応援
第一志望の国立落ちた
禿げるわー…マジ禿げるわー…
「ユウカちゃん手足長いね〜」
「自分でも思います」
「嫌味だね〜」
「事実ですし」
スタイル抜群すぎて。
自分でも引くくらいだよ。
「うん、もういいよ」
「はい」
採寸終わり。
「あ、忘れてた。リンベル」
「なに〜?」
「私ちょっと特殊なスキル使うんですけど、使う金属がそれに耐えられるかどうか試したくて」
「特殊なスキルって何……?」
《魔纏》のことである。実はこのスキル、前に資料室で見た『スキル大全』に載っていなかったのだ。それを言うなら俺が獲得してるスキルはだいたい載ってないんだけどさ。
そう、そういえば《魔力操作》のスキルが載ってなかったのが気になる。なんでだろ、一番最初の方に獲得できたスキルなのに。
「そのスキルをギルドで貸し出してもらった刀に試したら、その刀粉々になっちゃったんですよね……」
「えぇ……」
たぶんあの刀は鉄製だった。それが粉々だぜ?信じられるか?
俺が流した魔力に耐えられなかったのかね。俺の魔力が大きすぎたか、刀が脆かったのか。
「《魔纏》っていうスキルなんですけど、知ってますか?」
「う〜ん、聞いたことないなあ……」
まあリンベルには期待してなかったけど。
「リンベル常識ないですもんね……」
「うるさいなっ!」
「ほい」
「はい」
黄金の金属塊を受け取る。
「《魔纏》」
それに俺の魔力を纏わせる。
メキメキメキメキべキッ
「あわわわわ」
「ギリギリ、ですかね……」
若干ひび割れてるけど。
「オリハルコンでもギリギリって……そのスキルどうなってるの、ユウカちゃん……」
「耐えられたのは、魔力伝導のいいミスリルと、万能のオリハルコンだけ、ですか」
「まあ合金にすれば耐久性は上がるから……ユウカちゃんの魔力に馴染んでるそこらへんの金属も使えるかな」
「割れたヒヒイロカネに、粉々のアダマンタイトですか……」
なんでこんなに神話みたいな金属ばっかりなんですかね?
こんなのポンポン出してくるとか、リンベル何者?
「う〜ん、どうせなら全部混ぜちゃえっ」
「おお、太っ腹ですね」
お高くなりそう。タダになるけどなっ!
「今回使った金属を使えば、ユウカちゃんの魔力が浸透しやすいと思うの。だからそこの破片も回収してそれで合金作るね」
「よろしくお願いします」
凄くなりそうだね。
「今までこんな豪華な合金作ったことないよ……」
「楽しみですねっ」
「そうだね……」
おや、そんな顔してどうしたんだいリンベル?まるで俺がタダだからって軽く考えやがってとでも考えているような顔じゃないか、ええ?
「リンベル、何でもするんですよね?」
「ううぅぅうう」
「してくれないなら……ふふ、悪戯、しちゃいますよ?」
「ぴっ!?」
リンベルの頬を指でなぞりながら呟いてみる。
反応良くて面白いな。
「もうっ、分かってるよっ!ユウカちゃんは命の恩人なんだからっ、それくらいはするもんっ!」
「もんって……」
子供か。
「むぅううっ」
「あああ、ごめんなさいって、からかいすぎましたね」
「……むう」
いや子供か。
「……今日の夕方くらいにまた来てね、合金が出来上がるから」
「それは私が来る必要あります?」
「出来上がった合金にもう一回魔力を流すの、そしたらたぶん、ユウカちゃん専用武器みたいになるんじゃないかな」
専用武器、だと!?なんだその素晴らしい響きの単語は!!
「是非行きますっ」
「そ、そう?」
「ありがとうリンベル、やはり貴方は最高です」
「え、急にどうしたのユウカちゃん……」
リンベルは男の浪漫がわかる女だ。愛してる。
だけど、ここまでしてくれるなら……。
「ふむ、やはりタダというのはよくありませんね……リンベル、何か私にもお礼をさせてください」
「えっ、いいよいいよ。私が好きでやってるんだし」
「ここまでされると私の気が落ち着かないんです……そうですね、私にしてほしいことなら、出来る限り叶えましょう。お返しです」
「何でも、とは言わないんだね……」
「言うわけないじゃないですか」
それは馬鹿のすることだよ?
