目的
「声かけてよ!びっくりしたじゃんっ!」
「掛けましたけど無視されましたよ?」
あれ、馬鹿リンベルだ。
「いや、私が気付くまで頑張ってよっ!」
「集中していたようなので、そっとしておきました。感謝してください」
「なんか妙に上からっ!?」
じゃあさっきまでの強そうなリンベルは偽物?
「………」
「な、何?」
いや、もしかしたらさっきまでのリンベルが本物で、今のリンベルは偽物なのかも。
「………」
「な、なんでそんなに見つめてくるの……?」
何てこと。今までこの俺が騙されていたなんて。リンベル恐るべし。
「……さすがですね、リンベル」
「え、何が?」
いまだに演技を続けるとは。だが残念だったな、もうタネは割れてるんだよ!
「白状しなさい、さもないとふにふにしてやります」
「ゆうかひゃんひゃひひてふほ(ユウカちゃん何してるの)」
あらやだほっぺぷにぷに。気持ちいい。
「ふむ……」
「ふにゃぁあ、ちぎれりゅぅうう!」
おっと、つい手が止まらなく。
「リンベル、もうそんな馬鹿の演技をしなくてもいいんですよ。もっと自分を曝け出してください」
「え、何言ってるのユウカちゃん……?これが素だよ……?」
「………」
やっぱ馬鹿だよこいつ。最高の鍛冶師とか嘘だよ絶対。
「リンベルに期待した私が馬鹿でした」
「えっなんで!?」
ああそうだ。ここに来た目的を忘れてた。
「ところでリンベル、私のお世話になってる方々が貴方に会いたいと言っているのですが」
「え〜また〜?」
また、とな?
「どの街に行っても私に会いたいって人がいてさ〜、気楽に観光もできないんだよねぇ」
「え、何でリンベルに会いたい人がいるんですか?」
「だって私一応有名な鍛冶師になっちゃったし……」
あれ、じゃあマジでリンベルは最高の鍛冶師?
「……『幻の放蕩ドワーフ』?」
「ぶっっっ!!?!」
うわ、ばっちいなあもう。
「ちょ、ユウカちゃんそれどこで聞いたの、恥ずかしいからやめてほしいんだけど」
「さっき言ったお世話になってる方々から」
「余計なことを〜……」
幻の……放蕩……w。
「それで、会ってくれますか?竜の咆哮っていう冒険者パーティーなんですけど」
「う〜ん……」
「彼女達にはお世話になってるので、恩返しがしたいなと思ってるんです。そこで、出来ればリンベルの武器をプレゼントしたいなと……」
「……ユウカちゃん、私の武器、買える?」
おん?なぜそんなことを聞く?高いの?
「相場で一つ金貨10枚はするよ?」
「金貨10枚……金貨10枚!?」
銅貨1枚が10円だから……金貨10枚で1000万円!?
「たっか……」
「ユウカちゃん相手ならある程度割引はするけどさ〜」
4人全員にプレゼントするとすると、4000万円。そんなにあったっけ……?
「いや、迷宮発見の報酬があるか」
確かあれで20年は遊べるくらいの金額だったはず……なら足りるか?
「……買います、買いますよリンベル」
「えっ、ホント!?」
「ええ、たぶん4つ買います。割引してくださいね」
「う、うん、分かったよ!」
まあ、これで少しでも恩返しができたらいいな。
「で、あの人達連れてきていいですか?」
「う〜ん……まあ、ユウカちゃんの知り合いなら大丈夫かぁ。いいよ、連れてきても。武器の制作依頼も受けてあげる」
「ありがとうございます、リンベル」
「いいよ、ユウカちゃんの頼みだし」
持つべきものは良き友だね。
◇
「あら、どこ行ってたのユウカちゃん、もう朝ごはんよ?」
「ちょっとリンベルのところへ行ってきました」
朗報ですよー。
「リンベルさんのところへ!?」
「なんと言ってたんだ!?」
相変わらず男共食い付き良すぎですぜ。
「3日後に会ってくれるそうです」
「そうか!いやあ、嬉しいなあ!ありがとうユウカちゃん!」
「ありがとうっ!」
「ど、どういたしまして……」
喜んでくれてなにより。
プレゼントは……サプライズでいいか。
「早く食べましょう……」
「あ、ああそうだな」
「ユウカちゃんここね」
「はい」
もう慣れてきたこの肉のご飯。
慣れって怖いね。
「いただきます」
太りそう。
「ごちそうさまでした」
「ユウカちゃん、今日は何するの?」
「そうですね……昨日一昨日と働きすぎたので、この2日は休もうかと」
「うん、それがいいわね」
まあやることないから結局休まないかもしれないけど。
「私達は魔物氾濫の討ち漏らしがないか確認しなくちゃいけないから、今日はお別れね」
「お気をつけて」
「ええ、ありがとう」
まだ確認作業があったか。そっちに行ってもいいけど、休むと言ってしまった手前、ちょっと言い出しにくいな。まあ、別に行かなくていいか。
「《毒薬作成》『賛美の狂歌』『solid』」
適当に毒薬を口に放り込んでから考える。
することねえな、と。
いや、ここでまだしてないことを考えよう。
まず当初の目的だった金稼ぎはいつでも出来るようになっただろう。謎に強くなったし。
あとは……知識の獲得と、拠点の確保か。
「……資料室でも行くか」
読破を目指そう。
ギルドへ到着。
いつも通り、いや、今までよりも視線を集める。なぜに。
……ああ、成長して胸も大きくなってさらに綺麗になっちゃったからな。今まで「いや、ガキとか守備範囲外だわ(笑)」とか言ってた奴も見だしたのか。やめろこっち見るな。
もういい、無視しよう。早く資料室行きましょ。
「あっ!ユウカさ〜ん!」
「はーい」
ルミルさんの声。ええ、すぐに行きますよ。
「なんでしょう?」
「何度もすみません、またランク昇格のお知らせですよ!Cランク昇格に加えて、Bランク昇格試験の受付が可能になりました!すごいですよユウカさんっ、今Bランクになったら最年少記録の更新ですよっ!」
「は?」
Bランク?急に何で?
