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救済

 〈《腐食耐性》のLvが4に上昇しました〉







「アハハッ」


 どうした。


 当たってないぞ。


「アハハハッ」



「「「「ああああああああああああ」」」」「痛い」「溶ける」「私が」「腐っちゃう」「やめて」「当たれ」「死ね」「助けて」「死にたくない」「逃げるな」「まだまだまだ」「殺せ」「逃げたい」「殺して」「全部」「痛いよ」「腕が」「動くな」「あぁぁぁ」「死ね死ね死ね」



 早く、腐って死ね。


「ぎっ」


 クソ、痛ってえな。

 全身が痛い。集中できない。だが並列思考は割けない、身体の制御が優先だ。


 しかも……。


「くくっ」


 足が腐り始めた。変な感覚、動きづらいなっ。

 ちなみに手はとっくに腐り始めてる。目は絶対に保護するけど。


 まあまだ、いける。




「殺してやるよ」







「「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」」


 また魔法か?


 それはもう、見たよ。



 発現した魔力の嵐に突っ込む。

 か〜ら〜の〜。


「はいこんにちは」


 突破、化け物に超接近。


 ねえ、魔法撃てる?自分に当たるよ?


「「「「「ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ………」」」」」


 撃てないよね?


 魔力が霧散する。やったぜ。


「ぐはっ」


 めっちゃ腹殴られたけど。近付きすぎたね。


「……あ」


『賛美の狂歌』解けた。やべ。


 急激に動きが鈍くなって。


「っ!!」


 伸びてきた触手を避け損ねっ。


「クソッ」


 右腕持ってかれた。


「ああもうっ!」


 キッツいなあっ!



「痛い」「腐る」「溶ける」「殺せ」「私が」「俺が」「ぁぁああぁぁぁぁ」「死にたくない」「殺して」「いやだ」「助けて」「死ね」「腐っちゃう」「まだまだまだまだまだまだ」「腕」「死ね」「痛いよお」「なんで」「何もしてないのに」「殺せ殺せ」「死にたい」




「いやもう早く死ねっ!」









 夢幻の蝕手効果終了まで、あと8分。







 〈《腐食耐性》のLvが5に上昇しました〉




 ありがたいっ。







 ◇







「ヒュー……ヒュー……フハッ」


 気管が、腐ってきた?


「フッ!」


 苦しいなあ。


 左腕と両足を使って攻撃を避ける。

 素の身体能力が上がっててよかった。なんかもう曲芸みたいな動きで常に動き回ってる。こんなの前は出来なかったね。


「あっ」


 と思ってたらコケた。なんで?


「あ」


 左足もげてる。

 腐りすぎた。


「くっそ」


 左腕と右足だけ?厳しいなあ。


 しかも頭くらくらする。血流しすぎた。

 酸素も足りない。息が出来なくなってきた。


 そろそろ、限界かな?




 まあ、それは向こうもだろうけど。




「「「「「ああああああああああああ」」」」」「また」「腐った」「また死んだ」「いっぱい」「死にたくない」「殺して」「死ね」「いやだ」「まだまだ」「人殺し」「もうすぐ」「痛い」「助けて」「殺せ」「死ねる」「私は」「死ね死ね死ね」




 だいぶ、減ったね?


「小さくなってるよ、君」




「いやだ」「死にたくない」「助けて」「まだまだまだまだまだまだまだまだ」「殺せ」「逃げろ」「腐る」「死ぬ」「痛い」「逃げよう」「生きたい」「やだよ」



 は?お前っ。



「ここでっ、逃して、たまるかよっ!」



 左腕右足に魔力で作った足で移動っ、出口に向かう化け物を、蹴り飛ばすっ!!