「まあ、この権利を賦与してあげます。返却は不可です」
「えぇ……」
「では、今日の夕方また来ますね」
「あっ、うん」
そう言って立ち上がる。さっさと退散しましょうか。
「最高の合金作って待ってるからね!」
「楽しみにしてます」
さて、これで夕方まで暇になった。何しようかな。
「魔物氾濫、手伝いに行くか」
後始末しましょ。
◆
side:クリフ(とあるCランク冒険者)
「クリフ今だっ!」
「おうっ!」
パーティーメンバーの作ってくれた隙を活かすっ!
「はぁぁああっ!」
後ろに回り込んで、膝の裏を斬るっ!ここまでは装甲はないだろっ!
「グガァァアア!」
「ナイスだっ!」
「行くよっ!」
狙い通りにまともに立てなくなった敵を皆で追撃する。
「ガ、グゴ……」
そうしてようやく、Bランクのレッドオーガは倒れた。
「はあ…はあ…やったぜ…Cランクの俺らがレッドオーガ倒しちまったよ…」
「ああっ、はあ、これならBランク昇格も近いかもなっ!」
「やったねっ!クリフ、リカルドっ!」
「ああっ、これもアンの支援のおかげだ」
「ありがとう、アン」
「うんっ!」
魔物氾濫の鎮圧に参加した俺たちのパーティーは、いきなり格上のレッドオーガと遭遇したが、これをなんとか退けた。
幼馴染の3人で組んだこのパーティー。最初はどうなることやらと思ったけど、今ではレッドオーガを倒すまでになった。
成長が実感できる。充足感が得られる。
これなら。この3人でなら――――
「あ」
「えっ?」
「ぐ、ぁぁあああ!!」
突然、リカルドの、腕が舞う。
「リカッ……そんな……レッドオーガ・ソードマスター!?」
「リカルドっ!!」
レッドオーガを倒して疲労困憊の俺たちの前に現れたのは、Aランクのレッドオーガ・ソードマスター。
そんな……こんなのって……。
「ぐっ、ダメだっ、アン来るなっ!」
「でもっ!」
「お前らだけでも逃げろっ!」
……クソッ!!
「……アンっ!!行くぞっ!!」
「待ってクリフ!まだリカルドがっ!」
「ふざけるなっ、リカルドの覚悟を無駄にするつもりかっ!!」
リカルドは、自分が犠牲になって俺達を逃がそうとしてくれてるんだ!
「このままじゃ3人とも死ぬっ!俺だってリカルドを置いていくのは嫌だっ、嫌だけどっ!これが最善なんだよっ!!!」
「っ」
涙が溢れてくる。ずっとこの3人でやってきた。ずっと、この3人でいられると思っていた。
それなのに、高い報酬に釣られてこんな身の丈に合わない現場に来て、今その一人を失おうとしている。
クソッ、クソッ、クソッッ!!
俺達は、俺はなんて馬鹿なことを……!
「すまない……リカルド……本当にすまない……!」
「い、いいんだよ……これは俺達の責任、つまりはリーダーの俺の責任だ……っく、俺が背負わねえで誰が背負うんだよ……!」
「ああ……っ!」
「待ってクリフ、ダメッ!リカルドーッ!!」
「早く行けぇぇええ!!」
「っ!!」
「ガァァアアア!!」
チクショウッ!!
