偉業と異形
お待たせしました
待ってる人がいるかは知りませんが
「じゃあね〜」
「ええ、また3日後」
リンベルと別れて、宿に帰る。
空はもう真っ暗。足元もかなり暗い。なぜか見えるけど。もはや暗視スキル持っててもおかしくないんじゃないか?
〈スキル《暗視Lv1》を獲得しました〉
「あ」
今取れるのか。
猫髭亭の食堂前にて。
「ただいま」
「おう、おかえり」
「おかえりユウカちゃん!大活躍だったみたいね!」
あ、竜の咆哮いたのか。
というか。
「大活躍、ですか?私が?」
何かしたっけ?
「魔物氾濫の掃討戦ですよ、ユウカちゃん……」
「あー」
あれか。
「あれはまあ……成り行きですよ」
「そんなことないわっ!一人で私達よりも多く魔物を倒してるのよ?凄い戦果だわ!」
私達よりも?……ああ、この人達も参加してたのか、魔物掃討。
「まさか本当に、しかももう抜かれるとはね……」
「………」
「あはは……」
なんか男共が沈んでる。俺に負けたの気にしてるの?すまんね、無駄に強くなっちゃって。
「ねえユウカちゃん、話聞かせて?昨日何があったの?朝から気になってたのよ」
「昨日ですか……なかなかハードでしたよ」
何回か死にかけたからね。
「退院した後すぐに依頼に行ったら帰ってこなくて、すごく心配したわよ?」
「ごめんなさい、なかなか帰れなくて」
迷宮でグルグルしてたからね。仕方ないね。
「まあ待てカレン。その前に飯だ」
「あら、そうだったわね」
うん、腹減ったよ。もう時間も遅いからね。
「ユウカちゃんはこっちね」
「あ、はい」
なんだか久しぶりに皆で集まって食べるご飯。
……あったかいね。
「いただきます」
やっぱり、こっちの方がおいしいな。
「それへユウカひゃん、昨日どほいってたの?」
「カレン、食べ切ってから話しなさい」
ああうん。アレンさんお疲れ様です。
「もぐもぐ……ちょっと知り合った鍛冶師の依頼で、その鍛冶師と一緒に山の方へ行ったんですけど、実はそこが迷宮で」
「え、迷宮発見者ってユウカちゃんだったの!?」
そうなる……のかな?
「そこで間違って奥の方に入っちゃいまして、延々と迷ってました」
「また迷子になったの?」
「……そうなりますね」
ゴブリンの森、迷宮と続いて迷子になるとか、冒険者としてどうかと思うよね。
「その後、迷宮の奥でたぶん魔物氾濫の原因となった魔物と出会ったので、倒してから帰ってきました」
「え、えぇ……」
「それはまた……」
ハードでした。
「あ、もしかしてその鍛冶師って朝抱えてた子?」
「はい、あの人です」
もふもふで可愛い奴です。
「あら?鍛冶師?……確か、その子の名前って――」
「リンベルですけど?」
ガタガタッ
男共が椅子から落ちた。なんじゃい。
「リンベル!?今リンベルって言ったかい!?」
「鍛冶師のリンベルだと!?」
「えっ……と?」
なんでそんなに食い付いてくるの?
「あ、思い出したわ!鍛冶師のリンベルって、史上最高の鍛冶師って言われてる人じゃない!」
「は?」
あのリンベルが、最高の鍛冶師?
「……人違いじゃないですか?」
いや嘘だあお前。
「リンベルさんはこの街にいるのか!?」
「まさか、こんなところに!?」
食い付きすぎじゃね。
「ユウカっ、リンベル師はどこにいるんだっ!?」
「え、た、たぶん鍛冶ギルドですけど―――」
「ゲイルっ!」
「分かってるっ!」
そう言って出ていったゲイルさん。
話は最後まで聞こうねー……。
「―――今は私の武器作ってもらってるから会えないと思いますよー……」
ゲイルさーん……。
「作ってもらってるのか!?自分の武器を!?」
「え、ええ。今回の件のお詫び?ということで」
いやだから食い付きすぎ。
「そんな……」
「あのー……?」
「ユウカちゃん、リンベルさんの武器は冒険者にとって憧れなのよ。でも本人はここ最近現れたばっかりで、どこにいるかも分からないから誰も手に入れられてなくってね。『幻の放蕩ドワーフ』って言われてるのよ」
「ぶっ!」
ま、幻の……ほ、放蕩ドワーフ……ww。
「ぶふっ……で、ですが、本当にあのリンベルがそのリンベルとは限りませんよ?」
少なくとも俺はそうは思えない。だってあれだよ?おバカリンベルだよ?
「まともな鍛冶師はリンベルとは名乗らないよ……畏れ多くて」
「はあ」
あの子まともではないのでは?