「「「「ああああああああああああああああああああああああ」」」」



「お前は、ここで、死ねっ」



 リンベルは危険に晒せない。



 出口を硬くした土魔法でちょっと塞ぐ。これでお前は出れないだろ。



「「「「「ああああああああああああ」」」」」



「そろそろ、死ねや」



 終わりにしよう。







 ◇







 魔力はもうほぼない。


 火種の魔法も、風の魔法すら使えない。



 右腕と左足もない。


 まともに動けない。



 血もない。


 意識が朦朧とする。



 全身が腐ってきた。


 息が出来ない。苦しい。


 全身の感覚はない。表面はぐじゃぐじゃ。





 だが。



 意思なら。



 覚悟なら。



 殺意なら。



 有り余ってるよ。



「ヒュ…ゴホッ…ハ…」



 全身腐ったけど。



 目は、目だけは守った。



 おかげで、見えるよ。



「「「「「ああああああああああああ」」」」」「死んだ」「たくさん」「痛い」「まだまだまだまだ」「助けて」「死ね」「殺して」



 もう、最初の6分の1くらいの体積になった、お前が。



 《腐食耐性》獲得のおかげで、耐えられたね。



「ヒュッ、フハッ」



 もう、見えるよ。



「ああああああああああああ」「核が」「私が」「やめて」「消える」「中心が」「助けて」「痛い」「心臓が」



 たくさんの人の顔に守られていた。



 お前達の中心、紅く光り輝く。



 お前の、核が。




 やっとだ。



 やっと殺せる。



「やめて」「死にたくない」「助けて」「まだまだ」「あぁぁぁああ」「早く」「お願い」「殺して」「私は」「もういやだ」



 分かってるよ。



 俺がお前を、救ってやる。





 あいつまでの距離は遠い。



 もう身体が動かないから移動はできない。


 魔力もないから魔法も撃てない。



 だが、核を壊すだけなら。



「ゴフッ、ハハッ、いいじゃん……」



 たまたま手に入れた、この銃で。



 威力も出ないと貶されたこれで、十分だ。




 ありったけの、されど魔法を構築することもできないほどちっぽけな魔力を、魔導銃に籠める。




「ああああああああああああ」「死んだ」「また死んだ」「いやだ」「消えたくない」「ありがとう」「死にたくない」「痛い」「まだまだまだまだまだまだまだまだ」「やっと」




 銃を、左手で構える。



 本当は右利きだけど、大丈夫。



 前世で散々練習したから。



 力が全然入らないとしても。




「「「「「「「「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめ「助けて」てやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてや「殺して」めてやめてやめてやめてやめてやめてやめて 」」」」」」」」




 分かったよ。




 照準、核。




 震えは止まる。




 外さない。




 外すわけがない。




「ハッ…」




 殺せ。




「撃て」











「ありがとう」





「助けてくれて」





 そうか。





「でも私は」





「まだまだ」


「まだまだ」






「死にたく、なかったよ」





 そうか。






「「「「ああああああぁぁぁぁぁ…………」」」」






 崩れ落ちる。






「……はあ」






 そうかよ。






「……なん、かなあ……」






 敵とは、見れなかったよ。






「……おやすみ、お疲れ様」








 安らかに眠れ。









 ◇







「ぐふっ」


 あ、無理。


「ヒュッ、ハ」


 起き上がってられない。


「グッ、フッ」


 血と酸素が足りん。


「ヒュッ、ヒュッ」


 ここまでか……残念。せっかくゴブリン戦生き残ったのになあ。


「ククッ、ゴホッ」


 自分の能力で自爆するとか、笑える。全身グッチャグチャだよ。そのおかげで血が止まって動けてたけどさ。



「……ァぁ」



 リンベルは、逃げ切れたかなあ……。

 今頃は外に出れてるかな。無理だろうなあ、散々迷ってたし。


 でも、無事に街に着けてるといいな。



「……フ」



 まあ、友人を守って逝けるなら、いいか。満足だよ。不満ではあるけど。



「………」



 もう、無理かな……。












 揺らされてる気がする。


 誰だよ。今眠いんだけど。


「……ん、…ユ……ゃん!」


 耳元で叫ばれてる気がする。でも、もう耳腐って聞こえないんだよなあ……。


「……がい…!目を……けて!」


 誰だよ……うざったいな……。


 唯一生きてる目を開ける。


 そこに、いたのは。



「……ァ」

「ユウカちゃんっ!ユウカちゃんだよねっ!?」



 なんで、逃げてねえんだよ、馬鹿野郎。



「待っててっ!今回復薬を……!」



 置いていけって、言ったのに。



「ナ……んで……」

「何でって!?置いていけるわけないでしょ!?そんなのやだよっ、認めないっ!!」



 怒鳴られた気がする。

 ……何でだよ。



「あっ!あった!」



 小さなポーチから、明らかにポーチに入らない量のモノを取り出してから、ようやく目的のモノを見つけた模様。


 え、何それ、アイテムボックス?



「えっと、えっと、まずこれを……」



 ポロッ


 パリン



「あーーーーっ!!!」



 なんか顔面にガラスの破片がぶっ刺さったんだけど。何、何これ。



「あっ、あっ、ごめんユウカちゃんっ!唯一の回復ポーション落としちゃった……」



 なんか流れてきた液体に触れれば、そこが温かい感じ。これ、ポーションか?


 あ、これなら。


「……ァィァ」

「ふひゃっ!?何!?」


 ほんの少しだけ回復していた魔力で火種を起こして、ポーションを蒸発させる。


「ユ、ユウカちゃん……?」

「ヒューッ……ヒューッ」


 それを息として吸い込む。こうすれば、肺から気管まで治療できそうじゃない?


「フーッ……フーッ」


 あ、少し呼吸が楽になった。ポーションすげえな。


 これなら、大丈夫かな?


「フッ、ハハッ」

「……ユウカちゃん?」



 また、生き残ったか。



「……ぁりがと……りんべる」

「え……あ、うんっ!!」



 ちょっと、疲れたな……。



「……ずごし、ねる……」

「あ、うん」







 息は苦しい。


 頭はグラグラ。


 全身はぐちゃぐちゃ。


 右腕と左足はない。





 それでも、勝てたから。





 まだ、生きてるから。





 今は、少し休もうか。

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