「私なにかしましたっけ?」
「何言ってるんですかユウカさんっ、迷宮発見の功績ですよ!それによりギルドへ多大な貢献をしたということでランクアップです!」
「あー……」
それでランク昇格するんか。楽だなあ。
「それに魔物氾濫の発見と、原因の討伐に、魔物氾濫殲滅の立役者となれば、昇格しないのはありえないですよっ!」
「ああぁぁ……」
いろいろやりすぎたな……。
「……ん?昇格試験ってなんですか?」
「あ、それは実際にBランク以上の方と模擬戦をしてもらって、Bランクに相応しい実力があれば合格、晴れてBランクとなれる試験です」
「なるほど」
さっさと終わらせておきたいな。
「それっていつでもできるんですか?」
「ええ、今からでも出来ますよ。ギルド職員の中にBランクの方が常駐していますので」
「じゃあ今からお願いします」
「かしこまりました」
早くBランクに上がって、資料室に行こう。
「お待たせしました」
「あんたがユウカか」
出てきたのは如何にもな感じのイカツイおっさん。
きっと冒険者への抑止力としてここに居るんだろうな。
「本日はよろしくお願いします」
「お、おう、よろしく。早速だけど訓練所の方行こうか」
「分かりました」
イカツイけど、悪い人ではないんだろうな。所々に丁寧さが滲み出てる。
そんな観察をしていると訓練所に到着。
「よし、いつでもかかってきていいぞ」
「……では」
《縮地》と《魔刃》を発動。
「……っ、は?」
「降参しますか?」
あっという間の決着。
恐らくこの人には見えなかったんだろう。
突然俺が背後に現れて、首に何かを突き付けられたように感じたはずだ。
「あ、ああ……参った」
「……ありがとうございました」
これでいいのかな?
「なあユウカよ、今何をしたんだ?」
「別に特別なことは何も。素早く貴方の後ろに回り込んだだけです」
「そう、か……うん、文句なしに合格だ。おめでとう、君も今日から上位冒険者だ」
「ありがとうございます」
やったね?達成感とか全くないけど。
「じゃあ受付まで戻ろうか」
「はい」
「おめでとうございますユウカさん!Bランクの冒険者カードです」
銀の縁になったカードを渡される。うん、どんどん豪華になるのね。
「上位冒険者となると様々な特権が付与されますが、これについての説明は必要でしょうか?」
「お願いします」
聞いたことないよそんなん。
「かしこまりました。上位冒険者の特権は大きく分けて2つになります。まず、ギルドと提携する商業施設の割引です。主に宿屋や食堂ですね。次に移動の自由化です。都市の門での検閲が軽くなるほか、通行料も免除されるようになります。国境でも同じことが言えます。これは上位冒険者を複数の国で共有しようという目的―――」
国境、か。
◇
場所は変わってギルド資料室。
地理や国際情勢に関する本を探す。
この世界には2つの大陸がある。
一つは魔物の支配する魔物大陸。そしてもう一つは今俺のいる大陸だ。
魔物大陸の魔物は強力で、開発は全く進んでいないらしいが、今は関係ない。
こちらの大陸の話だ。
この大陸は半月状の形をしている。
国は多数あるが、特に国力が強い4つの国が存在する。
便宜上弦の方を上とすると、右上にヘインセラ聖国、右下にディーラント帝国、左上にガラン連邦、そして左下に、今俺のいるメルセン王国が位置しており、これらの国が4大国に数えられる。
4大国の間には小国が多数存在し、これらが緩衝材の役割を果たし、大きな騒乱は今は起きていない。
ここで俺のいるメルセン王国の話をしよう。
この国は立憲君主制を布いており、王国とは言え立法議会が大きな権力を持っている。この中世の時代観の中、この体制を採るのは難しいはずだが……。
また、この国は他の4大国と違い、奴隷制を禁止している。なかなか近代的な国のようだ。
そのせいかはわからないが、他国と比べても治安は良いらしい。第一拠点とするならこの国だろうか。
そう、なぜこんなことを調べているかといえば、そろそろこの街を出ようと考えているからである。
せっかく異世界へ来たのに、最初の街で生涯を終えるなんて勿体なさすぎる。
俺は、世界を見て回りたい。
異世界に来て良かったと、そう思えるようにしておきたい。
そのための拠点だ。
出来れば各地に拠点を持っておいて、それぞれしっかりと見ておきたい。
まずはこの国からだ。
「拠点にするなら……王都かな」
この国の中心。あらゆる道の結節点。
ここに居を構えれば、便利であるだろう。
「うん、決まりだな」
そろそろ、この街とは別れの時間みたいだ。