そして、リカルドめがけて、レッドオーガの剣が振り下ろされ――――
「救援入りまーす」
――――なかった。
「……は?」
宙になびくは蒼銀の髪。
華奢なその手足は、今にも折れてしまいそうな。
そしてその可憐な顔は、真っ直ぐ前を見通して。
「あ、あんたは……」
レッドオーガの振り下ろされかけた剣を、彼女は片手で抑えながら、言った。
「大丈夫……ではなさそうですね。下がってください、私がこいつの相手をします」
「グゴッ!?」
動きが、目で追えない。
「ガッ!?」
ただ、銀の輝きだけを残して、舞い踊る。
「グガァァアア!?」
「フフッ」
あのレッドオーガが、手も足も出ないなんて。
「リカルドっ、今止血をっ!」
「お、おう……」
利き手を斬られたリカルドでさえ目を奪われる。
圧倒的な、強さ。
「グ……ゴ……」
「終わりです」
最後には、彼女は手刀でレッドオーガの首を切り離した。
「……うん、切れ味抜群。さすが魔刃」
その姿は、まるで戦乙女が降りてきたよう。
「ふぅー……貴方、重症ですね。斬られた腕は……これですか」
そう言って、斬られたリカルドの腕を拾う。
「切り口も綺麗ですし、くっつくでしょう。急いで診療所まで運びますよ」
「あ、ああ……分かってる、だが……」
「そこまで辿り着けるかどうか……」
「ん?ああ……なら、私が道を切り開きましょう」
「え……」
返事も聞かずに駆け出した彼女はやはり目で追えず。
「……お、追うぞ!」
「え、ええ!」
気を失っていたリカルドを両手で抱えて彼女を追う。
「すごい……」
「魔物が……」
彼女の通ったであろう道には、魔物の死体が転がっている。この量を、こんなに早く……。
「着いたっ!」
街の外に作られた魔物氾濫対策本部のテントに入る。
「すみませんっ!リカルドの治療を―――」
「―――はいはい聞いてますよー」
言い終わる前にリカルドの治療が始まった。
これは……。
「お疲れ様です」
この少女のおかげか。
「あ、ああ、ありがとう、君。おかげで助かった」
「本当に、本当にありがとうっ!」
「いえいえ、これも仕事ですので」
なんでもないことのようにそう言うと、彼女はさっさとテントの外に出ていってしまった。
「ま、待ってくれ!もっとちゃんとお礼を―――」
「で、次はどこへ行けばいいですか?」
「おう嬢ちゃん、次はあっちの方向に行ってくれ。パーティーが一つ危機に陥ってる」
「分かりました。後で報酬弾んでくださいね?」
「分かってるさ」
外では、ギルマスと彼女がそんな会話をしており、彼女はその後また目にも止まらぬ速さで消えてしまった。
「ぎ、ギルマス、彼女は……?」
「ん?ああ、あいつか?あいつはまあ、天才だよ。Dランクのユウカだ」
「な!?」
「まあ、すぐに上位冒険者の仲間入りするだろうけどな」
「そ、うですか……」
そんな人が、いるのか……。
「すごいな……」
頭から離れない。
あの動き。
あの強さ。
あの美しさ。
唯一見えた、銀の輝き。
「……『瞬銀』……」
ふとそんな二つ名が、俺の頭に浮かんだのだった。
■
解説置き場
・スキル解説の回
○《魔力操作》
魔力を直接扱うことが出来るようになる
Lvが上がるほど、効果が上昇する
備考:主人公はかなり早い時期に獲得していたが、実はレアスキルで、保有する者はかなり少ない。この世界の人々は、魔力とは魔法を使うために消費するただの燃料であると考えており、それをわざわざ操ろうという思考には至らないのである。主人公は異世界モノの小説などをたまに読んでいたため、魔力は操作できるものであるという思い込みがあったため、スキルとして発現した。このスキルを保有する者は魔導を極めた大魔道士や、修行により無為自然を極めた仙人などであるが、このような者達はおおよほこのスキルの情報を公表しようとはしないため、一般に広まることはなかった。このスキルから《魔闘術》《魔纏》《魔拳》《魔脚》《魔刃》《魔遊剣》が派生した。
○《魔闘術》
身体に魔力・魔法を纏い、強化することができるようになる
Lvが上がるほど、効果が上昇する
備考:そもそもレアな《魔力操作》からの派生スキルであるため、これもやっぱりレア、それもかなりレアなスキルである。似たような効果を持つ《身体強化魔法》というものがあるが、《魔闘術》の方が純粋な魔力を纏うために効果がかなり大きい。主人公はゴブリン戦で獲得したが、これは全身に魔力を巡らして魔法を発動しながら戦っていたため、たまたま身体強化がなされたことによる。
○《魔纏》
武器に魔力・魔法を纏わせ、強化することができるようになる
Lvが上がるほど、効果が上昇する
備考:そもそもレアな《魔力操作》から(以下略)。あまりに効果が高すぎるため、一般的な金属には耐えられない。ゴブリン戦では、巡らせた魔力がたまたま武器にも伝わったために獲得した。
○《魔拳》《魔脚》
備考:そもそもレ(以下略)。《魔闘術》の集中強化版。効果は《魔闘術》より高まっている。
○《魔刃》《魔遊剣》
備考:そもそ(以下略)。それぞれ魔力の刃を身体から直接、もしくは離れて発現させるスキルである。切れ味はなかなかのもの。いつでもどこにでも出すことができるため、不意打ちにも使える。また不可視化も可能なため、なかなか悪用できそうなスキルである。