「ダメだった……」
そこに帰ってきたのはゲイルさん。早いな。
「門前払いされた……」
めっちゃ意気消沈しとる。
「そうか……」
「ああ……」
そこまで落ち込まなくても……。
……うーん。
「あのー……私の方からリンベルに話しておきましょうか?」
「え?」
そろそろ恩返ししたいし。これで返せるかは知らないけど。
「3日後に会う予定があるので、その時よければご一緒に―――」
「いいのかい!?ありがとうユウカちゃん!」
「ありがとう!」
「あ、はい……」
そこまで感謝されることじゃないけど。
「お役に立てるなら何よりです」
後でリンベルに行ってもいいか聞いておかないと。
◇
ズキン
「ふぅー……」
晩ごはんが終わって、カレンさん&リュエルさんとのおしゃべりの後で部屋に戻る。おしゃべり楽しかったよ。
ズキン
「………」
ああもう。
「……うざってえなあ」
ズキン
激痛が身体を苛む。
今日一日中ずっと、ずっとだ。
いい加減嫌になる。
まあ、毒薬の効果だから仕方ないけどさ。
「耐性抜けてくんなよ……」
耐性スキルの意味ねえなあ。
「……軽減できるかな」
《並列思考》……じゃなくて、進化した《異形精神》を使ってみよう。急に名前がヤバそうになったけど大丈夫かこれ?
これで軽減できなかったら割とキツいんだけど。
「……《異形精神》……っ!?」
……ああ、なるほど。これは、確かに異形だな。
スキルを発動すると、精神が分裂した。数えるのも馬鹿らしい程の数に。
しかもそれが異常だと、今の俺は思えない。ただただ自然な状態だとしか認識できない。知識が異常だと教えてくれるけど。
つまり、今の俺は、自分の中に何千何万の自分がいることが当たり前になっている、ということだ。
「くくっ、本格的に人じゃねえな」
まあ、これなら痛みはだいぶ和らぐだろう。いくつもの精神で分割して負担すればいいのだから。
「ふぅー、楽になった」
これなら安眠できるだろう。
リンベルと寝たときは微妙に眠りが浅かったんだ。
「《毒薬作成》『賛美の狂歌』『solid』」
日課の毒薬を飲んでベッドに横になる。
「今日も、忙しかったなあ……」
洞窟から帰って来て、リンベルに刀の依頼をして、魔物氾濫を掃討して、金属に魔力を込めて、竜の咆哮と話して。
「詰め込みすぎ……」
もう、寝よう。そして明日はゴロゴロしよう。今日昨日と働きすぎた。
「おやすみなさい」
疲れたね。
今日が、終わる。
◇
「………」
おはよう。
「……まだ、早いな」
昨日寝たの早かったからな。
窓の外を見ても、ようやく太陽が昇ったくらい。あれ、そういえばこの世界って太陽あるのか。地球と似た環境だし(魔力の存在を除く)、やっぱり同じような感じなのかね、惑星とか、太陽系とか。
いやまあそれはどうでもいい。
「することないな……」
二度寝は……できそうにない。暇だな。
「……リンベルに突撃するか」
日の出の時間に突然訪問してくる女。クソ迷惑だな。
「いこ」
やめないけどね。
突然だが、この世界では魔力灯というものがある。言うなれば、電灯の魔力版だ。
これのおかげで、現代日本ほどではないが、夜まで明るい。そうなると活動時間が遅くまで伸びるため、必然的に起床も遅くなる。
つまり何が言いたいかというと、中世的な世界観のくせに、夜明けとともに社会は動き出さないのだ。
「思ったより人が少ない」
人がまばらな道を歩く。まだまだ皆さんおねむのようだ。
これじゃあリンベルも寝てるだろうな。叩き起こすけど(クソ迷惑)。
周りを見渡しながら鍛冶ギルドへと向かう。
「……ん?」
カーン カーン カーン
槌の音が聞こえる。鍛冶ギルドの方から。
マジメなやつもいるんだな、こんな時間からやるなんて。
「……見に行ってみよう」
野次馬根性万歳。
「あれ、リンベル?」
カーン カーン カーン
聞こえてないご様子。つまらん。
こんな朝っぱらから仕事してる近所迷惑野郎はなんとリンベルだった。
何やってんだお前、そんなキャラじゃないだろ。
「リンベルさーん?」
カーンカーンカーン
「……むう」
反応がない。つまらん。
仕方ないから少し遠くからじっと見つめることにした。
「………」
いつもと打って変わって、真剣な表情のリンベル。
一心不乱に鍛冶に打ち込んで、俺の存在にさえ気付かない。
「……ふーん」
綺麗だな。
何かに一生懸命な人は、好きだ。信用できるし。
リンベルの手元では純白の魔力が渦巻いている。可視化している程の濃度だ。
それが炉の赤い炎と混じり合って、とても美しい色合いを魅せている。
うん、いいね。
「……ねえ、リンベル?」
君は、綺麗だね?
「……俺と違って」
この後、リンベルが俺に気付く2時間後まで、俺はずっとリンベルの作業を見つめ続けていたのだった。
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解説置き場
スキル
○《異形精神》(初期からLvMax)
精神が変質する
精神を無限に分裂させることができるようになる
備考:主人公の特異スキル。並列思考から進化し、能力は完全上位互換である。またこのスキル(というより無限の精神)によって、記憶力・計算力が大幅向上した。他にも、精神へ作用する魔法・スキルの影響を限りなく受けなくなったり、魔法の多重詠唱が無限に出来るようになった。通常、多重詠唱はそれ専用のスキルを所有していないと不可能だが、主人公は《並列思考》の時から思考をまるまる一つ魔法の詠唱に回すことで、疑似多重詠唱が可能となっていた。そして今回、思考、というより精神が無限に増殖したため、いくらでも魔法を発動することが可能となったのである。加えて主人公は自ら《多重詠唱》や《無詠唱》のスキルを獲得しているため、一人弾幕シューティングゲームが展開できる。実際に使うかは知らない。
500ptあざす




