のついていない言い訳なんて聞き入れられない。
戦う?それこそありえない。私はそこまで強くない。暗部には瞬殺されるだろう。
詰んでいる。一度致命的なミスをした時点で。
くっ、まさか私がこんなことに……。
「……誰だ……」
No.16を殺したのは。
「私を、貶めた奴は」
どうせ何も成せないのなら。
「道連れだ」
どうせなら、殺してやろう。
◆
「よう」
「おーう」
まずは情報だ。誰がNo.16を殺したのかを調べなければ。
「今日はどうしたんだ?」
「依頼を受けに来たんだよ」
「そうか」
冒険者ギルドへ入る。
No.16はここに運び込まれたはず、ならばその討伐者の情報も入っているはずだ。
「なあ、今日森に上位冒険者達が向かうのを見たんだが、何かあったのか?」
「ん?お前知らねえの?なんかゴブリンが大量発生したんだとさ」
「ゴブリンが?」
「そう、しかもそれを発見したのは登録したての少女なんだと」
「……へえ」
少女、ね。
「そいつの名前は?」
「うーん……?なんだったか……忘れちまったな……」
チッ、使えない奴だ。
「ああ、そいつならユウカって言うらしいぞ」
「おおっ、それだ!」
「ユウカ……」
そいつが、そいつが私の怨敵。
「そいつは今どこにいるんだ?」
「怪我したから治療院にいるとかなんとか、竜の咆哮の奴らが話してたぞ」
「竜の咆哮……」
Aランクパーティーの……ユウカとやらはその関係者か。
だが、治療院か。それなら好都合。
「ありがとう、それが聞きたかった」
「お?おう、それは良かった」
「じゃあな」
「おう、じゃあな」
私でも、殺しやすい。
「なあ、ところであいつ誰だ?」
「は?何言ってんだお前。あいつはアレだよ、あの…………あれ、誰だっけ?」
「は?」
◆
「『認識置換』」
私の得意とする闇魔法の一つ。
「ぇ…………」
この魔法をかけた相手に、私のことを親しい誰かと認識させる魔法。なかなか重宝する魔法だ。
「やあ、久しぶり」
「…………ぁ、久しぶりね」
場所は治療院。
ここに、ユウカがいる。
「今日は忙しいのかい?」
「ええ、やっぱり今日も冒険者がいっぱいよ」
「儲かるじゃないか」
「そうだけどね」
「それで、今日はお見舞いに来たんだけど、ユウカって子は入院してるかい?」
「ユウカ……ああ!あの可愛い子ね!昨日の夜急いで運び込まれたわ」
「そう、その子。どこの病室にいる?」
「2階の右の突き当たりよ。ところで、なんなの、あの子はあなたのなんなのっ?ねえねえ」
「……友人だよ」
「ホントに〜?」
「ホントホント。じゃあ、私はこれで」
「あ、まだ目を覚ましてないから行っても意味ないんじゃ」
「いや、そっちの方が殺りやすい」
「え?」
「何でもない、じゃあね」
「え、ええ……」
「フーッ、フーッ」
怒りがこみ上げてくる。
「すぅー……すぅー……」
こんな呑気に寝ているこいつに。
私は、避けられない死を科せられたというのに。
「フーッ……殺してやるっ」
このまま、首を絞めれば……。
「……いや」
改めて見ると、とても整った顔だ。
そうだ、いいことを思いついた。
「……くくっ」
寝ている間に純潔を散らされたら、どんな顔をするだろう。
絶望してくれるだろうか、私のように。
「よし、それでいこう」
服を剥ぎ取っていく。
顕になる白い肌、美しい手足、未成熟の身体。
これを今から穢すと思うと、興奮する。
「さあ、絶望を見せてくれ」
そしてそのまま死んでいけ。
自分の性器を、少女のモノに入れ――――
「『止まれ』」
「……っ!?」
身体が、動かない!?
「全く……何をするかと思えば、強姦ですか」
「な……!?」
こいつは……!?
「我が国の研究員ながら恥ずかしい男」
暗部……!?なぜこんなところに!?
「なぜこんなところに、ですか?あなたに監視がついていないとでも?」
な……たかが研究員一人に暗部をつけるのか!?
「すでに貴方の失態は報告しました。そして今、捕縛命令が出されましたので、貴方を拘束させていただきます」
「……ふっ、ふざけるなっ!私は、私は何も―――」
「『黙れ』」
「……っ、っ!?」
なぜ、喋れない!?
「貴方も知っているはずです、我が国のルールを」
「国を裏切る者には、死を」
「国に不利益を齎す者には、死を」
「失敗する無能には、死を」
「思慮の浅い痴呆には、死を」
「誇りを持たぬ畜生には、死を」
知っているさ、知っているからこそ、私は―――
「ならば」
「余計なことはせず、さっさと死ね」
「……っ」
圧倒的存在感。
逆らう気そのものを削ぐような、絶望感。
なんだ、この女は……。
これが、これが我が国の暗部……っ。
「連行します、抵抗しないでください。まあ、動くことも喋ることもできないでしょうが」
「……っ、……っ!」
クソ、クソクソクソクソッ、クソッッッ!!!!
「あ、彼女の服は戻しておいてあげましょう」
「我々の存在が露見してしまってはいけない」
「……それに、この少女は観察対象です。勝手に殺されては困ります」
クソォォオオオオ!!!
◆
なぜ私が、こんな仕打ちを受けなければならない。
「助けて」「痛い」「やだ」「殺せ」「死にたくない」「ああぁぁああ」「死にたい」「殺して」「まだまだまだまだ」「私は」「逃げたい」「救って」「いきたい」「ままあ」
私は悪くない。
私は何もしていない。
私のせいじゃない。
「やめて」「痛いよ」「死ね」「まだまだ」「助けて」「苦しい」「死にたくない」「あああぁぁ」「私は」「殺して」「消える」「死ぬ」「殺せ」「あははははは」「お前は」
憎い。
あの少女が憎い。
あの暗部の女が憎い。
国が憎い。
理不尽が憎い。
世界が憎い。
もう、全てが、憎い。
「―――カちゃん!なんか開けたところに出たよ!」
人だ。
人が来た。
「あ、本当ですね」
殺せ。
憎い奴は、全部。
世界の全ては、敵だ。
「よかった、まにあった」
あ。
あいつは。
あの少女は。
「げふっ、ちょ、ユウカちゃん、いきなり突き飛ばすなんてなにを……」
ユウカ。
「あ、ああ、ああああああぁぁぁぁああああ」
憎い。
憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。あいつのせいで、私はこんな目に。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「殺せ」
「殺せ殺せ」
「私は」
「まだまだ」
お前を殺さないと。
全部、殺さないと。
「私は」
あいつは、懐から何かを取り出し。
「あ」
「やめて」
「死にたくない」
「私は」
「まだまだまだまだ」
「―――撃て」
そこで、私の意識は途絶えた。
小物は小物として、誰にも知られず死んでいけって話でした
そして知らずのうちに貞操の危機だった主人公




